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コツノツツハナバチ(マメコバチ)
天敵
natural enemy その1

 「天敵」とは、ある生物を捕食したり寄生したりして危害を及ぼす別の生物のことです。一般には「天敵」と言われると悪いイメージをもたれることでしょう。しかし、農業分野では昔から「天敵」というと害虫を防除してくれる「益虫」が最初にイメージされます。実際に大学などでの天敵研究というと、100%この農業害虫の発生量を制御する効果をもつ「益虫」の研究になります。
 コツノツツハナバチ(マメコバチ)の場合の天敵は、コツノツツハナバチが農業上益虫に該当する生物ですから、「益虫の天敵」ということで、つまり悪者です。一般にイメージされるような悪いやつらですから、間違っても良いイメージはもたれませんように。

1.天敵の種類と加害状況

 コツノツツハナバチ(マメコバチ)の幼態・成虫を直接加害する天敵類として、下表のような6綱11目21(+α(クモ))科に属する23種類以上の生物が知られています。これら以外に間接的に被害をもたらすものとして、コツノツツハナバチの巣に受継営巣するハチ類が17種類以上あります(「飼養管理」の項を参照)。

コツノツツハナバチ(マメコバチ)のおもな天敵類
和名・学名 加害状況
ハチ アリ トビイロケアリ
Lasius japonicus
C・1〜2
ヒメバチ エゾホソオナガヒメバチ
Ephialtes hokkaidonis
R・1
シリアゲコバチ シリアゲコバチ
Leucospis japonica
R・1〜2
オナガコバチ ツツハナヤドリオナガコバチ
(ツツハナトゲアシコバチ)
Monodontomerus osmiae
C・2
ヒメコバチ クロヒラタコバチの一種
Melittobia acasta
R・1
ハエ ツリアブ エゾクロツリアブ
Anthrax jezoensis
R・1〜2
コウチュウ カツオブシムシ ヒメマルカツオブシムシ
Anthrenus verbasci
R0
アカマダラカツオブシムシ
Trogoderma varium
C・2〜3
クロマダラカツオブシムシ
Trogoderma longisetosum
C・2〜3
ヒョウホンムシ ナガヒョウホンムシ
Ptinus japonicus
C・2
ツチハンミョウ マルクビツチハンミョウ
Meloe corvinus
R・2
ネジレバネ ハチネジレバネ ヒメハナバチネジレバネの一種
Stylops sp.
R・1
チャタテムシ マドチャタテ クリイロチャタテ
Ectopsocopsis cryptomeriae
R・0
以上、昆虫類。以下、その他の分類群
(クモ類)
ダニ
ツツハナコナダニ ニッポンツツハナコナダニ
Chaetodactylus nipponicus
C・2〜3
チビコナダニ ツツハナチビコナダニの一種
Tortonia sp.(未記載種)
A・1〜3
(クモ類)
クモ
クモ類 C・1〜2
(哺乳類)
ネズミ
ネズミ クマネズミ
Rattus rattus
R・3
(両生類)
カエル
アマガエル ニホンアマガエル
Hyla japonica
R・1〜2
(鳥類)
スズメ
カラス、ヒタキ、ムクドリ
ヒヨドリ、スズメ
トリ類・・・・「飼養管理」の項を参照 A・2〜3
(子嚢菌類(不整子嚢菌綱))
アスコスフェラ
(ハチノスカビ)
Ascosphaeraceae
アスコスフェラ
(ハチノスカビ)
チョーク病菌類
オスミア・チョーク病(総称・仮称)
Ascosphaera spp.(7種)
C〜R・2
* 前田・北村(1974)などを参考にした。
* 加害状況は、発生しやすい順にA(多い)、C(普通)、R(少ない)、被害が軽微な順に0(極小)、1(小)、2(中)、3(大)とした。「3」は、コツノツツハナバチが全滅するような甚大な被害が起こりうることを示します。
* 和名の赤文字、と青文字は後述するように
 このほかに、イエネコFelis silvestris catus(ネコ目ネコ科)が出現期初期に巣箱の下を歩いているオス蜂を食べることがあります(しかし、メスを食べて口の中を刺されて以降、食べるのをやめたということです)

 ツツハナバチ類で天敵の種類にはある程度の共通性がみられます。しかし、それぞれの天敵の加害の程度・状況は、ツツハナバチの種類によって異なります。また、ツツハナバチ類の種によって明らかに異なる種類の天敵が寄生することもあります。例えば、マイマイツツハナバチでは寄生蜂セイボウの一種Chrysura hirsta による寄生被害が大きいようですが(渋谷, 1939)、コツノやツノツツではセイボウ類の寄生を見たことがありません。また、ツノツツハナバチではコクガの一種による加害が普通に見られますが、コツノではほとんど見られません。

肉眼では巣内に存在していることが
分かりにくいタイプの天敵

 以下におもな天敵の生態について解説します。普通、コツノツツハナバチの巣で見られる天敵としてはコナダニ類とカツオブシムシ類が被害が大きいことで有名です。しかし、他にも恐ろしい天敵が何種類もいます。ここで紹介する寄生蜂類チョーク病は、発生すると大変厄介な天敵です。それでもコツノツツハナバチを長年飼養してきた大半は人は、これらの存在を知りません。当然、名前を見たことも聞いたことがないと思われるでしょう。それは、これらの天敵類は普通は繭の中に入っていて、巣を切開しただけでは見えないからです。見えないために被害がどれくらいあるのかを普通の人は判断できません。
 これらの寄生(発生)生態を知れば、従来の飼養管理方法が間違いであったことに気付かれるはずです。これらに比べれば繭の外に見える(見えない人もいる)コナダニ類やカツオブシムシ類の方がまだ"まし"と思われるかもしれません。

寄生蜂とツリアブの寄生確認方法

 寄生を受けたときには、後述するような(それぞれの種類に特有な)特徴によって寄生者の存在を確認できます。しかし、種類や発生地域によっては(1化性の場合には)存在を確認できないこともあります。外見からはどの繭を見ても健全にしか見えないのです。繭を切開して内部を覗いて見れば確認できるのですが、これは(何個切開すれば寄生繭に当たるか分からないので)大変な作業です。繭の切開は、方法を誤ると繭内のハチを死亡させることになります。
 繭放飼をすれば、その後で容易に寄生の有無を確認できます。方法は次のとおりです。まず、放飼後に残った未脱繭状態の繭を集め、透明な密閉できる容器(ガラス製かプラスチック製)に繭を入れます。容器が大きければ、脱繭したものも選別しないで入れることができ手間がかかりません。これを夏まで室内などで保管します。盛夏になると、どの種類も繭からの脱出を終えているので、調べれば何が寄生していたのかが分かります。調べる際、容器を開ける前に何も動いていないことの確認を忘れないで下さい。もし生存していたら、夏の炎天下にしばらく放置しておくと全部死亡します。調べ終わったら焼却処分してください。
 夏になっても何も出現していない繭は、内部の幼態がチョーク病で死亡している可能性があります。これは繭から出歩いたりしませんから外見では分かりません。胞子が飛散すると良くないので、なるべく切開しない方が良いでしょう。


 以下のコナダニ類を含む天敵類の発生生態に関する研究成果の一部は、(財)仙台市産業振興事業団と(株)インテリジェント・コスモス研究機構からの研究助成により得られたものであることを明記しておきます。

コナダニ類

 コナダニ類による加害は、コナダニの種類や加害状況によっては目に見えたり見えにくかったりします。肉眼では発生が分かりにくいものもあるので、ここに含めました。

 コナダニ類の生態と防除方法は、別のページに書いてあります。世界中探してもこれ以上詳しい解説はないくらい、しつこく書いてあります。専門家でなければ理解できない部分も多々あると思います。せめて防除方法のうち繭洗浄法だけでもご覧下さい。「繭洗浄」は、他の天敵類の発生量を抑えるのにも効果的です。

ツツハナヤドリオナガコバチ
(旧和名:ツツハナトゲアシコバチ)
Monodontomerus osmiae

 ツツハナヤドリオナガコバチ(通称、ツツハナトゲアシコバチ) Monodontomerus osmiae は、ハチ目コバチ上科(Chalcidoidea)オナガコバチ科(Torymidae)ヤドリオナガコバチ属Monodontomerus の寄生蜂です。日本(本州〜九州)のほかロシア極東(寄主:ツノツツハナバチOsmia taurusで記録されています(Zerova & Romasenko, 1986)。そして近年、アメリカでも発見されています(Grissell, 2002)。

 本種はメスの体長(産卵管鞘を含めず)が2.9〜3.8mm ほどの小さなハチで、体は暗い青色の金属光沢をもち、きれいです(ただし、複眼と触角、各脚の脛節より先には金属光沢はなく、暗褐色〜淡褐色です)。オスはメスより若干小さめです。メスは小さな体のわりに長い産卵管(ovipositor)をもちます。産卵管は腹端にある(2本からなる)産卵管鞘(ovipositor sheath)に挟まれるようにして収納されています。産卵管鞘は1.2〜1.5mmですが、産卵管はその2.7倍くらいの長さ(3.2〜4.1mm)です。分類についてはZerova & Romasenko (1986)やZerova & Seryogina (2002)のOld World 産 Monodontomerus のRevision、が参考になります。

ツツハナヤドリオナガコバチの成虫(上がメス、下がオス)。メスの腹部先端には長い産卵管鞘があります。オスの腹部はメスより細く、産卵管のようなものはありません。オスは1頭でたくさんのメスと交尾します。近親交配する確率が高いと思われます。 メス成虫。右上方向に伸びているのが産卵管鞘で、2本のパーツで構成されていることが分かります。これより下側で右方向に長く伸びているのが産卵管です。この状態ではまだ産卵管の一部しか出ていません。産卵時に全長が現れます。産卵管鞘より2.7倍くらい長く、ほとんど体長に近い長さがあります。この体のわりに非常に長い産卵管がコツノツツハナバチにとって厄介なのです。

 ヤドリオナガコバチ属Monodontomerus の寄生蜂は、種によって寄主の種類や寄主範囲が異なります。ある種はハチ目、チョウ目、ハエ目のなかの(属レベルあるいは科レベルでの)特定のグループのみ、別のある種はさまざまなグループ(科)の昆虫を寄主としています(Fedde, 1974)。ツツハナヤドリオナガコバチM. osmiaeツツハナバチ類Osmia だけを寄主としています。本種はツノツツハナバチOsmia taurus とシロオビツツハナバチO. excavata の寄生バチとして記録され(Kamijo, 1963)、後にコツノツツハナバチにも寄生することが報告されました(Kamijo, 1965)。このほかにオオツツハナバチO. pedicornis やイマイツツハナバチO. jacoti にも寄生することが確認されています(前田, 1978)。野外ではツツハナバチ類の巣の近く以外で採集されることはほとんどありません。

ツツハナヤドリオナガコバチ成虫が繭に開けた脱出孔。先に羽化するオスが繭に丸い脱出孔を開けます。脱出孔は通常1個(多くて2個)。後から羽化した個体は、先に開けられた脱出孔を利用します。おそらく2頭のオスが同時に穴を開けた場合に脱出孔が2個となるようです。脱出孔はハチが明るいと判断した側(通常は巣の入口側)に開けられます。上の写真ではすべて繭の頭側となっています。多化性となる地域では、冬季に巣を切開すると最入口側にこのような繭が存在することで本種の発生を確認できます。 ツツハナヤドリオナガコバチ成虫が仕切壁に開けた脱出孔。繭に開けた穴のすぐ近くの仕切壁がある場合、直径0.8〜1.1mmの丸い脱出孔が(通常)1個(稀に2個)開けられ、ここから脱出しようとします。巣筒内の寄生育房の位置によっては仕切壁に穴を開けない(開けないで済む)ことがあります。また、ヨシ筒の壁(つまり筒の側面)や節に脱出孔を開けようとすることがあります。普通はヨシ筒の側壁には脱出孔を開けられないのですが、ヨシ筒の品質によっては開けられることがあります。

コツノツツハナバチの巣箱で探索中のメス。触角を上下に動かしながら歩き回っています。 寄生された繭の内部。脱出孔が見つからなければ、繭の外見からは寄生されたことが分かりません。1化性の地域では、冬季に最入口側の繭に脱出孔が存在しないので、すべて健全な繭に見えます。しかし、秋〜春(5月上旬)にかけて繭を切開してみると、繭内に寄生蜂の幼虫がたくさん入っています。
蛹態時の寄主に寄生した場合。産卵される寄主の発育態はほとんどの場合は前蛹態です。しかし、繭に入ってさえいれば蛹態に産卵することがあります。 左写真の繭の内容物。寄生蜂の幼虫は寄主の柔らかい中身部分だけを食べ、硬い外皮は食べません。蛹態寄生時には、親の産卵数が少なかったのか共食いによる結果か分かりませんが、発育する寄生蜂幼虫はわずかです。

仕切壁越しに産卵している最中に力尽きて死亡したメス成虫。おしりの先に産卵管鞘が2本(上下に割れて)見えます。 仕切壁の反対側。長い産卵管が矢印の先に伸びています(下は産卵管の先端の拡大写真)。産卵管が伸びている部分には繭が存在します。繭糸層に突き刺して内部に産卵するには十分な長さがあることが分かります。
仕切壁越しに産卵体勢のまま死亡したメス成虫(小型メス)。産卵管は仕切壁まで0.3mm、仕切壁の内部で0.9mm、仕切壁の先に2.0mm、合計3.2mmあります。腹部の上部から右方向に伸びている産卵管鞘が1.2mmですから、いったいどうやって収納していたのかと不思議に思うほど長い産卵管です。 大型メスと小型メス。両者の体長には1mmほどの差があります。幼虫時代の摂食量が違うことにより、これくらいのサイズ差が生じます。大型メスは長寿命、多産などの特徴はコツノツツハナバチと同じでしょう。

生態

1.出現期と寿命
 本種は多くの地域では2化性で、越冬世代は5月末〜6月下旬に、第1世代は7月中旬〜9月上旬の間に出現します。出現時期は地域によって異なり、西南日本では早く、北日本では遅くなります。たとえば越冬世代が西日本では5月末から1ヵ月間活動するところが、北日本では6月下旬から1ヵ月間というようになります。第1世代は出現時期のばらつきが越冬世代より大きくなります。これは越冬世代の活動期(産卵時期)の前半で産卵されたものと後半で産卵されたものとで1ヵ月弱の差が生じるからです。最初に2化性と書きましたが、これはコツノツツハナバチを寄主とした場合です。九州など気温の高い地域では(シロオビツツハナバチなどを寄主とした場合)3回出現しても不思議ではありません。また、青森県では越冬世代の出現が遅れるため、大部分は1化性の部分的2化性になるようです(山田ら, 1971)。

 出現した成虫の寿命は長くても1ヵ月間です。これは、餌としてコツノツツハナバの貯食した花粉団子(花蜜で湿った状態のもの)のみを与え(寄主繭を与えず)、小型シャーレ内で飼育した場合の寿命です。野外で観察すると、出現を確認してから1〜2週間ほど飛翔活動が見られますが、そのあと急に姿が見られなくなります。出現直後の成虫を絶食させた条件下では1週間弱で死亡します。発生量が多くなると巣筒の周囲を群れるように飛び回っているので、出現したことがよく分かります。

2.出現と交尾
 オス蜂はメスより先に羽化し、繭に脱出孔を開けます。繭に開ける脱出孔は通常1個(多くても2個まで)です。繭内から明るいと感じた方向に穴を開けるようです。後から羽化する個体は先に開けられた脱出孔を利用します。脱出孔の数は、同じ繭内で羽化するオス蜂が多くなるほど増える可能性があります(複数個の脱出孔は、同時に穴を開けようとした結果生じると推測されます)。

 繭に脱出孔が開くと、次にその前方にある仕切壁にも同様に脱出孔を開けます。普通は繭だけに、あるいは繭と仕切壁1枚だけに脱出孔を開ければ外に出られるはずです(理由は『寄生位置の規則性』を読めば分かります)。ところが稀に仕切壁の先に別の育房(繭やコナダニ部屋など)があったり、さらに別の仕切壁が存在することがあります。脱出孔が開けられた仕切壁の枚数は普通は1枚のみで、稀に2枚という例があります。ほとんどの場合、1個以上脱出孔を開ける能力がないために外に出れず全滅してしまいます。また、入口厚壁や入口栓のような厚い土壁には穴を開けることができません。

 稀に仕切壁にではなくヨシ筒の側壁面に脱出孔を開けようとすることがあります。ヨシの側壁は硬いため、あと一歩で貫通というところまで穴を開けて力尽きるようです。ヨシ筒の厚さが薄かったり、材質が柔らかかったり、劣化していた場合には脱出に成功します。

 後述するように1個の寄主繭からは平均で2頭のオスが出現します。1頭が力尽きた後、別の個体が続けて穴を開ければ脱出できるように思えます。また、遅れて出現するメスの数はオスの10倍くらいですから、メスも手伝えば脱出は簡単のように思えます。共同作業があった結果脱出できなかったのか、ないから脱出できないのか謎です。

 メス蜂は先に出現するオス蜂が開けた脱出孔から出現すると、外で待ち受けているオス蜂と交尾します。つまり近親交配している確率が高いということになります。メス蜂の交尾回数は1回のみと思われます。基本的に繭外で交尾するのですが、必ず外で交尾するとは言い切れません。

3.寄主特異性と発育
 本種は(通常は)ツツハナバチ類Osima にのみ寄生します(寄主特異性(host specificity)があるということです)。実験的にはハキリバチ属Megachile にも寄生・発育させることが可能です。

 寄主体表面に産下された卵が孵化すると、幼虫は寄主体液を摂取して発育します。体液摂取された寄主が幼虫態の場合、だんだんと体がしぼんで最後には形も残りません。蛹態であれば外皮だけが残った状態になります。

 寄生蜂の第1世代では発育を停止することなくそのまま前蛹、蛹を経て成虫になります。成虫になるまでに3〜6週間ほどかかります(高温条件では発育期間が短縮されます)。越冬世代では老熟幼虫で発育を停止し、翌春に気温が高くなってから発育を再開します。冷蔵庫に保管しておくと1年以上生存しています(寄生実験には最適です)。

4.寄生される寄主の状態
 卵は寄主の体外に多数産下されますので、群寄生性の外部捕食寄生者(ectoparasitoid)となります。寄生を受ける寄主の状態は裸でないこと(普通は繭に入っている状態)が第1の条件となります。繭から寄主を取り出して寄生蜂に与えても寄生しようとしません。しかし、これをサランラップ等で遮断されている状態(直接寄主に接触できない状態)にすれば寄生の対象となります(コツノツツハナバチの巣を切開し、サランラップで覆って発育状況を調査していたところ、寄生蜂にやられてひどい目にあったことがあります)

 寄生を受ける寄主の発育態は、ほとんどの場合前蛹態になります。これは寄主の前蛹態期間が長いこと(= 夏季休眠に似た状態にあること)と関係しています。寄生する際には産卵管で寄主の状態を確認し、寄生に適していると判断した場合には繭内に卵を産下します。前蛹態になる前(営繭中)は寄主がよく動くので寄生に適していません。それでも寄生した場合には営繭が不完全なまま寄主が死亡することとなり、繭が柔らかい状態となります(これは稀です)。蛹態に寄生する場合もあります。ほとんどは蛹になったばかりの白色蛹(white pupa)の時です(しかしこれも稀です)。寄主の発育が進んで黒化蛹になっている場合にも寄生することがあります(これも稀です)。寄主の発育が完全に停止しない間に寄生蜂幼虫の摂食が進むことになります。普通は寄主が蛹態の間に死亡しますが、ごく稀に寄主が成虫になってから死亡することがあります。

5.寄生行動
 メス蜂は寄主の存在を探知すると腹部をもち高く上げた後に内側に折り曲げ(上の写真の状態)産卵管をゆっくりと突き刺します。繭糸層を貫通させた後、寄主の状態を産卵管の先でしばらく確認します。その後、30〜60分ほどかけて産卵を完了させます。寄主の存在を探知してからその場所を離れるまで1〜1.5時間ほどかかります。産卵は毎日〜2日おきに、1日に1〜2回ほど行われ、1回に10〜30卵が産み付けられます。

6.産卵数と性比
 寄主コツノツツハナバチを自然環境で(1995年に)飼育した場合の、寄主繭1個からの出現個体数(1996年の越冬世代、平均±SD)はメス繭で22.3±5.8頭(8〜34頭、N=16)、オス繭で17.7±2.7頭(15〜24頭、N=9)、寄主繭1個から出現したオスの個体数はメス繭で2.0±1.2頭(0〜4頭)、オス繭で1.9±2.0頭(1〜7頭)、性比(オス率)はメス繭で0.085±0.045(0〜0.167)、オス繭で0.104±0.109(0.053〜0.389)でした。寄主が大きいほど産卵数が多くなる傾向があるようです。また、性比はかなりメスに偏っています。ただし、自然状態では過寄生(superparasitism)が起こっている可能性が高いので、過寄生が起こらない場合の産卵数や性比はこれとは少し異なると思われます。

7.巣内における寄生位置の規則性
 寄生される育房の位置には規則性があります(下図を参照)。規則性は、(ヨシ筒の側面壁が硬いために)筒の外側から産卵管を挿入することが困難であること、仕切壁に体が入れるくらいの穴を開けて筒内に侵入することがほとんどないこと(穴を開けるのは基本的に脱出時のみです。仕切壁越しに繭に産卵できるのに仕切壁に穴を開けてしまったら、他の天敵類が侵入し子孫も死亡してしまいます。このため寄生時には侵入孔をなるべく開けないようにしているのだと思われます。ただしごく稀に薄い仕切壁1枚に穴を開けて侵入することがあります。これに対して入口栓や入口厚壁のような厚い土壁に対しては穴を開ける能力がありません)、寄生蜂の産卵管の長さ、そして2化性であることのおもに4つの要因によって生じています。

 コツノツツハナバチの巣における寄生位置の規則性と関連する部位の長さと寄生蜂の産卵管の長さを比較してみます。寄生蜂の産卵管は3〜4mmです。ヨシ筒の側壁の厚さは0.5〜1.2mm(平均1.0mm)、仕切壁の厚さ(最も薄い中央部分)は0.8〜1.1mm(入口厚壁はこの2〜3倍長)、繭の厚さ(最も薄い側面〜厚い頭部)は0.1〜0.7mm(通常、繭は仕切壁に一部分が接触した状態で紡がれています)、そして育房の内部長は(小さいオス育房の最小値でも)5mm以上あります(メス育房では10mm以上)。巣筒の外側面からは産卵管が十分届く長さにあることが分かります(しかし普通はヨシが硬いため貫通しない)。仕切壁越しであれば「仕切壁+繭の厚さ」を貫通すればOKです。産卵管はこの合計の長さも十分貫通できる長さです。しかし繭2個を貫通できる長さはないので、1本の巣で(片側からは)1回に繭1個にしか産卵できないということになります。これらの点を下の図で説明してあります。

完成巣では普通は寄生することができません。これはヨシ筒の側面壁が硬く出来ていることと、寄生蜂が入口栓と入口厚壁に外側から穴を開けることができないからです。しかし、他の天敵類が土壁に穴を開けて侵入したり脱出したときには寄生蜂の侵入を許すことになり、巣筒の内部から寄生されてしまいます。
未完成巣では入口側に一番近い育房が最初に寄生されます。これが寄生蜂3種に共通したもっともよく寄生される部位となります。
再利用巣で奥側に越冬世代の被寄生繭があった場合には、一番奥側の育房が寄生されることになります。
越冬世代が6月に入口側に一番近い育房に寄生した場合、夏に脱出孔を開けて第1世代が出現します。この脱出孔を利用して侵入した寄生バチは、入口側から2番目の育房に寄生します。同様に再利用巣では奥側から2番目の育房が寄生されることになります。また、脱出孔から出現しないまま隣の育房に寄生産卵することもあります。
両切筒の場合。ヨシの生長方向の上下で節の形は異なります(この図では右側が上、左側が下となります)。コツノツツハナバチはヨシの生長方向の上側に営巣する場合には、普通は節から離れた位置に(厚い)底壁を作ります。これに対して生長方向の下側に営巣する場合には節に密着して薄い底壁を作ることが多くなります(または底壁作製が完全に省略されます)。そして、ヨシの節は柔らかく出来ているため、寄生バチの産卵管は貫通してしまいます。上側に営巣された場合には育房にまで産卵管は届きません。これに対して下側に営巣した場合には、産卵管は節を貫通しても繭内まで十分届くほどの長さがあるため寄生されてしまいます。そして次の世代では奥側から2番目の育房が寄生されることになります。両切筒では完成巣であっても寄生される可能性があるのです。マメコ研が両切筒をあまり使用しない理由の一つがこれです。
巣筒が短すぎる場合。巣筒が短すぎる場合には、生長方向の上側に営巣した場合にも節のすぐ近くに底壁が作られることが多くなります(図の左側)。また、狭い空間に育房を作るために入口空室の作製が省略されたり、入口厚壁が薄くなったりします(右側)。これらの結果、寄生蜂の産卵管が繭内にまで届くことになります。短すぎるヨシ筒を設置しないように推奨する理由の一つがこれです。
筒の外側面から寄生される場合。ヨシ筒では側面壁は硬く出来ているため、通常は外側面からは産卵管を挿入できません。外側面に亀裂があったり、が開いていたり、ヨシ筒を長年設置して日光や雨に当たって劣化が進んでいたときには外側面からでも寄生されます。紙製の人工巣ではヨシより材質が柔らかいため、巣材の厚さによってはどこからでも寄生される可能性があります。合成樹脂板を組み合わせた構造の人工巣では、隙間部分の厚さによっては寄生率が極めて高くなる可能性があります。

寄生率
 寄生率(寄生育房率)は普通は5%前後の寄生率が多いようです。前田(1978)は最も高い場合に9.0%(自然環境での飼養)を記録しています。また、別の果樹園での(ツノツツハナバチO. taurus での)調査では完成巣で0.8%、未完成巣で8.8%(全体で0.6%)と未完成巣で高くなることを示しています。コツノでの最高記録としては、櫛田ら(1998)の15.1%(青森県のリンゴ園)があります。

 巣箱全体で越冬世代に1繭にのみ寄生されたものが第1世代で何個になったかを調査したところ、わずか10個にしか増えなかったという記録があります(マメコ研が果樹園以外で調査)。1個の繭からは平均で18頭のメス蜂が出現します。仮にこれらが10日間、1日おきに繭1個への寄生を行なったと仮定すると、18×5=90個に寄生されることになります。実際には10個ですから、かなり寄生繭数が少ないことになります。この原因の一つは、片切筒(正常な方向で切断)を与えて営巣させ、完成巣率が高い巣箱での調査例であったことにあると思われます。また、巣箱内にはクモの巣が張られることが多く、寄生蜂の多くがクモに捕食された可能性もあります。

 一方、実際に果樹園でコツノツツハナバチを飼養する場合には両切筒の使用が普通です。しかも未完成巣率が50%以上になる場合がほとんどです。頻繁な農薬散布により寄生蜂の天敵となるクモの発生も少なくなっているでしょう(寄生蜂自体も農薬で死んでいるのかもしれませんが)。ですから、上述したような寄生位置の規則性に適合するような飼養をしていたり、天候不順により未完成巣が多くなった年には寄生率が極めて高くなる可能性があります。

 ツツハナヤドリオナガコバチは、コツノツツハナバチだけでなくツツハナバチ類であればどの種類にも寄生します。ツツハナバチ類全体で見れば、北海道から九州までのどこにでも生息しており、山地だけでなく住宅街にすら生息している可能性があります。ですから現在発生していないからと言っても永久に発生しないとは限りません。発生したとしても寄生率を下げられるようなコツノツツハナバチ飼養を続けるべきです。未完成巣が多くなるような飼い方(長すぎる筒ばかり与えること)、古巣の再利用を続けるような飼い方は好ましくありません。両切筒の使用は仕方ないとしても、片切筒を使用するなら切断方向に注意した方が良いでしょう。どちらの筒を使用するにしても短すぎる筒は置くべきではありません。

 また、人工巣を営巣材料として与えると寄生被害が大きくなります(前田, 1978)。山田ら(1984)は2〜3mm厚のベニヤ板越しにでも寄生されることがあると報告しています。産卵管の長さから考えると5mm厚であれば大丈夫と言えます。しかし人工巣での飼養はいろいろな意味で避けたほうが良いです。近年、アメリカでもコツノツツハナバチは人気があります。そのアメリカではツツハナバチ類飼養において人工巣利用が主流となっています。ツツハナヤドリオナガコバチが最近アメリカに分布を拡大したということは、今後、アメリカで猛威を振るうことになるでしょう。

チョーク病菌類(オスミア・チョーク病(総称・仮称)) Ascosphaera spp. SKOU, 1988

 コツノツツハナバチ(マメコバチ)に寄生するチョーク病(Chalk-brood、またはチョーク病症候群 Chalkbrood syndrome)の菌Ascosphaera は、前田泰生博士からチョーク病研究者Skouに送られた(チョーク病に感染して死亡した)長野県産のコツノツツハナバチ幼虫をもとに1988年に記載されました。記載されたのはAscosphaera parasiticaA. verrucosaA. celerrimaA. cinnamomeaA. fusiformisA. nazanensisA. xerophila7種です(これら全部に名前をつけてもしょうがないので、このHPでは全部まとめてオスミア・チョーク病と呼ぶことにします)。長野県産だけで7種ですから青森県など他の産地のものも調べるともっとたくさんの菌種が出てくるかもしれません。ただ、コツノツツハナバチの利用が普及する際に青森県産のコツノツツハナバチが長野県に多数送られていますので、もう新種は出ないのかもしれません(でも多分出ます)。チョーク病に感染する日本産ツツハナバチ類Osmia はコツノツツハナバチだけではありませんから、いったい何種出てくるのか見当が付きません。アメリカで送粉昆虫として利用されているツツハナバチの一種Osmia lignaria にも複数の種類のチョーク病菌が感染するようです(Youssef et al., 1985)。

 チョーク病が最初に記録されたのはセイヨウミツバチApis mellifera です(Maassen, 1916)。
ミツバチApis に寄生するチョーク病菌(ハチノスカビ)はAscosphaera apis ですから、ツツハナバチ類Osmia に感染するものとは別の種類になります(養蜂業者の方、ご安心ください)。ちなみにチョーク病の名前の由来は、ミツバチの幼虫がチョーク(学校の黒板に書くのに使うあのチョークです)のように白く硬くなって死亡することです。牧草アルファルファの採種に使われるアルファルファハキリバチMegachile rotundada もチョーク病になりますが、これも別の菌種になります。

 ツツハナバチ類Osmia のチョーク病の特徴には、さまざまなものがあります(症候群ですから当然です)。一種類の胞子だけを接種した実験でも条件の相違により病兆の出方に違いが生じます(Rust & Torchio, 1992)。しかもコツノツツハナバチには7種(かそれ以上)の菌があり、すべてが同じ病兆を引き起こしているのではないのかもしれません。どの菌種がどんな特徴をもっているのかは、まだ詳細に調べられていません。以下に記述する内容は、チョーク病の特徴の概略であり、特徴が当てはまらないものもあることをご理解の上、お読みください。

 チョーク病菌に感染したコツノツツハナバチ幼虫は、普通は
営繭途中または営繭直前、あるいは営繭完了後に死亡します。つまりおもな死亡ステージは終齢(第5齢)幼虫(〜前蛹)ということになります。感染したからといって成虫が死亡することはないと思われます(絶対にという自信はありません)。死亡した幼虫は菌糸が発育して(白っぽい)やや硬いミイラ状になります。ミイラ化した死体は菌糸の発育によって膨張した状態になることも多く、営繭後に死亡した場合には繭を指でつまむと硬い感触が得られるので繭を切開しなくても分かることがあります(正常な繭は指でつまむとペコペコと押しつぶされて凹みます)。しかし、膨張の程度によっては指でつまんでも分かりません。営繭途中で死亡したものは、外見から(死亡していることが)容易に判断できます。

チョーク病発症例1(青森県産)。一番左側の繭は正常に営繭されている。右側の2個は営繭が不完全なまま死亡している(繭糸外層だけはかろうじて紡がれている)。 チョーク病発症例2(青森県産)。左の写真よりさらに営繭の初期に死亡したため、繭の形(繭糸外層)が不完全で、死亡した幼虫の体が確認できる。
チョーク病発症により幼虫が死亡した繭(左、中)とミイラ化した死体(右端)(青森県産の種繭)。中央のものは営繭が不完全な状態で死亡したもの(繭に付着しているのはコツノツツハナバチ幼虫の糞)右端のものは営繭が不完全なため、巣から繭を取り出す際に繭糸が外れて幼虫のミイラだけが取り出されたもの。この状態のものも含めて種繭として流通すれば(しています)、繭から出たハチのすべてが胞子伝播者となる可能性がある。左端の繭も同様に内部にチョーク病で死亡した幼虫を含んでいる。しかし完全に営繭されているため、外見では識別できない。それでも繭を触ると分かることがある。また、巣を切開する際に、同じ巣の他の(健全な)繭と色具合が微妙に違うことで判別できる場合がある(取り出されて他の巣の繭と一緒にされた後では判別不能)。

 チョーク病の種類によっては、ミイラ化した死体の表面または直下に
胞子嚢(ほうしのう、spore cyst)ができるようです(Rust & Torchio, 1992)。胞子嚢ができる場所は、菌種によって異なる可能性があります。少なくともコツノツツハナバチでは繭内に、ツノツツハナバチでは育房のあるヨシ筒内壁によく見られます(といっても繭内にできた場合は、外見では分かりませんが)。この胞子嚢に子嚢胞子(asco-spore)がたくさん作られます。1つの死体から数十億個の胞子が作られます(Rust & Torchio, 1992)。死体が大きいほど(つまり寄主の性別がオスよりメスで)たくさんの胞子が作られるようです。胞子の分散は、コツノツツハナバチが春に巣から出現する際、チョーク病の胞子で充満した育房を通過し、体に胞子が付着した状態で営巣活動を行なうことで起こります(Stephen & Undurraga, 1978)。胞子が付着したコツノツツハナバチ(メス蜂あるいはオス蜂)が巣筒の選択越夜のためにヨシ筒への侵入を繰り返す際にも胞子がばら撒かれます。また、チョーク病の発生した古巣をハチが再利用営巣すると高い率で感染します。ミツバチに感染するチョーク病菌Ascosphaera apis では、胞子は長命で、土壌中でも生存するということです。防除(死滅させること)は困難で、一度発生した場所からは永遠?に発生し続けることになります(たぶん)。ツツハナバチ類Osmia の場合、胞子は一度発生した古巣内で数年間は生存するということです。ですから、新規にコツノツツハナバチを導入する際には、チョーク病で死亡したミイラを含む種巣や種繭を持ち込まないように注意する必要があります。

完全な営繭の後にミイラ化した死体(繭を切断した写真)。繭をつまむと硬い感触が得られたのは、死体が膨張したのではなく、死体表面が黒っぽいタールが固まったような物体に覆われていたため。 黒っぽいタールが固まったような物体(拡大写真)正体は胞子嚢です。丸い胞子嚢がたくさん見られます。大きさは直径0.05〜0.3mmくらい。このような胞子嚢が死体表面に現れないこともあります。

 寄主の幼虫に
経口摂取された胞子は、前腸(foregut)で発芽し、菌糸が腸壁に広がります。この結果、寄主幼虫は死亡します。チョーク病感染の兆候は終齢幼虫が排泄を開始した後、営繭を開始する前から見られます(Rust & Torchio, 1992)。感染した幼虫は動きが鈍くなり、営繭活動も不活発となります。腸に菌糸が広がるにつれて幼虫の外皮は灰白色に変色し1〜3週間のうちに黒っぽい胞子嚢が現れます。経口摂取の時期が発育の初期で低温下で発育すると、営繭後(少なくとも繭糸外層を完成させてから)あるいは営繭前に死亡します。高温下で発育すると営繭途中に死亡します。経口摂取した胞子の量が多いほど、摂取の時期が早いほど低温で発育するほど寄主(幼虫)の死亡率は高くなります。

 発生量は、長野県よりも
青森県で多いと予想されます。理由の一つは、リンゴ開花期間中の気温が青森県の方が長野県より若干(0.7〜1℃)低いことにあります。その後の気温も低めに推移することも理由の一つです。別の理由は、飼養管理方法の違いにあります。工事中

チョーク病による巣あたりの死亡数。2004年青森県産コツノツツハナバチの完成巣(新巣)137本で調査。上の写真に示した繭内膨張型の症状を示したチョーク病のみ対象としてカウントした。発生巣数:63、発生巣率:46.0%、巣あたり死亡数:1.3±0.7(Min-Max:0〜5)。 巣筒内における寄主コツノツツハナバチの育房順とチョーク病の発症頻度。巣筒の奥側の育房ほど高頻度で発症・死亡していることが分かります。これは体に付着した胞子が営巣活動初期に多く脱落することを意味するのかもしれません。または営巣期の初期ほど低温であることと関係しているのかもしれません。
 発症して死亡した繭が入口側にあるために、巣から脱出できずに死亡した例が6巣(5メス1オス)あった。一方、死亡育房を破壊して脱出できた例は9巣あった(30個体が脱出に成功)。つまり、この30個体はチョーク病の胞子の伝播者となったことになる。伝播者が巣筒選択や越夜のためヨシ筒への出入りを繰り返すと胞子が体から脱落する。また、伝播者のオスが無保菌のメスと交尾する際にメスの体に胞子を付着させる可能性も考えられる。
 脱出できた9巣が再利用された場合、巣筒内には無数の胞子が存在するので、30個体の伝播者由来より発症率が高くなるはずである。また、再利用営巣時には、古巣内のゴミを巣外に捨てることがある。このときにゴミに胞子が付着していれば、一緒に巣外に捨てられることになる。この行動によって巣箱周辺に胞子が飛散します(巣箱周辺の汚染)。そして永久に?この病気と付き合うことになるのです。
チョーク病発症育房の組み合わせ
発症位置の大半は第1育房のみで、次いで第1+2育房、第2育房のみが多い。一番奥側の育房から連続で発症・死亡している場合には、胞子の伝播者は出てこないように思える。しかし、胞子の寿命は長いので、発症せずに無事発育した育房にも(前年の)胞子が存在する可能性はある。

ツノツツハナバチのチョーク病

 ツノツツハナバチのチョーク病は、コツノの場合と同様に宮城県や山形県の低地では見つかりません。山形県の標高300mの自然営巣地で見つかったことがあります(下の写真)。下記のような症状を示すタイプのみで、発生位置の規則性については、上述のタイプ(繭内膨張型:巣筒の奥側に多く発生するもの)とは異なり、入口側に多く発生します。ツノツツハナバチでは、繭内膨張型の発生はまだ確認していません。

(新情報)これとよく似た症状のチョーク病が
青森県産のコツノ種繭を使った飼育試験により、宮城県内でも発生することを確認しました。症状はよく似ていますが、ヨシ筒壁への胞子嚢の付き方が微妙に異なるので、ツツハナバチのものとは違う菌種の可能性もあります(2007.3.3)。

ツノツツハナバチO.taurus で見られるチョーク病。ツノツツハナバチでよく見られるチョーク病発症による死亡育房は、コツノとは異なる特徴をもちます。営繭間近の幼虫(花粉団子を食べ残していることが多い)の死体のある育房のヨシ筒内壁(上面)に黒いものがびっしりと付着しています。ヨシ壁ではなく花粉団子や仕切壁に付着していることもあります。
ツノツツハナバチのチョーク病(ヨシ筒の内壁面を拡大)。よく見ると、小さな粒々がたくさん付着していることが分かります。
ツノツツハナバチのチョーク病(さらに拡大)。黒い粒々は、球形の胞子嚢であることが分かります。胞子嚢は、コツノの繭内膨張型と比べると非常に小さく、ほぼ球形で、各胞子嚢間のサイズ差が小さい、のが特徴です。 ツノツツハナバチのチョーク病(2つ割って、さらに拡大)。胞子嚢の中には小さな子嚢胞子がたくさん詰まっています。


 アルファルファハキリバチMegachile rotundada の場合、チョーク病発生の多い地域では幼態の65%が死亡する例が報告されています。しかし、ほとんど発生しない地域もあるようで、発生率はさまざまなようです(James, 2005)。コツノツツハナバチの場合、青森県では比較的多く発生していると思われますが(それでも、せいぜい5〜7%、高くても10%以下と推測されます)、宮城県や山形県では発生は少ないようです(マメコ研で両県で飼養している個体群では、チョーク病だと断言できる死亡は見たことがありません。症状が青森県に多いタイプとは違うのかもしれません)チョーク病は北米ではアルファルファハキリバチの増殖を阻害する第一要因としてよく研究されています。しかし、日本ではまったく研究されていません。青森県や長野県でコツノツツハナバチを飼養している人には、チョーク病というものがコツノツツハナバチに存在するという認識がまったくないからです。


シリアゲコバチ Leucospis japonica

 ハチ目コバチ上科(Chalcidoidea)シリアゲコバチ科(Leucospidae)シリアゲコバチ属Leucospis に所属します。本種は日本では北海道〜九州に広く分布し、ドロバチ類、ジガバチ・アナバチ類、ハキリバチ類(コツノツツハナバチの所属するツツハナバチ属Osmia を含む)を寄主とする寄生蜂の一種です。普通に見かけられるのはほとんどメスになります(性比がかなりメスに偏っているため)。メスの体長は10-11mmかこれより小さいものの(体サイズは餌の量で決まるので変異がある。オスはメスより小さいのが普通だが例外もある)、コバチという名前が付く蜂類のなかではかなり大型です。体は非常に硬く、体色は黒色で黄色(濃い黄色ではなく明るい黄色)の斑紋をもちます(腹部と後脚の線状斑が目立ちます)。翅は(淡〜暗)褐色です、後脚腿節(と基節)が異状に膨らんでいます。腹部の先端は腹部背面の前方!に向かって伸び、そこから長い産卵管鞘(産卵管が収納されている)が胸部背面!に向かって伸びています(先端が小楯板にまで達するかという位置まで長く伸びています)。オスはメスに似た斑紋パターンをもち、腹部には産卵管鞘はなく、普通?の(腹部の先端が後端にある)体つきをしている。普通といっても腹部背板数を数えると普通でないことが分かります(ハチ類のオスの背板の枚数は普通7枚だが3枚か4枚に見えます)

 同属のハチは本州からは2種だけが記録されています。もう1種はオキナワシリアゲコバチL. sinensis という種で、本州(青森県)〜琉球列島に広く分布しますが、本州では珍しい蜂です。体長はほぼ同じですが、こちらは体の斑紋色の赤味が強く(赤色ではなく濃い黄色という意味)、メスの産卵管がより短い(腹部第3背板の基部に達しない)ことから容易に識別できます。またメスオスとも各脚の脛節より先節がほとんど黄褐色になることでも簡単に識別できます(シリアゲコバチでは下の写真のようにほとんど黒色)。もしかすると本種もコツノツツハナバチに寄生することがあるのかもしれません(そういう事例がありましたら、お知らせください)。

 以下、コツノツツハナバチにおける寄生生態の概略を説明します(前田, 1978)。本種は2化性(完全な2化性ではないかもしれません)で、越冬世代(第1回成虫)初夏(6月下旬〜7月上旬)に、第1世代(夏世代:第2回成虫)盛夏(7月下旬〜8月中旬)に出現します。性比(メス率)は第1世代で0.852という記録があります。巣筒の外側(または未完成巣の中)から寄主(コツノツツハナバチ)の繭に産卵管を挿入して、数個の卵を産み付けます。寄生される寄主の発育態は前蛹(〜蛹)です。寄主繭内で発育するのは1個体だけで、最初に孵化した個体が未孵化の卵を摂食する(Graenicher, 1906)、あるいは幼虫間の共食いによるもの(江崎ら, 1935)と考えられています。寄主の繭内で前蛹態で越冬します。ですから、冬季にコツノツツハナバチの巣を切開しても正常な繭と寄生された繭を識別できません。前述した3種類の天敵とは異なり、攻撃(産卵)される寄主の育房の位置には規則性はありません。これは、(ツツハナヤドリオナガコバチとは異なり)ヨシ筒の外側からでも容易に産卵することができるからです(下の写真のようにヨシ筒の外側をうろうろしている個体が観察されます)。一般的に(寄主の種類に関係なく)越冬世代は(発育の早い)寄主の奥側の育房に、第1世代は(発育の遅い)入口側の育房に産卵する傾向があるようです。コツノツツハナバチの場合、リンゴ園で春に遅放飼すると、第1世代の出現期とコツノツツハナバチの前蛹期がほとんど一致することになるので、寄生被害が拡大する可能性があるとされています。

 コツノツツハナバチにおける寄生率そのものは低く、せいぜい1〜2%です(マメコ研の巣ではこの寄生蜂による被害をほとんど見たことがありません。飼養管理の方法を誤らなければほとんど発生することのない天敵です)。この程度の寄生率なら大した問題にはなりません。しかし、問題は寄生率だけではありません。夏に出現する第1世代は、巣から脱出しようとして入口側に並んでいるコツノツツハナバチの繭(育房)を破壊します(2次的被害の発生)。このため、コツノツツハナバチの被害が寄生率以上に大きくなります。もし、一番奥側の育房に寄生された場合、完成巣の平均育房数は8個なので、寄生された1個 + 入口側に並んでいる7個 =完成巣の子孫8頭全部が殺される可能性があります。しかし、(寄生位置にもよりますが)脱出する前に力尽きて巣筒内で死亡することが多いとされています。

こんなハチです。指に止まらせてみました。体には黄色い斑紋があります。コバチという名前ですが比較的大型の寄生蜂です。 おしりの先から背中に向かって産卵管鞘が伸びているのが分かります(図鑑などでは「産卵管を背中に背負っている」と表現されています)。太もも(後脚腿節)が膨らんでいます、
ヨシ筒に止まっています(何か思案中か?)。 コツノツツハナバチの巣筒の上を歩いています。こういう現場を目撃したら、捕まえて殺してください(人を刺さないので安全です)。
未完成巣の巣口を覗いています(覗かないでください)。 筒内に入ろうとしています(勝手に入らないでください)。

 シリアゲコバチはヨシ筒の外側からでも産卵できますが、壁が柔らかい人工巣の方が寄生しやすいようで、人工巣でコツノツツハナバチを飼養すると被害が大きくなるようです。ですから、人工巣で飼養されたコツノツツハナバチ(種巣・種繭)を購入したり譲り受けるのは危険です。

 コツノツツハナバチのほかに、コツノツツハナバチ営巣終了後にヨシ筒に営巣する「他蜂」類の多くも寄主となります。このため、コツノツツハナバチの営巣終了後にヨシ筒を回収しないで巣箱に放置していたり、巣箱に寒冷紗を張らないでおくと他蜂類が増殖し、これにともなってシリアゲコバチも増殖してしまいます。『コツノツツハナバチの巣箱ではコツノツツハナバチだけを飼養する』というのがコツノツツハナバチを上手に管理するための鉄則です。

クロヒラタコバチの一種 Melittobia acasta
(通称 メリトビア)

 体長
1mm弱〜1.5mmまでの小さな寄生蜂で、通称メリトビアです。ヒメコバチ科Eulophidae クロヒラタコバチ属Melittobia の一種で、和名はまだ付けられていません。世界に広く分布します。生態等についての詳細は Gonzalez et al. (2004)を見てください。ツツハナバチ類での寄生様式については前田(1978)で詳しく報告されています。以下、これらを要約し(&私見を述べ)ます。

寄主の種類
 ツツハナヤドリオナガコバチMonodontomerus osmiae と同じく群寄生性の外部捕食寄生者(ectoparasitoid)ですが、多食性でハチ目Hymenoptera だけでなくハエ目Diptera 、チョウ目Lepidoptera 、コウチュウ目Coleoptera にも寄生します。ハチ目のうちハナバチ類ではコツノツツハナバチのような単独性種だけでなく社会性のミツバチ、マルハナバチ類にも寄生します。ハナバチ以外ではさまざまな寄生蜂(ヤドリオナガコバチ属Monodontomerus も含む)や多くのカリバチ類に寄生します。非常に寄主範囲が広い寄生蜂ですが、おもな寄主は
土で巣を作るカリバチ類(ドロバチ類など)やハキリバチ類Megachilidae になります。最も適した寄主はジガバチモドキ類Trypoxylon でしょう。これは繭の薄さ、繭層から寄主体までの距離などが産卵に適しているからだと思われます。ジガバチモドキ類の巣を調べると、被寄生率が非常に高いことがよくあります。

生活史と発育
 越冬は
第2齢幼虫で寄主繭内で行なわれます。晩春に羽化します。早くから出現したハチは巣内にとりあえず侵入し、寄主が寄生に適した状態に発育するのを待ちます(長命なのです)。寄生される発育態は前蛹〜蛹です。寄主(コツノツツハナバチの場合)の繭の外から産卵管を挿入し産卵します。寄主に産卵管で傷をつけ、(長翅型メスは)体液を吸い2ヵ月以上長生きします。1寄主に数十〜百数十個の卵を産みつけます。総産卵数は平均で600個を超えるということです(前田, 1978)。気温が高いほど早く発育し、1〜4週間で成虫になります。自然状態では年に3世代以上あるとされています。気温が低下し、15℃になると第2齢幼虫まで発育してから発育を停止し、休眠します(休眠は浅いものです)。ツツハナバチ類を寄主とすると幼虫期での死亡率が高くなるようで、寄主としてはあまり適していないと思われます。

性比と雌雄の行動
 性比はかなりメスに偏っています(
メス率:96〜98%)。最初にオスが、その数日後にメスが羽化します。羽化したオス同士は闘争するほか、先に羽化したオスが羽化直前のオス蛹を殺戮します(首の近くを大腮で噛み切られてりしています。恐ろしいヤツらです)。遅れて羽化するメスには短翅型メス(brachypterous female) と長翅型メス(macropterous female) の2型があります。多くは長翅型メスで、寄主によっては長翅型しか出現しないとされています。短翅型メスと長翅型メスには交尾行動や移動性(短翅型は移動しない)、産卵時期などに違いがみられます。先に短翅型が羽化し、長翅型は遅れて羽化します。交尾は羽化した場所で行われます。オスは出現した寄主育房から離れませんので、近親交配のみとなります。
 
研究状況
 小さな寄生蜂ですが、世界中でよく研究されています。でもこれは防除すべき対象としての研究ではなく、局所的配偶競争(LMC)理論研究の材料としてです。小さいので飼育するのに場所もとりませんし、発育が早いので結果も早く出ます。寄主範囲が広いので餌の調達にも困りませんから格好の研究材料なのです。

寄生部位の規則性
 ツツハナヤドリオナガコバチMonodontomerus osmiae と同じく
未完成巣が(ツノツツハナバチでは完成巣の19倍も)多く攻撃されます。ただし、寄生部位の規則性については若干異なります。本種では仕切壁に大腮で侵入孔を開けて巣内に入ることができるので、入口側から2個目までではなく5個目くらいまで進入し寄生することができます(平均では3個目まで)。また紙製人工巣のうち紙層が薄いタイプでは、筒の外側からでも産卵管を挿入するため寄生率が高くなるとされています。

メリトビアの成虫。非常に小さいハチです。上側にオス、下側にメスを並べてあります。同一寄主体から出現した個体でも同性間でかなりのサイズ差があります。 メリトビアの成虫(上:オス、下:メス)。メスは腹面を上にしてあります(顔面が見えます)。オスはうつ伏せ状態です。体色のほか体つき(触角の形、各脚の太さ、翅の大きさなど)がメスとは明らかに異なります。
メリトビアとツツハナヤドリオナガコバチ(下側の大きなハチ:中型メス)。ツツハナヤドリオナガコバチですら巣箱の周りを飛んでいることに気が付かない人が多いのです。メリトビアについてはさらに動作も速く(ピョンピョンと飛び跳ねるように動きます)、存在に気が付く人の方が異常です(視力が良すぎます)。 メリトビアの幼虫(中央にたくさんある乳白色のもの)。右側の大きな幼虫はツツハナヤドリオナガコバチのもの(本種の幼虫も十分小さいのですが、メリトビアと比べるととても大きく見えます)。左端には寄主コツノツツハナバチの死体の残りカスがあります。ちなみにこれらは、同一の寄主繭内から得られたものです(つまり一つの繭内に2種の寄生蜂が産卵した(=多寄生 multiparasitism)ということ)。
仕切壁に開けられたメリトビアの脱出孔または侵入孔(左側の矢印の先にあります)。右側の写真はツツハナヤドリオナガコバチの脱出孔(直径約1mm)を示したものです。メリトビアの脱出孔は非常に小さいので(直径0.2〜0.3mm)、普通はその存在に気がつきません。

寄生率と防除方法
 寄生率は
高くても4%程度で(十分高いが)、通常は1%未満です。寄生率が高くなるのは、巣筒の更新を怠っているとき、他蜂の営巣が多いとき、未完成巣が多くなるような飼養の仕方をしているときです。
 メリトビアについては発生を防ぎきれません。非常に小さい寄生蜂であり、寄主範囲が広く、分散能力もあり、そして恐ろしく増殖能力が高いためです。それでも種繭放飼を行ない、コツノツツハナバチが出現した後、種繭を早期に回収処分すれば、種繭からの出現は防げます。また、本来は他蜂を寄主として大増殖する寄生蜂ですので、他蜂をコツノツツハナバチの巣箱に営巣させなければそれほど問題になる天敵ではありません。発生が多い場所ではコツノツツハナバチの営巣終了後早期に巣筒を全部回収し、段ボール箱に入れて(隙間をガムテープで全部閉じて)保管したほうが良いでしょう。



エゾクロツリアブ Anthrax jezoensis

本種は多くの地域では2化性です。
青森県では1化性となるのが普通で、夏が暑い年には2化性になるようです(櫛田ら, 1998)。

工事中
エゾクロツリアブの幼虫(前蛹)。外見では正常に見える繭であっても、ハチの代わりにこのような白いブヨブヨした幼虫が入っていることがあります。 エゾクロツリアブの蛹。越冬期の被寄生繭には左写真のような前蛹が入っている場合が大半です。まれにこの写真のような蛹が入っていることがあります。普通は5月下旬〜6月下旬の間に蛹化します。
エゾクロツリアブの前蛹、蛹、蛹殻、成虫(左から順に)。蛹は羽化する前に巣の入口側に向かって育房を破壊しながら進み、体の前半部分を入口栓の外に出して体を固定します。ここで越冬世代は6月下旬〜7月下旬に、第1世代は8月中下旬に羽化します。巣の奥で羽化しないのは、成虫には土壁や繭に穴を開ける能力がないからです。成虫が出現した巣は、巣口に蛹殻が付いているので分かります。青森県では通常は1化性なので、新巣では発生が分かりりにくくなります。それでも古巣では蛹殻が確認できます。
エゾクロツリアブの蛹に潰された繭。越冬世代・第1世代とも出現する際には寄主ツツハナバチ類の幼態は(多くの場合)営繭しています。巣の入口側に寄主の繭がある場合、これらを押しつぶして進みますので、繭内の寄主は死亡します。


遅放飼したり、活動期間が長くなると寄生を受けやすくなります。
工事中

肉眼でも巣内にいて加害していることが
分かるタイプの天敵

以下、肉眼でも巣内にいて加害していることが分かるタイプの天敵について解説します。被害が見えるのですから説明するまでもないように思うのですが、カツオブシムシなどは知名度が高く、人気(書いて欲しいとの要望)があるようですので・・・

カツオブシムシ類 Trogoderma & Anthrenus

 カツオブシムシ(鰹節虫)類は、カツオブシムシ科Dermestidae の小さな甲虫で、以前はアカマダラカツオブシムシTrogoderma variumヒメマルカツオブシムシAnthrenus verbasci の2種がコツノツツハナバチを加害すると報告されていました。このうちヒメマルカツオブシムシによる加害は稀だということで、アカマダラカツオブシムシがおもな加害者だと長い間考えられてきました(前田, 1978)。ところが櫛田ら(1998)は青森県でのコツノツツハナバチへの加害はクロマダラカツオブシムシTrogoderma longisetosum によるものだと報告しています。つまり、長野県などではアカマダラカツオブシムシが、青森県ではクロマダラカツオブシムシが加害しているということになります。アカマダラカツオブシムシは日本では現在稀な種だとされていますが(田中, 1995)、ツツハナバチ類での被害はおもにマダラカツオブシムシ属Trogoderma の2種が引き起こしていると考えても良いのでしょう。もしかすると地域によってはこれら3種以外のカツオブシムシ類が加害することもあるのかもしれません。とりあえず、青森県ではクロマダラカツオブシムシということですので、本種の加害がもっとも多いことだけは事実のようです。

カツオブシムシ3種のおおよその特徴(詳しくは甲虫図鑑を見てください)

アカマダラカツオブシムシ・・・東南アジアに分布し、日本に帰化した害虫。成虫は楕円形で体長2.6〜4mm、暗褐色で赤茶色のまだら模様があります。体には白色や黄色の毛が小汚く散在します。幼虫は細長い体つきで、腹部の後方に長い剛毛をもちます。

クロマダラカツオブシムシ・・・日本、中国に分布(大林, 1985)。成虫は楕円形で体長2.5〜3.1mm、黒褐色で白色や黄色の毛が小汚く散在します。幼虫は細長い体つきで、淡黄色で体に淡褐色〜黄褐色の帯があり、腹部の後方に長い剛毛をもちます。

ヒメマルカツオブシムシ・・・世界中に分布。衣類を食害する害虫として有名です。成虫は丸形(縦方向が横幅の1.5倍長い楕円形)で体長1.7〜3.5mm(平均2.5mm)。黒褐色で灰白色〜黄褐色のまだら模様(鱗毛)があります。幼虫は楕円形〜細長い体つき(縦方向が横幅の2〜3.5倍長い)で体長4〜4.5mm。淡黄褐色で全体が褐色〜黒褐色の短毛で覆われています。幼虫越冬し、晩春〜初夏に羽化します。幼虫期間は1(〜2)年です。

生態
 以下、ツツハナバチ類を加害しているのはおもにクロマダラカツオブシムシだとし、また、生態があまり研究されていませんので、以下、推測を合わせて記述します。
 まず、成虫について。カツオブシムシ類の成虫がツツハナバチ類の巣内で見られることはほとんどありません。これは巣内を切開する時期(晩秋〜早春)には巣外で死亡しているからです。加害が認められる場合、巣を切開すると(一年中いつでも)幼虫が発見できます。ツツハナバチ類を加害するのは幼虫で、成虫は直接的な被害をもたらしません。

 幼虫は晩春〜夏にかけて蛹化し、夏〜初秋にかけて羽化・出現します(寿命はおそらく1ヵ月間と短い)。成虫は羽化後、交尾してそのままそこで産卵活動を行います。それから(正の走光性を示すようになり)野外に飛び出し新たな産卵場所を探します。(もしかするとヒメマルカツオブシムシのように「野外では訪花して花粉・花蜜を摂食し、メス成虫は花上で栄養分を取ってから巣に戻ってきて再び産卵活動を行う」のかもしれません。しかしマダラカツオブシムシ属Trogoderma の別の種類では、成虫は摂食活動を行なうことなく交尾産卵するとされていますので(田中, 1995)、こちらのタイプだと思われます)

 成虫は寄主(ツツハナバチ類)の巣に飛来し、未完成巣や再利用されなかった古巣内の残さい物、そして新巣の入口栓などに産卵します(このため未完成巣での加害率が高くなります)。孵化した幼虫は隙間を見つけてそこから育房内に侵入します(まだ小さい幼虫が入口栓や入口厚壁のような厚い土壁に穴を開ける能力をもつのか疑問です。これに対して大きな幼虫は土壁に穴を開けて育房内に侵入できます)。1つの巣内から見つかる幼虫数は普通1〜20頭までです。ナガヒョウホンムシや寄生蜂、ツリアブの脱出孔がある巣ではカツオブシムシ幼虫がよく見つかります。これは、このような穴をもち育房内に侵入しやすい巣を選んで成虫が産卵していることを示しています。

 巣内では寄主の糞や食べ残しの花粉団子、死体を摂食します。古巣ではハチが脱出した後の繭殻も摂食しますが、蛋白質の多い乾燥気味の餌を好むので繭殻などを食べつくして大きくなるということはありません。以前は(今も?)これらを本来の餌としていて、ハチに直接的被害を及ぼすこと(=巣内のハチ幼態〜成虫を食べること)は発生密度が高くなって餌量が不足したときで、2次的なものだと解説されていました。しかし、これは間違っています。わざわざ栄養価の低い餌だけ選んで食べているのには理由があるのです。発育初期にはまだ体力がないので繭外の食べやすい餌を食べているだけです。大きくなってくると繭に穴を開けて侵入し、内部のハチを確実に摂食します。親が巣に産卵した時期が遅い場合には、大きくなるまでに気温が低下してしまい、摂食活動が鈍くなってきます。このため繭外のものだけを食べているのだと錯覚してしまうのです。このような小さな幼虫は、翌春気温が高くなってから摂食活動を再開します。すると巣が再利用営巣されない限り栄養価の高い餌(ハチ)はいませんから、仕方なく糞や食べ残しの花粉団子などを食べているのです。

 秋に気温が低下してくると摂食活動が不活発になり、そのまま幼虫態で越冬します。大小さまざまな大きさの(さまざまな齢の)幼虫が巣内に見られることから、幼虫期は1〜2年だと考えられます。幼虫期の長さは、翌年の夏までに食べた餌の量と栄養状態で決まるといえます。越冬した幼虫は、加害している巣の餌が不足すると巣から這い出し、新巣の土壁を破って侵入し、加害を続けます。古巣の奥に幼虫が残った状態でハチが再利用営巣すれば、新巣の底壁を破って育房に侵入し加害を続けます。この場合、加害される育房の数が新巣の場合より多くなります。

未完成巣での加害状況。右端の育房で繭内の寄主を摂食し、続けて2番目、3番目まで摂食した状態。幼虫は上側のヨシ筒内壁に1頭見えます。繭には脱皮殻が3個(2番目の育房には別にもう1個)付着して見えます。新巣では入口側の育房から連続して加害されることが多く、古巣再利用巣では逆に奥側にいた幼虫が入口側に向かって加害していきます。この巣では越冬季までに育房3個の加害だけで済んでいますが、侵入した幼虫数が多いときには8個くらいまで加害されることもあります。
 稀に巣筒の中央部だけで加害が見られることがあります(不思議です)。入口栓のある完成巣で、侵入孔が見つからないのに巣筒中央の育房に幼虫が見つかることがあるのです。ヨシ壁に隙間や割れ目があればそこが侵入経路だと分かるのですが、加害部位の規則性が感じられない事例も時々ある、というのがカツオブシムシ害の一つの特徴です。
コツノツツハナバチの巣から取り出したカツオブシムシ幼虫。上の2個体はヒメマルに似ているが・・・。いろいろな場所から得た巣を調査していると、外見が明らかに異なる幼虫が出てきます。本当は何種類が加害しているのでしょうか? 繭を加害しているカツオブシムシ幼虫。もし繭殻や糞を主食としているのなら、これらを食べ尽くすはずです。しかし、そのような食べ方をしているのを(たぶん誰も)見たことがありません。「ハチへの加害は2次的なもの」というのは間違いです。

寿命との関係
 冬季に前年の未使用筒を選別し、これを1年弱ほど保管しておき、翌春調べてみるとカツオブシムシ幼虫が入っていることがあります。何も食料になるものが残っていないヨシ筒の内部で生存していたのです。これは幼虫の耐絶食期間が非常に長いことを示しています。前年に設置した未使用筒を保管し、春にこれらを巣箱に設置するのは避けた方が良いです。一度使用した未使用のヨシ筒は、煮沸消毒してから使用するようにしてください。

他蜂との関係
 幼虫は動物質の乾燥物であれば何でも?食べます。食料は別にツツハナバチ類の巣でなくてもよいのです。ツツハナバチ類だけでなく他蜂が営巣していれば、当然、これらも食べます。他蜂の巣は成虫が飛来する夏季に脱出孔が開いていたり、活動中であったりするため、侵入の格好の標的になります。ですから、ツツハナバチ類の巣箱に他蜂にも営巣させるような飼養管理をしているとカツオブシムシ類が大発生することになりかねません。

加害率
 カツオブシムシ類による加害(育房)率は0〜15%(前田, 1978:青森県以南)、0〜2%(山田ら, 1971:青森県)、13.9%(櫛田ら, 1998:青森県)という記録があります。加害率は適切に管理された巣箱では低くなります。古巣が長年放置された巣箱では、加害率が50%以上になっても不思議ではありません。

防除方法

 カツオブシムシ類の発生量・加害被害が多くなったら巣筒をすべて切開して健全な繭だけを集め、繭放飼するのが一番確実です(ついでに「繭洗浄」しておけば、なお良いです)。健全な繭だけ集めたつもりでも、中には気が付かない小さな幼虫がまだ残っているはずです。ハチがすべて脱繭したら種繭を回収し、焼却処分します。これで発生源はなくなります。青森県でもこの方法が推奨されています。

 巣筒を切開する暇がなかったのなら、ハチの営巣活動が始まるまでにカツオブシムシ幼虫が含まれる古巣は巣箱から出し、巣箱の下に雨が当たって濡れないようにして置きます(コンクリートブロックなどを2個立てて置き、その上に古巣を収納した段ボール箱を置くとよいでしょう。箱には、出るのは簡単、帰るのは困難な出入口を設けておきます)。そして巣箱内はきれいに掃除して新しいヨシ筒のみを設置します。これでカツオブシムシ幼虫は歩いて新巣までたどり着くことができません。古巣から出現したハチの営巣活動が終了した後、カツオブシムシの成虫が出現するまでに新巣を回収し、段ボール箱に入れて(カツオブシムシ成虫が飛来して箱内に入れないようにして)倉庫(北側の気温が低い場所)に保管しておきます。または、巣箱に目の細かいネットを張り(隙間は全部塞ぎ)、カツオブシムシ成虫が侵入できないようにしておきます。これで新巣での新たな加害発生は防げます。
 古巣にもハチが営巣した場合は(普通は営巣します)、これも段ボール箱に収納して別の倉庫に保管しておきます。冬季になったら古巣を全部解体して健全な繭だけを集めます。もし新しいヨシ筒(新巣)と一緒に巣箱内に放置していたら全部解体することになっていたので、作業量が減った(1シーズン遅らすことができた)ということになります。(古巣での再利用営巣を減らし(ゼロにはならないが、少なくし)、古巣の解体作業を省略して全部焼却処分するという方法もあります。これはまた話しが長くなるので「飼養管理」のページで説明します。)
 もし、コナダニ類による被害も大きかった場合には、この方法ではコナダニ類の発生は防げません。コナダニ類による被害がない場合に限り、この方法も使えるということです。マメコ研でこの方法を推奨している訳ではなく、応急処置法の一つとして示しているだけです。

 長野県では、カツオブシムシ成虫が出現する(初夏)までに巣筒を回収して箱に入れる方法で防除できるとされている?ようです。この方法は、まず箱の底に接触毒性をもつ農薬(粉剤:ダイアジノンやミクロデナポン)を撒き、その上にスノコ板を敷き、その上に巣筒を積み重ねます。正の走光性を示す成虫を誘引するために箱の下方にには小さな明かり窓(ビニールや目の細かい網を張り、ここから脱出できないようにした穴)を設けておきます。これで巣から出現した成虫が明るい方に飛んで行き、農薬の上に落ちて死亡する、という方法です。誰も名付けてないようなので「毒箱収納法」と(勝手に)呼んでおきます。この方法は最近では2006年5月2日の日本農業新聞の記事にも紹介されています。
 ところが、本当にこの「毒箱収納法」でカツオブシムシ類を防除できるのか、大いに疑問があります。確かに巣筒から飛び出した成虫の大半は、農薬の上に落ちて死亡するのでしょう。しかし、1〜2年で成虫になるということは、巣内にはまだ幼虫がたくさん残っていて、加害し続けることになります。また、新たな産卵場所を求めて正の走光性を示して飛び去る前には負の走行性を示している可能性があります(ヒメマルではそうなっています。そして移動する前に大半の産卵を終えるようです)。この時期に既に交尾を済ませていれば、農薬の上に落ちる前に既に巣筒にたくさん産卵していることになるのですが、どうなのでしょうか。交尾する前に農薬の上に必ず落ちるとは思えません。いずれにせよ巣筒内にはまだ幼虫がたくさん残っていますので、防除できたことにはなりません。毎年この「毒箱収納法」を続けたとしても被害はなくならないでしょう。
 マメコ研ではカツオブシムシ類の生態を考えると、この防除法は作業量が多い割りに防除効果は少ないと予想し、この方法を試したことがありません。完全防除できないことは確実なので、労力をかけて試す気になれないのです。もし、この「防除法で完全防除できた」という方がおられましたら、ぜひご一報ください。

ナガヒョウホンムシ Ptinus japonicus

 ナガヒョウホンムシ(長標本虫)Ptinus japonicus はヒョウホンムシ科Ptinidae の小さな甲虫で、東南アジアに広く分布し、日本には帰化したものとされています。
貯穀害虫として有名で、動物質・植物質のさまざまな乾燥物を摂食します(酒井, 1995)。日本産ヒョウホンムシ類のなかではもっとも普通の種類だと思われます。成虫は体長3〜5mmで、細長い体つきをしています(小さいと言っても、カツオブシムシ類よりずっと大型です)。顕著に長い触角と脚をもっています。これはヒョウホンムシ類(英名Spider Beetle)に共通の特徴のようです。オスでは体つきがさらに細長く、メスよりもさらに長い触角をもちます。

メス成虫(左:背面、右:腹面)。暗赤褐色で、前胸背板に一対の白黄色の綿毛斑をもち、上翅の前部と後部に白色毛帯があります。 メス成虫(側面)。触角と脚が非常に長いのも特徴です。オスでは体つきがメスより細長く、上翅の白色毛帯が目立たず、触角がメスよりはるかに長くなっています。

生態

 ツツハナバチ類の巣を加害する場合、1化性だとされていますが(前田, 1978)、別の条件で飼育すると2〜3化性になるようです。基本的にツツハナバチ類以外の餌で夏まで生活し、その後の世代がツツハナバチ類の巣に寄生しているのだと考えられます。越冬はほとんどの場合、成虫で行われます。しかし、ツツハナバチ類の巣内で生きた成虫が見つかることは少ないのかもしれません(後述するように、これには特殊な事情があります)。大型の幼虫(終齢幼虫?)が冬季に見つかることもありますが、これは稀です。老熟幼虫は蛹室(pupal cell)を作り、その中で蛹化し、秋のうちに成虫になります。成虫は入口から巣外に脱出するか、巣内に留まり越冬します。ごく稀にヨシ筒の側壁に穴を開けて脱出します。ほとんど成虫態越冬なので春から活動することになります。

 成虫の動きは鈍く、巣内で発見した場合に捕獲する(または潰す)ことは容易です。しかし、冬季であっても甲虫としては比較的よく動く方なので、放置しておくと(明るい方へ向かって)歩いて逃げてしまいます。成虫の寿命は分かりませんが、同属種には寿命が極めて長く(1年間)、非常にたくさん(1000個)の卵を産むものがあります(Gunn & Knight, 1945)。

 産卵は巣の入口付近で行われ、孵化した幼虫が入口側の育房から順番に食害していくようです。またはヨシ筒の側面に割れ目があるとそこからも侵入して食害します。入口からの侵入が基本のようで、加害育房は入口側から連続的に発生します。入口側から1〜3個の育房が加害される場合が多いようです。最大では7個と報告されています(前田,1978)。1本の巣で成長する幼虫は1〜11頭で、平均では2〜3頭となります。

カツオブシムシ(左)とナガヒョウホンムシ(右)の幼虫。頭部は茶色、胸部〜腹部は乳白色で、C字状に曲がった状態です(曲がっているため体長を測定したことがありません)。体表面は細かい毛で覆われているため、ゴミ(自分の糞など)が付着していてなかなか取れません。 食害によって粉々になった繭。普通はここまで食い散らされることはありません。幼虫は通常は残さい物に囲まれた状態で存在するため、巣を切開しても存在がなかなか確認できません(この写真では周りのゴミを少なくして撮影)。
通常の食害状態(1)。未完成巣の入口側(右側)の2個の繭が食害されています。加害された繭の周りには、淡黄褐色〜褐色の細長い糞が多数見られるのが特徴です。赤矢印の先にあるのは蛹室。蛹室は繭の下にもあるので全部は見えません。 通常の食害状態(2)。完成巣の入口側(右上)の2個の繭が食害されています。3個目は繭の周りをかじられていますが、繭内のハチは生存しています。食害は蛹室を作るまでの幼虫期に起こります。柔らかい(食べやすい)部分から食べるため、硬い繭がそのまま残っていることがあります。このようにして作られた隙間を利用して寄生蜂やカツオブシムシが侵入し、被害が大きくなります。
 加害された育房からは、通常たくさんの蛹室が発見できます(赤矢印で示した部分以外にもあります)。
脱出途中で死亡した成虫。加害された巣の内部から成虫の死体が見つかることがあります。巣から脱出する際には土壁に穴を開けなければならないことがあり(完成巣の場合)、これに失敗すると全滅となります。この写真の完成巣では入口側から3個の繭が食害され、4個目は繭の外側だけかじられて助かっています。小さくて見にくいですが、入口厚壁の左側に7頭分のナガヒョウホンムシ成虫の死体があります。 蛹室。蛹室は巣内の残さい物を固めて作られるようです。おそらくヨシ筒内壁もかじって材料として使っていると思われます。上の写真でもヨシ筒内壁がかじられているのが分かります。蛹室は卵形で、普通はヨシ筒内壁(または部分的に寄主繭や仕切壁)に密着した状態で作られています。

 ツツハナバチ類の巣における加害状況は、種によって異なります。コツノツツハナバチでは巣に侵入して加害したとしても、繭の周りにある糞や残り花粉、死体などだけを食べて、繭は周囲がきれいにされて残っていることが時々あります。この場合には掃除屋(Scavenger)的な性質を示していることになります。つまり直接的被害が見られない巣もあるということです。ただし、このような食害方法(と成虫の脱出)は、寄生蜂やカツオブシムシなど他の天敵類の発生を誘発することになるので、間接的被害をもたらすことになります。また、発生量が多くなるとコツノでも繭が無事ということはなくなります。

 ツノツツハナバチの場合、繭だけきれいにされて残されていることは稀で、食害される確率がコツノより高くなります。これは、ツノツツハナバチでは繭がコツノより薄く紡がれていることと関連しています。逆にみると、コツノでの加害が少ないというのは繭の厚さと関連した現象ということです。コツノでも細い巣筒に営巣した場合には繭が薄く紡がれる傾向があります。つまり、細い巣筒を与えて飼養すると、ナガヒョウホンムシによる被害、そしてこれによって他の天敵類による被害が増える可能性があるのです。


加害率と防除方法

 コツノツツハナバチの巣における加害(育房)率は、普通は0〜4%程度と低いのが普通です(前田, 1978;山田ら, 1971)。これに対してツノツツハナバチではコツノより加害率が高くなる傾向があります。新しいヨシ筒を毎年追加してさえいれば、発生量が非常に増えたとしてもツツハナバチ類で加害率が40%を超えることはないと考えられます。これに対してカツオブシムシ類では、同様の管理をしても加害率が50%を超えても不思議ではありませんから、ナガヒョウホンムシはそれほど恐ろしい天敵であるとは考えられません。この背景には、後述するようにナガヒョウホンムシの密度を抑制する天敵(寄生蜂)の存在があります。

 ナガヒョウホンムシは、青森県や長野県ではカツオブシムシより被害の少ないマイナーな天敵だと言えます。ところが山形県ではカツオブシムシよりも被害の多い(コナダニ類に次ぐ)メジャーな天敵となっています。これにはいろいろな原因があります。そのうちの一つは、山形県では巣筒の更新頻度が他県と比べて低いことでしょう。ナガヒョウホンムシは、古い巣筒を長年放置しておくと(新巣を追加したとしても)発生量が増えるタイプの天敵なのです。

 ナガヒョウホンムシは、他の多くの天敵昆虫の成虫が初夏から活動するのに対して、春から活動する種類です。ハチの営巣期間中でも成虫が巣箱周辺で暗躍している可能性があります。一度発生してしまったら、冬季に巣を全部切開して繭放飼する以外に防除方法はありません。幸い、本種は移動能力が低いタイプの天敵ですので、果樹園内では一度発生しなくなると、以降なかなか発生しなくなる可能性があります。軒下などに吊り下げる、あるいは作業小屋の壁面を利用した飼養方法の場合には、繭放飼を行なった後でも発生し続ける可能性が高くなります。このような飼養方法の場合には、定期的な巣筒の更新が必須です。

他蜂との関係

 上述したように「基本的にツツハナバチ類以外の餌で夏まで生活」していると考えられます。しかし、ツツハナバチ類の古巣でも栄養価は低いものの発育できます。古巣より栄養価の高い餌として他蜂の巣が挙げられます。「標本虫」の名前のとおり、昆虫の乾燥死体は大好物なのです。つまり、ツツハナバチ類の古巣を長年放置しなくても他蜂の巣が混生していれば、これらの巣で繁殖し続けます。ですからカツオブシムシの場合と同様に、他蜂と一緒に飼養するのは避けるべきです。

生物的防除法

 ツツハナバチ類の巣筒を切開し、ナガヒョウホンムシによる加害が認められた巣に遭遇したとき、やや褐色がかった白色の小さな(体長2〜3mmの)幼態がポロポロとこぼれ落ちることがあります。これはコガネコバチ科Pteromalidae の寄生蜂の蛹です。この寄生蜂はナガヒョウホンムシの蛹室に入っていて、巣筒を切開したときに蛹室が割れてしまったときに出てきます。ナガヒョウホンムシによる加害が多い場所には、この寄生蜂が必ずと言ってよいほど存在します(まだ同定していないため、種名は分かりません。誰かこの寄生蜂の正体をご存知の方がおられましたら教えてください)。

 この寄生蜂は2化性で、越冬世代は初夏に羽化・出現します。越冬世代の子孫は盛夏〜初秋に出現し、この子孫が寄主蛹室内で越冬しているのです。1個の蛹室からは1〜12頭(平均5〜6頭)が出現します(群寄生性)。性比はかなりメスに偏っていて、各蛹室から出現するオス成虫は0〜2頭(平均では1頭以下)です。

 寄生蜂の幼態は、寄主蛹室内以外からは見つからないことから、寄生は蛹室の外側からしか行われないようです。寄生された蛹室内からは、普通は食べカスのようなものしか見つかりません。しかし、体の内部が食べられて空になった寄主成虫が発見できることもあります。このことから、寄生は寄主が前蛹〜蛹のときに行われると考えられます。

ナガヒョウホンムシの蛹室の内部。成虫が出現していない蛹室を冬季に調べると、寄生蜂の幼態が多数入っていることが多い。 越冬中の寄生蜂。越冬態は蛹です。

 この寄生蜂の寄生率はコツノツツハナバチでは調べられていません(たぶん)。前田(1978)はナガヒョウホンムシの加害が認められたどの地域からもこの寄生蜂が見つかるとしています。ツノツツハナバチの場合、加害が認められた巣の蛹室の大半からこの寄生蜂が出てきたことがあります。このとき巣内で越冬しているナガヒョウホンムシ成虫はごく僅かでしたが、この寄生蜂はその100倍以上の数が出てきました。この寄生蜂がナガヒョウホンムシの発生量を制限していることは間違いありません。巣を切開したときにこの寄生蜂が出てきたときには、捨てないで保存しておいた方が良いでしょう。なお、カツオブシムシによる加害が多い場所では、この寄生蜂もカツオブシムシに食べられてしまいます。カツオブシムシの発生量が多い場所では、この寄生蜂が活躍するのは困難でしょう。


マルクビツチハンミョウ Meloe corvinus
工事中

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