Diary 2003. 7
メニューに戻る
7月1日 (火)  リハビリ医療に関して体験した現実

親戚の51歳になる男性の発病(高血圧性脳内出血)から、緊急入院、緊急手術、リハビリの為の転院、安定した精神状態でリハビリを受けられないという病院側の判断による更なる転院、と慌ただしい3ヶ月の過程で体験、見聞きした医療現場の現実を感じたままに報告したい。

公務員で独身でもある彼は、日頃の酒量、喫煙本数はかなり多かったようで、定期的な健康診断でも高血圧症は再三指摘されていたようだが、降圧薬は飲んだり飲まなかったりで、治療は正しく継続されてはいなかったようだ。
不摂生は否めないのだが、とりあえずここでは発病の原因は追及せずに、発病後の患者本人、家族に対する医療現場での医師、看護師、ケアマネージャー、リハビリ医療関係者などの対応を通してかいま見えてきた日本の医療現場での現実を少しばかり伝えたい。

本年3月31日の夜、不調を感じた本人の意思により病院へ駆けつけ診察を受けたのだが、CT検査により脳内出血の診断を受け手術可能な脳神経外科へ急遽搬送され緊急手術、約2時間の術後経過は感染症の危険は皆無ではないものの順調である、との執刀医の診断であった。
手術箇所は前頭葉右側で直径3cm程、術中の輸血は必要ない程度の出血であった。発症箇所により案の定左側手足に障害を残したようであったが、術後約10日、感染症もおこさず、幸いなことに言葉はかなり明確であり記憶も正常に思えたので、家族はその回復力に驚いた。まだ年齢的に若いのだし、これからのリハビリによっては職場復帰も夢ではないかもしれないとすら思ったほどである。
勿論執刀医からのその後の医学的経過報告を聞くと、決して軽い症状ではなく、後遺症として、新たな記憶が曖昧になる、著しい視野の喪失がある、精神的に不安定な鬱状態になるなど、立ち上がり歩行できるようになるにはリハビリによる訓練と本人の相当な決意、努力が必要だろうという事であった。
医師の話と、収集した「高血圧性脳内出血」の術後に起こりうるであろう後遺症などの情報から、家族は想像以上の回復と喜んでばかりではなく、リハビリを含め今後はかなり困難な状況が待ちかまえているだろうと想像したり、麻痺している手足の思わぬ程の力強さに接し、今にも立ち上がり歩けるのではないかと見えたりで、日々判断を変化せざるを得ない状況が続いた。
術後2〜3週間もすると、病院側の医師、ケアマネージャー、家族との間で患者の今後を相談することになるわけである。この病院にもリハビリ施設はあるのだが、専門的にリハビリを行っている病院への転院を勧められることになる。
患者の身体を考え、リハビリはできる限り早急に始めたいとの医学的理由にもより、家族はここでまずリハビリの為の病院捜しに奔走することになる。勿論手術をした病院の紹介、ケアマネージャーの提案もあるにはあるのだが、病院側の次の受け入れ先を早く決めて欲しい思惑が見え隠れする様子がはっきり伝わってくるのである。リハビリ以外の治療がとりあえず必要なくなれば医療費的にも早く転院させたいのが現実であろう。医療費、高齢化の問題などを考えれば納得できる処置だと理解できる部分もあるのだが。

専門的におこなっているリハビリの為の病院が少なく、受け入れてもらえる条件もかなり厳しいという事である。どういうことかというと、まず直ろうというまじめな態度、目に見える順調な回復、要するに時間をかけずともリハビリによりどの程度回復するかは数日経過すれば判るので、はっきりとした回復見込みがないと病院が判断すれば、早々に追い出されるという事のようである。個人差があるように思うのだが、医学的にはそうなのであろうか。
手術をした脳神経外科病院は東京から80km程離れた地方の人口1万7000人ほどの小さな町にある私立病院であるが、担当医師に恵まれ、ケアマネージャーにも真剣に対応してもらえた結果、術後ほぼ2ヶ月弱でリハビリ専門の病院に転院できることになった。
転院予定の病院は、東京から60km、人口18万7000人ほどの町にあり、ホームページによると近代的医療設備を備えた整形外科中心の病院でリハビリテーション科も充実しているという事なのだが、約1ヶ月のこの病院でのリハビリによって、現代医療現場事情のかかえる問題の一端をかいま見ることになるのである。

事故、スポーツ等による手足の骨折などの術後のリハビリ同様、あるいはそれ以上にかなり厳しくつらいだろうというのが率直な感想である。脳内出血の吸引という大手術をした結果、彼には後遺症として視野に問題を抱えたようである。左側の手足の麻痺に加えて、左側の視力、視野を失ったようで、例えば差し出し広げた両手に持つタオルの真ん中を指し示す事ができないのである。
勿論この状態のまま歩行訓練を続け、自力で立ち上がり歩行可能になった場合、普通の視界をもたないわけだから真っすぐに歩く事も難しく極めて危険であると想像できる。
家族はそういった現実を心の片隅では承知しながらも、少しでも回復し、何とか以前に近い状態に戻って欲しいと願い、医師、看護師、リハビリ関係者、ケアマネージャーにすがるのである。
リハビリを進める上で、思うように立てない歩けない患者本人が一番辛くもどかしいのは当然である。
身体が固まらない内にということからのようであるが、医学的にはもう既に2ヶ月たってしまったという考え方もあるのかも知れず病院側からは良くそのように言われたのだが、患者本人、家族にとってはあくまでも大手術後まだたった2ヶ月なのである。
とまれ開頭手術した患者である。病院関係者、医師、看護師長、ケアマネージャーはその患者に対してどのように接してもらえているかは患者家族にとっても大問題である。個々の患者に対する最適なリハビリの方法を短期に見つけ出し効率的に対処するのは難題であると思うのだが、彼のリハビリに関しては1週間もしないうちに病院との関係がギクシャクした最悪の方向に向かう事になるのである。

急激なリハビリの為か、術後の後遺症の為か、鬱状態になったのである。家族が面会中には今までと変わらず全く普通に接するので、想像しにくいのだが、家族が帰ると昼夜を問わず、車イスのまま徘徊し目が離せないというのである。また必要以上にナースコールを使うというのである。本人に質すとトイレに行きたいのだがなかなか来てもらえないので、我慢できずに失敗してしまう。という事である。
このリハビリの為の病院は、あくまでも素直におとなしくリハビリに専念する患者以外は受け入れたくないようで、昼夜を問わず、家族に呼び出しがかかり、おとなしくするよう説得してくれということである。勿論家族も厄介であろう患者を預けっぱなしという訳ではなく、可能なかぎり面会にも行き、どうしたら良いのか相談をしていたのであるが、病院側の対応は患者を抱えたある意味で途方に暮れる家族に対するものではなかった。
あくまでも主観的なのかもしれないが、携わる関係者に人間味といったものが感じられないのである。
仕事柄、日本国内ばかりではなく海外を含めかなりな数の病院の取材経験があるのだが、かつて感じたことがないほど、話し合いを持てない、患者家族からの聞く耳を持たない横柄さとが、いったい何が医療の現場に起こっているのだろうかと考えさせられるほどであった。
その病院の看護師長に言わせると、リハビリセンターという場は病気治療する場ではなく、あくまでも機能回復の為のリハビリの場なのだそうだ。結果的には徘徊、ナースコールボタンを執拗に押すなど病院側の方針にそぐわない患者であるという事から、相当強い精神安定剤を昼夜を問わず与えられるようになったようで、昼間面会に行ってもダラッとしたままというように瞬く間にどんどん悪い方向に変化していったのである。
看護師に確かめると投与しているのは睡眠薬ではなく、相当強い精神安定剤の類いだというし、すぐに効き目がなくなるということで日に日に与えられるその薬の強さと量は増しているようであった。
そんなわけだから、リハビリもままならずあっという間に日は過ぎていくし、リハビリ担当者からは「なまじ歩けるようになると、視野も狭いので危険だし、歩けるようになるような訓練はあえてしていない」という答えが返ってくるのである。
できるならば医師、看護師長、リハビリ担当者、ケアマネージャー、家族が一同に介して将来を見据えた方針を話し合いたいと考え、手配をお願いしていたのだが、そんな時間は与えられるわけもなく、病院側からは一刻も早く次の転院先を見つけろと言うばかりの対応であり、おまけにその時にいた家族は看護師、ケアマネージャーから「こんな手のかかる患者には引き受け先などないだろう」という考えられないような一言を付け加えられたそうだ。
その後、転院先を何とか見つけ急遽患者を転院させたのだが、引き継ぎの為にどんな薬を投与していたのかたずねてもなぜか教えてはもらえないのであった。

患者である彼にとって相性が悪い病院だったということなのかもしれないのだが、担当医、看護師長、ケアマネージャー、家族にとっても結果的に相性が悪いとしか思えなかったのである。
なお現在新たに見つけた病院に転院後4日目であるが、精神安定剤も全く必要なく非常に落ち着いた状態を保ち、新たにリハビリを始めているようだ。この病院でも彼はナースコールボタンを頻繁に使用するようなのだが、看護師からの「2時間ごとに廻りますからね」という優しさのある何でもない言葉づかい、人間味、心ある返答に素直に「解りました」と静かに答えられる環境がその病院にはあるようだ。

近頃、医療ミス、ドクターズハラスメント、医療の現場で抱える問題の多さが気になるのであるが、やはりそれぞれの病院には体質というか、それぞれの空気というようなものがあって、しばらくいると実に感じるのである。
極端な話ではあるが、医師、看護師の患者への対応を見ていると、この病院で亡くなったとしても仕方ないかなと思える病院と、救急であってもできるならばここには運ばれたくないと思えてしまう病院があるという事である。
どんな最先端医療であろうと、携わるのは人間だという結論に達するのではなかろうか。


2003/7
SuMoTuWeThFrSa
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

前月     翌月