ちゃいるど・ぱにっく 1





 土曜日の午後、フェリシアに降りた帰りロザリアはディアに呼び止められた。
「ごきげんよう、ディア様」
 ソツの無い挨拶を交わしてにっこりと微笑む。
「ええ、ごきげんよう。今日はもうフェリシアには行ったのかしら?」
 答えるディアも相変わらず優雅である。
「ええ。只今行ってまいりましたわ」
「じゃあ、今日はもうお暇?」
 暇ということは女王試験を行っている上で有り得ないが、かといって今日は多忙なわけでもなかった。
「…ええ、特に用事がある訳ではございませんが…」
 真意が解らない為、少々訝しげに答える。
「なら少しお話ししません? 美味しいクッキーをいただいたので一緒にお茶でも如何かしら」
「えっ、ええ」
 そう言うなりディアはロザリアの腕を引っ張って自分の執務室へと向かった。



「さあ召し上がって」
「……いただきます」
 半ば強引に連れてこられたロザリアであったが美味しいお茶とクッキーに顔を綻ばせた。
「本当に美味しいですわ」
「ふふっ、良かった。私も学生の頃これが大好きだったのよ」
 昔を懐かしむようにディアは告げる。
「久々に手に入ったものだから……。お茶の御代わりはいかが?」
「ええ。いただきますわ」
 ディアは立ち上がりティポットにお湯を注いでくる。
 白い煙がひとすじ立ち昇っていた。ふたりはそれを静かに見つめていた。
「3分経ったわね」
 ロザリアのカップにお茶を注ぎ、自分のそれにも同じ事をする。
「アンジェリークのことどう思って?」
 不意にディアはそう訊ねた。
「どうって……、まあ、あの娘にしては頑張っているとは思いますけど……」
「仲良くはなれないの?」
「……どういうことでしょう?」
「私と陛下も学生の頃女王候補としてここに来たものだわ」
 ロザリアにとってそれは初耳だった。このディアが女王候補だったなんて夢にも思わなかった。
「私と陛下はライバルではあったのだけど、争ったことは一度も無くってよ。私たちはお互いを高めあっていく…そんな関係だったの。出来るなら貴女たちもそうであって欲しくって……」
 心からそう思っているのがロザリアには良く解った。確かに仲悪くしている訳でもないし、そうすることが良いことだとも思っていない。ただ、何の意味も無いことだと思っていただけだ。
「……ディア様がそう仰るのだったら……努力はしてみますわ」
「有難う、ロザリア」
 心底嬉しそうにディアは微笑んだ。



「………だからといって何をすれば良いのかしら?」
 ディアの執務室からの帰り道、ロザリアは優れた頭をフル回転して考えていた。
 何しろ今まで自分から他人と仲良くするなんて経験は無いのだ。
(仲良くしましょうなんてあの娘に面と向かっていっても馬鹿みたいですし……)
 ふと、公園の店が目に止まる。
(そうだわ、何かプレゼントでもすればあの娘のことだから感激するに決まってるわ)
 なんて良いアイデアなんでしょ、とロザリアは商人の居る公園へ向かって行った。



 トントン。
「はぁ〜い、どうぞ」
 中から甘ったるい声がする。
「入っても宜しくて?」
「うわぁ、ロザリア? いらっしゃい、どうしたの?」
 一瞬驚いて、それから笑顔でアンジェリークはロザリアを招き入れた。
「珍しいわね。あっ、今お茶をいれるから……」
 慌てて用意しようとしたアンジェリークをロザリアが制す。
「お構いなく。すぐに帰りますわ」
 そう,と言ってアンジェリークは手を止めた。
「貴女にこれを渡したかっただけですの」
 すっと持っていた包みを差し出す。アンジェリークは狐につままれたような表情をしていた。
「これを、あたしに………?」
「そうだと言っているでしょう。早く受け取りなさいよ」
 照れ臭くなったのか怒ったようにロザリアは告げた。いつものロザリアの調子にアンジェリークは漸く笑顔を返す。
「ありがとうロザリア。ねえ、開けてみてもいい?」
「ええ。良くってよ」
 がさがさといささか乱暴に包みを開く。ロザリアは少し顔をしかめた。
(こういうところが庶民なのよね…)
 出てきたのは神鳥のブローチ。ロザリアの好みにマッチした、金作りの立派なものだった。
「あっ、ありがとうね、ロザリア」
「あら、別に構わなくってよ」
 あんたには少し立派過ぎるけどね、と心の中で付け加える。正直なところロザリア自身のものにしたかったのだが、ディア様に仲良くすると言った手前アンジェリークにあげようと思ったのだ。
(わたくしは家に帰ったら山ほど有るのだし)
「じゃあ、これで失礼するわね」
 それだけ言ってロザリアはアンジェリークの部屋を出ていった。



 翌週の日曜日。
 トントン。
「ロザリア〜いるぅ〜?」
 朝早くから、ロザリアの部屋をノックしていたのは隣の住人でもあるアンジェリークだった。
(珍しいこともあるものね。いつもの休みはここぞとばかりに眠っているのに……)
 こんな時間でもロザリアの身支度は完璧だった。驚きはしたものの、すぐさま扉を開けてやる。
「どうしたの、あんたがこんなに早くから?」
「おはよう、ロザリア! この間のお礼。受け取って」
 開けるなり差し出された少し大きめの包み。
(あら、この娘にしては随分と気を回したのね)
「有難う。入って頂戴、お茶くらい煎れて差し上げるわ」
「ううん、気にしないで。それより、ねぇ開けてみて♪」
 まるで自分が何かを貰った時のように嬉しそうなアンジェリーク。
 ロザリアはその言葉に従って、先日のアンジェリークとは比べ物にならないくらい上品に包みを開く。
 出てきた物体を握り締めてロザリアはわなわなと震えた。
「…こっ、これは…」
「かわいいでしょう♪ イチゴのクッション」
(なんて美的感覚なのでしょう。こ、こんなものをわたくしの部屋に置くなんて……)
 しかし、そんな様子に構わず楽しげにアンジェリークは続けた。
「あんまりかわいいからあたしも買っちゃった。お揃いなの」
 流石に我慢していたロザリアがきれた。
「あんたとお揃いですって?! 要らないわそんなもの!」
 クッションを即座に押し返すロザリア。
「ええ? なんでぇ? そんな事言わないで受け取ってよ。ほら、ロザリアにもお似合いだよ」
「なんですってぇ。このわたくしにこんなちんけなものがお似合いですって?」
 益々もって、ロザリアの怒りは激しくなる。
(一体、この娘のセンスはどうしているのかしら! こんな……こんな阿呆っぽい代物がこのロザリア・デ・カタルヘナに似合うだなんて……信じられませんわ!!)
「冗談じゃありませんことよ。これはあんたに返すわ」
「そんなぁ〜。こんなに可愛いのに……。ほら、あそこのベッドの横なんかにお似合いじゃない?」
 アンジェリークは無理やり部屋に押し入り、ベッドの脇にいちごのクッションなるものを飾ろうとした。
「ちょっ……。止めなさい、アンジェ!!」
「じゃあ、はい、ロザリア」
 振りかえりざまにロザリアにクッションを押しつけたアンジェリーク。思いもよらぬことにロザリアの上体がぐらついてしまった。
「きゃっ!」
「えっ!? あっ、ロザリアッ!!!」
 ゴン!!!
 そのままロザリアの意識は遠のいていくのだった……。






 ロザリアって実はギャグキャラかなと思った瞬間。
 いや、アンジェ史上最もギャグキャラなのは炎さまだと思っているんですけどね(笑)
 次点、光さま。……自分の認識って一体。




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