ちゃいるど・ぱにっく 2





「おかしい……」
 執務室で光の守護聖であるジュリアスは、パスハの報告を受けてひとり思案に暮れていた。
 女王候補であるアンジェリークとロザリアの両方とも、土の曜日であるというのに大陸に下りていないというのだ。
 あの育成大好きなロザリアが、まったく育成しないのはどう考えても不思議である。女王試験以外のことに気を取られているとも、思い難い。
 そう言えば、ここ一週間でアンジェリークに会ったのは二・三度、ロザリアに経ってはまったく会っていないではないか。
(明日の休みにでも、訪ねてみるか)
 そう思うことで、ジュリアスは再び執務に取りかかるのだった。



 日の曜日。
 女王候補の部屋の前に一人の男が立っていた。光の守護聖、ジュリアスである。彼は己の計画に忠実に、女王候補の一人であるロザリアの部屋を訪れたのだった。
 目的の部屋の前に立ち、そのドアを軽く叩いた。
 トントン。
 ――――しかし、返事がない。
「おかしいな」
 ジュリアスは、再びドアを叩く。
 トントン。
「はい、はぁ〜い」
 がちゃりとドアが開き、出てきたのは何故かもう一人の女王候補であるアンジェリークだった。
「えっ!? ジュリアスさま?」
「どうして、そなたがここにおるのだ?」
「えぇ〜と、ちょっと遊びに来てて……」
 なんだか歯切れが悪い。
「ここ一週間というもの、ロザリアの姿を誰一人見かけていなくてな。よもや病気ではないかと思い、ここに来たのだ」
「そっ、そうなんですよ。ロザリアってば風邪引いちゃって、ずぅ〜っと寝込んじゃってるんです」
 取り繕うようなアンジェリークの様子も、ますますおかしかった。
「では、見舞いがてら……」
 そう言って中に入ろうとしたジュリアスを、アンジェリークは慌てて止めた。
「いけません、ジュリアス様! 面会謝絶です!!」
「……そんなに悪いのか?」
 滅多なことでは動じないジュリアスも、心配そうな顔になる。仮にもロザリアは女王候補であるのだ。次期女王となるかもしれない身の上に、起こった病気を確かめるべく、なおもアンジェリークに詰め寄ろうとした。
 そんな時、その場に似つかわしくない暢気な声がジュリアスの耳に入ってきた。
「どうしたの? アンジェリーク」
「うわぁ! こっちに来ちゃだめ!!」
 ひょっこりとロザリアが顔を出した。にこにこしているその顔は――――すこぶる元気そうである。
「気分はどうなのだ、ロザリア?」
 ジュリアスは訊ねてみるが、ロザリアはきょとんとした表情で暫く彼を見つめ、それから僅かに首を傾げてにっこりと微笑んだ。
「お客様? こんにちは」
 前者はアンジェリークに、後者はジュリアスに向けられた言葉である。
(はっ? 何を言っているのだ?)
 アンジェリークに目を向けると、彼女はしまったというような表情をして、空を仰ぎ見ていた。
「どなたなの、アンジェリーク?」
「どういうことだ、アンジェリーク?」
 二人(正確にはジュリアスのみにだが)に詰め寄られて、アンジェリークは身を反らせた。
「……いま説明致します」
 ねえねえ、と足元にまとわりつくロザリアを宥めながら、アンジェリークは覚悟を決めたようにそう言った。



 とりあえず、ジュリアスはロザリアの部屋に招かれた。彼を椅子に促し、アンジェリークはお茶の用意をしている。
 ロザリアはというと、アンジェリークに言われた通りベッドに腰掛けておとなしくしている。
(……それにしてもおかしい)
 ジュリアスはまじまじとロザリアを見つめた。一見して何も変化はない。しかし、確実に何かが異なっていることは明らかである。第一、自分のことを分かっていない様子だった。先程のことを思い出して、ジュリアスは眉をひそめた。
 不意に顔を上げたロザリアと目が合うと、ロザリアはジュリアスに向かってにっこりと微笑んだ。
「ジュリアスさま、お茶が入りました」
「ああ、すまない。頂こう」
 アンジェリークはロザリアにもお茶を渡し、それから椅子に座った。
 ふーっと、アンジェリークは知らずに大きくため息が漏れた。
「それで、どういうことなのだ?」
「……説明致します」

 アンジェリークの話によるとロザリアは記憶が退行しているらしいとのことだ。
 女王試験のことや聖地のことなどは、まったく覚えていないということなのだった。
「どのようにして、そんな事態になったのだ?」
「それはですねぇ〜、……ロザリアとちょっとふざけていたら、ロザリアそこの角に頭ぶつけちゃって……。それで気を失って、気付いたらもうこんなになっていたんです」
 一体どこまでふざけていてと言うのだろう。
「……まあ、分かった。今すぐ守護聖を集めよう」
「あのぉ〜。やっぱりみんなにバラしちゃうんでしょうか?」
「緊急事態だからな」
 当然のようにジュリアスは答える。
(わたしの努力って何だったんだろう……)
 アンジェリークは今日何度目か分からない、大きな溜息をついたのだった。






 これでタイトルに辿り着きました。
 ようやく本題に入れそうです。そう、『ロザリアと遊ぼう』 ←本題




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