ちゃいるど・ぱにっく 4





 翌日。

 とんとん。
 まだ早朝と言って通るくらい早い時間に、ロザリアの部屋をノックする硬質な音が中にいる彼女たちの耳に入ってきた。
「おはよう、アンジェ」
 ドアを開けると、ふわぁ〜、っと爽やかな香りが辺りを満たす。見れば、両手いっぱいに花を抱えたマルセルいるのだった。
「良い匂いですねぇ。……おはようございます、マルセルさま。どうしたんです、こんなに朝早くに?」
「はい、まずはプレゼント。アンジェとロザリアに」
 質問に答える前に、マルセルは持って来た花をアンジェリークに手渡す。先程からとても良い香りを醸し出す花が自分たちの為のものだと分かって、アンジェリークは疑問も何も飛んで素直に嬉しかった。
「うわぁ〜。ありがとうございます」
「それでさぁ、今日エリューシオンかフェシリアに僕の力必要?」
「……いえ、今日のところは足りてると思いますけど…」
 朝早くに仕事について訊ねに来るほど仕事熱心ではないはずなのに、とアンジェリークは不思議に思った。案の定、マルセルは嬉しそうに続ける。
「だったらさぁ、今日一日ロザリア見ててあげるよ」
「マルセルさまがですか?」
「うん。だってアンジェ色々大変でしょ? 僕が見ていてあげたら結構違うんじゃない?」
「それはそうですけど……」
「だったら大丈夫。僕に任せてよ。ほら、おいでロザリア」
 後ろのロザリアに声をかけると、ロザリアはぱたぱたと駆け寄ってきた。
 殆ど変わらない目線でマルセルはロザリアに言った。
「今日は一日、僕と遊ぼう」
 敵愾心の無い無垢な笑顔にロザリアは素直に頷く。
「ふふっ、今までは『今日は休みではありませんわ』なぁんて言われてたのにな。それじゃあ行ってくるね、アンジェ。育成頑張って」
 じゃあ行こうか。とロザリアの手を握ってマルセルは去っていった。

 それからというもの、ちょくちょくマルセルはロザリアの面倒を見てくれた。



 とんとん!
「おはよう、アンジェ、ロザリア」
「マルセルさまぁ〜」
 恒例となった、マルセルの朝の訪問。ぱたぱたと、ロザリアが駆け寄る。すっかり馴れてしまったようだ。
 今まで一番年下だったマルセルは、妹のようにロザリアを可愛がっていた。
「アンジェ、今日も大丈夫?」
「ええ、マルセルさま。緑のサクリアはこの間沢山贈って頂いたので…」
「そうかぁ。じゃあロザリア、今日は何処に行く?」
「う〜うんとねぇ……。湖!!!」
「OK! じゃあ行って来るね」
「お気をつけて。ロザリア、マルセルさまの言うことをちゃんと聞いてね」
「は〜い」  
マルセルとロザリアは仲良く手を繋ぎ、湖のほとりに向かって行ってしまった。
(あっ! ロザリアったらハンカチ忘れて行っちゃったわ!!)  
気分はすっかり母親のアンジェリークであるのだった。



 別名恋人たちの湖……といわれのある場所であるが、今のロザリアとマルセルには、まったく縁遠いものだった。
 真っ白なシロツメクサの花の中で、楽しそうに声を上げるロザリア。ふと振り返り、恐る恐るマルセルに訊ねた。
「マルセルさま……このお花で花冠を作ってもいいですか?」
 彼女はマルセルが木や花を大切にしていることをよく知っていた。花を摘んで、花冠を作ることは悪いことなのかもしれない。
(怒られちゃうかなぁ……?)
 そんなロザリアの様子に、マルセルは嬉しそうに微笑んだ。花を大切に、という気持ちが何よりも彼は嬉しかったのだ。
「うん。じゃあひとつひとつに『ありがとう』を、ちゃんと言ってね」
「はぁ〜い!!」
 マルセルから許可を得たロザリアは、丁寧に小さな白い花を編み込んで行くのだった。

「マルセルさまぁ〜。見てぇ、出来ました!!」
 得意げに、出来たばかりの花冠を掲げて見せるロザリア。さすがに持ち前の器用さは小さくなっても残っているようで、見事なシロツメクサの花冠がそこにあった。
「すごいなぁ〜、ロザリア。うん、上手上手」
 手放しで誉めるマルセル。ロザリアは嬉しそうにそれを持ってマルセルに近づいてきた。
「はい、マルセルさまにあげる」
 ちょこん、とマルセルの金髪の上に乗せられた白い冠。マルセルは一瞬驚いて、それから満面の笑みを浮かべた。
「僕にくれるの? ありがとう、ロザリア。……じゃあ、今度は僕がロザリアに作ってあげるね」
「わぁ〜い!」
 マルセルが立ち上がりより多くの花々が咲いている森の奥に足を向けようとした時、その方向からここには似つかわしくない騒がしいエンジン音が聞こえた。
「……ロザリア、動いちゃダメ」
「え?」
 バルルルルルッ!!
 樹の影から飛び出してきたのは、見覚えのある同期の守護聖たちだった。彼らの乗っているあの乗り物は、以前ゼフェルの部屋で見せられた『エアバイク』とやらである。
「うわぁー。早く止めろー!!」
「んなこと言ったって、止まんねぇもんは止まんねーよ」
「ロザリア! 危ない!!」
 逃げられない。そう判断したマルセルは、すかさずロザリアに覆い被さった。そして、出来る限り、身体を低く保っていた。
 がっしゃーん。
 間一髪でゼフェルが舵を取り直し、エアバイクが右に逸れた。しかしその為にエアバイクは、大樹に正面衝突してしまったのだ。
 反動で放り出されたランディとゼフェル。しこたま体を打ったらしい。
「――――っ痛……」
「ったく、こんなとこにいるなよなぁ」
 怨みがましそうにゼフェルがぼやく。その態度にマルセルはムカっとして反論した。
「何いってんの。こんなとこでそんなものに乗ってる方が悪いんでしょ。ロザリアが怪我でもしたらどうするつもりだったの」
 ねぇ、ロザリアと腕の中の彼女に目をやる。彼女は状況が分かっているのか、いないのか、大勢になって大変嬉しそうに、にこにこしていた。
 今の弾みで飛んでしまったマルセルの花冠を拾い上げ、もう一度彼の頭に乗せてくれた。
「そうだ! ロザリアは?」
 吹っ飛ばされたランディが思い出したかのように叫んだ。
「大丈夫だよ。僕がしっかり庇ってたもの」
 少し得意げにマルセルは言った。ほー、っとランディは胸を撫で下ろす。
「オレさまのテクがあったから大丈夫だったんだよ。おめぇが運転してたら今頃あの世行きだぜ? あ〜あ、オレのエアバイクが」
 見るも無残なエアバイクの残骸がそこにはあった。
 自業自得でしょ、とマルセルは冷たく言い放つ。
「金輪際 おめぇだけは絶対に乗せねぇ」
 近寄ってくるランディに、忌々しげにゼフェルはそう言った。
 にこにこしていたロザリアがマルセルの腕から離れて二人の元に駆け寄ってくる。 そして二人の腕をつかんで引っ張った。
「なんだよ?」
「ロザリア?」
「洗うの。……ここ」
 ロザリアは人差し指で自分の顔を指差した。それを見てランディとゼフェルはお互いを見やる。
「はははっ。お前真っ黒だぞ」
「……おめぇもな」
 こっちー! とロザリアに引っ張られながら水辺へと向かった。



 ロザリアに引っ張られたランディとゼフェル。それを追いかけるようにマルセルもやってきたので結構な団体さんとなってしまった。
 水を掬えるくらいのところまで来て、ランディとゼフェルはおのおの顔についた汚れをジャバジャバと洗い落としていた。
 ロザリアは彼らを真似て、水を掬って遊んでいた。
「なぁ。こんなことしているより水の中に入ったほうが早くないか?」
「おめぇひとりでやってな」
 いくら人工的に作られた飛空都市とはいえ、季節はある。今は初夏の気温だ。水遊びをするには若干早い。
 ランディの提案はゼフェルに速攻で却下された。それもいつもの事なので、まったく気落ちはしていない風の守護聖である。それどころか、なおもゼフェルを気遣う行動にでるところが、彼の優しさを現していた。
「あっ。ゼフェル、そこに蜂が……」
 ランディは蜂をよけさせようとゼフェルの服を引っ張る。しかし、それが裏目に出てしまったのだ。
「うわぁ〜。あぶねぇ」
 ばっしゃーん。
 バランスを崩し、見事二人揃って水の中だった。
「ごっ、ごめんゼフェル!」
「………………」
 沈黙が怒りを明快に示していた。
 どっぷり腰まで水に使ってしまったゼフェルにランディは素直に謝った。しかし当然それだけで納得できるほどゼフェルは大人でもなく(いや、相手がランディだったのが悪かったのかもしれない)そのまま水の中でわめいたのだった。。
「だから、おめぇは馬鹿力の単純野郎って言うんだよ!!」
 ざけんなー、とゼフェルはランディに思いっきり水をかける。
「頭ごなしに怒るなよ。俺だってわざとやったわけじゃないさ」
「わざとやられてたまるか!」
 「阿呆かお前」とばかりに、またしても水をかけるゼフェル。
「お前なぁ。頭冷やせよ」
 反撃に出るランディ。当然ゼフェルは応戦する。
 にわか水合戦に早変わりしてしまった。びしゃびしゃと、ランディとゼフェルは豪快に水を掛け合うっている。
 ぴしゃん。
「ん……?」
 ゼフェルの後頭部に水がかかる。ありもしない方向からの攻撃に、ゼフェルの攻防が一時止んだ。振り向くとそこには相変わらずにこにこ顔のロザリアがいた。どうやら、完全に水遊びと勘違いしているらしい。
「ロザリア、ナイスだよ。僕も」
 追い討ちをかけるかのように、マルセルもゼフェルに水をかける。それに倣ってロザリアも、両手で水を掬っては飛ばす。
「おまえらなぁ〜」
 ゼフェルは四方八方に豪快に水を撒き散らした。
 「きゃー」と言う可愛い鬨の声が上がり、その場はお子さまたちの簡易戦場となったのだった。






 目指せ全守護聖&アンジェ+α(誰だい?)制覇!!

 次は、ある意味本命な赤い人……と、その上司(笑)




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