ちゃいるど・ぱにっく 5





「……それで、このザマか?」
 そのままびしょ濡れで戻った四人は、運悪くジュリアスと遭遇してしまった。
 その後ろでオスカーが「困ったな」と言うように、肩を竦めている。
 他人の執務室の前を水びだしにするのは、まだ許せる範疇である(いや、本当はかなり気にしているのだが)。
 しかし仮にも女王候補であるロザリアまでもが、びしょ濡れなのだ。
「でもよぉ〜。ロザリアも自分でびしょびしょになったよなぁ〜」
「ゼフェル!」
「だからと言って、お前たちはそれを見過ごしにしていたのか! ロザリアは今、幼少の良識しかないんだぞ!!」
「ジュ、ジュリアスさま……」
 恐る恐るマルセルが声をかける。
「何だ?」
「ロザリアが、怯えています……」
 ロザリアに視線をやると、少女は大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、マルセルの袖を握っていた。
「ロ……ロザリア?」
 さすがのジュリアスも、これには参ったらしい。
 一方、声を掛けられたロザリアはびくっと肩を振るわせる。
 その反動で、涙がひとしずく頬を伝った。
「あ〜あ、泣〜かした、泣かした〜」
 まるで小学生のように、ゼフェルはジュリアスを責めた。
「うっ……!」
 マルセルはよしよしと、ロザリアの頭を撫でている。
「ジュリアス様。俺らはともかく、ロザリアには少々酷だったのでは…?」
 ランディも恐る恐る首座の守護聖に意見する。
「わっ、私は特に何も叱りつけたりしてない!!」
「ジュリアス様。相手は言わば幼女ですよ?」
 背後からオスカーも、ジュリアス自身の言葉を借りて助言する。
「ううっ……」
 四人に責められて、ジュリアスは不本意ながら降参するのであった。
「お前たちにはもう任せん――――もういい」
 少年守護聖三人を追っ払い、側近でもあるオスカーに声をかける。
「そなたがロザリアを送ってやれ。……得意であろう、そういうのは」
 ついつい洩れてしまった嫌味に気付いてか、オスカーは隠れて苦笑しつつも、「了解致しました」と、答えるのであった。



「寮までなら歩いて行ってもいいんだが………どうだお嬢ちゃん。折角だから馬で行くか?」
 つい今しがたまでジュリアスと遠乗りに出掛けていた為、愛馬がそこに繋がれているのだ。
 ロザリアはその栗毛の馬を見て、瞳を輝かせている。
(変わった……よなぁ)
 背後から近づいてロザリアを抱き上げ鞍上に乗せると、自分もそれにまたがった。予期せぬ高さに怖がるロザリアを、宥めるように優しく抱きしめた。
「大丈夫だ。この俺がいる限り、落としはしないさ」
 その言葉に安心してか、ロザリアは少し力を抜く。ただし、しがみ付いた手はそのままの状態であった。
 そんな彼女の様子を馬を操りながら盗み見る。
(こうやって見ると、普通のお嬢ちゃんだよな。いや、普通と言う普通じゃないんだが……)
 改めて、この少女の美貌を認めざる得ないと思った。この少女に笑顔を向けられていることで、浮き足立ってる坊やたちを思い出す。
(俺的には、以前の気の強いのも好みなんだけどな)
 何を考えてるんだ、とその想いを吹き飛ばすかのように、オスカーは更に馬を走らせた。



 あっという間に候補寮に着いてしまった。
「着いたぜ、お嬢ちゃん」
 先に自らが降り、抱きかかえるようにロザリアを降ろす。
「ありがとう」
 満面の笑みでそう言われ、元来の手の早さが出てしまった。
 身を屈めロザリアの頬に口付ける。きょとん、と見上げるロザリアに、オスカーは片目を瞑ってみせた。
「『おやすみ』の挨拶さ。さあ、もう行くんだ」
 そう言われて部屋に向かって駆け出そうとした瞬間、ふと思い出したかのようにロザリアが振り返る。
 細い腕がオスカーのマントを引っ張る。
「ん?」
 背伸びしたロザリアの顔がみるみる近づいてきたかと思ったら、柔らかい感触を頬に感じるのだった。
「おやすみなさい」
 可愛らしい微笑を残して、ロザリアは去って行った。オスカーは柄にもなく呆然と、事の成り行きを思い返していた。
「………参ったな……」
 感触が残る頬に手を当て、オスカーはひとり呟いた。






 ……贔屓丸だし(笑)
 光さまにはこれでもかこれでもかと、ある意味贔屓丸だし。




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