GUNPARADE MARCH
**parody**

朝の唄 【1】
 

 午後の授業は希望部署に分かれてのものとなる。いわばこれが将来同僚となるもの同士の顔合わせだった。
 東原ののみはオペレーター候補生であった。オペレーターというのは士魂号のダメージ分析や、武装の最適仰角などを行う技術士官である。パイロットだけでは処理できない各種の情報処理や、士魂号自身と指揮車のレーダー情報の連結も行う、いわば機体に乗っていないコ・パイロットといったところであろう。
 さしたる体力は必要なく、代わりに知識と経験及び勘が必要となる部署であるにも関わらず、ここでもののみは異質な存在だった。一番前の席でにこにこと座っているののみを見て、同級生たちは小声で彼女について話をしていた。
 ののみの周りの席は見事に空いている。どんな人が隣に座るのだろうかと、ののみは期待に胸を躍らせながら、まだ見ぬ同僚を待っていた。
 ぱらぱらとしか居なかった学生たちも、授業開始が近づくほど増えていき、教室内も大分騒がしくなってきた。しかし未だののみの隣は静かなままだ。
 いつまでたっても埋まらない席に、ののみはだんだん寂しくなった。どうして誰もここに座らないのだろう。
(……ののみ、なにか悪いことしたかな)
 一人でも多くの人が笑っていられることを願って、この地で精一杯任務に励もうと意気込んでいたのだ。しかしその思いがつまらないことで凋みかけてしまう。下を向くのは好きではないのに、頭は引きずられるように重くなっていく。
 早く授業が始まればいい。そうすればまた、頑張ろうという気持ちが沸いてくるだろうから。忙しければ余計なことは気にならなくなるだろう。
 軍隊というのは、常に時間に厳しい。そうあるべきなのだが、肝心の教官の姿はまだ見えなかった。雑踏の中、元気を取り柄としているはずの少女は、大人しく席に着いていた。
 授業開始時間もとうに過ぎた頃、ようやくがらりと音を立てて教室のドアが開いた。
 始まりの挨拶と共に気持ちを切り替えようと、ののみは長い睫を伏せたまま、黙ってその時を待っていた。
 しかし不思議なことに足音は教壇へは向かわず、ののみに近づいてくる。それが止まったと当時に、がたっとぞんざいに椅子を引く音がした。
「なんだなんだ。みんなやる気ないんだな。前の席はがら空きじゃないか」
 静まり返った教室内に、呆れたような口調が空々しく響いた。
 大胆に遅れてきた型破りな男――しかし、皆と同じ制服を着ていることから生徒と思われる彼は、周囲の雰囲気など何処吹く風で、どっかりと空いていた席に腰を下ろした。
 まだ教官が見えないだけで、実はしっかり遅刻をしているのだが、自らのことは完全に高い棚の上らしい。男はまだ授業が始まっていないのをいいことに、ののみの右隣の椅子に居座って寛いでいるではないか。
 クラスの視線は心ならずも、ののみからこの超然とした男に移っていくのだった。
 ののみも例に洩れず、おそるおそる声のした方向を見上げると、タイミングよくそれに気付いた彼と瞳がぶつかった。
「…………っ!?」
 相手が息を飲むのがはっきりと分かった。自らの目を疑うかのように、瞬きもせずにののみを凝視している。
(ふぇ……大きな人だなぁ)
 座っていても随分と背の高い人だと分かる。少々癖のある明るい色の髪に、切れ長な紫紺の瞳。その瞳にののみだけが映っていた。
しばらく奇妙な静寂が続いたが、ふと我に返った男の方から口を開いてののみに話しかけた。
「――――お嬢さんは、なんでこんなところにいるんだい?」
 ここに来てから何度も繰り返される質問に、ののみの答えはいつも同じだった。
「あのね、ちょーへーなのよ」
 それは多弁なののみが、この教室に入ってから初めて口にした言葉だったのだ。
「……そっか。なら同級生なんだな」
 ふっ、と男の表情が柔らかくなった。それにつられて、ののみも微笑む。
「宜しく。俺は瀬戸口隆之」
「あのね、東原ののみです」
 瀬戸口と名乗った男は、ののみの目の前に自らの右手を差し出した。握手を求めているのだと分かって、ののみも同じように手を伸ばす。そうして二つの右手が絡み合った。
「えへへ。よろしくなのよ」
 ほんのりとののみは頬を赤く染める。大きくて温かい手は、大好きな『おとーさん』のそれによく似ていたのだった。


to be continued.....

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オフラインからの抜粋なので、多少分かりにくいところがあるのはご了承下さい。
数少ない、師匠がへたれていない場面です。


update 10,Sep,2001

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