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朝の唄 【2】 |
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「たかちゃん。あのですね、聞いてもいいですか?」
たかちゃんこと瀬戸口隆之は、ののみが熊本に来て初めての友達とである。
あれからオペレーター候補クラスにおいても、ののみは何人か友達ができた。遠巻きに瀬戸口とののみが話している様子を見ていて、次第にののみがこのクラスにいるということに違和感を感じなくなってきたのだ。それは瀬戸口がののみを他の誰とも分け隔てなく接してきたことも、大きな要因であるかもしれない。彼はののみに皆と同じだけの能力を求め、そしてまた、ののみも精一杯それに応じてきた。自分たちと同じ仕事量をこなす少女を、同級生たちもいつしか仲間として扱ってくれるようになったのだ。
同じ5121小隊に所属されると決まっていることもあってか、ののみと瀬戸口は時間さえ合えば共に学校生活を過ごしていた。
「東原は勉強熱心だなあ〜」
あまり勉強熱心でないタイプの瀬戸口は、ののみの持ってきた問題を見て、はぁっと溜息をついた。好きではないとはいえ、同僚がこんなに頑張っているのだ。自然と自分もやらざるを得ない環境に置かれてくる。ましてや、彼女は自分より遥かに年下だ。これでやらなきゃ男じゃないと、競うように勉強した結果、あれよあれよと5121小隊に入隊予定の二名は、オペレーター候補生の中でも優秀な成績保持者になっていた。
「あ、その前に飯にしようぜ。腹が減っては戦はできぬ、ってね」
「うん! えへへ、ののみね、ののみねぇ。お昼が一番、大好きなのよ」
してやったり、である。瀬戸口の企みは見事成功を収めた。食い物に釣られたな、と笑って小声で呟いた。
「……ぶー。食いしん坊じゃないよぉ」
しっかり聞こえていたらしく、ののみはぷくっと頬っぺたを膨らませる。その姿はとても愛らしく、悪い悪いと謝りながらも、つい口元は緩んでしまうのだ。
「で、どこで食おうか?」
「えっとね……今日はおてんきだから、おそとがいいな」
寒さという悪条件を考慮しても、その中で春に向かって懸命に芽吹こうとしている自然の中での昼食は代え難いものだった。瀬戸口にも異存はない。
「よし。じゃあ弁当持って行くぞ」
「うん!」
ののみは一度教科書を置いて、換わりに手製の弁当を持ち直す。そうしてはしゃぎながら片手でかわいいおべんとを、もう一方の手で瀬戸口の袖を掴んで駆け出さんとしていたのだった。
基本的に学生は弁当持参ということになっている。学生の大半は一人暮らしを余儀なくさせられている為に、弁当は自分で作るというのが、ほとんどの場合だった。ののみも瀬戸口も例外ではなく、毎日弁当を携えて登校しているのだ。
二人は教室を出て、廊下というより回廊に近い通路に沿って歩く。随分と凝った細工の欄干を具えた階段を下りていった。
ここの学校は、元々ホテルであった建物をそのまま利用しているのだ。無駄に華やかな造りとなっているのは、その為だった。内装ばかりでなく白亜の外観も、一見すると瀟洒な洋館といった感じである。
ロビーであった広い玄関を越えて、少し行ったところの小さなドアから外へ出る。そこには熊本では珍しくなってしまった、緑が残っている空間があった。
外壁と同じ色をした沈丁花がぽつぽつと花を付け始めていた。数の割には優しい香りが匂い立っている。
そのわきをすり抜けたところに、中庭があった。南側に位置するこの場所は、陽射しが惜しみなく降り注いでいて心地よかった。
幾つかのベンチがその場所に設備されている。そのうちの一つを指して、瀬戸口は言った。
「えーと……この辺でいいか」
「うん」
ベンチに二人並んで腰を下ろすと、小さな影がそこにできた。足元には福寿草が見事な、黄金色で咲き誇っている。
机がないので膝を代理にして、その上に持っていた荷物を乗せる。二人は弁当を包んでいたハンカチを解いた。
「いただきまーす、なのよ」
ののみは可愛らしいお弁当をぱかっと開けた。中身も相当可愛らしい。綺麗な色をした俵型の三色おにぎりや、カニさんやらタコさんやらのウィンナーが、きちんと整列して並んでいた。デザートにはウサギの形に切られたりんごもちゃんと入っている。
「ふわぁ、それおいしそう」
瀬戸口のお弁当チェックも欠かさないののみは、やはり食いしん坊と言えよう。
「お前もたかるの好きだな。うん、同志と呼ぼう」
瀬戸口はののみがせがんだ玉子を彼女の弁当箱に移してやると、食べかけの唐揚げをののみの箸から失敬した。
「あー」
「うん、美味い」
消えた唐揚げに抗議の声を上げるが、美味いの一言でご破算である。
「えへへ……。あのね、ののみが自分で作ったのよ」
「東原は偉いな」
「嬉しいなぁ。たかちゃんのタマゴさんもおいしーのよ」
「姫君のお口に合いましたようで、恭悦至極です」
恭しく礼をする瀬戸口の言動は、半分も理解できない。それでもののみは、瀬戸口が何か可笑しなことを言っていることは分かった。くすくすと小さく笑う。
それを横目で盗み見て、瀬戸口は仰々しくお辞儀までしてみせた。その様子にののみは一層表情を緩める。それは眩しい光を纏った微笑みだった。
黄色い花が、風になびいてそっと揺れた。
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to be continued..... |
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