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朝の唄 【4】 |
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後日、テクノオフィサーたちも到着した。テクノオフィサーとは戦闘に参加はしないが、普段は専ら機体の修理に取りかかり、いざ戦闘では補給車で戦線に赴き、補給や王宮処置的な修理などのバックアップを担当する部署である。
整備主任の原素子をはじめ、一番機担当の岩田裕、遠坂圭吾、田代香織。二番機担当は茜大介、田辺真紀、新井木勇美。そして三番機を担当する狩谷夏樹、森精華、ヨーコ小杉。最後に指揮車担当の中村光弘の十一名が配属されてきた。
また遅れてきたスカウトの来須銀河と指揮車の銃手を兼ねた衛生官である石津萌も、同日赴任してきた。
一目見ただけで、揃いも揃って難癖のありそうな連中ばかりであった。
それでもこれで一応全部署の人間が揃い、何とか形だけは見られるようになってきたのだった。
小隊とはいえ、総勢二十二人にもなる。普通の学校ならともかく、ここは軍人として使える人材を育成する為の場でもあった。専門的な勉強も学ばなければならないので、クラス分けは部署によって定められた。一組がラインオフィサー、二組がテクノオフィサーといった具合である。主に戦闘に参加するのがラインオフィサー、後方支援担当なのがテクノオフィサーである。当然、瀬戸口とののみは共に一組に所属することとなった。
学生兼兵士である彼らは、勉強も訓練もどちらも必要とされたのだった。朝八時五十分のホームルームから始まり、十六時十分の七時限までみっちり授業が入っている。実際に戦地で幻獣と対峙するパイロットやスカウトの多い一組は、二組に比べて訓練の時間が圧倒的に多かった。二組の生徒たちが新しい技術を学んでいる間、一組の生徒たちは身体を作っているのだ。
そして、今はその戦闘訓練の授業である。
校舎の裏にて一対一で殴り合い――もとい、拳術の訓練をするのだった。いわゆる模擬格闘である。
「よーし。適当に、二人組を作れ」
指導するのは本田である。真っ赤なエナメルスーツにマシンガン装備という奇妙奇天烈な格好をしているが、これでもれっきとした教師だった。
「よーし、滝川くん。俺と組もうぜ」
瀬戸口はすかさず滝川に近づいた。クラスメイトを吟味してその中から『なるべく弱そうな奴』を選んだのだ。
「あ……あの。師匠?」
いきなり指名されてしまった滝川少年が戸惑うのも無理はないだろう。
滝川は瀬戸口を師匠と呼んで崇めている。これというのも、就任初日で隣接する女学院の生徒によって『瀬戸口親衛隊』なんて組織が結成されたのを目の当たりにしたからだ。滝川は恋愛に非常に興味があるお年頃で、教えを乞うべく瀬戸口の舎弟に自ら志願したのだった。
「ほら、やろうぜ」
色々勝手が分かるだろうから、パイロットはパイロット同士で訓練しようと思っていた滝川を、瀬戸口は半ば力ずくで引っ張っていくのだった。
適当な場所に陣取り、さあこいとばかりに挑発的な視線を向ける。仕方なしに滝川も瀬戸口に向き合うのだった。
一応構えを取ってみたものの、相手は師匠である。攻撃するにしても、まず最初は自分が受けるのが礼儀だろうと滝川は思っていた。間合いを確認しながら、滝川はその時を待っていた。
ややあって、かかってこない相手に痺れを切らした瀬戸口が先手攻撃をしかける。注がれた眼差しに、滝川は身震いをした。冷静な瞳で滝川を射る男の表情には余裕や自信すら滾っている。揶揄するように上がった唇でさえ、計算されているように思えたのだった。
滝川は半歩、後退する。正直、瀬戸口という男を侮っていたのだ。普段はへらへらとして、本気とも冗談ともつかないことばかり言う優男である。箸より重いものは持ったことがないと言って憚らず、滝川は力仕事の類いをみんな押し付けられていたのだ。
それなのに、今の瀬戸口の気迫はどういうことだろうか。無意識の奥に潜む狂気を、彼は全身に漲らせている。一部の隙も与えない堂にいった構えすら、驚嘆に値した。
空気が張り詰める。その時、瀬戸口が動いた。
「――――!」
気迫が先にぶつかってきたような錯覚に襲われる。瀬戸口の素早い動きは、滝川に瞬きする間すら与えなかった。すぐ後に来るだろう衝撃を覚悟して、滝川は身体を強張らせる。
瀬戸口の攻撃を真っ向から受けた滝川の顔が、みるみる歪んでいった。
「し……師匠…………」
その声は震えていた。しかし、瀬戸口は攻撃の手を休めなかった。
ぽこぽこといった音が相応しい、力の抜けたローキックを彼は繰り出してくる。先程までの気迫が、嘘のように消失していた。これではいつもの優男、瀬戸口である。
滝川は何の反応も返せず、ただ木偶の坊のように立ち尽くしていた。下手に期待が生じてしまった分、非常に納得がいかないのだ。これでは、ほんの一瞬でも身震いしてしまった自分が馬鹿みたいである。
「こらー瀬戸口! 何だその蹴りは!? ちっとは真面目にやらんかー!!」
見回りに来た本田から一喝された。瀬戸口は心外だというように眉をひそめる。
「やってますよー」
しかし相変わらずの情けないローキックでは、まったくもって説得力がない。全然真面目じゃない、と滝川は泣きたくなったのだ。
ふと、瀬戸口の攻撃がやんだ。彼は滝川の肩越しに、どこか遠くを眺めている。始めは訝しげに、そしてそれは徐々に険しいものへと変わっていった。
次の瞬間、滝川の視界から瀬戸口が消えたのだった。
「待てよ! どうしてお前が東原と組んでいるんだ」
こともあろうに瀬戸口は、ののみと来須が構え合っているところに割って入るのだ。滝川からは、もう溜息しか出てこなかった。
「女の子は女の子同士じゃないのか」
「俺はそんなこと言ってない。人数が足らんからだ」
けたたましく喚く瀬戸口に、黙ったままの来須に代わって本田が口を挟む。しかし瀬戸口はそれでもまだ文句があるのか、元の位置に戻ろうとはしない。
「東原に本気なんて出すんじゃねぇぞ!」
「し、師匠。大丈夫っすよ、先輩は決して女に本気は出しませんって」
「馬鹿もん! 本気を出さずして何が訓練かー!!」
最早訓練も何もあったものではない。他の生徒も唖然として、事の成り行きを眺めていた。そんな中、瀬戸口の熱弁は衰えることなく振るわれる。
「東原は女の子なんですよ。顔に傷でもできたら、どう責任を取ってくれるのですか」
「そんなんで戦場に行けるか」
「オペレーターは声が命です。それと顔」
至極真面目にそう答える。本田の肩ががっくりと落ちるのが見て取れた。
「――――勝手にしろ」
「ええ、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。おいで、東原」
瀬戸口の完全勝利だった。一方の当事者であるののみは、話の展開を理解していなかった。それでも取り敢えず呼ばれたので瀬戸口の元へ駆けつける。
もう一方の当事者である来須は、終始無言であった。
「東原は俺と組もうな」
言いながら、しっかりとののみの手を掴んで離さない。これは提案でなく確認であった。
「うん」
またも瀬戸口の気迫が勝利する。ののみはあっさりと返事をしてしまったのだ。これ幸いと、瀬戸口は彼女の手を引いて行ってしまった。
熱い男が去って、その場の温度が一、二度下がったようだった。
唖然としていた本田が、一人ごちる。
「……あいつは東原の父兄か何かか」
哀れにも残されてしまった滝川は、同じく相手を取られてしまった来須を見て慌てた。
「じゃ、じゃあ先輩は俺と……」
こちら純粋な意味で尊敬している先輩である。スカウトである来須から、直々に手合わせ願えるなんて滝川にとっては夢のようであった。
「うんとね……えーい」
「おおっ。東原は強いなあ」
おままごとのような瀬戸口とののみや、その後ろで嬉々として訓練に臨む滝川を見てしまった者は、尽く脱力してまったく訓練にはならなかったのだった。
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to be continued..... |
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