GUNPARADE MARCH
**parody**

朝の唄 【5】
 

 空は一面の暁から、急速に夜の藍へと移っていく。
 冷えた風が心地よく感じる。栗色の髪をふわふわと浮かせて、ののみはプレハブ校舎前を歩いていた。教室に整備記録ノートを忘れてきてしまったのだ。これがなくては仕事にならない。
 階段を駆け上がったところに、見知った姿があった。手摺りに頬杖をつき、遠い彼方を見つめている。
「よーこちゃん」
 小杉はののみに気づくと、笑顔で「コンバンハ」と言った。
「なにしてるの?」
「星見てルです」
 雲の欠片すら見当たらない空だった。真北には、ほんの少しだけ黄色みを帯びた白い星が見える。妙見と呼ばれる星である。これは色々な災害から人間を守ってくれる仏の名を取ったものであった。
 あれはいつも北にある星だよ、と教えてくれた人のことを、ののみは思い出していた。
「私のオトーサン、いつも星見てたです。星だケは、世界が変わっても、変わらないっテ」
 ここに来るまでのことを懐古していたのだろう。小杉は穏やかにそう語った。
「ふぇ……ののみのおとーさんもだよ」
 小杉は驚いたように目を開き、それから、また柔らかく微笑んだのだ。
「一緒でスね」
「さびしくなったらそらを見なさい、って。あさならおひさまが、よるならおつきさまとおほしさまが、ののちゃんを見ていてくれるよって」
 人懐っこい笑顔を見せる。心に陽だまりのような温かさを感じた。
「いいオトーサンですね」
「うん! ののみのいちばんすきなひとなの」
「そうでスか……」
 自分の一番好きな人は今頃どうしているだろう、と小杉は思い、また星を眺めるのだった。
 静かに、時が過ぎていく。小杉との沈黙は、居心地の悪さを感じなかった。
 ゆっくりと、小杉が視線を巡らせた。
「ののみさんは、どうしたでスか?」
 問われて、ののみはようやく本来の目的を思い出す。
「あっ、そーなのよ」
 呟いて、慌てるように一組の教室に駆け込んでいった。ほどなくして、一冊のノートを抱えて戻ってくる。
「忘れ物でシタか」
 そう訊ねると、ののみは恥ずかしそうに頷いた。
「えへへ……もうだいじょーぶなのよ」
 これがないと肝心の仕事ができないのだ。ここに来てまだ日が浅い為に、自由時間といえども仕事をしないと追いつかなかった。二人とも、そろそろ持ち場に戻らなくてはならなかった。
「よーこちゃん。とちゅうまで一緒にいこ」
「ハイ」
 二人はハンガーの側まで、星を見ながら静かに歩いていった。
「じゃあ、お仕事がんばろーね」
「ええ、ガンバリましょう」
 小杉に別れを告げて、ののみは瀬戸口の待つ裏庭まで駆けていくのだった。


to be continued.....

<<back               [menu]               next>>


二人のパパ話は、ちょっぴり意味深。でも短い。


update 17,Apr,2002

[ site top ]