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朝の唄 【10】 |
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食堂兼調理室。
その名の通り、奥の方には調理台が設置されているのだ。ここは誰でも使用できるようになっていた。
手前には白いテーブルクロスで覆われた机が、二つ平行に並んでいる。この人数なら机ひとつだけで事足りる。六人は入り口付近の机を囲むように輪になって着席した。
各自弁当を取り出した。各々の前に色とりどりの弁当箱が置かれると、真っ白なテーブルの上に花が咲いたように明るくなった。
しかし昨夜学校に寝泊りしていた瀬戸口には、当たり前だが弁当がない。その上、朝食もまだである。瀬戸口は今、非常に飢えていた。
「たかちゃん、ののみと半分こしよ」
すかさずののみが名乗り出てくれたが、彼女の小さな弁当の半分を貰うのは、さすがに気が退けた。第一、正直それだけでは、腹の足しにも到底ならなそうであった。
「…………食べまスか?」
「俺のも……ちょっとならいいぜ」
「食べるがいい」
「ん……」
よほど瀬戸口が物欲しそうな顔をしていたのか、ののみの健気さに心打たれたのかは不明だが、その場にいたもの全員が瀬戸口に食べ物を提供してくれた。
「す……すまんな」
美少年らしからぬ行為だが、背に腹は代えられず、瀬戸口はありがたく皆の施しを受けたのだった。
少しずつ瀬戸口の前におかずが並んでいく。それをじっと見ていたののみが急に、「ああっ!」と叫んだ。
「ねぇねぇ、きいてきいて」
ののみが大事件とばかりに目を輝かせているではないか。五人はののみの話に耳を傾けた。
「最近ね、ねこさんたちに餌をあげている人がいるんだって」
示し合わせた訳でもないのに、八つの瞳が同時に瀬戸口に注がれた。誰も言わなかったが、誰もが同じことを考えていたに違いなかった。
瀬戸口自身はいたたまれない気持ちになったが、それもすぐに回復することとなる。
「野良猫?」
わざとらしい咳払いをしてから、中村が話を戻した。
ののみはこくんと頷いた。
「そうかぁ。良かったな」
「うん」
結局、瀬戸口はののみが嬉しそうであればいいのだ。この時点で中村は、瀬戸口を『変態で単純馬鹿』と認識することとなる。
「物好きな奴だな。食い物も安くないだろうに」
田代はその人の行動が解せないようだ。田代が言う通り、このところの物価の上昇は類を見ないものだ。今食べている弁当の中身でさえ、調達に影響が出始めているくらいである。そんなご時世にわざわざ猫なんぞにものをやる心理が、どうしても理解できなかった。
きょとんと田代を見遣って、ののみがごく自然に首を傾ける。
「でもね、ねこさんたちも生きているのよ」
田代は驚きに目を見開いた。ののみは別段変わったことを言ったわけではない。至極当たり前のことだったのだが、それを今の田代は忘れかけていたのだ。
餌をあげた人間もだが、それに何も疑問を抱かなかった目の前の少女もお人好しだと思った。自分が食べていくこともままならないのに、他人――ましてや猫の心配をしているのだ。
戦争は悪化する一方だ。今後ますます人は自分本意になっていくだろう。そんな中で打算もなしに行動してしまう彼女たちのような人間は、果たして生き抜いていけるのだろうか。
世間はどちらを愚かだと見なすだろう。
それでもののみたちの行動は田代の胸を熱くさせた。この世の中も捨てたものではないと、田代は少しだけ嬉しくなったのだった。気持ちはそのまま言葉になる。
「……お前、いい奴だな」
褒められたののみは照れたように微笑む。そして何故か隣に座っているだけの瀬戸口も、嬉しそうに頷いていた。
「当たり前だ」
「なんでお前が胸をはっとや」
すかさず中村のツッコミが入った。彼の瀬戸口に対する認識に『ののみ馬鹿』という、今後も瀬戸口専用であろう造語までこさえてプラスされる。
わいわいと食後の話に花を咲かせている中、舞は黙って席を立った。何も告げずに出ていった舞の表情に気づく者は、誰一人いなかったのだ。
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to be continued..... |
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