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それはとても晴れた日で 【3】 |
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迷ってしまわないように、できるだけ電車やバスの路線沿いの道を選んで進んでいた。すでに青春学園は視野の中である。次の角を曲がったところが、中等部の正門だ。
手塚は大きなバッグを担いで、全力疾走をしていた。登校時間に差しかかっているにも拘らず、生徒らしき姿はほとんど見られない。これは本日が入学式だから、皆が早めに登校しているということではなさそうだ。むしろその逆で、通学のメインとなる電車が遅れたことで、足止めを食らっている生徒が多いのだろう。
ちらりと横に視線を向けると、細身の少年が視界に飛び込んでくる。遠慮も何もない速度で駆けていた手塚に、ここまで並走してきているのだ。
正直、予想外だった。ついてこられない場合は、申し訳ないが容赦なく置いていくつもりだったのだ。
最後のコーナーを曲がり、直線コースに入ったところでラストスパートをかける。手塚は凄まじいスピードで走行し、学校の敷地内まで駆け抜けていった。
校内に足を踏み入れると同時に、極限にまで上がった速度を一気に落としていく。
「間に合ったか」
正門をくぐるなり腕時計に目を落として、手塚は安堵の溜息を漏らした。一般生徒が集合する時間より、やや早い。これは手塚が言い渡された登校時間だった。ぎりぎりではあるが、何とか間に合ったようである。ここまでの所要時間を考慮すると、驚異的な速さであったといえよう。
どすんという音に振り返ると、少年が荷物を落として肩で息をしている。
「おい、大丈夫か?」
一瞬すっかり忘れ去ってしまった同行者に、手塚は慌てて駆け寄った。それと同時に、感情の起伏が乏しい手塚が、感動すら覚えていたのだ。
手塚は身体もそれなりに大きいし、普段から頻繁に走り込んでいた。足に自信があると言ったのは、こうした根拠があったからだ。
一方で彼は、どちらかというと華奢で体力のなさそうな少年に見える。走り切っただけでも立派であるが、その上に自分と同じ速さを維持し続けたのだ。これには手塚も感嘆した。
「大丈夫だけど……ちょっとだけ、頑張りすぎたかも……」
少年は、ぎこちなく頷いた。彼の脱力ぶりを見ると、今すぐ校舎内まで急がせるのは可哀想である。手を貸すのは構わないが、立ち上がれないほど疲れているのだとしたらそれも意味がない。
急いではいるが、この期に及んで放って行く訳にもいかない。どうしようかと思案に暮れかけた時、校内に耳慣れた旋律が響いた。
放送開始のチャイムである。それは校庭にも反響して、後を追うように女声でのアナウンスが流れた。
「お集まりの皆様に連絡致します。本日の入学式は、鉄道の大幅な遅延の為、一時間延期して十一時より執り行われます。繰り返します、本日の入学式は――――」
軽快なチャイムと共に、放送は終わりを告げる。規則的に低くなっていく音色が、ひどく非情に聞こえた。
こんなにも懸命に走ってきた自分たちの苦労は何だったのだろうか。努力のすべてが水泡に帰してしまった。
急激に身体に襲いかかる疲労を感じながら、二人はそれとなく顔を見合わせた。相手の表情に疲れが窺えていることが、互いに滑稽極まりなかった。
得体の知れない空白が、数秒間通り抜ける。
気まずいかもしれないと手塚が思いかけた矢先に、少年が吹き出した。それを契機に、箍が外れたように笑っている。
「ぼ、僕たち……初日から、飛ばしすぎだって……」
息も絶え絶えにそれだけを口にする。一度漏れてしまった笑いは、そう簡単には治まってくれないようだ。細い肩を震わせて、心底から可笑しそうに笑っている。
彼を見ているうちに、手塚も力が抜けた。脱力にも似た思いで空を見上げると、眩しいほど色鮮やかな青が、彼方まで広がっているのだった。
◆◇◆
それからきっかり二時間後、青春学園の講堂は厳かな空気に包まれていた。真新しい制服に身を包んだ多くの新入生たちが、緊張に包まれた表情で式に参列している。
ライトの当たる壇上に手塚の姿はあった。颯爽たる様子で、宣誓を述べている。
たたみこまれた長い宣誓書から顔を上げ、悠然たる面持ちで口を開く。
「――新入生代表。一年一組、手塚国光」
よく澄んだハイバリトンの声が、広い講堂いっぱいに響いた。
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to be continued..... |
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