the Prince of Tennis
**parody**

それはとても晴れた日で 【6】
 

 食後の休憩とばかりに、仲の良い者同士で集まって話に花を咲かせている。そんな光景があちこちで見られる昼休みに、異変は起こった。
「不二はいるか?」
 手塚が顔を出した途端、二組の女子の間でざわめきが走った。教室を去りかけた女生徒が、慌てて戻ってくるなどという一面もあったほどだ。
 学校生活において、余所のクラスに用事があるということは案外少ないものである。ましてやまだ一年も始まったばかり、他クラスとの行き来はさほどない。
 それを、かの有名な手塚国光がやってきたのだ。
 広い肩幅と引き締まった身体つきは、つい最近まで小学生だったとは思えないほど逞しいものだった。その体格の割に荒々しい雰囲気がまるでないのは、理知的に整った顔立ちの為であろう。
 新入生代表の宣誓は、入学試験での最優秀者であると相場が決まっている。都内屈指の進学校に首席で入学するような人間なんて、ステロタイプのがり勉だろう――と、少しの期待もしていなかった女生徒たちの予想を、手塚国光は見事に裏切ったのだ。
 がり勉であろうと何であろうと、顔が良ければ話は別である。むしろ本音を言えば、頭も顔も良いに越したことはない。
 そうして、手塚が宣誓を述べているほんの僅かな間に、彼のファンになった女子は数知れないのである。
 手塚の偉業はそれだけではなかった。この名門青学男子テニス部において、入学当初からレギュラー陣に引けをとらない腕前を披露したのだ。無論、その雄姿を直に見ていた生徒はほんの僅かに過ぎないのだが、少女たちの情報伝達網というのは、時に驚異的な威力を発揮するのである。瞬く間に噂は広がり、わざわざ放課後のテニスコートにまで『手塚国光』の姿を確認しに来る者もいたほどだった。
 顔良し、頭良し、運動神経も良し。もてる男の三要素を余すところなく備えた人物というものは、乙女の間では天然記念物以上に重宝される。
 低い美声と落ち着いた立ち振る舞いに、妙な存在感も加わって、図らずも手塚はちょっとした芸能人並みに憧れの対象になっていたのだ。
 幸か不幸か、本人ばかりはその事実に気づいていない。
 手塚にかなり免疫が付いた一組を除いては、どのクラスも彼が足を踏み入れると一様に騒がしくなった。その浮かれ具合の原因は自分にあるとは露ほども思っていない手塚は、余所のクラスはどこも落ち着きがないと心密かに嘆くのだった。
 不自然に集まった人の波をよけて、手塚は不二の元へと向かう。入学当初から絶大な人気を誇る手塚だが、彼特有の無愛想さが障害となってか、直接話しかけようとしてくる勇敢な女子は、ほぼ皆無である。
 不二は窓側の席にいた。その前の席の椅子を回転させて、菊丸が不二と向かい合わせに座っている。
 二人は片手に菓子を持ったまま、呆然とこちらを見つめていた。
 手塚は堂々たる面持ちで、一縷の迷いもなく二人の前までやってくる。不二の席の真横に立つと、高い位置から見下ろされているような圧迫感があった。
「話がある」
 そういう台詞を真顔で言われると、何だかとても怖い。口にはしなかったが、不二も菊丸もそんな感想を抱いていた。
「いいけど……ギャラリーがうるさいから、移動しようか」
 露骨に向けられる視線を避けるように、不二がそっと呟いた。
 衆目にはまったく気づかなかった手塚だが、場所を移すということに異存はない。
 手塚が小さく頷くと、不二は机の上に手をついて席を立った。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
 菊丸は頷き、手元のスナック菓子を自らの口に放り投げた。
「ほいほーい。行ってらっしゃい〜」
 ひらひらと手を振って、律儀に二人を見送ってくれる。
「……ねえ、英二。じゃがりこ、少し残しておいてね」
「ラジャー」
 返事はすこぶるよいが、菊丸の手は止まらない。速度を緩めずに次々と姿を消していく菓子の行方を、不二は少々恨みがましいような目線で追っていた。
「悪いな、菊丸」
 手塚にそう言われた菊丸は、その瞬間明らかに驚いた表情を浮かべた。同じテニス部に所属しているとはいえ、菊丸は手塚と会話をした記憶がまるでない。その為に菊丸は手塚を、何となく付き合い辛そうな相手であると認識していたのだ。
 手塚としては、なにゆえ菊丸が妙な顔つきで自分を見ているのか不可解だった。いくらそれが見知った部活仲間であるとはいえ、二人で話しているところに割り込んで連れ出そうとしているのだ。その片割れを無視して通るほど、手塚だって礼儀知らずではない。
 またいつもの憮然とした顔に戻ると、菊丸は声を上げて笑った。見知った顔に戻って、どこかほっとしたのだ。不機嫌そうな表情をしている方が落ち着くだなんて可笑しな話だと思いながらも、菊丸は手塚国光という人物に抱いていた印象を、ここで大きく変えるのだった。
「いいってことよ。昼休みが終わる前に、ちゃっちゃと行ってきんさい」
 追い払うような仕草をして、菊丸が二人を急き立てる。菊丸はどこか嬉しそうであった。
 急かされた手塚と不二は、一年二組の教室を抜け出していった。それに伴い、人の波も引いていく。
「それにしても……」
 辺りを見回して、しみじみと菊丸は思う。
「……すごい騒ぎだにゃ〜」
 手塚の人気っぷりを間の当たりにして、恐れ入ったような声を上げる。それは羨望というよりも、気の毒という気持ちが若干勝っているような響きを含んでいた。


to be continued.....

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update 19,Nov,2003

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