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それはとても晴れた日で 【12】 |
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治療というほどのことはされなかった。大袈裟なことは勘弁願いたかったので、それは手塚にとって有難いことだったのだが。
軽くアイシングをした後に、湿布を施されただけである。ただ、場所が場所だけに、白い包帯が目立ってならない。加えて箇所が肘の間接に及ぶ為に、腕が動かしにくくなってしまったことが難点であった。
「失礼しました」
慇懃に礼をして、手塚は保健室を後にする。人気のない廊下は、恐ろしいほど静まり返っていた。
周囲に誰もいなくなると、どうしても思い出してしまう。先程から、一つの言葉だけが頭の中で反芻していた。
――君には、青学テニス部の柱になってもらいます。
あの大和の台詞が、耳から離れない。しかし、それは夢の中の出来事のように、まったく実感が沸かないものでもあった。
『全国』という単語は、手塚に甘い刺激をもたらす。それは徐々に激しくなり、心臓が圧迫されるような苦しさすら呼び起こすのだった。
「手塚!」
昇降口で、偶然にも不二と出くわした。彼もこんなに遅くまで部活だったのだろうか。
軽く驚いて視線をやると、いつもより青白く見える顔が、気遣わしげに手塚を見つめていた。
「揉めたんだって、テニス部」
「ああ。今、走ってきたところだ」
情報の早さに、手塚は少なからず舌を巻いた。あまり体裁のいいことではないが、隠していても仕方ない。微かな屈辱感を覚えながらもありのままを告げると、不二の表情が険しくなっていった。
「どうして、君まで走るのさ……」
今日はいなかったと思っていたが、やはりどこかで見ていたのだろう。やり切れなさそうに唇を噛んでいる不二を見て、手塚はそう思った。
「辞めるの?」
乾とはまた別の意味で、不二の情報網は侮れない。どこで聞きつけたのだろうか、心配そうに顔を歪めてそんなことまで聞いてくる。
「いや、辞めない」
「そう……」
その言葉に、少しだけ安堵しているかのようだった。そのまま不二の視線が落ちる。手塚も、視線の先を追った。
不二の視線は、手塚の腕の部分で止まっていた。手塚の左腕には湿布を固定する為の包帯が、幾重にも巻かれている。半袖から見えてしまう肘は、隠しようがなかった。
「酷いね」
不二の声音は冷たかった。左腕から視線を戻して、呟くように不二が言う。
「なんて酷いことをするんだろう……頭にきたよ」
不二の瞳が厳しく細められた。普段は優しい目が、険悪な光を湛えている。柔和な顔には、ほんのりと赤みが差していた。
我が事のように不二が怒っていることが、不謹慎ながら少し嬉しかった。反面、あまり格好のつかない事件を知られてしまい、少々情けなく思ったりもした。
「決めた」
突然、不二が顔を上げる。髪と同様に色素の薄い瞳が、決意の光を湛えていた。
「何をだ?」
まったく分からないと首を傾げる手塚に対して、不二はきっぱりと言い放つ。
「僕もテニス部に入る」
手塚は言葉を失った。いきなり何を言い出すのかと思ったのだが、あまりに唐突過ぎて言葉にならなかったのである。
不二の決意は揺らがないようで、なおも強い口調で宣言した。
「二度とこんなことが起きないように、傍で見張っててあげるよ」
まったく予想外の展開だった。さすがの手塚も二の句が告げずにいる。
こうして一度は入部を断ったはずの不二が、妙な形で思い直してくれたのだった。
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to be continued..... |
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