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その日は金曜日 【4】 |
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都内にある不二の住んでいる閑静な住宅街は、手塚にとってもすでに馴染みの深い場所となっている。何度も通ったことのある道だが、こんな気持ちで走ったことはなかった。
冗談であって欲しいと、切実に思った。いつもと変わらない景色を目にしていると、今にもその辺りから不二がひょっこりと現れそうである。心配したなどと叱りつけようものなら、きっと悪びれない顔で「ごめんね」と謝るのだろう。
そこまで想像して、手塚は軽く首を振った。
不二の行動はいつだって読めなかった。それに手塚も幾度となく驚かされたことだ。しかし不二は他人を不安にさせて笑うような、悪趣味な趣向を凝らしたことは決してない。今回のように、本気で人を心配させるような真似はしないのだ。
不二の家に近づくほど、手塚の鼓動は早くなっていった。胸騒ぎは治まるどころか、徐々に強さを増してゆく。
「手塚さん!」
不二の家まであと僅かというところで、突然名前を呼ばれた。立ち止まってあたりを見渡すと、暗がりの向こう側からこちらへ向かってくる人影が見える。
駆け寄ってきたのは不二の弟だった。一時は手塚の後輩でもあったのだが、今は聖ルドルフ学院に転校している。兄と比較されることを嫌い、転校して行ったのだ。聖ルドルフは全寮制の学校であるが、おそらく不二裕太は一時帰宅してきたのだろう。
居ても立ってもいられなくて、玄関先まで飛び出してしまったようだ。部屋着のままのような格好をしているし、足元もサンダル履きである。
「不二から連絡は?」
まだ呼吸が整わず、途切れがちにそう訊ねる。肩も激しく上下していた。
不二裕太は硬い表情のまま、首を横に振った。
「それが、まったくないんです」
それだけ言うと、彼は唇を噛み締めて下を向いてしまった。
「ウチの母親が動揺していて……今は姉貴がついているから、何とか落ち着いてはきたんですけど……」
不二の家は父親が単身赴任で不在であるのだ。海外勤務ということで、そう簡単には戻ってこられないだろう。
母親とは手塚も何度か顔を合わせたことがある。不二によく似た、線の細そうな女性だった。たった一人で家を任されている時に、こんな事態が起こってしまっては、相当参っているに違いないだろう。
日頃から不二は家族思いの少年だった。部活や学校行事で帰宅が遅れる時は必ず連絡を入れているのを、手塚も目にしていた。人一倍気を遣い、不安になどさせぬよう振舞ってきたのだ。そんな不二が何も言わずにいなくなるというのは、ただごとではないのだろう。
「あの馬鹿兄貴……人に心配かけやがって」
そう言って、不二裕太は唇を噛んだ。消えてしまった兄に悪態をつくことで、少しでも不安を紛らわそうとしているのだ。
「とにかく心当たりを捜してみるから……」
「俺も捜しに行きます」
言い終える前に、不二裕太の声が被った。しかし手塚は首を横に振る。
「いや、君はここで待機していてくれ」
「でも……」
下手に不安にさせぬようにと、気を遣いながら手塚は口を開く。
「電話が……不二から、電話がかかってくるかもしれないだろう」
もしかしたら不二ではない誰からか、連絡が入る可能性もある。手塚はあえて、その言葉を飲み込んだ。口にしたら、現実になってしまいそうで恐ろしかったのだ。
なおも捜しに行きたそうにしている不二裕太に、手塚は言い聞かせるような口調で告げた。
「不二が見つかれば、一番初めに自宅に連絡が行くだろう。だから裕太くんは、ここにいてくれないか」
「分かりました」
意を尽くした手塚の説得に、不二裕太はようやく頷いてみせた。
「遅いですから、手塚さんも気をつけて下さいね」
これは彼の本心からの言葉だった。手塚が兄の二の舞にならないという確信はないのだ。
「それと、これが俺の携帯ナンバーです。何時になっても構いませんから、何か分かったら連絡下さい」
「ああ、了解した」
小さな紙片を受け取る。ちらりと見た電話番号は、不二周助と末尾の数字一つが違うだけだった。
色々揉めたこともあったが、彼も人一倍心配しているのだろう。不二が聞いたら大喜びしかねない状況なのに、肝心の不二自身がいないとは皮肉なものであった。
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to be continued..... |
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