the Prince of Tennis
**parody**

その日は金曜日 【6】
 

 いつもより早い時刻に手塚は目が覚めた。それに気づいたのは、眼鏡をかけて時計を見た後だった。
 まだ鳴っていない目覚ましを止めておく。起き出して、おもむろにカーテンを左右へと引いた。
 何も変わらない朝が来た。変わったことといえば、不二周助が消えてしまったことくらいだ。しかし、それが手塚たちにとっては、世界をひっくり返されたような重大な出来事であるのだ。
 長く悪い夢を見ているような気分になる。目が覚めたというのに、まだ夢の中にいるようだ。
 その考えを振り払うように、手塚は頭を振った。夢の中にいるのではなく、すべてが夢だと思いたいのだ。
 そうやって現実逃避をしようとしている自分に嫌悪した。逃げてどうにかなるものではない。
 気持ちを切り替えるべく、大きく腕を伸ばしてみる。すると少しだけすっきりとした気分になった。その状態を保ちつつ、身支度を整えるために洗面所へ向かう。
 鏡を見たら酷く憔悴しきった顔が映っていて、苦笑せざるを得なかった。まるで見知らぬ他人の顔のようだ。こんな表情を見たら不二はきっと大笑いをするのだろうなと思って、また少し胸が痛んだ。手早く洗顔と歯磨きを済ませて、洗面所を後にする。
 部屋で着替えた後に、再び階下へ降りていった。そのまま表へ出て、郵便受けを覗く。新聞を取ってざっと見回したが、それらしい記事はまだ見当たらなかった。
「もう起きていたのね」
 リビングに戻ると、母親が姿を現した。あまり朝に強くない彼女にしては、珍しい早起きである。
「おはようございます」
 連絡するといって飛び出したが、昨夜は結局電話の一本も入れられなかったのだ。帰宅したのは十一時をすでに廻った時刻で、祖父と父親に手厳しく叱られた。常日頃から厳格な祖父はもとより、普段は温厚な父もこの時ばかりは容赦がなかった。
 家を出て行った際の狼狽ぶりを唯一見ていた母が、その場を取り成してくれたのだ。頭ごなしに叱らないでと、母は訴えていた。子供である手塚を自分たちと対等に扱い、信頼して助力してくれていた。
 母の助勢は手塚にとって非常に有難いものだった。しかし、こうなってしまった以上は不二の事は隠し通せるはずもなく、家族が揃う中での説明を余儀なくされたのだ。
 手塚が話し終えた後は、誰も彼のことを叱らなかった。皆が一様に、不二の心配をしたからだ。
 警察に縁のある祖父は、今朝から自分も捜索隊に加わると言っていた。尋常でないほど起床時間が早い祖父の姿が、まだ見られないのだ。きっと彼はすでに動き出しているのだろう。母がもう起き出していることも、それゆえなのかもしれない。
「待っていてね、今すぐご飯の用意をするから……」
 あまり眠れていなかったことは見抜かれてしまったようだ。気遣わしげな母親の視線を避けるように、手塚は努めて毅然と振舞った。
「いえ、今日は結構です」
「国光?」
 まじまじと手塚の姿を見やって、母親は目を瞠る。朝も早いというのに、彼はすでに着替えを済ませていたのだ。
「俺は出かけてきます。帰りは遅くなるかもしれませんが、必ず電話を入れるので心配しないで下さい」
 昨夜のことがある手前、必ずと強調して手塚は言う。
 母親も事情を知っているだけに、手塚を止めようとはしなかった。彼女は黙って玄関までついてきた。見送ってくれるつもりなのだ。
「……ねえ、国光。きっと大丈夫よ」
 靴を履いている息子の背中に向かって、手塚の母親はそんな言葉を投げかける。まるで自分自身に言い聞かせるような、強い口調だった。
「不二くんはしっかりしているんだから。無事でいるのだけど、ちょっとだけアクシデントがあって、帰って来られなくなっちゃっているのだわ……きっと」
 手塚がそうであるように、不二も何度か手塚の家に遊びに来ていた。手塚の家族ともすでに面識が深いのだ。
 愛想のない手塚と違い、表情豊かで子供らしい不二は、手塚家の住人にとても好かれていた。目の前の母を筆頭に、三人ともまるで自分たちの家族がいなくなったかのように胸を痛めているのだろう。
「そう信じています」
 手塚の言葉に、母親は何度も頷いてみせた。
「きっと困っているから……だから、あなたが迎えに行ってあげて。早く見つけて、不二くんを助けてあげてね」
「はい」
「でも、無茶はしちゃ駄目よ」
 そうして彼女は祈るように手を組んだ。何でもありませんように、無事に帰ってきますようにと、ただひたすら心の中で呟いていたのだった。

to be continued.....

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update 7,Oct,2004
Happy  birthday Tezuka!

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