|
その日は金曜日 【9】 |
|
| |
乾は予定時間を大幅に短縮して、待ち合わせしていたファミリーレストランに到着したのだ。支度にかかる時間や、乾の自宅からここまでの所要時間を考慮しても、驚異的な早さであったことは間違いない。いったいどんな交通機関を使えばこんなに早く着くのか、手塚には図りかねていた。
まじまじと灰黄色の携帯電話を眺めていた乾が、やがて顔を上げて嘆息した。
「どこにあったんだ?」
不二の所有していたものであると、彼も確認したのだろう。
「我が家の郵便受けに入っていた」
「……怪しいな」
まさにそうとしか言いようがなかった。これだけ探しても見つからなかった手がかりが、自ら飛び込んできたのだ。
何の必然性もなくいきなり現れた糸口を、素直に辿っていってよいものかと乾は躊躇していた。
「中は見たのか?」
「ああ。不二には悪いと思ったが……」
僅かに手塚の声のトーンが下がった。
携帯電話というものはプライバシーの最たるものでもある。不二の許可もなしに携帯電話を弄ってしまったことに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。
「事情が事情だから仕方ないだろう。それで、何か手がかりはあったのか?」
「一件だけ、妙なメールが届いていたんだ」
言いながら、手塚は不二の携帯電話を操作していった。目的のものを表示するまでには、大して時間もかからなかった。
受信メールボックスを開いて、その状態のまま乾に見せる。一番上にあるものが、例の妙なメールだった。
日付は昨日である。件名も空白のままだ。
「不二の携帯から送られているな……」
乾の呟きに、手塚が頷く。
発信先の情報は、この携帯電話自身のメールアドレスだったのだ。
「本文はこれだけだ」
東京都から始まった住所が、そこには書かれている。たった一行だけのメッセージであった。
それは待ち合わせに使っている、このファミリーレストランの傍であるようだ。当然不二の家からも、さほど遠くない場所だ。
手塚が地図を持ってきて欲しいといった理由が、これで分かった。鞄から地図を取り出すと、それをテーブルの上に広げる。乾は慣れた手つきでページをめくっていった。
「この辺りだな」
乾が示したページに、手塚も視線を向ける。まず目に飛び込んできたのは、ここに来る際に利用した駅の場所だった。おのずと自分のいる位置関係が掴めてくる。
次に不二の携帯電話に浮かび上がった住所から場所を絞り込んでいった。小さな文字で書かれた丁目や番地を、地図の上から拾い上げる。そうして照らし合わせたところで、乾は縮尺の大きなページに移動した。
まもなく、その場所は見つかった。縮尺を変えてみて、それは大きな建物であると分かる。それもそのはずで、文という地図記号があることから学校機関であることは検討がついた。
「春日小学校か……特に聞き覚えはないな」
文字を指でなぞりながら、乾は独白めいた呟きを漏らす。
「待てよ。この小学校は廃校になったと聞いたことがある」
少子化の影響で最近では区立の小学校でも、統合したり廃校になったりしていることが多いのだ。地図では春日小学校と明記されているが、現在は旧春日小学校と改名されているはずだ。建物や設備などはそのままに残しておいて、平日の午前中は消防隊などの練習場に、午後は一般に校庭開放をされているのだと言っていた。
すなわち建物自体は、ほとんど使われていない状態なのである。
「ますます怪しいな……」
手塚の話を聞いて、乾は何とも疑わしげに頷いた。
「不二はここにいるのか?」
「いや、分からないぞ。罠かも知れない」
充分に考えられることだ。不二がいると見せかければ、自分たちをおびき出すには容易い。
しかし、そうするメリットも見当たらなかった。
乾はテーブルに肘をついて、微かに嘆息した。溜息の理由の大半が、現在おかれた状況の不審さについてだった。
「犯人は何を企んでいるのだろうか……?」
寝不足のために痛む頭で考えるが、自分たちをおびき出すことの思惑はまったく分からない。それ以前に、どのような手段を用いて手塚のことを知り得たのかという疑問もあった。
「とにかく行ってみるか」
乾の言葉に、手塚は頷いた。行動するより他に方法がないのである。
伝票を握り締めて手塚が立ち上がる。その後に続いて、乾も席を立った。
|
|
|
to be continued..... |
|
|
|
|