the Prince of Tennis
**parody**

嘘をもう一つだけ 【1】
 

 掃除を終えたばかりの教室は、まだ小奇麗さが漂っている。放課後の教室ほど、静かなところはない。
 二年四組も例外ではなく、そこには不二周助の姿だけがあった。他にはもう、誰もいない。
 不二は今、日直の仕事をまっとうすべく居残っていたのだ。
 学級によって多少は異なるが、不二のクラスにおいての日直は男女それぞれ一名が請け負うことになっており、出席簿の順で回ってくる。しかし今は不二しかいない。どうしても用事があると言った相手の女生徒に、不二は教卓の乾拭きだけを頼んで帰したのだ。それならば重労働ではないし、すぐに終わる。しきりに申し訳なさそうな顔で謝る彼女を、不二は快く見送ったのだ。そして残った仕事を、一人で片付けているのである。
 開け放たれたままの窓から、強い風が吹き込んできた。真っ白なカーテンが勢いよく翻っている。
 日誌を書いていた手を止めて、不二は立ち上がった。色素の欠けた前髪が風になぶられるのを構いもせずに窓へと近づいて行き、おもむろにそれを閉めた。丁寧に鍵までかけておく。
 昨年より十八日も早い春一番だと、帰りのHRの際に担任が告げていた。二月中旬であるというのに暖かいのは、そのためなのだ。
 南寄りの風が微かに春の気配を運んできたのだ。桜前線なるものがニュースに登場するようになるまで、そう時間はかからないだろう。
 青春学園を取り囲む樹木が大きく揺れている。グラウンドでは陸上部の部員たちが、追い風に阻まれながらもランニングに精を出していた。しかし普段は見かけるバレーボール部などの姿はない。強すぎる風のために、どこかへ非難しているのであろう。
「この様子だと、ウチの部活も中止かな?」
 テニスも案外風の影響を受けやすいのだ。しかもバスケットやバレーボールと異なって、室内でやる球技ではない。そういう施設がまったく存在しないというわけではないが、残念ながら青春学園にはそういった環境までは整っていないのだ。
 カーテンをたたんで机に戻ると、不二は再び学級日誌に取り掛かった。本日の特記事項の欄にも、『春一番の到来』と一筆書き添えておく。
 風の音がやむと、それに代わるかのようにどこからともなく器楽の音色が流れてきた。聞き覚えのない旋律だが、それがマーチであるということは曲調から分かる。突き当たりにある音楽室で吹奏楽部が練習しているのであろう。
 放課後の学校は無人のようなものだ。特にこの東校舎には、一般授業で使う教室ばかりが並んでいるのだ。用がある生徒などいるはずもなく、ほとんどは部室がある西校舎にいるのだろう。
 黒板に書かれている自分の名前を消して、次の日直の名を記入しておく。日付も十四に書き直した。
 最後の仕事を負えて、軽く手をはたくと白墨の粉が舞った。せっかく綺麗にしたばかりの床を汚してしまうことに僅かな罪悪感を覚えて、不二は困ったような苦笑を浮かべた。
 はらはらと落ちていった白墨はまるで粉雪のようで、地面に着くなり同化して見えなくなった。気にする必要もないほど、ほんの瑣末なことだ。
 鞄を手にして、教室を後にする。
 人気のない廊下には、同じ形のロッカーが整然と並んでいるだけだ。西へ向かって進んでいた不二の足が、角を曲がったところで急に止まった。
 光があったのだ。南向きの大きな窓からは、陽射しがいっぱいに注ぎ込まれているのである。
 暖かいだけでなく、天候までもが申し分なかったのだ。見上げた空が妙に眩しくて、射しこむ光を遮るように手を翳した。
 しばらく立ち止まっていた不二であるが、何かを決意すると踵を返した。寄り道がしたくなったのだ。下りるはずだった階段を、気がつけば上っていた。
 だから、そこへ足を運んだのは、ほんの思い付きだったのだ。
 階段を上がり、外へ出る扉の前まできたところで、不二は再び立ち止まる。扉を押しかけて、慌てて手を引っ込めた。

to be continued.....

<<back               [menu]               next>>



update 29,Feb,2004
Happy  birthday Fuji!

[ site top ]