the Prince of Tennis
**parody**

嘘をもう一つだけ 【2】
 

「うわっ……」
 屋上には先客がいたのだ。それも男女がちょうど一人ずつなのである。これはまさに告白タイムという代物ではないだろうか。
 見てはいけないものを見てしまったような気分になる。それに正直なところ、あまり遭遇したくない場面だ。
「わたしと付き合って下さい」
 明日になれば、それこそ至るところで目にするだろう光景だ。むしろ不二自身が当事者になる可能性だってある。
 しかし一日早く出くわしてしまうのはフェイントだった。ましてや、一方はよく知っている人物であるのだ。
 日々多忙であるが、おそらく明日は青春学園内で忙しさを極める男になるであろう予定のその人物は、ほかならぬ手塚国光だったのだ。
 青春学園中等部の生徒会長でもあり、伝統ある名門テニス部の部長でもある手塚は、学年男女問わずに憧憬の的だったのだ。成績もテニスの腕前も申し分なく、容姿に至るまで非の打ち所がないのである。秀麗な顔に、低く透る声音。加えて一介の中学生とは思えない強烈な存在感を備えているさまは、まさにカリスマと呼ぶに相応しかった。
 自校はおろか他校の女生徒にも彼の評判は広まり、こうして交際を申し込まれることも多々あると噂されていたのだが、実際に目撃してしまったのは不二にとって初めての体験だったのだ。
「すまないが、今はそういったことを考えられない」
 体のよい断り文句が手塚の口から滑り落ちる。少女は一瞬泣きそうに顔を歪めるが、なおも諦めずに食い下がる。
「誰か好きな人がいるの?」
「そんな人はいない」
 逡巡する間もなかった。手塚の中で決まりきった事実を述べているだけ、といった具合である。
 しかし少女はそこに光明を見出したようだった。
「なら、試しにでもいいの」
 大人しそうな顔をして、何てとんでもないことを言い出すのだろうか。彼女の発言には、第三者であるはずの不二でも仰天した。
 無意識的に身を乗り出して様子を窺うのだが、生憎当の手塚はこちらに背を向けているために、その表情までは見ることが出来なかったのだ。
「わたしは手塚くんのことを見てたけど、手塚くんはわたしのことなんて知らなかったでしょう? だから試しに付き合ってみない? いつやめたって構わないから……」
「部活や勉強に集中したいんだ。悪いが、その申し出は受けられない」
 縋るような少女の要望を、手塚は決然とはねつけた。手塚の態度からは断固たる拒絶の色が窺える。
「相変わらず優等生な回答だなぁ……」
 不二は少しだけ同情を覚えた。少女の悲痛な面持ちは、遠目からでも見て取れるのだ。
 細い肩をがっくりと落として、落胆しているのが分かる。彼女は手に何かを持っていた。おそらく手塚への贈り物であろうが、手塚はそれすらも受け取らなかったようだ。
「……分かった。ごめんね」
 掠れた声でそれだけ告げると、少女は手塚に背を向けた。縋るように小さな包みを抱えている姿が、とても痛ましげに見える。
 彼女がこちらに向かってくるので、不二は一瞬どうしようかと悩んだ。しかし立ち去るには遅すぎたのだ。

to be continued.....

<<back               [menu]               next>>



update 1,Mar,2004

[ site top ]