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[7919]浅草2月
=八卦(関東)
=12/03/10(Sat)14:59



敬称略です。



1.月川ひとみ

 テントの幕の向こう側は、華やかなサーカスのステージです。幕をくぐる瞬間にどきどきします。
 白昼のように明るいステージに、軽業師や道化師がひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ… たくさん! …あぁ、笑ってる、笑ってる、えっ泣き笑い? …とぼけたりもして…
 豊かな表情には、どれひとつとして同じものはありません。

 唐突にステージの灯が落ち、闇に沈みます。スポットライトがメインを懸命に追いかけます。空中ブランコ乗りのような白いスカート、白いタイツ姿で、おつむに羽飾りがお似合いで、可愛らしく。
 他のダンサーは皆、黒装束に早替わり、暗闇に溶け込んで顔かたちも判じ難く、いったい誰が誰やら… 蛍光色のウィッグや手袋やシューズだけが、闇からぼぉっと浮き上がり、不思議な世界、ひょっとしたら暗黒界のカーニバルに迷い込んでしまったのでしょうか。
 ダンサーが皆、のっぺりとした白い仮面をかぶったところは、デスマスクを思わせて不気味です。シカゴ風のホーン・セクションが咆哮して賑やかななかを、膝を曲げ低く腰を落とし、カニ歩きや横っ跳び、忍者のように振舞います。
 あんなに可愛げに微笑んでくれたメインの顔も、フェィスガード風の仮面に阻まれて、月に叢雲、花に風で、その下の表情を窺い知ることができず、もどかしく感じます。

 軽やかなピアノが舞台が鎮め、ダンサー達は去りました。
 女性ボーカルとピアノが、ファンタスティックなアルゼンチン・タンゴを歌い上げると、メインは白いベッド着で花道へ。情熱的な旋律も、どこか古風でノスタルジックに響きます。
 フェィスガードは取りますが、取り去った仮面に笑みが貼りついてしまったかのように無表情です。関節を蝶つがいのように軋ませてぎこちなく、パッションを抑えてマリオネットのような動きに閉じこもります。

 ベッドでは無情な風が吹くように、グランジの揺籃期のヒット曲(1991.11)が流れます。
 凪のあとに荒波、また凪を繰り返して、メロディアスですがどこかささくれたギター、けだるく物憂げなボーカルが、シニカルな歌詞を口ずさみます。
 行き場のないパッションはどこへ向かうのでしょう。柔らかい腕の動き、引寄せて締め付けるような足の運びは、タイトなドラムに合わせずに、ギターのリフに素直に反応するように見えます。
 こめかみを押さえ、強く頭をうち振り、天を仰ぎます… ほつれた髪に首から下げたチェーンがからみ合いながら宙を流れます。
 ゆらぎながら流れる音が何度となく荒波となって押し寄せます。
 音に身を任せるようにして上体をしならせます。沸騰した演技に、憑依したような表情。
 A denialと絶叫する声とともに、幕が閉まります。



2.上田結舞

 ティリリリッティ、ティー、
 ティリリリッティ、ティー…
 楽しげな節回しで美少女ふたりがさえずるように歌い、男が応じます。男の声は、調子はずれではありませんが、どこかとぼけた味わいです。
 さわやかなイエローのフレンチカンカンの衣装で、ぱっと花が咲いたようなきれいなおふたり。衣装も背丈も同じで、仲の良い姉妹か双子に見えます。
 男はどこに? と、見回すと、ステージを浅く仕切るスクリーンに男の影が踊っています。きっと上背のある方に違いありません。裏側で踊るのを、裏からあてた照明でスクリーンに映し出しているのでしょう。
 そんなことよりスクリーン前の可愛げなおふたりは、歩幅を揃えて表情を選んで、いかにも楽しげに踊ります。ゆったりとしたテンポに余裕を見せて、距離を隔てて顔を見合わせて、アイコンタクトをかわします。

 えぇい、ヤッちゃえぇ!
 男のジャケットにズボンをひっぺがしにかかります。LLサイズの戦利品は衆目にさらされて、舞台の袖にぽーん。
 慌てふためいて右往左往する男の間抜けぶりを、悪いなぁとは思いつつ笑いころげて眺めます。

 さぁ可憐な乙女は、セクシーなランジェリー姿に。アップテンポの曲にのって、しどけなく肩を震わせ腰をグラインド。
 別れ際でふたりは、寄り添い、体をすり合わせるようにした後で、メインは相手の胸をこづいてみせて、陰で目立たぬようにタッチをかわします。勇気をもらって花道へ。

 盆の入りまでシャープな動きが続きます。そこから、ベッドは穏やかなバラードでした。
 ていねいに歌詞を歌い上げる、ゆったりとしたテンポに焦れることなく、おおらかに動きます。
 か細い肩からつながる細い腕をしなやかに、周りの空気をかき集めるたり抱えあげたりするように動かします。音を待ってタメをきかせて動く様子は、全身全霊で歌いあげるようでした。音と歌詞に没頭して瞑想するかのように、ベッド前半をまとめます。
 ベッド後半は女声のバラードで、力をこめて歌い上げる瞬間に、ポーズを重ねます。無理な姿勢をいとわずズバッときめて、爽快な印象を与えます。



3.まき せ さん

 出囃子が、ト、トン…チャン、チャカ、チャチャ、チャァ…と入ります。
 高座でおとこの声がします。
 “その時分には、吉原というものが盛んな時分でございます…”
 ふーん。とつとつと語るおとこのことばに誘われて、廓の情景が目に浮かんで参ります。

 着飾った花魁に町人風情の客ふたりが掛け合い、からみ、もつれていきり立つまでを寸劇に仕立てます。
 てやんでぇ、その性根が気にくわねェとばかり、切り口上で迫る客。江戸っ子気質の啖呵の、旨いこと! 
 開き直って、しらっと切り返す花魁もまた見事で、都都逸のひとつもひねろうものよ…

 下げにひっかけて、鴉の野郎が、あほぉ〜と啼いたところで、忍び笑いをかみ殺します。

 軽妙洒脱な寸劇でリラックスしたムードをここでいったん断ち切り、シリアスに。
 たっぷり2曲の時間をかけて、豪華絢爛とした金襴緞子の着物から、帯を解き袖を抜き、赤い襦袢姿へと変わります。
 1曲目はシンセサイザーやシタールを重ねて荘厳に、花魁が人前で見せる気位の高さを表して、もったいぶって脱いだ着物を丁寧に仕舞います。
 2曲目はバイオリンが目まぐるしく音階の上昇下降を繰り返すなか、ティンパニが楽譜を裏切るかのように激しく暴れます。緊張感あふれるこの場面は、神経が昂ぶり憔悴してゆく花魁の心の中を覗いたかのようです。
 裸足の足裏に長い廊下の冷たい感触が伝わります。よろよろと心もとない足取りで、花道を過ぎ盆に着きました。

 ライバルを蹴落とし、虚勢を張って生きてきたをんなのひとり身、寂しさはいっそうこたえます。年季が明けて身請けする先は…
 気に染む相手なのか、はたまた金離れのいい旦那か… そもそも自分の慕う相手は誰だったのか…

 いえ正直なところ、心中は測りしれません。想像できるのは、悩み多かりし境遇のみ。困ったように浮かべる笑みが、微笑の裏にしまい込んだはずの翳りを想像させるだけかもしれませんから。
 弦楽四重奏にチェンバロの響きが重なって、しんみり歌う声が心をとらえます。
 本舞台まで戻って見せる、奥ゆかしい笑みが忘れがたい印象を残します。



4.小嶋実花

 芝居からひとり抜け出したメインが、映画のシーンでも見るような、麗しいベッドを演じます。

 前半はシリアスな芝居仕立てです。
メインが演じる主人公は、オーバーワーク気味の小間使い。まだ年端もいかないのに、傷つきやすい心を「辛抱」の2文字で包んで、つらい日々を過ごします。
 彼女の住まうダウンタウンは、浮浪者、野良犬、コールガール… 「日陰者」のふきだまりといったところでしょうか。したたかに生き抜く彼らですが、ひとりひとりはいい奴ばかりです。
 セリフを使わず、身振りと演技に頼って情景描写が続き、抒情的な音楽がこのシーンを支えます。

 それなのに中流階級のやつらときたら、「日陰者」たちの領域にズカズカ入り込んできて…
‘美観を損ねる、不衛生だ! この街を浄化せよぉ!! ’

 社会福祉の美名のもとに、「日陰者」を排除します。
 ちなみにこのシーンで流れる曲は、威圧的で傲岸不遜な姿勢を象徴するように、武骨な足音を模倣し、歪んだ音でくみ上げた、たいへん迫力のある音楽で、振付を含めて見事でした。

 ひとたまりもなく「日陰者」は虐げられ隔離され、何の罪もないメインは分断されて独り孤立してしまいます。
 芝居の冒頭で出会った、大好きだった仔犬とも生き別れに… 懐かしいあの日々を思い出し、毎日悲嘆にくれてばかり。仔犬との出会う場面を、気を紛らわせるようとして一人芝居でもう一度なぞってみせます。見る者は、同情を通りこして残酷にさえ感じます。

 芝居なら、主人公が心中を朗読するようにとうとうと語る場面でしょう。
 この舞台では、表情と身振り手振りに頼り、曲が喚起するイメージを手さぐりにして、情緒溢れるベッドを演じます。
 淡いクリーム色のベッド着で清楚に装い、仲間から授けられた黄水仙一輪を手にして盆へ向かいます。

 ささやくように甘い女性のボーカルで、懐かしい映画の挿入歌が流れ、改めて役にすっと入ります。苦渋、悲嘆、諦念… 心の整理をつけるのに、間を置くよう。
 アコースティックでフォーク(男声)が爽やかに流れ、躊躇しながら1歩、2歩と、花道半ばから自分の足で歩みます。盆に踏み出すころには、持ち前の明るさを取り戻した様子。
 霧を晴らすようにソプラノが抑揚豊かにしっとり歌い上げます。挫けない強い気持ちを取り戻して、いよいよ表情をぱっと明るくします。
 立ち上がりの前に、手にした黄水仙を大事に包み込むように囲い、立ち昇る花の香りに酔いしれます。春の香りに希望を託し美しいイメージを描いて、エンディングを迎えます。



5.加瀬あゆむ

 ♪雲を破り、立ちのぼるぅ〜立ちのぼぉおるぅ〜、(どどんっ…)

 キリエのようにすがすがしい朗唱に、威勢よく大太鼓が続き、エレキギターがからみます。
 スモークを舞台上いっぱいに焚きこめて、幕が開くと逆光のまぶしさに目が眩みそうになります。
 その中から、裾の長い衣装を纏い、おだやかな表情で女神のように仙葉さんが現れます。
 メインが上手から、バックダンサー5人が下手から、女神をはさんで祀るよう。両腕を大きく開き肘から先を柔らかく回して、煽るように踊ります。
 太鼓の響きには、なにか呪術的な力があるのでしょうか。
 豊穣と繁栄を祈る民謡調の曲に合わせてひたむきに、喜びを表す踊りの手を休めません。
 フレーズのつなぎめに、どどん、どんどん、と太鼓を入れて、しめやかな儀式に彩りを添えます。上手2つ(メイン)、下手5つ(5人による流動配置)の太鼓が掛け合いながら、いつしか唱和してなごませて、女神の表情もついほころびます。

 続いて、メインが盆に到るまでの通算3曲目はヒップホップで、タイトなリズムに脱力系のルーズなダンスを組み合わせます。5人のバックダンサーが徐々にシンメトリーを破り、不規則な動きで崩れてゆき、しまいにはとけて流れてしまいます。
 法被姿に太鼓のばちを携えて、メインが盆に佇みます。荘重な音楽に包まれて、静かに盆に伏せました。

 終曲は、カリブの空のように晴れ渡ったスカで気持ち良く。
 緩いテンポに熱いリズム、せき込むようにホーン・セクションがあおります。先ほどまでの和太鼓のしんねりした奥深い響きとはまた違う、あっけらかんと乾いたサウンドで、万人の五感に訴えます。
 盆で暴れて、ポーズを切って、それでも上昇気流は止まりません。2本のばちを叩き合わせるエアードラムから、はしゃいでしゃにむに走り回るパーフォーマンス。
 単調なつもりで始めたスカのリズムが、場内を巻き込んでお祭り騒ぎへと広がって、興奮のるつぼに放り込まれます。



6.長谷川凛

 雅楽の和音に包まれ、舞台上にぽつんとおとこがひとり、取り残されたように座ります。
 白い着物にしだれ藤を染め抜いて、あたかも観客であるかのように、次に登場する藤娘に見とれます。
 
 ♪(さくらぁ〜、さくらぁ〜、やよぉ〜ぃ…  ) 筝曲でひとくさり…

シンセサイザーが、チューニングするようなかすかな音を忍ばせます。
 三味線がわりに、脂っこいブルース・ギター風の音が割って入ります。
 古典舞踊の藤娘は、姿かたちは伝統的なままに、斬新なアレンジで踊り始めます。

 あでやかで妖艶な、藤娘。立ち居振る舞いもしとやかに。
黒地の着物に藤の花の絵柄を染め抜きます。藤娘が手にするのは、枝の先にぶら下がって風に揺れる、藤の花の房。
 日本髪に簪さして、吊り下げた藤のミニチュアが、すり足を運ぶたびに、ゆら、ゆらり。その陰からすずしげな目で、ねぶるようにおとこを眺めます。

 おとこは挑発されて、居ても立ってもいられない様子。目と目を見合わせ、覗き込むように顔を近づけて、驚いたようにすっと腰を引きます。
 そしてぴったり身を寄せて、まとわりつきます。アルゼンチン・タンゴのように、袖がふれあい、顔に息がかかるほど接近し… 息の合ったコンビネーションを見せつけます。

 ♪春に桜………、   秋に紅葉………

 気まぐれな風が吹いて、おとこをどこかに連れ去りました。
 感情秘めて、しずしずと花道へ。
 帯紐を解いて花道に這わせ、小川に見立ててちょんちょんと跨ぎます。
 児童合唱が四季をつれづれに、ゆったりと歌いあげます。歌に手を引かれるように盆へ。
 襦袢ひとつで身を横たえます。

 ベッドを取り巻く環境は、いつのまにかスケールの大きなものになりました。広々とした舞台空間を、奥から順にブルー、イエロー、ラベンダー(淡いピンク)と、照明で染め分けます。澄んだ光が天井から射し込む様子をうっとり見ていると、アクアラングでもしている気分です。
 シンセサイザーが、澄んだ、よく響く音を奏でます。低音が深海の潮流を、バイオリンのような高音の旋律がお魚たちの言葉を、それぞれ表わしているようで、海底を漂う感触をリアルに感じます。
 片膝立ちでもう一方の足を水平に伸ばすポーズで、すーっと浮上するように体を持ち上げます。品よく帯紐を咥えての立ち上がりでは、照明が3色から一気にブルー1色に切り替わって、目の前に壮大な景色が開けます。



7.仙葉由季

1)鴉

 スクリーンに1羽の鴉。
 狭い鳥籠をこじ開け、空を駆け群れをなし、サーカスのテント目がけて飛翔します。効果音が重低域で轟くと、古典的なサスペンス映画「鳥」みたいに、陰気でいやぁーな感じがしてきます。
 ほら、もうそこまで…

 と、突然スクリーンを割って、黒マントを着て羽ばたく5人が舞台に跳び出し、子供のように駆け巡ります。照明は烈しくフラッシュを、舞台奥から客席に向けて投げつけます。
 メインの仙葉さんは、頭に白い羽根飾り、白い羽根扇を手にしてちぎれんばかりに振って、その場の空気をかき乱します。白い着物姿は、まばゆい照明を背負って浮かび上がり、まさに飛翔するようです。
 イントロで、ギターのカッティングに合わせて足でリズムを刻みます。やがてドラムが舞台を揺るがすように轟くと、音に引きずられて慌てふためくように激しく踊り始めます。
 仙葉さんにとっては長年自分が育んできた演目ですので、毅然とした表情も板についたもの、おひきずりで悠然と踊ります。
 ところが6人の子供たちは、渦巻き状に旋回したり、左右に交互に入れ替ったり、アップテンポの曲に合わせてめまぐるしく立ち位置を変え続け、息つく暇もありません。それでもアイコンタクトと阿吽の呼吸でしのぐですから、実にスリリング、サーカスのようで手に汗握ります。

 速弾きのギターにかき消されがちのボーカルですが、自分を崖っぷちの花になぞらえて、信念を失いがちになりながらも挫けずに、夢の世界に飛翔する「願望」を歌っています。
それでも現実に立ち返ると、所詮おいらは闇夜のカラスだと、自嘲してみせますが…

 曲の半ばを過ぎてアドリブっぽいギターソロが入る頃、子供たちはメインにつき従って一列で花道を蛇行します。大きくうねって、花道から落ちそうに見えるくらいでした。
 先頭を切るメインは開いた扇子を宙に飛ばしては受け取る芸を披露します。見事に受け取っても、ときに取り落としても、悪びれない笑顔を見せてくれて、勇気づけられます。
 曲が終わって鴉がかぁと啼く声で、やっと現実に引き戻されます。



2)籠の鳥を放つ

 激しいダンスの後には、通常のベッドの代わりに、本舞台に椅子を立てて椅子の上で危ういバランスを保つ、短いパーフォーマンスを見せました。
 暗く、静まり返った場内、不安定な足場の上で、玉乗りや綱渡りのように神経をとがらす芸で、拍手喝采。籠の鳥を逃すように高く差し上げる仕種に、穏やかに七色の照明を当てた後、暗転へ。幻想的でした。



3)ムーン・ウォーク

 ピンクのスーツ姿、帽子は目深にかぶって目を伏せて、顔を見られまいと思わせぶりなポーズをとります。4人、4人に分かれた2チームで、背筋をスーッと伸ばしたまま平然と行進します。デキる奴らのカッコよさときたら…
 4人ずつの2チームが、左右に進んですれ違い、対角線上を動いて、縦列 ⇒渦巻き ⇒ その場足踏みで90度ずつ回転… 
 軍隊行進風の足音が単調に感じてきた頃に、1歩ごとに強く踏み込むように踊りやすいリズムへ移行(どこかモータウン風に)、ちょうど心臓の鼓動に重なってドキっドキ!

 当時のアイドル風に着飾った仙葉さんはご満悦で、隊列の先頭を切って歩きます。こんなおいしいシチュエーション、遊び倒さなければなければ損でしょう…とばかりに有頂天に、華麗なステップを披露します。
 踵を浮かせてつま先立ち、踵で踏み込んで後ずさり、そして腰を浮かせたまま放るように足を蹴り出します。
 総勢9人が振りを揃え、踊りやすいリズムにピタリと合わせるところは圧巻です。仙葉さんはいかにも楽しそうに、表情に余裕を見せて笑みを振り撒きます。
 エンタテーメントの極みです。



4)いよいよお別れ

 控えていた踊り子3名がピンクのドレスを纏ってステージに上がって、出演者全員でステージを埋め尽くします。
 仙葉さんは共演者と別れの言葉を、律儀にひとりひとり順番に声をかけるように、ジェスチャーで示します。けなげに微笑む者、悲嘆にくれる者、11人の反応はまちまちですが、仙葉さんは慈しむような視線で、いつに変わらぬ微笑みを浮かべます。
 毎ステージ寸分変わらぬお芝居でも、出演者の感情移入は日を追うにつれ強まります。
 ステージの上のすすり泣きを背にしても、前の景と同様いかにも明るい表情のまま、盆へと進みます。



5)時計の針が止まるとき

 やけに遅いと感じますが、最期の姿をじっくり見られるように、スローなバラードでキメました。それまでの多彩で密度の濃いステージとはちょっと違って、自分の想いをダイレクトに伝えるよう、シンプルな演出に徹します。
 花道から見下ろす客席は、はたしてどんな風に見えたことでしょう。客席のひとりひとりの顔を覗き込むようにして、ゆっくりと一歩一歩花道を歩きます。見返す視線を一身に集め、盆に着くころにはただならぬ緊張感で、場内は静まり返ります。

 盆の上に跪いて、頭上に両手を差し上げます。見えないビーチボール大の球を捧げ持つようにして、広げた手の先で指を広げます。見上げる方には、劇場の空間が白と黄の照明光で埋め尽くされています。
 静寂を破って、エコーをきかしたギターが、あっさり入ります。ドラムが、大股で歩くようにゆったりと刻み始めます。ボーカルがせつなさを噛みしめるように、言葉を吐きだします。
 …ライブ・コンサートのラスト・ナンバーに聞き惚れるような… そんな臨場感に満たされます。
 ステージの上では、ちょうどポーズを切るところです。ゆっくりと始動して、時間をかけて成長するようにポーズを立ち上げて、余韻を楽しむようにほどきます。
特に2つ目のポーズですが、しゃちほこをコンパクトに立ち上げるところで、背中に沿って深く曲げた足をゆっくり延ばしていくところが、威嚇するサソリに見えて、凄みを感じます。

 こんなにゆっくり演奏しても、別れのときは近づいてきます。引きずるようなドラム、何度かめぐってくるサビのコーラスを、フィドルがなぞってわびしげです。
 立ち上がりからひと呼吸おいて、感謝の念に堪えた表情で一礼します。つとめて明るく振舞う態度に、かえって何かこみあげてくるものを感じます。
 7分の曲が終わるころには、本舞台で、輪郭がかすむほど光のシャワーを浴びて立ち尽くします。フィニッシュに向けてギターがうねり、ライブテイクの歓声が聞こえ、場内の拍手も盛大に沸き起こったところで、ミュージシャンのように観客の声援に手を振ってこたえる姿が、闇に沈みます。



8.フィナーレ

 ピエロの楽団がおもちゃのような楽器を手に、陽気に練り歩きます。
 白昼夢から揺り起こしてくれたのでしょうか。一瞬で姿をかき消します。

 そして本編は、白いサテン地のロングドレスに白い羽根の髪飾り、清楚なコスチュームで、「快楽をもたらす」もの=ジュピターにちなんだ曲で、壮麗に滑り出します。
 ゆるやかに歌うメロディで、ダンサーから順に、2人、3人、1人、1人づつ… と、バレエの雰囲気たっぷりに、しとやかに登場します。

 第4主題をオペラ風にソプラノが歌いあげ、全員揃ったところでダイナミックな群舞へ。
12人をステージに散らして、思い切り左右へ寄せる動きは圧巻です。
 上気した顔で嬉々として踊る、踊り子さん達を見ると、こちらまでなぜか嬉しくなってきます。

 カーテン・コール終えると、仙葉さんを11人が取り囲んで、寄り添い、頬ずりをするように密着します。構図はちょうど一幅の絵、卒業アルバムの記念写真を見るようです。
 同じ表情はひとつとしてありませんが、どなたもいい表情です。
 有終の美を飾り、サーカスの幕が閉まります。





                                                    以上

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