敬称略です。
1.はるか悠
板付き、着座、オルゴール仕掛けの陶製人形のように回り始めます。
ピンクのドレス、スカートの襞はカスケード状に、段差をつけて裾へと流れます。
頭から体全体を透き通るベールですっぽりと包みます。ベールの表面に青い花のプリントを散らし、ライト・ブルーやレモン・イエローの照明を浴びると、それがぽっかりと浮かびあがります。
清らかな子供たちの歌声に合わせて、弦楽器が夢見がちなメロディを奏でます。
次に清楚な淡いブルーのブラ、同色のセパレートに替えると、軽やかなステップで釣鐘型に広がるスカートを揺らします。
口元をきゅっと結んだまま腕を大きく回し、なにかを手繰り寄せようと、空気をかき回すような振りが印象的です。
冒頭の曲がまた現れた後、穏やかな4曲目で盆へ。さえずるようにピアノがワルツを奏でます。
フランス人形のようなあどけない顔に、好色な面影がよぎったと思ったのは見間違いかもしれません。とりすました表情のまま、セパレートのスカートに手がかかります。
足先が宙に流れ、太腿が悶えるように動き、人形らしからぬ大胆な誘いに心を奪われます。
最後はさわやかなカントリー調の曲がかかります。心躍らせ、吹っ切れたように立て続けにポーズを浴びせます。人形にも人間らしい情感が芽生えたのでしょうか。
答えを謎めいた表情に隠したままにこりともせず、左右から閉じる暗幕の向こうに消
えていきました。
2.瀬能優
おひきずりの着物の上に、紗の打掛を羽織り、立姿は照明で茜色に染まります。
一瞬、雅楽の管楽器が厳かに響いて、さぁ、一舞、奉りましょう。
櫓をこぐような拍子で威勢よく、歌の文句も勇壮に、
♪アジアの海賊の気概をこめて、さぁさ、さぁさあ! 波に乗れ……
着物の下で探るように差し出す足の先、掌を返すようにひらりと舞う扇。
扇の色は深いコバルト・ブルーで、暖色系の照明に対し、明快なコントラストを示します。
脱ぐ手際のいいこと。抜き去った帯が勢いよく放たれたかと思うと、リボンのように器用に引き戻されます。
闊達なジャズにのせて着物はさっと片付けて、花道をすべるような足取りで進みます。
素肌にレース織りの襦袢1枚を羽織ります。光の加減で襦袢の赤が、スカーレッドにもバーミリオンにも映ります。
動きを抑えた穏やかなベッドで癒します。
うずくまり、身を休めるような体制から、ロック系のアレンジの曲が次第に昂揚するにつれて、背筋が伸びるような印象を受けます。
ポーズは滑走時間を長くして、しかも長くとどめて余韻を響かせるよう。じわじわと丁寧に掲げた足の先に、語りかけるように指先を寄り添わせます。
3.MIKA
舞台奥で照明がレーザービームのように入り乱れ、ホログラムのような効果を見せて目を見張らせます。
かっこいいコスチュームを着て舞台中央に、満を持して登場します。
肌にぴったり張り付いた黒装束で、長袖のうえ、指の先まで黒いグローブで覆われます。
胴着は、表面をスパンコールのような金属片が覆って、西洋甲冑のよう。反射板のように照明が映り込んで、きらきらと4、5色に輝きます。
エキセントリックな曲にシャープなステップで応じ、駆け抜けるようにはつらつと踊ります。
暗転後に、舞台中央から吊るされたリングに鉄棒のように足をかけて上がり、体を預けながらバランスをとります。吊り具を軸に回転したり、自重で上下方向に振動したりと、リングは不規則に揺れて不安定で、サーカスのようにハラハラドキドキ。
黒の全身タイツは欲望のままに随所を切り抜かれ、白い肌があらわに浮かび上がります。
リング上で10種ほどのポーズを連鎖させてから、事故もなく無事に地上に降り立ったときは、ほっとします。
疲弊した身体をさらに酷使して、ストイックなポーズベッド。
黒タイツに描かれた線状模様が、身体の輪郭をなぞって浮かび上がらせています。
ギスギスした動きを避けて、体のバネを生かして柔軟に、反身やブリッジで見せ場を作ります。
アクロバティックなうえ、緊張と弛緩をはらんで、癒しも絡めてと、贅沢な作品です。
4.叶咲ゆめ
冒頭、雅楽の音色が一瞬響くと、続いて、お囃子とは違いますが和風のスタイルの曲で始めます。
創作着物の振袖を気持ちよさそうになびかせながら、緩急織り交ぜて踊ります。
……踏み込んで、押しとどまったり、そのまま切り返したり……
複雑なリズムに対し、音をなぞって自在に動き回ります。
喜びを隠しおおせないように、イキイキと楽しげに。
踊るのを止める間も惜しそうに、あわただしく舞台の上で袖をはずし、さきほどよりもやや平坦なリズムにのって、いよいよリラックスし自己解放へと向かいます。
屈託なく、弾むような足取りです。4層に重なったミニのスカートの裾が、まるでバレエのように、ターンのたびにふわっと浮かび上がって開きます。
暗転後、ほのかなミントグリーンの光沢ある襦袢風のベッド着を羽織って、しずしずと花道を上ります。
するりと解いた帯を花道にのけておき、穏やかな曲調に合わせて、なだらかな動き。
客席からの視線を目で受け止めて、じっと見つめ返して放しません。
大詰めは女性バラードにのせて、力を抜いて、しなだれかかるように身を反らします。
節目、節目でたおやかなポーズ、指先が繊細にゆらぎます。
5.鈴香音色
板付き、暗がりから、黒人女性ボーカルがふわりと漂い、雨漏りのしたたりが盥を叩くようなドラム、ゆるゆる鳴り始めます。
アンニュイな表情で軽いノリ、ボディを波打たせて反動で胸を揺らします。
黒いホットパンツを脱ぐときも、食い込んだレオタードを脱ぐときも、顔をあちらに向け、突き出したヒップに視線を集めます。
曲も半ばを過ぎ、DJがなにやらとうとうとしゃべりだすと、ダンスもフリースタイルへ。
けだるく女性ボーカルが応えてまた元の鞘に、単調なリズムに引き戻されます。
舞台背後をアクア・ブルーのライティングが支配すると、熱帯魚の水槽でも見るよう。
大きな目、くっきりと引くアイライン。純白のブラが豊かな胸を包み込みます。器用な指先が、まるで他人のように自分の身体をまさぐります。
ベッド曲は、30年を経ても未だなお刺激的なものでした。
しどけなく間延びした歌い方に、ため息まじりにあえぐ声を重ね、ひたすら濃厚なムードに溺れます。
終曲は、クールで中性的な声、ミステリアスな魅力に満ちて。センスのいいアレンジで、単調なリズムを不気味なほど醒まして聞かせます。
シンセの打込み音にのって、泳ぐようにポーズを放ちます。
6.灘ジュン
居合抜きで鮮やかな太刀筋を見せ場にした、シンプルに徹した作品です。
細縞の袴、きりりとした姿で登場し、しろつめくさの花を寄せて編み上げた、手のひらサイズの髪飾りを懐から取り出します。
童心に返って一心不乱に髪飾りを編む姿に、自然を慈しみ、平和を求める姿勢が見てとれます。
と、突然、暗雲立ち込め一転してシリアスな展開へ。
スカイブルーの陣羽織にはトレードマークの紋、たすき掛けしてまなじり決して決然とした表情で。激しくオーケストラが奏でます。
迷いを払いのけ、精神一到、鞘から引き抜いた太刀が鈍くギラリと光ります。
刀身に自重をのせて振りおろし、垂直に、あるいは袈裟懸けに、水平に… 型を守って一息にはらえば、その場の空気も張りついてリアル。
大衆演劇で見かけるような、丁々発止の立ち回りとは一線を画します。
ロック調の音楽がかかると、戦闘はさらにシビアに。
ばっさばっさとなぎ倒すうちに、息は切れ、吐血、満身創痍に。着衣をむしりとるように脱ぎ捨てて、陣羽織ひとつでベッドへ。
諭すように語りかけるバラードに、静謐な世界を紡ぎます。
ため息をつくような間合いをはさみ、流れるようなポーズ。
殺伐とした世界を洗い流して、無垢な表情で癒し、晴れやかな表情で締めくくります。
以上
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