敬称略です。
1.小嶋実花
明けまして…の口上を終え、烏帽子に和服姿の6人が、白足袋でひたひたと袖に引きました。
幕を割り照明が燦然と輝くと、幻想的な景色が広がります。
緋袴、白足袋に千早(透明な羽織)を羽織った巫女5人が神おろし、古式ゆかしき巫女舞を奉納いたします。
荘重な雅楽は、短いフレーズを14〜15曲の変奏曲形式で奏でます。
巫女どもが、にじる、からくり人形のようにぎこちなく歩みだす、踵浮かせてぴょんぴょん飛び跳ねる……
……くるりくぅるり右に左に、木っ端のように廻れや廻れ、表情消して、愚直なまでにアンサンブルに徹します。
ぴくぴくっと胸や肩を震わせて、いかずちに打たれてうち伏します。
やおら起き上がったメインは、憑代の榊の枝を手にカミとの交信へ、目を見開きアルカイックな微笑み浮かべ、花道を抜けました。
緋の腰巻に白く透ける襦袢で象徴的なポーズを二度三度。
祈りをこめて合掌。腰を曲げかがんだ姿勢から、客席の気を両手ですくいとるように集め、舞台奥のミラーボールの方向へ、とばします
金管楽器がファンファーレ風のテーマを奏で、映画音楽のように壮麗な響きへ、全合奏を重ねる頃には、音のるつぼの中。
幕間に消える寸前で、地を指し、天を指し、合掌した掌で「人」という文字をかたどります。
……メインの姿にカミを重ね、丁重に見送ります。
2.杏野るり
トザーイ、トォザァイ……と威勢のよい口上に、鉦太鼓もにぎにぎしく。
街にゃぁ、ちんどん屋さんのお通りだぁい。
ノラリクラリのくらりねっと、ブッパパブッパとさきそふぉん、サンドイッチマンやら、左右不揃いの地下足袋履きの輩やら……
……ビラ撒きはティッシュ代わりに役者絵の……歌舞伎一座の到来を広めます。
心浮き立たせる調べ、気恥ずかしいくらいシンプルなリズム、どんがちゃ云わせてねり歩けば、誰しも仕事の手を休め耳を傾けます。
先頭をきってねり歩く御嬢さんが、服まで脱いで目を奪ったら……奇想天外、驚天動地、宣伝効果は抜群です。
メインは、黄色の地にあやめ、カキツバタの柄があでやかに浮かびあがる振袖です。
帯、着物、赤襦袢をさっぱりと脱ぎ棄てると、幕を閉めたステージを背にして、はずむ足どりで花道へ。
伸身で足を深くたたむL、仰向けてそらすボディ。
やがて曲が動き出すと、ウォーミングアップするように肩、腰をくねらせて、エクソサイズで関節をほぐすように動かします。
大きな動きが、身体の中心から周縁に広がって、肘、掌、指先へと、波を送るように動きを伝えます。
蛇行しながら戻る花道では、客席に極上の笑みを振りまきます。最後は花道つけ根で、バランスを保ったポーズを切りました。
3.藤月ちはる
古い音源から、バタ臭い響き。
ちょっと間延びした感じがのどかですが、今さら、ついすとぉ〜、ついすとぉ〜って言われてもナァ……
おじいさんの世代にそーいう流行があったげな(笑)
舞台はさらにひと昔前、モボにモガの流行るころ。
アンティークな大日本麦酒のポスターに登場するような、カフェの女給(今なら、さしずめアキバのメイドさん!)。
着物に重ね着したエプロン姿に、萌え〜ですね。その女給の、一途な恋物語を描きます。
お客さんは書生に、あらマァ歌舞伎役者さん。鏡獅子の衣装で登場とは、お茶目でシュールです。
女給ときたら、もう歌舞伎役者さんに岡惚れ、首ったけ、恋の虜となりました。
ふたり面と向かっては、ライスカレイを食わせたり、でんぐり返って喜びを表現したりと、大忙し。
コミカルな寸劇の後は、シャンソンでアンニュイに……
仲睦まじいふたりの心のうちを想って、セ・シ・ボンとつぶやいてみせました。
エプロンを剥ぐ、着物の帯に手がかかる……う〜ん、まどろっこしい(以下略)
憧れの貴男の手を煩わせて、白い長襦袢へ。楚々と立ち、半襟の桜色に、銀色に桜の花びらを散らせます。
澄んだ歌声にのせて、感情表現豊かなベッドをたおやかに。
終曲は、シャンソンの有名曲をスカ・アレンジで。
元気のわいてくる歌にのせて、元気よくポーズ。
花道を蛇行して戻る、さわやかなエンディングを迎えます。
4.沙羅
ステージ奥に巨大な布を吊るしてたらします。
全体を暗くしたうえで、照明を絞ったまま微動だにさせません。
すると、たわんだ布のひだひとつひとつが克明に浮かび上がり、荘重な感じを与えます。
布が舞台奥の壁を覆いつくすと、巨大なモニュメントのようにそびえて見え、見るものを圧倒します。
中央にどんと据えられたミラーボールを挟んで、上手の布はバイオレット、下手はエメラルドグリーンに彩られ、凍りついたように寒々とした景色が広がります。
6人が一糸乱れぬアンサンブルで、フィギュアスケートのようにたおやかに。
背景の色に同化するように、バイオレット一色のドレスと、エメラルドグリーンのそれと、3人づつの組に二分して、シンメトリーに並んで軽やかにバレエのステップで舞います。
長いスカートの裾は切り裂いたようにギザギザで、ターンのたびに広がって、停止のたびにふくらはぎに巻きついて止まります。
長い袖は薄絹のように軽く、羽根のように翻り、羽衣のように波打ちます。
バック・ダンサー4人が、舞姫ふたりのダンスをぴったりとサポートし、誰一人目立つことなく全体の調和を図ります。
総勢6人は奔流に浮かぶ木葉のようにも、満ち潮でひたひたと入江に寄せる波のようにも見えて、感銘を与えます。
ベッドは淡いクリーム色をした、レース織のようなベッド着で、くるぶしまで届くくらいはありました。
盆に踏み込んだとたんにポーズを切って、曲想に合わせて思い思いに身振り手振りを交えたポーズを繰り出します。
息の長いフレ−ズ、心に沁みる日本語の歌詞をバラードで、男性ボーカルが語り部のように歌います。
ピアノとドラムが寄り添って、キーボードがじりじりと盛り上げていく頃には、万感胸に迫ります。
「笑えるかい」という言葉には、水をすくうように上向けた掌に、顔を埋めました。
いやいやをするように振った顔の表情は、泣き笑い。
そこを境目にしなやかな動きで開放的な振りへ転じて、花道戻りきるところまで、ピークを築きます。
5.あすかみみ
巨大なスクリーンを背に、移動台をお立ち台替わりにして、黒ラメのタイトなコスチュームに黒ブーツ、ショーガールがノリノリではじけます。
プロモーション・ビデオ仕立てカラフルな動画で、映像6体は、プラチナ、パープルにアフロ・ヘアーと思い思いのヘア・スタイル、プライベート・ファッションをラフに着こなします。
曲への反応も自由気儘なフリースタイルで、ルーズに踊りますが、そこはそれ、映像編集のマジックで、生身のメインと映像の影の掛合いは、摩訶不思議な一体感を醸し出します。
コンセントを引き抜かれたように(!?)映像が消えて、漆黒の闇に包まれる一瞬。
ろうそくの炎がゆらめいたかと思うと、情念にほだされてボーカルがシャウトします。
花道、盆へと、セクシーに。
ギリギリと柔肌に食い込むボディ・タイツ、黒い髪、黒いブーツと黒、黒、黒……
なまめかしさを通り越し、発火、一気に燃焼させてゆきました。
ベッドの折り返しで、陰鬱な曲から、ラテン的な突き抜けた明るさへ。
乾いたパーカッション、スカでなじみ深いつややかなブラスが、そのリズムに割って入ります。
英語の歌詞が、呪文のようにリフレインを重ね、盛り上げます。
膝立ちの姿勢で腰を浮かせ、ググッと上体を倒したり傾けたりして、はげしく頭を打ち振ります。ばっさばっさと黒髪乱して、奔放に。
ボーカルがひときわ高まるタイミングを見計らって、Lやシャチホコをズドン、ズドン。
黒いブーツを5度も6度も宙に突き刺します。
6.藤咲茉莉花
幕を閉じて薄暗くした背景に、明るいオリーブ色のドットが浮かびます。プロジェクターの光源のせいで、全体がぽやぽやとかすんで見えます。
横に長い台座に腰掛ける娘が4人、たっぷりとした衣装に頭巾風のスカーフ。
ふたりずつ、肩を抱きよせて向い合います。
静かな無言劇。メキシコ民謡風な女性の歌声がのどかに流れ、ゆったりとした時間を過ごします。
長い台座に横並びで座ると、よく似た姉妹のようで、ちっとも見分けがつきません。
下手側から順に、片手をあげる、両掌を頭上に掲げて組む…下手から上手へと、伝言ゲームをするかのように、ありふれた所作をなぞります。
薄暗がりの中、4人の娘の衣装を照明が淡く彩ります。白地だったはずの衣装は、乳白色、象牙色、琥珀色というように、刻々と色を変えていきます。
2曲目はイージーリスニング風、優雅でつややかなオーケストラの響きで客席を包みます。
ドレッシーなベッド着に着替えて花道上りはたおやかに。首筋から胸元までをつなぐゾーンを、ガーゼを縮らしたような飾りで装います。桜色、いえサーモンピンクに輝いて美しいことといったら……
ベッドでは、 思いのほか盆をいっぱいまで使いきり、思う存分動いて大きなスケールで迫ります。
立ち上がりはあでやかに。懐かしい響きのする小気味よいポップスにのって、いかにも気持ちよさそうに演じます。
7.灘ジュン
「ニューヨークに乾杯!」
パーティータイムにシャンパングラスを掲げ、カクテル光線を浴びてみせました。
その場に居合わせた来賓10人が織りなす人間模様を、ブロードウェイ・ミュージカル仕立てのステージで。
心地よいスタンダード・ナンバーに軽い芝居を交え、ところどころで吹込こんでおいたセリフで舞台を進めます。
パーティーの開演、着飾った男女らは、どんな人に出会えるかと期待に胸を膨らませ、いかにも人のよさそうなスマイルを浮かべます。
三々五々にたむろするグループ、ほがらかなヒーローは青いシャツでさわやかに登場。
かわいいけどあか抜けない様子のヒロインの登場にスポットライトを注いで、目を引きます。
手を取ろう、拝顔しようと群がる男たち。遠巻きに眺めて神経をとがらせる女たち。
ありふれた人間模様ですが、配役、舞台上のポジション、群舞のまとめかたで、観るものを芝居の世界にすんなり引き込みます。
たどたどしく不揃いで始めた各人各様のステップが、ほがらかな音楽に巻き込まれるようにして次第に揃ってゆきます。
後列から5、3、2人と、整然と3列に並んで踊るさまはすっきりとして、見栄えがいたします。
ちょっと酔いが回ったか、それともあの方にのぼせたか……
あたし、すこぅし落ち着かなくっちゃ。
華やかなパーティールームを向こうに追いやって舞台の幕が閉まります。
人生の回顧録のような歌詞をしみじみと歌って聞かせるナンバーで。
♪ Regrets, I’ve had a few…
…when there was doubt,
I ate it up and spit it out…
青いドレスを品よくまとっていたのを、さりげなくサラッと脱いで、憂い浮かべた表情で。
盆でしなやかな肢体で見せつけ、立ち上がりで毅然とした表情でひきつけ、花道戻りの名残惜しい風情で余韻を残します。
8.フィナーレ
初春は、よろこばしい紅白ツートンのコスチューム。
和太鼓のロールを長く引っ張った後、笛にお三味の旋律が駆け巡ります。
群舞はスパッと鋭い切れ味で、舞台中央に11人が押し寄せます。
大波が寄せるよう、勢いもうねりも感じます。
縦2列に隊列組んで、一本気に槍で攻め込むように花道をせり出して、力のこもった演舞で気を晴らします。
以上
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