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[7951]浅草5頭・5中
=八卦(関東)
=13/05/24(Fri)22:06



敬称略です。


1.あすかみみ

 あられもない黒の下着姿、娼婦5人を電話ボックス大の箱に押し込みます。

 金を落とすのが「客」。
 金を持ち合わせないのは「クズ」
 通りかかる獲物にコビを売らずに何を売れというのでしょうか?
 相手に応じて、くるりくるりと掌を返します。

 ところが、酔いつぶれた役立たずの男が、この危険なゾーンに迷い込みます。
 ゆらゆら揺れる娼婦の姿を見てはしゃぎますが、見下げたヤァーツよ、と、あしらわれ、メインとすれ違いざまに弾き出されます。

 客をとっては早々に切り上げてと、リアルなお芝居のシーンを背にしながら、メインは盆へと向かいます。

 スワンの姿勢で盆の上で静止すると、盆が持ち上がって回転します。
 ターンテーブルに乗ったレコードをひっくり返すわずかな間ですが、暗い場内の空間は静寂に包まれます。

 フォーク調の爽やかな歌が聴こえ、はっと我に返ります。

 ……♪Sun,sun,sun…

 美しいフレーズに心が洗われます。
 連続ポーズを柔らかくおさめ、心をなごませます。



2.小嶋実花

 交響楽の響きに満ちた3部構成で、眼前に壮大な風景が広がります。
 楽譜に忠実な音楽家のように生真面目に、踊り手は音楽的な世界の再現に没頭します。

 第1部=序曲は神秘的に。ワーグナー流のハーモニーが綴られます。
 オレンジとライトグリーンとで草木染のように染め上げられた、シーツ大の布にくるまって、メインが登場します。
 すっぱり布をかぶった岩の塊が、徐々に膨張して殻を破り、仔鹿のようにぎすぎすした所作を見せる生き物に…
 まるで生命が産みおとされる瞬間に立ち会っているような気がします。

 第2部は、ラフマニノフのピアノ協奏曲のようにメランコリックな旋律で始まります。
 中間部では男性のロック・ボーカルが、ドラマティックに展開してゆきます。
 見開いた眼、恐怖に歪む表情……ホラー映画のよう。
 第1部でパントマイム主体だったものが、第2部ではお芝居の要素が加わります。

 第3部は、ピアノソナタ「月光」のように穏やかな導入部から、中間部では男性ロック・ボーカルに、ドスのきいたドラムをかぶせます。
 ドラムの裏側で、弦楽楽器群がたおやかな旋律を奏でます。
 バレエ的なステップで、跳びはねたり駆け回ったり、と、喜悦に満ちた表情を浮かべ、生命力を漲らせていきいきと踊ります。
 くびきから解き放されて、浴びるように踊り、やがて燃え尽きるまで…
 エンディングでオーケストラが静まって、ピアノが美しくもはかなげな旋律を奏でます。
 繊細で孤独な…
 生々流転を描いた絵巻物をしめやかに終えると、灯りがふっと力なく消えました。



3.上田結舞

 前の景も次の景も、重厚なプログレッシブ・ロックです。
 その間に挟まれて、谷間の百合のような、一服の清涼剤です。

 ビキニ代わりに十数個のアドバルーンを纏い、2人仲良くシンメに掛け合いで、2人は意気投合します。

 明るいポップスの女性ボーカルは、ジャズ風のパッセージにのせて軽快に歌います。
 アドバルーンで踵も浮き上がり、軽やかにステップ、表情もにこやか。

 2曲目では、アドバルーンを放り上げたり、バスタオル大の布を翻したりしてはしゃぎ、のどかな雰囲気で盆へ。

 ベッドは一変して、たたみかけるような威勢のいいリズムへ。
 繊細な指先の揺れ、しなやかな腕の振りで引きつけながらも、シャープな身のこなしで奔放な荒馬のよう。
 バリエーション豊かで、まるでアドリブのようにも見えてきます。
 瞬時たりともじっとしていない、スリリングな動きに目を見張ります。



4.白石美咲

 展覧会。その画家の死に捧げた、友人の手になるピアノ曲。
 作曲家の死後に出版され、やがて名が知られ、オーケストラ版へ編曲されます。
 そしてオーケストラの音色をモーグ・シンセサイザーで再現し、ロック・ナンバーへ。
 瓢箪から駒よろしく、ここ浅草のスピーカーから、クリアで迫力あるサウンドが放たれます。

 ドラマティックなサウンドを背景に、ミスコンの審査・発表の一幕をコミカルに描きます。

 花道上りでは、透き通るようなファルセット・ボーカルでなだらかな旋律に、コーラスがすがすがしくかぶさります。 ゆったりとして癒されます。

 ベッドはドラマティックに。
 ドラム、シンセサイザーですべり出し、厳かなボーカルにアコースティックギターやフルートがかぶさります。
 前の音がしじまに消えかけたとき、天啓がおりたように、シンセサイザーに多重録音のコーラスが咆哮します。

 ミスコンの勝者は、日本代表でした。ティアラに、澄んだ瞳に、迫力のボディ。
 王者の赤いマントを大事そうに移動盆に敷くと、派手なポーズで観客をねじ伏せます。



5.叶咲ゆめ

 まばゆい照明の下、踊り子7人がいっせいに登場して美を競います。
 横一線のダンス、縦一列のまま花道往復と、ステージを贅沢に使います。
 創作着物を浴衣のようにいなせに着流し、ファッション・ショーのダンス・ステージ版といったところでしょうか。
 着物の色と柄が思い思い、ノリも各人各様で、いずれ劣らずチャーミングです。

 2曲目イントロで6人がステージに散り、するりと衣装を脱ぎ捨てビキニ姿へ。
 ステージ背後からフラッシュを焚くように光を浴びせ、6体のシルエットに。
 魅力的なスタイルがあらわになって、息をのむ瞬間です。
 強烈な光が一瞬にして引くと、センターに着飾ったメインが浮かび上がります。
 黒いブーツ、革ジャンに、紫の羽根飾りや装飾品でアクセント。
 シルバーの鋲を打ち抜いた革グローブが、またカッコよく。

 気負って高揚した表情のまま花道へ。気を鎮めるようにフィンガー・ピッキング。
 スロウな3曲目で、心地よくドラムが刻み始め、ゆるやかな流れに身を任せます。
 微笑みかける余裕も生まれ、ポーズを2、3度切りました。

 終曲は、ディスコ・アレンジした曲で。
 脱ぎ捨てた革ジャンを羽織り気を引き締め、歓び勇んで駆け出すような勢いで、ステージ奥に引いていきました。



6.沙羅

 米南部、映画にでも出てくるような、場末の安酒場。
 灼熱、よどむ空気、汗ばむ女の肌。

 扉を開ける男。
 待ちかねていたように迎える女。
 腰に手を回し、社交ダンスのステップを2歩、3歩と踏みだすが、
……しかし情熱に焦がれ、衝動に負け、しどけなくからみつく女。

 エモーショナルな女の歌声。マディ・ウォーターばりのシャウト。
 あいつのせいだ……彼女の声の。

 冴えわたる動きで、ちぎれるように舞う姿。
 蹴り上げた脚に、スカートの裾がつられて放物線を描きます。
 しなやかな身のこなしを、ブルースのあのごつごつした節回しが追いかけます。

 黒いドレスから淡い桜色のベッド着に替え、アコースティックな伴奏にのびやかな女性ボーカルが流れます。
曲にどっぷり浸り、耽溺的なベッド。
 歌の旋律にチェロが唱和し、いつしか弦楽器群が重なります。
 若木が風に揺れるように、そのフレーズに流されるようにしなやかに腕を振ります。



7.水城奈緒

 浅草に三社があるように、米南部ニューオリンズにもマルティグラが、今年も巡ってきました。

 米南部は土着音楽の坩堝。
 セカンドラインがはねる、泥臭いリズムが入り乱れる…
 景気よく、和太鼓並べてなぞって原曲を引き立てます。



 にぎやかなパレードが街のあちこちで繰り広げられ、仮装した者もいて華やかですが、それは表の顔。
 インディアン装束は被差別者の象徴です。
貶められ、虐げられ、引き回され、剥かれて…
 喪に服すような黒いベッド着で盆へ。
 前半は、陰鬱な表情でしなだれるよう。
 立ち上がりは、語りかけ諭すように歌声に反応して、パッと表情に光がさしました。

 How does it feel?
 to be without a home…

 しゃがれ声でシニカルな詞。

 古びた音源でも、伴奏をつとめるアルやマイクのパッションが、今も生々しく伝わります。



8.フィナーレ

 官能的なギターにのせて、やぁ〜らしく響く甘え声のボーカル。
 Tシャツの胸にプリントされている、ボーカリストの長ぁ〜い舌が、胸の谷間で揺れっぱなし。

 振りを揃えたマス・ゲーム。跳ねてはずんで、体力の限界を探るかのよう。
 やりたい盛りの青春を思わせたせいか、若々しいステージにつられて、客席までもがはじけます。


                                    以上

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