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[7966]5月9、10、11日東京国際フォーラム 「*(ASTERISK)」 ダンス公演 
=八卦(関東)
=14/06/10(Tue)23:51



敬称略です。


ストリート系、ヒップホップ系にジャズ系のダンサーを揃えた、ストーリー性のあるエンターテイメントです。2013年の再演。120分。


各シーンごとに性格の異なるダンスを配し、その枠組のなかで自由なパーフォーマンス。
ヒートアップして、あたかもダンスバトルを見るようでした。


エンディングは、まばゆい照明のもと、純白の衣装をまとった男女6組が、兄役;長谷川達也と妹役仲宗根梨乃のふたりを囲み、祝福します。


暗転後、軽やかなピアノの旋律にのってカーテンコールで次々と、物語をたどるようにダンサー達が順に登場して、晴れ晴れとしたフィナーレを迎えます。
ステージをぎっしり埋め尽くす、100人を超すダンサーの姿が壮観でした。



1幕
1場;葬儀〜オープニング
出演;長谷川達也(兄)、仲宗根梨乃(妹)ほか

暗闇のなか、天井からフロアへ垂直に照射する一条の光。
光の先に、赤い毛氈を敷いた階段。ゆるゆると階段を下りる人影。
唱和のさなか、一瞬、雷鳴が響き、闇を引き裂き、ステージが明るくなります。
幅15m、奥行8m、その奥まったところにもう一段高い(2m)ひな壇を据えています。

20〜30人の黒装束が、広々としたステージを縦横無尽に動き回ります。
生き血のように赤い布をステージいっぱいに広げたり、ヒトデの形にたたんで閉じたり。緊迫した雰囲気に包まれます。

幼少時代の主人公の兄妹役を、スポットライトを浴びてふたりの子役が演じます。
父を亡くして悲嘆にくれる兄妹の心情は、男声のナレーションが抑えた口調で淡々と語ります。父の死を嘆くように、空から雨のしずくもこぼれてきました。

…これは要らない、あれも…
悪い大人は、幼い兄妹から遺産を巻き上げます。
外界から心を閉ざして、ふたりはしっかりと手をつなぎます。
19年後の再訪の約束を心に刻み…

弔鐘がかすかに聞こえ、暗転。



2場;孤児院
出演;Vanilla Grotesque(院長=MIKEY)

“あぁ〜ら、よく来たわね…
年増の院長が、ふたりを孤児院へ案内します。

15〜6人のキッズが、陣形を整え流暢なストリート・ダンスを披露します。
軍隊式に腕立て伏せ、あるいはジャズダンス。
コメディ仕立ての掛け合いではぐらかして、ふたりを取り込もうとします。

ここの人生哲学は、“何も産み出せない者は、他人より奪え”。
来る日も来る日も、スリと娼婦の職業訓練に明け暮れます。

やがて金持ちに引き取られ、孤児院を後に。
ふたりは孤児院の教えを、そのまま体現するハメに…



3場;サーカス
出演;Think Tank Bang

昔々のそのまた昔、サントリーローヤルのテレビCM(ガウディ篇)で見たような、クラウンに背高のっぽのお姫様、不気味でカーニバル的な行進です。
サーカス一座は奇怪な印象で、兄妹の心を捉えます。

“坊やたち、おじさんの奇術のお手伝いをしてくれないか…
 さぁ、消えてなくなれ! ワン、ツゥ、スリー。

タネも仕掛けもある手綱、姿を消して楽屋に避難した兄は、男爵からの逃走にまんまと成功します。



4場;窃盗団
出演;SAGGA FLIKKA、長谷川達也(兄)

妹とはぐれて兄はストリート・ギャングに。悪友4人を手下のようにこき使い、スリ三昧。
おぉつと、ごめんよぉ……一瞬にして、もぬけの殻の長財布が地べたに這いつくばいます。

掠めた中身は、見事な連繋で悪友どもの手から手へ。
戯れて中身を奪い合う、悪党4人の追っかけっこが、痛快です。
洗練された軽い身のこなしに洒脱なマイム、息の合ったダンスは、見ていて心地よく。
スピード感溢れるチェイスはユーモラス、トム&ジェリーを思わせます。

…えつ、このオレ様が、なんで…
図に乗る兄貴をこらしめようと、悪党4人は兄貴を警察に売り渡します。



5場;社交場
出演;Jil Entertainment Gallery、仲宗根梨乃(妹)

男爵に育てられ成人した妹は、社交家に。
みずみずしい美貌に加え、美しく澄んだ瞳は「氷」のよう。
冷たく突き放す視線が、魅入られる人にさえ、近寄りがたく思わせます。
広々としたフロアでタンゴにサルサ、きらびやかな衣装、華やかな香り、カクテル光線に口当たりのいいお酒……
奢侈と逸楽に耽り、妹は空虚な心を持て余します。



6場;記者たち
出演;DAZZLE、仲宗根梨乃(妹)

スキャンダルの香りをぷんぷんさせる「妹」には、ハイエナのように記者が群がります。
褒めて宥めすかして、是非ひとことをPlease!
つんつんした印象の妹ですが、言葉を選んで思慮深そう。
功をあせった記者は、核心をつく質問を放って、勇み足
 …男爵に子はいないはず。アナタは孤児では???

「妹」は口を閉ざします。

記者役のDAZZLEの動きは見事に統制がとれています。「息の合った」を超えて、各人がひとつの意志でつき動かされるような印象を与えます。
緻密に詰めた動きが、マイムと芝居を融合したよう。立板に水を流すように流麗に動き回って、ステージの展開の推進力になっていきます。



7場;留置所
出演;DAZZLE、長谷川達也(兄)

4場の続きで、兄はトラ箱へ。
盗品を取り上げられ、身ひとつで牢に放り込まれ、格子戸を恨めしく見上げます。



8場;看守の靴音
出演;當間里美(見廻りの看守)、TATSUO、NAO

「投獄を免れるには、入隊志願すればいい」と、看守が囚われの兄にこっそり囁くエピソード。

冷たい廊下をコツコツと歩き回る看守の靴音が、いつしかタップダンスのステップに聞こえてきて……
それはそらみみではありません。牢獄の上で看守が柔らかい膝の送り、軽快な踵の使い方、派手なアクションでタップダンスによる変幻自在なリズムを刻みます。
単調にならず、勢いもそがないで…、たっぷりタメをきかせて、生き生きしたリズム。

TATUO、NAOはそのリズムをたどって、ストリート・ダンス。スポットライトが激しい動きを追いかけます。
猫足で体を沈めたり、酔っ払いのように左右に揺れたりと、柔らかい身のこなし。
ストリート系のイキの良さ、カッコ良さを思う存分発揮します。



2幕
1場;貢ぎ物
出演;梅棒(ひとめぼれで求愛する青年)、仲宗根梨乃(妹)

ひとめぼれの恋に舞い上がる男心を、バカのりのポップスにのせてぐいぐいと、ダンスで表現します。

100万本のバラも、ダイヤモンドの指輪よりも…
歌詞に出てくるプロポーズなんかも、小道具使って身振りでベタに表現して、うわぁ、な感じ。カラオケのビデオみたいにわかりやすくて、肩のこらない演出です。

「歌」の訴求力をシンプルにぶつけてカラッと演じたせいか、「歌」の心がストレートに伝わってきます。



2場;面接
出演;DAZZLE、長谷川達也(兄)

2幕の最後のシーンを受けて、兄は入隊の検査へ。
5人の審問官の質問と、その応対を、言葉を消してマイムで語ります。
矢継ぎ早の質問、流れるような答え、はぐらかす術、意地の悪いつっこみ…
音声なしでも、セリフを耳にしたような錯覚に陥ります。



3場;新聞
出演;DAZZLE、仲宗根梨乃(妹)

人ごみをすり抜けるように歩く妹。
DAZZLEの面々が顔を隠すように新聞紙を広げ、立ち位置を変えながら集合離散、統制のとれたフォーメーション・チェンジを繰り広げます。
新聞をたたんだり、小脇にはさんだりと、芸も細かく、流れるように手際のよい動きが心地よいです。



4場;手術
出演;タイムマシーン、黄帝心仙人

「ドクター、こやつを蘇生させてください」
「ハイッ、よろこんで」

レーザーメスに電気ショック、天才外科医が神業を振るいます。施術も手術台上の死体の生体反応も、すべてをアニメーションダンスで演じきります。

究極のテクニック、凡人には遠く及ばないひらめきを持ってすれば、壊れた人間を治すのは朝飯前。

オートメーション・ラインのアームのような、関節の動きを封印した奇妙な動き。
早送り、逆回しなど、映像の編集機能を、生身の世界に持ち込む奇抜なアイデア。
技巧の限りを駆使して、飽きさせません。



5場;駅
出演;AFROISM

駅に向かう兄の心象風景を、雑踏を描写しながら拡大して映し出します。

晴れて入隊かなった兄は、トランクひとつで戦いの前線へ。
トランクもコートも帰還兵のおさがりの……、の、はずですが、ナレーションで兄のモノローグを語ると、暗鬱な翳が立ちこめて、こちらまで憂鬱に。

街には、生気を失い個性を欠いた人たちが、不規則に往来します。
流れがひとつになり、分かれ……、無秩序にも見える複雑な動きが、うねりをはらんできて。
ステージを広く使い、自由奔放なポップダンスを、一糸乱れぬさまで展開します。



6場;列車
出演;DAZZLE、長谷川達也(兄)

ステージ奥まったところにあるひな壇の下、庇に覆われるようにした横に細長いスペース。
椅子を一列に並べて列車の車内風景を再現します。
つり革にしがみつく乗客は、ゆらりゆらゆら揺れる枯れすすき。
薄暗がりに、車内照明が弱弱しくぽやぽやと、1日の疲れを隠そうともしない表情を照らし出します。
シニカルに不条理劇の気分も感じさせるなか、乗客のひとりが兄に言葉をかけます。
…あそこに行って、帰ってきたヤツはいないぜ…



7場;クラブ
出演;仲宗根梨乃(妹)、MIKEY、MEDUSA、矢野祐子、koharu sugawara、UNO、KUMI(Poledancer)

闇にぽっかり、ネオンサインが浮かびます。「open」

クラブのシーンは退廃的でセクシャルな薫り。
ほの暗い灯り越しに浮かび上がるのは、欲望と愛憎。

フロアには人の顔をした札束が散らばり、ケバい化粧の牝♀どもがむさぼります。
すさんだ心を隠し猫なで声で囁いて…… How much can you pay?

ルージュのような赤いタイツ風のコスチュームに、瞳のように黒い重ね着。
ルージュに濡れたリップが、牡♂をすするよう。
ねっとりした動きに、それを引き裂くようにシャープな動き。

共演koharu sugawarahaは、群舞でシャープに切れ込んで嬉々として踊り、オーラを発散しまくります。



8場;軍隊
出演;BULE TOKYO、DAZZLE、長谷川達也(兄)

投獄を免れたかわりに入隊した兄は、修羅場の前線へ配属されます。
瞳の輝きを失って殺戮マシーンと化した兵隊たちに、思考も行動も同化していきます。
護身術、組手に、打撃、とどめを刺す。

アクション映画ばりのアクロバティックな動き、新体操のテクニックを駆使して、広いステージをところ狭しと跳びまわります。
トランポリンでも使ったかのような高さのある跳躍、猫のようにしなやかに身を翻しての着地。それらが整然と群舞のなかに融合しています。
スピーディーな展開に目を奪われます。



9場;奪われる景色
出演;仲宗根梨乃(妹)、MEDUSA、矢野祐子、koharu sugawara、UNO

自分の魅力を切り売りするような生活がたたり、ふられた腹いせの男に妹は切りつけられます。
一命を取りとめたものの、心荒んだ妹は、現世への執着心をすでに失っていて、生体移植か…眼球を摘出して売り払うという愚行に走ります。それでも心眼にますます磨きがかかります。

妹の脳内を覗き見るような、抽象的なバレエ風ダンスへ。
踝まで届く白いドレスをなびかせてしなやかに舞い、性的な要素をそぎ落とし、女の強さ、潔さを、優しさで包み込んで昇華させました。



10場;力がすべて
出演;DAZZLE、長谷川達也(兄)

作戦の成功、叙勲、昇進… とんとん拍子で兄は司令官に。
遂行のためには果断な処置、勝利のためには犠牲もいといません。
タイトロープの上で得た名声ですが、ひとたび敵の逆襲に屈すると、奈落の底へ真っ逆さま…
悔恨の念も虚しく、部隊は殲滅、部下は皆殺し…… 命からがらで逃げ遂せるプロセスを、スリリングな演出で見せ、一瞬ドキッとさせました。



11場;兄妹〜エンディング

映画を見終えたような爽快感、エンディングを迎えます。

兄と妹は、1景1場から約20年後、波瀾万丈な生涯を経て、生家の前に佇みます。
思えばはかない、貴種流離譚でした。
過ぎて戻らぬ時間、失ったもの…

それでも乾きかけた心に、生きる希望がふつふつと頭をもたげてきます。
形見の指輪を失って、やせ細った兄の指。
視力を失った妹が、その指をまさぐって掌を握ります。
手をつなぎ、心がつながり、心に希望がさしたとき…
  …20年に一度なピュア満月が、ふたりに惜しみなく恵みの光を注ぎます。



                         以上

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