[戻る]
[7984]12中・結 浅草 LAST SCENE
=八卦(関東)
=19/01/03(Thu)10:48


敬称略です。



1景 サウンド・オブ・ミュージック  早瀬ありす

ママー、ボクねぇ、このうたしってるよぉー、
あのねあのねぇ、まりあせんせーがおしえてくれたのー
清楚で快活なジュリー・アンドリュース。
戦中オーストリアの片田舎を舞台に、家庭教師と教え子姉妹7人の心温まる交流です。


いいわね、基本のキからいくわよ、
ドはDeer、レは・・・・
いつもききわけのない子らも、先生の即興の振付に大喜び。


せんせー、たのちかったぁ。
幼いアーデルハイドは、大好きな先生と別れ、夢の中へ。
アコースティック・ギター伴奏のフォークソングに続いて終曲は、


  ♪伝えたい歌がある・・・


と始まります。


言葉に詰まるとき、悲しみにくれるとき、この歌にのせて気持ちが伝わりますように。
キュートな彼女はイノセント。真摯に祈る表情から、あどけなさが消えました。



2景 ロミジュリ  瀬能優

ロマンティックな言葉を詰め込んだスロウ・バラード3曲でまとめます。
きしむベッドで優しさを持ちより・・・、というくだりがあるので、ふたりの寝室を舞台にします。
愛しあい睦みあい、子猫のようにじゃれあうふたり。
カーテンを隔てて追いかけっこ、肩寄せあって抱きあって・・・


信頼しきったふたりのように息をぴったり合わせたダンスです。
やがて遊びつかれ眠りにつく彼女。
彼が見届けて毛布をかけてやり、目覚めぬようにそっと去りました。


ネグリジェ似せた衣装は、貫頭衣で表をベージュ、裏地を白とした上品な仕立てです。
グランドピアノの弾き語りで澄んだ男声ボーカルにのって、軽やかなステップで花道を一挙に駆け上がります。


衣装から肩、胸をはだけさせてさらし、ゆらゆらとゆらめくように動きます。
仰向けで浮かせた脚を伸ばしたりたたんだり、うつぶせでヒップを泳がせたり。
3曲目は別れるふたりのやるせない思いを、せつなげに訥々と綴ります。


  ♪いつか、また・・・この星の何処かで(めぐり逢える)


感極まるような熱唱を待って、立ち上がり。
ベルベッドをなでるようなやわらかいステップで、花道をさっと引いていきます。



3景 鷺娘  藤咲茉莉花

雪はしんしんと降りつみます。
雪のひとひらが落下するスピードにあわせ、粒立ちのいいピアノの音が響きます。
逡巡するようにすべり出す優しげなメロディにあわせ、白無垢、振袖の鷺娘。
綿帽子(純白の角隠し)の下に、人恋うやるせない表情を忍ばせます。
さっと和傘を閉じ逆手に持ってしずくを払えば、こまやかな気遣いが伝わってきます。


早代わりで町娘姿へ、片手で手ぬぐいを振るしぐさにそそられます。


歌舞伎の原作にふたりという設定はありませんが、別れを間近に控えたふたりですから、仲睦まじく踊るさまがいっそうせつなく感じられます。


髷に簪、白襦袢で下手からひとり現れ、去りゆく時間を惜しむようにゆっくりと盆へ。


女性シンガーソングライターの歌声は、抑揚をつけ、ときに感情をあらわにして震えます。


  ♪Remember 出会ったこと
Remember 一緒に生きてたこと


表情崩さず毅然としたベッド、立ち上がりで一呼吸おき、ちょっと首をかしげ、やわらかいまなざしをそそぎます。



4景 銀河鉄道の夜  牧野れいな

ジョバンニ(金色に輝く衣装)はリアルに冷たい川に行き、異空間の銀河鉄道にワープして、カンパネルラ(銀色)と再会します。
同級生のふたりは過去も未来も語らず、ただこの時間を共有できたことに感謝します。


朗読劇に、バレエステップを軸にした優雅な振りが続きますが、寄り添うふたりは引き離され、カンパネルラがひとり席に残されたまま、列車は駅を離れます


讃美歌、ひとり家路をたどる歌。
厳かな雰囲気に包まれて、カンパネルラの死をほのめかします。


漆黒の闇に黒い衣装を羽織ります。
しかし目をこらすと、空には満天の星が瞬いています。
見上げてごらん・・・でスワンのポーズ、差し上げた掌が天を指します。


   ♪追いかけよう夢を、二人なら苦しくなんかないさ


ベッドは明るい表情で、快活に。
マーチ調のリズムで男性デュオの力強い声に励まされます。



5景 もののけ姫  赤西涼

ジブリのヒット作を取り上げて、ストーリーを追うのはやめ、壮大なその世界観を舞台化する試みです。


自然の猛威
 〜自然への畏敬
  〜共生の道を模索
   〜自然への回帰


冒頭は、荒ぶる自然が破壊神として振舞います。
巨大なファンを舞台袖で回し、演者を大きな紗ですっぽり覆って扇げば、実写版の一大スペクタクル。


嵐が鎮まり、逆光のなかに佇んで静止すると、一瞬静寂が訪れます。

続いて心にしみるバラードがゆったりと流れます。
男女デュオが一語一語かみしめるように言葉を発します。
ていねいなフレージング、あたたかな歌声で、自然との共生を迫るシビアなメッセージを送ります。


  ♪愛、愛、
    本当の意味は分からない、
       愛、愛、


印象に残るクラリネットの短いパートを挟み、だけど強くて〜の歌詞を待って、スケールの大きなポーズをきります。
歌詞を支えたベッドのパーフォーマンスは、祈りに昇華されました。



6景 ガールズ・スクール  川菜ひかる

コンサート会場を総立ちにさせる、客席参加型の演目です。


のっけからエディがライトハンドの早弾きであおります。
来た来た来たわ、ハクいせんせーが。
やべぇよやべぇよ、イカすじゃんあのケツ。


‘I’m hot for teacher!
 I’m hot for teacher!’


いかにもやる気のなさそうだった女生徒4人ですが、目をらんらんと輝かせて、何にやる気を出したか知りませんが、生まれて初めて見せた真剣さで、授業に耳を傾けます。
といってもチンプンカンプンで、ええやん、興奮を募らせたままみんなで勝手に踊り始めちゃいました。


 ‘We will, we will rock you 〜ずん、ずん、ちゃん
 ‘We will, we will rock you 〜ずん、ずん、ちゃん


最前列の参加者は、女生徒のパンチラに目を背けます。
場内大盛り上がりのところで、せんせーも暑がって下着姿をさらします。
大胆なポーズベッドから豪快な立ち上がり、脱ぎ捨てたブラウスをかき集めてかっこよく立ち去りました。



7景 フラ  雨宮衣織

空の碧、海の翠、バックステージを鮮やかに染め上げます。
ゆるやかに流れる島唄に、三線の音が寄り添います。
伸ばした指をたなびかせ、波に押されるように腰を揺らします。


空の声を求めて風の音を聴き、
遠くから運ばれてきた音のなかに君のささやきを聴き取ろうとし、知らず知らずに口ずさみます。


君を思う心のうたを。


2曲目は返礼のようにして、さわやかなフラ。
女声の澄んだ声が風にのって届きます。


清楚な白いベッド着をふわりと羽織り、野に咲く花が風に揺れるように可憐に。
しなやかな身のこなしで、のけぞる、旋回する、宙を仰いでポーズ。
一瞬たりとも流れを止めることなく。立ち上がりから花道へ満ちた潮が引くように去りました。



8景 独裁者  香山蘭

ヒットラーに扮して雄弁にアジる演説にのせて踊ります。


 ‘You are not machines!
    You are not cattle!
      You are men.’
  (機械や道具なんかじゃない、人間だぞ君たちは)


ぼぞぼぞした平坦な語り口が、次第に熱を帯び、まるで自らに陶酔したように烈しさを増していきます。
モダンバレエや機械体操から、パントマイム、ボードビル風まで、お芝居っぽい身振りもまじえ、雑多な様式をゴチャゴチャに詰め込みます。
アジるような口調で世界平和を諭す・・・、表現と内容が実はアンマッチなのですが、それでいてユーモラスななかにも妙に説得力があります。


ほの暗いステージが、一瞬にして対向車のヘッドライトのように舞台奥の照明を光らせたとき、飛び上がって着地する姿をくっきり現して、感銘を与えます。
カーキ色の制服のまま、盆へ。
帽子を取り落とし、落胆した表情で立ち尽くします。
エッジのギターが遠くでエコーのように響きます。


そして終曲ではひとすじの光明が射しました。


 ‘I’d rather be a comma than a full stop’
  (死にたくなんかない、悲惨な状況をなくしたいんだ 意訳)


一瞬にして蘇生したかのように、カーキ色の服をかなぐり捨てて、活力溢れるダンス。
伸びやかな肢体、はにかむような笑みが印象に残ります。



9景 仏蘭西  伊沢千夏

(1)仏蘭西
華やかで洒落ていて、明るく楽しい演出で、引退に花を添えました。


ステージ奥に巨大なピンクの薔薇のアーチを飾ります。
舞台すみずみまで照らす明るい照明に、パリ・モードのようなかわいい衣装。
ダンスにシャンソン4曲、衣装替え2回。


1曲目と3曲目はアップテンポで7人の群舞を伴います。
2曲目は面前での衣装替え、4曲目は社交ダンス的な凝ったソロ・ダンスに、見守る7人がバラの花を振りまいて祝福します。


1曲目、メインは淡いピンクのつば広の帽子に、パリ・オートクチュール風の白いドレス、手に扇。7人は薔薇の花束に見立てたかわいい衣装で揃え、ファッションショーのように歩きます。
2曲目、メインがセンターで脱いでコルセット姿に、下手にはけて白にピンクのぼかしの入ったロング・ドレスをまとい、センターに戻ります。オレンジ色のモールのような飾りをゴージャスに羽織ります。
3曲目、メインはステージ上の上手奥に退き、下手から7人をかためてメインのほうを覗かせます。1対7のかけあいで始めて、群舞をコミカルに続けます。
7人を1列にしてフラミンゴ歩きで蛇行、そしてメインを頂点にして扇型に広がり、左右から交錯させる動きなど。シンプルな動きに徹して、衣装のスパンコールがキラキラと綺麗。
4曲目、社交ダンス的な動きでエレガントなダンス。前後左右に大きく踏み出して、切り替えし、歌の旋律に合わせるように緩急交えて技巧を尽くします。


ベッド着は淡いピンクのマント、裾をピンクのフレアで彩ります。
清澄な歌声にのって花道のぼりから盆に入ります。
盆を一段上げてから男声で勇気を授ける歌に合わせて華々しくポーズ。


  ‘I will ease your mind’
   (心の支えになってあげよう)


優しい言葉で見送ります。


(2)カーテンコール
十二単に腰巻、素足で、軽めの日舞を披露します。
三顧の礼と、花束の受け取りを兼ねて、舞台を広く使ってしずしずと、十二単の柄を見せるように切り替えします。


歌詞にヘッドライトが出てくるのは、続く全体のフィナーレへの伏線でしょうか。
旅はまだ終わらない・・・と何度もリフレイン、心に残ります。



8.フィナーレ

遠近法で奥に遠ざかって狭まる2本のレール。
その間を階段状に7人を上がらせ、白い毛皮のコスチュームに青白い光を当てて揺らめかせます。
車掌の腕章には「693」、列車のプレートには「999」。
動輪とピストンの織りなす音が心地よいマーチに聞こえ、踊り子たちを行進させます。
黒衣のメーテルを先頭に9人が花道を埋め尽くし、ふと振り返ったメーテルが8人と目を見合わせて微笑んだのが、8人の表情から読み取れます。


長い旅もいつかは終わります。
幸せな記憶を残して。




                     了

[前へ]
[次へ]

[戻る]

- Light Board -