2001年10月上旬
池袋ミカド劇場
by Pontaさん
〜シナリオ〜
池袋ミカド(10/1〜10/10)=可愛沙羅
Queen of Queens(クィーン・オブ・クィーンズ)
#1 他人はそれを「魔が差した…」と言って終わりにするかも知れない。けれどもボクにとって、それは運命の瞬間だった。良い意味でも、悪い意味でも…。
ボクは、ごく普通の会社員だ。ごく普通に仕事をし、ごく普通の毎日を送る。人並みの野心を持ち、人並みに性欲も持つが、けっして人並み以上に目立とうとは思わない。平均点を維持することが、幸福への最短距離だと、いつの頃からか自分に思い込ませて来た。そう、あの人を見る瞬間までは…。
その人は夕暮れの街で、突然、ボクの視界に飛び込んで来た。まるで、そこだけが切り抜かれた画像のように…。
つぎの瞬間、ボクはその人の跡を追っていた。本当は会社に電話連絡を入れなければならなかったのだけれども、ボクは彼女の姿を追い続けた。
彼女が立ち止まる。尾行に気付かれたか? ボクはまるで突然変異のストーカーだ。
あッ、彼女がサングラスをはずしかけた。
あッ、彼女がジャケットの襟を立てた。
その一挙一動が、ボクの胸を躍らせる。恥ずかしい話だが、彼女の動きの変化を見ているだけで、ボクはイキそうになってしまった。
#2 街は夕暮れを過ぎて、もはや夜。彼女は足早にビルの地下へと降りて行く。もちろんボクも気付かれないように後を追う。
ビルの地下に入ると、そこはたちまち大音響が渦巻いていた。『クラブ』とでも言うのだろうか? 何にしろ、いままでのボクの人生には無関係の場所には違いない。
彼女は? 音の大きさに一瞬ひるんで彼女の姿を見失ったが、でも大丈夫。ここでも彼女は他の誰よりも素敵に光っていたからだ。
彼女は踊りながら周りのオトコたちを兆発していくが、誰も彼女にかなう奴などいない。そうさ、この世に彼女にふさわしいオトコなど、どこを探してもいないんだ。
#3 『クラブ』を出た彼女を、また尾行する。と、今度はマンションに入った。ボクは彼女との距離を大胆に縮めて、彼女の姿を見失いまいとする。
彼女が、ある部屋の前に立ち、ドアを開け中に消えた。
ボクは意を決して、そのドアの前に立ち、インターフォンのボタンを押した。
「…どちら様?」
インターフォンを通して聞こえて来たのは、なんと男の低い声だった。
「こ、ここは…?」
どぎまぎするボクの声に、男の低い声が冷静さを漂わせて、こう応えた。
「会員制のSMクラブでございますが…」
#4 もちろんボクはクラブに入会した。そして彼女を女王様に指名した。もはやボクには自分が何をしたいのかも判らない。いや、いまが現実なのか夢の中なのかも判らなくなっている。
ただ判っているのは、あともう少しで、あの人と一対一で会えるということだけだ。それでいい。それさえ叶えられれば…。
あの人が現れた。ボクの目の前の椅子に腰掛け、そして無言のまま、ゆっくりとボンテージの衣装を身につけていく。それだけでもボクはアタマがクラクラして来た。
と、今度は鞭を持ち、一振り。ついにボクがマゾを体験する時が来たようだ。
ところが鞭を手にした彼女は、ボクのカラダには一切触れようともせず、ボクの目の前で鞭で自分のカラダをまさぐり始め、やがてボクのことなど眼中にないように快楽の底へと堕ちて行く。これがSM? 最初はとまどいを感じたが、やがて快楽に身悶える彼女の姿に、ボクはあることを悟った。
そうだ、ボクの存在自体など無視されることが、究極のマゾの快楽なのだ、と。
そして彼女が絶頂を迎えた瞬間、ボクも果てた。
プレイが終わっても、ボクと彼女は一言も言葉を交わさない。彼女は冷ややかにボクを見下し、鞭を手に去って行った。
…たしかに他人からすれば、それは魔が差したとしか言いようがないだろう。けれどもボクに言わせれば、その出会いは運命の瞬間だった。なぜなら、その瞬間からボクの人生は、確実に音を立てて歪み始めたからだ。
(このシナリオは、Pontaさんのご好意により、掲示板から転載させていただきました。)