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盃野営場で耐寒野宿

 朝晩の冷え込みが厳しい10月の下旬,土日の休みを利用して久々の旅に出た。積丹半島をぐるりと回る「晩秋の岬めぐり」を旅のテーマとした。今回は購入後間もないジムニーで行く。

 まずは小樽を目指し国道5号線をのんびり走る。ジムニーの運転感覚は前のビートとかなり異なり,まだ運転がぎこちない。小樽市街地を抜けた後,突然JR塩谷駅に寄って見ることにした。まったくの気まぐれである。伊藤整の自伝的小説「若き詩人の肖像」で塩谷が出てくる。以前電車で塩谷に来たことがある。その時は塩谷駅がずいぶん山の中にあるなと感じた。あらためて来てみると,かなり寂れた無人駅である。さっそくカメラを向けたが,なんとメモリー(コンパクトフラッシュ)を入れ忘れてきたことに気づいた。仕方がない,途中どこかの電気屋によって買おう。思わぬ出費を強いられることになった。

 日本海を右に見て積丹を目指す。

 塩谷駅から国道5号線に戻る途中で山側を通る抜け道を見つけた。余市方面に向かう「フルーツ街道(通称?)」らしい。しばらくこの道を進むが途中で蘭島海岸に寄りたくなり,国道5号線に戻る。まったく気まぐれでフラフラ走っている。余市の市街地に入ってからマツヤ電気を見つけ,そこでセール中のメモリーカードを購入した。余市で国道229号線に入り,積丹方面を目指す。右手に海岸線を見ながら古平町,美国を通過し途中,セイコーマート(北海道最大手コンビニ)で山菜おこわ弁当,ポケットウイスキーなどを購入した。
美国から国道229号線は山側に入る。しばらく進み婦美町で道道913号に入り積丹岬に向かった。

神威岬の美しい海   

 積丹岬,神威岬と今回の旅のテーマである岬めぐりをした。好天のため海がエメラルドグリーンに輝き美しかった。特に神威岬は絶景であり印象に残った。いずれの岬の駐車場でも観光客に餌を求めるキタキツネがいた。積丹岬の駐車場では車の外で昼食を食べようとしたが,弁当のフタをとる間もなくキタキツネがすぐ傍までやってきた。追い払っても追い払っても,すぐまた近づいてきて不気味である。結局,狭い車内に戻り弁当を食べることになってしまった。「きゃー可愛い」とか言いながら食べ物を与える観光客が絶えないせいであろうか。

 積丹岬のキタキツネたち

 海岸線に沿った道路をひたすら走る。いくつものトンネルを抜けたが狭いトンネルが多く,対抗車線を大型ダンプなどが来るとチョット怖い。いつしか半島の西側に回り込んでいる。この時期は日没が早く,そろそろ今夜のテント設営場所が気になってくる。半島を南に下がって神恵内に近づく。神恵内の青少年旅行村は海を見下ろすロケーションで,場内には温泉もあるとのこと。さっそく海岸通りから山側に車を進める。すぐに青少年旅行村に到着したが,なんと管理棟は閉鎖されている。傍らの竜神温泉(地元観光協会で運営)の建物に行き受付の若者に確認したところ,旅行村は10月15日で利用期間が終わっているとのこと。私の持っているキャンプ場ガイドは古すぎたようだ。いっそのこと無断で利用させてもらうことも考えたが,念のためヒグマの出没情報を聞いてみると,ここから少し先の民間ホテルのパークゴルフ場でクマの糞が見つかったとのこと。・・・・ウーン。

 迷った末,結局ここの旅行村は諦め,海岸線に戻り南下を続ける。もう少し行くと盃温泉郷があり,そこにはライダーに人気の盃野営場がある。しかしだんだん日は下がってくるし温度も低くなってくる。このさい野宿は諦め盃温泉郷にある国民宿舎に宿泊してもいいかなと弱気になりはじめる。盃温泉郷に到着し,真っ先に国民宿舎の受付で宿泊を申し込んだところ,なんと満員とのことで断られる。フロント受付嬢の表情から,不審な客と思われているのかななどと妄想をめぐらす。たしかにこんな辺鄙なところにみすぼらしい服装の中年男一人客であり,しかも予約なしの飛び込みである。気を落としつつ,隣の民間温泉ホテルをながめたが,かなり古く寂れた旅館である(・・・チョットナー)。 気を取り直し,とりあえず盃野営場を見てみることにした。温泉郷を奥に進むと野営場の駐車場があった。資材置き場と見間違えるような駐車場である(実際,近くに工事現場のプレハブらしきものがあった)。気分が落込み野営場を確認する意欲も失せた。

 温泉郷に戻ろうとした時,駐車場わきの山の中へと続く道に興味が引かれた。ジムニーを四輪駆動に切り替え狭い道を辿り始めた。すぐに道は分岐し,片方は廃屋の手前で行き止まり,もう一方には茂岩林道との表示がある。この林道を進むとすぐにまた分岐があり,川に近づく右の道に入り込むとコンクリート造りの平屋が現れた。どうも温泉の湯元か何かの管理棟らしい。さらに進み川に近づくと車進入止めの金属ポールがあり,その先は平地が開けている。そこが盃野営場であった。結局野営場の後背地に回りこんだのである。野営場は川と雑木山に挟まれた狭い平地にあり,雰囲気はなかなか良い。先ほどの駐車場とは細い道で結ばれているが,二輪車で通るのがやっとである。

車を置いた盃野営場の後背地  

 駐車場に戻るよりも,この後背地に車を置くほうがテントとの距離が近くなる。野営場の端にトイレがあるが,入口はシャッターが降りていた。中央には炊事場もある。蛇口をひねると最初は赤水が出たが,そのうち透明になった。よし,今日はここで野宿だ。

 たった一人で野営場を独占

 他にテントは張られていないが,雑木林で何か作業をしている老人がいる。山菜採りであろうか。側に行き話しかけてみると,盆栽用に土を貰っていくとのこと。例によってヒグマ出没情報を聞き出す。「クマは出ないがタヌキやキツネが出る」とのことである。どの程度信頼できる情報か分からないが,少し安心する。老人は土を入れたビニール袋をスクーターに乗せると駐車場の方へ走り去った。

 辺りが徐々に暗くなってきた。テントの設営を急がなければ。車から必要な装備を運びテントを手早く設営する。テントはポール2本を差し込めばすぐに立ち上がるが,フライシートがけ,ペグ打ちなどで結構疲れる。テント内にエアマット,シュラフなどを入れて終了。すぐ夕食の準備に取りかかり,レトルトカレーとレトルトご飯を温める。かなり冷え込んでおり,マウンテンパーカーを着込む。食料入れのクーラーボックスに腰掛け,出来上がったカレーライスを食べながら周囲をうかがう。川のせせらぎの音が結構大きく聴こえる。いつのまにか炊事場の電灯が灯っている。ぜひ,焚き火をしたかったが,周辺に枯枝などが見当たらず,さらに探すのも億劫なので諦めた。寒いのでテントにもぐり込む。シュラフの上に横になり,ロウソクを灯す。しばらく休んだ後,先ほどの寂れた温泉ホテルで入浴することにした。たしか看板に入浴のみも可となっていたはずだ。もうすでに真っ暗となっているので,頭にヘッドライトを装着しタオルと貴重品を持ち,ホテルに向かって歩いた。異様な姿である。

翌朝茂岩温泉ホテル前にて記念撮影 

 茂岩温泉ホテル(実態は旅館)に到着し受付で入浴料4百円を支払い温泉に入った。受付は経営者の娘であろうか,中学生くらいの少女であった(家族的経営?)。浴場には老人客が一人いるのみ。まずまずの湯であったが,湯船のタイルの一部は欠け落ちたままである。経営者はあまり施設維持に関心が無いようだ。帰りに預けた貴重品バッグを少女から受け取りホテルを出た。外に出てからタオルに包みこんでいたヘッドライトを装着した。野営場に近づいてからライトオン。駐車場からの細い道を踏み外すと川に転がり落ちてしまう。

 テントの中で温度計を見ると12度である。入浴の効果で体はぽかぽかしているが,夜半には相当冷え込むだろう。今回は念のため,いつも使っているマミー型シュラフのほかに封筒型シュラフも持ってきている。いよいよとなれば二枚重ねするつもりである。いつものことであるがラジオの受信状態は余り良くない。早めにシュラフにもぐり込み,ロウソクの明かりをたよりに,ポケット瓶のウイスキーをなめたり,ツーリングマップルを眺めたりして夜は更けていった。夜中に冷え込みで目が覚めた。温度は10度に下がっている。明け方にはさらに低温になる。やはりこの時季スリーシーズン用シュラフ1枚では無理がある。封筒型シュラフを重ねるとようやく暖かくなった。何とか眠れそうである。

 午前4時頃,雨の音に気がつく。雨の中でのテント撤収はイヤだなと思いながら,また眠りに入る。今度は鳥の鳴き声で目が覚めた。午前6時である。雨は上がっている。ラッキー!テントを抜け出し,朝食のラーメンを作る。そうしているといつのまにか猫がそばに寄ってきている。温泉の残飯を食っているのだろうか,まるまると太った猫である。妙に愛嬌があるので,ラーメンに入れた魚肉ソーセージを二切れほど投げ与えた。

朝食の時そばを離れない猫    

 猫に話し掛けながらラーメンを食べた後,例により朝の催しが訪れた。トイレは入口のシャッターが閉じており使用できない。途中道の駅を利用してもよいのだが,ここはやはり自然と親しむことにする。ショベルとトイレットペーパーを持って付近に出かけ,数分後すっきりした気分でテントに戻った。かくしてヒグマに襲われることもなく凍死もせずに無事野宿を終え,盃野営場を後にした。


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