(一)はじめに
一般の文書を書くときは別として、書作品には、あまり「書体」を論じないのが普通である。「書体」の選択は、必ずしも、秀れた書作品を作る必要条件ではないからだろうか。
それでも、展覧会の会場などで、実に、執拗に「書体」にこだわる人に出会うことがある。そういう時は、一応「隷書です」と答えるようにしている。しかし、まったく面識のない人の中には、「あれは楷書だ」という人達もいて、「随分、書体に詳しい人だな」と、感心させられることもある。
だが、こういう人に限って、案外「書体」については、知識が乏しく、楷行草三体ぐらいしか、知らない人だったりすることがある。
また、時には、「金農」(金冬心)だ」という人にも出会うことがある。説明するのが面倒なので、不本意ながらつい「ハイ」と答えてしまったりする。確かに、「金農」に似ていないこともないが、実は、「金農」ではない。
遠くから、ぼんやり見ていれば、猫でも、猿でも、同じに見えるものである。そろそろ、ハッキリさせなければならないのかも知れない。この辺で、この「新古隷の書法」を発行することにした。
(二)「新古隷」とは
「行草体」で書作品をつくる技術を習得しょうとするなら、先ず、好い手本を選んで、筆を、早く走らせるように習うことが、大切であることを教えられた。
しかし、誰でも、始めから、筆を早く走らせることはできないから、少しずつ、早く書くことに心掛けるのである。やがて、書きながら、外のことを考えたり、計算したりする雑念が、なくなるようになれば、ほぼ、この早書きの練習の目的は、達成されたといってよい。
しかし、一度、早書きに慣れてしまうと、筆をゆっくり走らせることが、難しくなってくる。そこで、遅筆が要求される「隷書」の学習が始まるのである。
「行草体」の作家が、隷書を書くきっかけは、殆ど、このようなパターンだといわれている。
我が国では、ある時期、漢の曹全碑が盛んに流行したらしく、「隷書」といえば、波磔のある「八分(ハップン)」だと思われている。
しかし、ご承知のように、「隷書」には「八分」のほかに、「古隷」がある。この「古隷」は、一般には、あまり知られておらず、ごく一部の、限られた研究者の、研究対象となっているにすぎない。
「古隷」は、「八分書」のように派手ではなく、デザイン化されてもおらず、結構法(字形を組み立てる方法)も用筆法(筆使い)も未完成である。ゆえに、現代のように、個性的で、芸術的な書作品が、要求される我が国の書道界においては、自由な表現ができる、最も基本的な書体であるといえる。
「新古隷」は、この「古隷」を基にして、考えかたや技法的な面で、現代的にアレンジしたものである。見方によっては、レタリング文字の「角ゴシック体」に近いが、「角ゴシック体」のように様式化されていないため、どんな学書者でも各人のレベルに応じて、自分の持ち味を十分に表現できるものである。
(三)「新古隷」のFONT
今回、この「新古隷」の書体のフォントを作成した。主に、明代の李攀竜が編纂した『唐詩選』全文が記載できることを目的にした。その後、『千字文』全文も記載できるようフォントの量を増やした。分割すると次のようになる。
(イ)唐詩選五言絶句全文フォント
(ロ)唐詩選七言絶句全文フォント
(ハ)唐詩選五言排律全文フォント
(ニ)唐詩選五言律詩全文フォント
(ホ)唐詩選七言律詩全文フォント
(ヘ)唐詩選五言古詩全文フォント
(ト)唐詩選七言古詩全文フォント
(チ)千字文全文フォント
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