SHODAの部屋

『テニスと人生の大先輩、920先生のエッセイ』
                         920先生の許可を得て掲載しています。


~920の独り言~No.8
No.701~


2019/10/4 No.945
  地球温暖化

  地球温暖化を避けるために先進国の温室効果ガス削減義務を課した京都議定書を記念して、地球環境の保全に貢献した方を顕彰する「京都環境殿堂」表彰式に私は毎年参加しているが10回を迎えた。

  その後パリ協定など地球環境の議論はされているが、米国の離脱、中国、ブラジルなど地球環境は悪化をたどっていて、我が国では今年も猛暑、台風、大雨などの自然災害で甚大な被害が発生している。世界各地でも氷河消失、海水上昇や猛暑が深刻化していて、パリでは今年の夏、観測史上最高の42,6度を観測したという。

 国連気候行動サミットで、16歳のスエーデン人グレタ・トウンベリさんが「人々は困窮しているし、生態系は壊れている。私達は絶滅を前にしている。なのにあなた方大人はお金と経済成長というおとぎ話を語る。何ということだ。」と各国の首脳に訴えた。

 地球を救えと訴える若者の先頭に立ち、私達の未来を奪わないでと世界中で400万人以上の若者が学校を休み抗議行動したという。

 ニューヨーク市教育局は趣旨に賛同し、親の同意があれば授業を休んで抗議行動に参加することを許可したという。我が国の若者は何故、抗議行動に立ち上がらないのであろうか。若さは、よりよき将来を誰にも気兼ねなしに要求できる特権を持っているのに。

                  920


2019/9/27 No.944
  日本紅班熱


 先日福山でマダニよる日本紅班熱で70歳代の女性が亡くなったことが報道されていたが、最近2例の日本紅班熱患者を経験した。

(1)90歳代女性。尾道市西藤町
 毎日草刈、畑仕事をしている。6月24日早朝発熱、意識障害で市民病院受診。脳CT、血液所見大きな異常なく帰宅。翌日40度の発熱悪寒で当院受診。胸腹部四肢に小さな発疹。高度炎症反応。入院。翌日も高熱続き、肝障害、血小板減少5万。紅班熱を疑い保険所に連絡し検体提出。ミノマイシン投与。28日に日本紅班熱リケッチア陽性の連絡。発熱続きミノマイに加えシプロキサシン投与。速やかに解熱し7月1日には血小板13万に上昇。7月6日には炎症反応陰性化。7月10日後遺症なく元気に退院。

(2)60歳代女性:尾道市木ノ庄町
  9月21日家の周りの草刈。9月22日身体がだるく腹痛。9月24日朝発熱、両大腿、背中、両腕に発疹。食思不振で9月25日来院。37,9度の発熱、軽度炎症反応、肝障害、背中に虫刺され様な刺し口あり。日本紅班熱を疑い検体を保険所に提出すると同時にミノマイシン投与開始。翌日痂疲より日本紅班熱陽性との連絡あり。今日も微熱、両大腿、両腕、背中に発疹あり加療中。2年前近所の人がマダニによる同様の病気に罹患していたとのことで、木ノ床町の住民に危険を周知するよう保健所に申し入れした。 

 920


2017/12/29 No.859
 70歳!

 
私たち団塊世代が70歳を迎え、日本も戦後70年が過ぎた。戦後の貧しかった幼少期、青春期、24時間働き高度成長期を経験してきた団塊世代も日本社会も、豊かになった高度成長期は終り、これからゆっくりと下り坂を下り円熟を目指す歳になった。

 ところが、アベノミクスとか1億総活躍社会とか、消費を増やし物価を上げ経済成長を目指すとか、アホなことを言う人が居る。今年生まれた子供の数が94万人と、100万の大台を割り込んだ。団塊世代は270万人の出生だったから3分の1に減ったことになる。一方、死者は130万人で、人口が約40万人減となって、これから毎年死亡者が激増し人口減少はもっと加速する。私に言わせれば、こんな小さな火山列島に1億もの人口は多すぎるので、人口減少は当たり前で自然なことと思うが。

 急激な少子高齢化、人口減少社会で、長生きは幸せと信じられていた時代は去り、先行き不安の中でどうすれば長寿の人生を完結させることが出来るかが大きな問題となっている。

 私も70歳!そろそろお迎えを待つ覚悟を持たなければならない年齢になった。終わらざる老いの日々 いかにして生きようか。 

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五木寛之、釈撤宗:70歳!人と社会の老いの作法。文春新書



2017/12/22 No.858
 50周年

 
昭和42年創設の山本病院が50周年を迎え祝賀会を開催した。激動の50年間に常勤、非常勤合わせて何と398人もの医師の協力があった。創立以来岡山大学第1内科からは継続して優秀な医師の派遣をしていただいている。岡田裕之先生には昭和63年より30年間にわたり診療協力をしてもらい、教授になられてからも診療指導をしていただいている。川崎医大泌尿器科からは当直医の派遣に加え土曜日だけだが、泌尿器外来を設立していただいた。

 小さな慢性期病院ではあるが、人工呼吸患者、中心静脈栄養患者などの集中治療対応、肺炎、慢性呼吸不全の急性増悪、急性心不全、痙攣、総胆管結石、吐下血、ポリぺく、気切、外傷などの救急対応、がん患者の緩和医療、終末期患者の看取り、デイケア、訪問看護など、地域になくてはならない病院として地域医療に貢献してきた。

 創立以来、勤続50年を迎えた二人の看護婦さんのお祝いもした。結婚、出産、育児、孫に恵まれた人生の殆どを病院と伴に過ごして、チーム医療のかなめとして誇りを持って働いてこられたことに対し感謝と敬意を表した。

 記念講演は長い間主治医として診ている若い時にストマイで聴力を失った88歳の患者さんに「文字は宝、聴障を生きる」と題して、われわれ医療者の心に響くすばらしい講演をしていただいた。

          920



2017/12/15 No.857
  大きい事は良いことか

  
私が大学生の昭和40年代、高度経済成長の象徴として、時代の空気を詠んだ「大きい事は良い事だ」と、山本直純による森永チョコレートのコマーシャルソングが毎日テレビで流されていた。

  私達団塊世代が目指した豊かさの象徴であるアメリカに追いつけ追い越せと大量生産、大量消費がもてはやされ、小さなチョコレートは大きくなり、冷蔵庫もテレビも車も身体も大きくなった。

 さらなる経済成長をめざし、グローバル化、IT革命、金融革命イノベーションなど、限りない拡大を目指す自由資本主義が曲がり角を迎えている。巨大企業東芝の没落、EUの分裂、世界一の大国米国も凋落が始まろうとしている。

  最近、EUを離脱した英国で有名なスイス製チョコレートが値段は同じなのに形を変えて少ない量にした「シュリンク・フレーション」が話題になっているという。 我が国もヨーグルト、クッキー、カップ麺、調味料、洗剤、化粧品など値段は変わらないが、中身が小さくなっているそうだ。

  スモール イズ ビューティフル、風船は大きく膨らませ過ぎると必ず破裂する、ということをわれわれは学ばなくてはいけない。

                        920


2017/12/8 No.856
 聖母たちのララバイ

 京都フィルハーモニー室内合奏団With岩崎宏美スペシャルコンサートを福山リーデンローズで鑑賞してきた。

 京都フィルハーモニー合奏団によるクラシック、ワルツ、オペラの演奏や風と共に去りぬ、ロッキーのテーマ、ひまわりなどの映画音楽と、岩崎宏美のロマンス、すみれ色の涙、思秋期、聖母たちのララバイなど、さまざまなジャンルの曲が一度に聴けて、良い時を過ごさせてもらった。

  最近では歌謡曲を聴くことはなくなり、宴会の二次会や忘年会で若い人が歌う歌は聞いたことが無い知らない歌ばかりだし、私は無理やり高校三年生とか青い山脈を歌わさせられている。

 古き良き昭和歌謡曲がリバイバルし、団塊世代に限らず若者にも脚光を浴びているという。昭和の歌謡曲の多くは時代に沿った心に響く歌詞が素晴らしく、曲とともに心に沁みこみ、日本人の心、団塊世代の心、昭和の文化を表しているという。

  “この都会(まち)は戦場だから 男はみんな 傷を負った戦士どうぞ 心の痛みをぬぐって 小さな子供の昔に帰って 熱い胸に甘えて・・・“               920



2017/12/1 No.855
  スポーツ庁長官

 
相撲協会理事長八角親方が、このたびの不祥事をスポーツ庁長官に謝罪していた。先日私は福山文化大学で、スポーツ庁初代長官である鈴木大地氏の講演を聞いたところであった。

 1988年のソウル五輪にて、バサロ泳法により100m背泳で、金メダルを獲得。現役引退後、米国ハーバード大学で2年間水泳コーチ研修を行い人間的に成長。帰国後順天堂水泳部監督になり、日本一の監督に。史上最年少で日本水泳連盟会長、世界オリンピアン協会理事など、世界の舞台でも活躍している。

 文部科学省の外局として2年前に設置されたスポーツ庁は職員129人、予算400億円で運営されている。スポーツ基本法、5か年計画で、スポーツを「する」「見る」「ささえる」という形でスポーツ参画人口の増加により地方創生、健康増進を図ることを目標にしているという。

 鈴木大地氏は、何と順天堂大学医学部より、「健康関連イベント参加者の生活習慣と健康状態に関する研究」により医学博士を取得している。それ故か、“歩く”をもっと楽しく「FUN-WALK・Project」を来春立ち上げ、生活習慣病を減少させ40兆円を超える医療費抑制を目指すことを強調されていた。頑張ってもらいたい。

                       920


2017/11/24 No.854
  いじめ

 
 いじめによる自殺があとを絶たない。学校、教育委員会、マスコミなどは、いじめ自殺が発生するたびごとに、いじめの根絶が必要と叫んでいるが・・・。

 私は小さい頃、いじめをしていたそうだ。当時はガキ大将で、遊び仲間作りがいじめとなっていて、他の悪ガキが自分の仲間をいじめると助けに行くなど、いじめは仲間作りの行為であった様に思う。

 いじめは脳科学的に見て「生存戦略」と「快感」という本来人間に備わった機能による行為ゆえ、なくすことは出来ない。仲間同士でいじめが発生するのは脳内ホルモンのオキシトシンの作用の為。子供に限らず、大人のいじめ(パワハラ、セクハラ)に関しても、根絶ではなく、どのように対応すればいいのかが重要という。

 横綱日馬富士が、同郷のモンゴル力士貴ノ岩に暴力をふるった事で相撲協会が揺れている。私は暴力事件があった3日後の福山場所で、日馬富士の土俵入りを見ていたので驚いた。 暴行、恐喝などは犯罪行為で、いじめとは異なる。集団行動を保とうとする前頭前野の社会脳には必ず過剰制裁やいじめが発生する脳メカニズムがあるので、モンゴル仲間で礼儀作法を正すためとか、
特殊な内部事情、酒の上などとはいえ、まずかった。 920

中野信子:ヒトは「いじめ」をやめられない。小学館新書


2017/11/17 No.853
  忖度:そんたく

 歩くことにより高血圧、糖尿病、高脂血症、内臓肥満などの生活習慣病に限らず、セデンタリー症候群、ガンも予防できる。さらにうつ病、認知症は予防どころか、歩くことにより治すことができる。

  さらに千日回峰行者の如く悟りはひらけなくとも、歩くことにより幸せになれる。また意識して呼気を行う臍下丹田呼吸は、自律神経のみならず心身を整える良い効果がある。

  ということで、患者のみならず、病院職員、看護学生などに歩くことの大切さ、臍下丹田腹式呼吸法を詳しく説明し勧めている。

 毎年行っている病院旅行は年ごとに交代する幹事が行先を決めている。私は旅行先について何も言わないが、いつも患者に歩く事の大切さ、臍下丹田呼吸の大切さを話していることを幹事が「忖度」したのであろうか。今年は歩きと坐禅の旅行であった。日帰り旅行は四国の歩きお遍路体験として、空海生誕の地である仙遊寺から善通寺までのお遍路とうどん打ち旅行であった。一泊旅行は紅葉が美しい貴船神社と鞍馬寺の歩きと、雄琴温泉、比叡山での坐禅、精進料理の旅行であった。比叡山での坐禅体験は、延暦寺大書院にて、半跏趺坐による調身、意識して呼気を行う調息、数息観を行う調心、お坊さんの警策をいただく本格的坐禅であった。 

   920

 コンパクトシティ:920の独り言(784)



2017/11/10 No.852
  救急専門医


  第45回日本救急医学会が「loveEM 救急医の想い」をテーマに大阪リーガロイヤルホテルと国際会議場の13の会場で開催された。

  救急医学会は私が医師になった昭和48年に創設。当時はCTもエコーもない時代で、脳梗塞か脳出血かの鑑別も難しく、救急は主に外傷患者対応で、救急医療という専門領域はなく、学問や研究も、教育に対する体系的な方針も、無論救急医学講座もなかった。

  あれから45年、救急医学の進歩は目覚ましく、第1回救急医学会の発表は80演題であったが、今回は5600人を超える参加者に、1900を超える演題発表があった。新しい企画として、米国で医学生の人気が高い米国救急医と我が国の比較、米国ERから我が国の若手救急医へのメッセージ、男女共同参画、集中治療学会と共同での敗血症ガイドライン策定など、救急への想いを話し合うセッション会場が3日間にわたり特別に設けられていた。

 私も取得している救急専門医も4500人に達し、重篤な急性疾患の病態や治療、災害救急医療などの専門医として活躍していて、救急病院で当直しながら、片手間に救急患者を診ていた当時を思い出すと隔世の感がある。私の医師生活も救急医学会と同じ45年。   

920


2017/11/3 No.851
 力士 

 大相撲地方巡業の最後を飾る福山場所がローズアリーナで開催され観戦した。4横綱の土俵入り、取り組み、初切、相撲甚句、太鼓の実演など面白かったが、直ぐ傍で見る力士のデブさに改めて驚く。

 力士は太っているほど有利といわれるが、最近の幕内力士の平均体重は160Kgを超え、過食で太りすぎた体をもてあまし、怪我が問題視されている。

 貧しいアフリカのモーリタニアでは太った女性は美しいという考えが根強く、娘に牛乳を毎日がぶ飲みさせて、無理やりデブにするルブルという習慣が現在も行われている。一方、豊かなフランスのファッションモデルは肥満を嫌い、拒食などで異常に痩せているので、ファッション業界は痩せすぎを採用しないことにしたという。

 その昔、私が子供の貧しいころ、デブ、痛風は分限者の人というふうに見られていたが、皆が豊かで食べ物がふんだんにある時代になりデブになると、内臓肥満とか生活習慣病とか、デブは健康管理が出来ないダメなヒトと蔑まれるようになった。が、最近デブの芸能人がもてはやされているのは何故であろうか。

 それにしても、三段目で優勝した貴天秀は200Kgを超える体重で、傍で見ると驚きのデブであった。  920 

デブの帝国:920の独り言(139) 




2017/10/27 N850
 文楽
 
 
日本が世界に誇る「ユネスコ無形文化遺産」である日本伝統芸能、人形浄瑠璃文楽:近松門左衛門作の「冥途への飛脚」を改作した傾城恋飛脚―新口村の段が福山で開催された。 

 何と福山誠之館高校の同窓生藤田君が、学園紛争中の中央大学を中退し、文楽の柱になりたいと、何の縁もない竹本家に入門し50年間精進を重ね「竹本津駒大夫」という浄瑠璃文楽大夫として活躍していて、座長として故郷に錦を飾る公演という。義太夫は魂の叫びと、あふれんばかりの情けや憂い、喜び、怒りを義太夫の音曲として皆に伝えるのが役目と思い今日まで精進してきた。同級生に見てもらえるのは何よりの喜びとの手紙が届き、同窓生有志で応援することになった。 

 初めて文楽を鑑賞したが、まるで生きているかのような美しくたおやかな人形の動きと、床での力強いバチさばきの三味線との競演による竹本津駒大夫君の男と女、親と子の情愛を大きな声で腹の底から全身全霊をかけて語る義太夫節の迫力に圧倒され感動した。

 公演後の二次会には、人間国宝まじかの竹本君と団塊世代として半世紀の間それぞれの分野で活躍した同窓生が集まり旧交を温めた。

                        920     
 山川静夫:文楽 思い出話。岩波書店


2017/10/20 No.849
 チーム医療

 
第11回院内研究発表会が開催された。

  医療の高度化、複雑化、患者の高齢化などにより、多職種連携のチーム医療が求められていて、小さな病院だが、安全管理委員会、栄養管理委員会、院内感染防止委員会、褥瘡委員会、緩和委員会、デイケア委員会、退院支援委員会などのチームが活動している。

 歯科医師による口腔ケア、摂食嚥下指導、管理栄養士による栄養指導、検査技師、薬剤師による感染対策、服薬指導、理学療法士による早期離床、介護士による褥瘡対策などがされていて医師、看護師、薬剤師、理学療法士、検査技師、管理栄養士、介護士、看護学生などが集まり発表が行われた。

 チーム医療のキーパーソンは看護師で、医師の包括的指示のもと、気切、経管栄養、疼痛、発熱、脱水、便通、不眠、せん妄などへの対応。さらに慢性期病院ではあるが、10名程の人工呼吸患者や短腸症候群、食道狭窄患者への中心静脈栄養などの集中治療。慢性期の急性増悪による呼吸不全、心不全、感染症、痙攣発作、総胆管結石、外傷などに対する救急医療。担癌、末期癌患者に対する緩和医療。終末期患者の看取り、グリーフケアなど多くの対応が必要になっていて、多職種連携チーム医療で学ぶことは多い。   920


 
2017/10/13 No848
フォレスタコンサート

 
経済は一流、政治は三流と言われてきたが、経済は二流に落ち込み、政治に至っては三流どころか今回の衆議院選挙はまるでワイドショーだ。我が国は今後一体どうなるのであろうかと心配になる。が、我が国には世界に誇る日本の四季、風土、文化、優秀な本人の心がある。

 音大を卒業して歌に夢をかける優秀な声楽家のグループが、日本の素晴らしい風土と文化を歌い継ぐ童謡、唱歌、思い出の名曲、日本人の心の歌を熱唱するフォレスタコンサートが福山のリーデンローズで開催され聴かせてもらった。

 歳を取ると季節感が薄れてくるので意識的、積極的に季節を感じるべく正月には門松を作り、冬山でのスキー、花見、ホタル、夏山、雲海、中秋の名月、紅葉などを味わうようにしている。庭の小さな畑で、夏には夏野菜、スイカ、冬には冬野菜を作り、モモミカン、柿の木なども植えて、先日は吊るしガキを吊るした。

 日本の四季、風土、日本人の心の素晴らしさを改めて感じさせてもらうコンサートであった。            920


2017/10/6 No.847
  アウフヘーベン

  産業医をしている丸善製薬で年1回の講演をしているが、今年は「医療の賢い選択」という題で話をした。

  アメリカ発のChoosing Wiselyキャンペーンで各学会が指摘している過剰で無駄な検査、治療を個々に示して解説を加えた。

 高齢者に対する高度な精密医療機器による異常の発見は、本当に幸せをもたらしているであろうか。念の為、見逃し医療過誤防止の為だけのために高価な医療機器による精密検査をしすぎてはいないだろうか。無駄な検査が繰り返されていないだろうか。検査の害はないだろうか。薬を出しすぎてはないだろうか。高度な医療、高価な薬剤が本当に必要な人以外に使われていないだろうか。

  これだけ医療が進化、高度化すると、高齢者に対してどこまでが過少検査、過少治療で、どこからが過剰検査、過剰治療、無駄な医療なのかの判断が困難になっている。

 少子高齢化社会を迎え、ワイズスペンディングとする医療制度をサスティナブルにするには、医療の急速な進歩と高齢者の増加による医療費の増大を“アウフヘーベン”し、無駄をなくすワイズリーチュージングを行う医療にリセットすべきかどうか小池東京都知事に聞いてみたい。               920

920の独り言(695):Choosing Wisely 
920の独り言(835):賢い医療の選択


2017/9/22 No.845
  散骨

 先日、大腸がんの肝臓転移の女性患者が亡くなった。親は小さい時に離婚し母親に育てられたがその母親も亡くなり、結婚して娘を産んだのち本人も離婚し独居生活という家庭環境の女性。亡くなった後に一人娘がお礼に訪れてきたので、葬儀はどうしたのかと尋ねたところ、親族もお寺もお墓もないので、火葬した遺骨はネットで調べ沖縄の海に散骨するとのこと。遺骨をゆうゆうパックで送ると、遺骨と分からない様パウダー状にして散骨してもらえるそうだ。 

  生命の源である海への散骨は、個人散骨、合同散骨、代行散骨など色々な散骨プランがあり、合理的で経済的な弔いの一つとして人気を集めているという。

  核家族、少子高齢化、無縁墓の増加、生涯独身、多死時代を迎え、全国から遺骨を郵送で受け付け、宗派不問で従来のお墓とは異なった形で納骨できる屋内墓で、供養のすべてをお寺に任せる永代供養墓も流行っているという。

 海への散骨、永代供養墓などと伴に、お墓をインターネットに置くネット墓、ネット墓参りなどスマホで法事を行うようになるのであろうか。私は仏壇の前で座禅しながら般若心経を唱えている。

                        920

920の独り言(358)脱家現象
920の独り言(493)葬式はいらないか



2017/9/29 No.846
  交尾は味わい深い

  
今年のイグノーベル生物学賞は、メスがペニスを持って交尾する昆虫の発見に与えられた。共同受賞者である上村佳考氏が「昆虫の交尾は味わい深い」という本を出版されたので早速読んでみた。

 地球上で最も繁栄している一万種の昆虫がそれぞれオンリーワンの交尾器を持ち奇想天外な交尾をしている。オスとメスの違いは大きな配偶子(卵)を作るのがメス、小さな配偶子(精子)を作るのがオスで、ペニスの有無ではない。オスは多くのメスと交尾すれば子孫が増えるが、メスは交尾をたくさんしても子供は増えないので、オスは交尾に積極的でメスを巡って争い、メスは消極的でオスを吟味するというオスとメスの駆け引き交尾が動物全般の傾向。

 コオロギはメスがオスの上におぶさるようにして交尾する。カマキリは交尾中メスがオスを食べることで有名だが、実際は多くのオスは交尾後一目散に逃げるという。トンボは競争相手の精子を掻き出し交尾するので、自分の精子を掻き出されないようにオスは交尾後メスの頭をつかんで仲良さそう風に飛ぶ。二本のペニスを持つハサミムシ。トコジラミの皮下注射による交尾。などなど。

 我が国では、セイジカという人種がオスもメスもフリンという行為でマスコミを賑わし、交尾を味わい深いものにしている。

       920

 上村佳考:昆虫の交尾は、味わい深い・・・。岩波新書。
  カニバリズム:920の独り言(155)



2017/9/15 No.844
  デフリンピック

 
聴覚障害者の4年に一度のスポーツ祭典、第23回夏季デフリンピックが今年の7月、トルコで史上最多の97か国、3100人の参加者で盛大に行われ、日本選手も活躍したという。難聴者の競技記録を競う大会で、パラリンピック障害者大会とは別れたそうだ。私は「デフリンピック」なるものがあることを今まで知らなかった。

 聴覚障害には先天的聾唖、中途難聴、感音性、伝声性難聴、全聾などあるが、音の世界から隔離された人間は、話の輪に入り込めず孤独になるという。目が見えないことは人と物を切り離し、耳が聞こえないことは人と人を切り離す。盲聾唖の三つの機能を失ったヘレン・ケラー女史は、「失った三つの感覚の中で、一つだけ与えられるとしたら、私は聴力を取りたい」と言ったそうだ。

 今、若い時にストマイにより聴覚が完全に失われたおばあさんを診ている。短歌が趣味ということを聞き、月一度の受診の時に毎回カルテに短歌を書いてもらっている。聴覚が失われ、研ぎ澄まされた感性を持った観察力での短歌には毎回感動させられている。

繙けば アンダーラインの線がひかれていて あなたも読んだ聞こえぬ孤独

 草笛を聴きたくなりぬ 五十年音失いて 万緑の季に

 空想の自由を愉しみ 山畑に 草取るわれに 障害はなし

                      920

 
福島悦子の随筆:こころのしずく


2017/9/8 No.843
  流れ

 
錦織圭の欠場で淋しいが、全米オープンテニスが佳境を迎えた。1対1で4時間を超える闘いをするスポーツはテニスだけだろう。

 長い闘いの勝敗には「流れ」が大きく左右する。勝っている試合が一つのミスから「流れ」が変わり負けてしまうことはプロの試合でも、アマチュアの試合でも、“私”もよく経験する。チャンスを逃がすとピンチになり、ピンチを凌ぐとチャンスが訪れる。強い人は「流れ」を上手に手繰り寄せ、良い「流れ」を逃がさない。私は試合の中での「流れ」の行き来を見るのを楽しみにしている。 

  「流れ」とは一体何であろうか。
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしの名言を残した野村勝也氏は、「流れ」を「勢い、雰囲気、感性」と言っている。相手の動揺を感じ取りすきを突く感性。自らの感情をコントロールし相手のゆさぶりを防ぐ。ミスによる「まずい」の思いが、相手の「よし」の気持ちを勢いづける。自分の心理が相手に伝わり、干渉、共鳴し合い大きな波となったものが目に見えない力となる「流れ」。

人生にも「流れ」がある。人生の「流れ」に一番大きく影響するのは「あげまん」「さげまん」と言われる“女”であろう。

  錦織圭は「流れ」が悪くなっているようだ。     920


2017/9/1 No.842
  ギャンブル依存症


  パチンコ依存対策になるとは思えないが、大当たり出玉の上限を現行の3分の2に抑えるように風俗営業法を改正するという。

  ギャンブル大国日本で、いつでも、どこでも、手軽に、考えなくてもが依存症に陥り易く、ギャンブルの中でパチンコ依存が断トツに多く問題になっている。

  先祖の田畑を売って、1年365日休みなくパチンコに通っているおじいさん患者を今診ている。以前、パチンコ依存でサラ金に手を出し、立派な家屋敷を手放したおばあさんも診ていた。

  ギャンブル依存は本人の性格未熟でも意志薄弱でも資質の問題でもなく、「脳内の報酬系神経伝達物質が異常分泌する精神疾患であり、病的賭博という病気。依存でたくあんになった脳みそは二度と大根に戻れないように、本人の意思ではどうにもならない」と帚木蓬生氏が指摘している。

  人間は何かに依存する生物、適度な依存は生活を活性化させる。若い頃、パチンコや麻雀に夢中となり、韓国のウオーカーヒル、米国のラスベガス、モナコのモンテカルロ、スイスのチェルマットなどのカジノでギャンブルのスリルを味わった。あれほど熱中・興奮したのに、幸い依存症にならず、何故か今ではギャンブルへの興味は全く失せてしまった。             920

920の独り言(562):賭博依存症。

帚木蓬生:ギャンブル依存とたたかう。新潮選書。



2017/8/25 No.841
  無痛分娩

  無痛分娩による重篤な事故が発覚し、厚労省が研究班を立ち上げたという。

  華岡青洲が乳がん手術に世界で最初の全身麻酔を成功させたが、英国ではジョン・スノウが、クロロホルムを用いてビクトリア女王に世界で最初の無痛分娩を成功させている。ということで、欧米では無痛分娩が一般化され進化し、現在では殆どの妊婦が産科麻酔専門医による無痛分娩で出産している。一方、我が国では痛みを我慢することが美徳とされ、無痛分娩は一般化しなかった。現在でも麻酔科医が少ないこともあり、無痛分娩は産科医により特例的に行われているのが現状。

 無痛分娩は、母体と胎児という二つの命、妊娠と言う母体の生理的変化、胎児に対する影響など特別な注意が必要となる。分節麻酔、分離麻酔を応用した硬膜外麻酔による無痛分娩が主に行われているが、血圧低下、徐脈、呼吸抑制の脊麻ショックなど重篤な合併症が稀に起こるので適切な対応の準備が必須となる。

  その昔、難治むち打ち症患者に、くも膜下腔に局所麻酔薬を多量注入して全脊椎麻酔を行い治療したこと。犬を用いて全脊椎麻酔の呼吸、循環、脳圧などに及ぼす影響を動物実験で明らかにし、博士論文にしたことを思い出す。          920

 920の独り言(727):帝王切開

 木村邦夫:Total Spinal block(Cerebro-spinal anesthesia)の

実験的研究―心拍出量及び腹部臓器血流量に及ぼす影響。

麻酔:Vol27,No10.1978。


2017/8/18 No.840
  細菌の逆襲

  先日、九州の病院でカルバぺネム耐性菌による院内感染が発症し、マスコミで大きく取り上げられていた。昨年の伊勢志摩サミットで取り上げられた如く、薬剤耐性菌問題は今や世界経済や国際紛争に匹敵する国際的課題となっている。

  我が国も薬剤耐性対策アクションプランに従い、家畜の成長を促進するために飼料に混ぜて使うことが認められている抗菌薬コリスチンの使用を禁止することにしたという。家畜に抗菌薬を使う理由として感染症治療・予防に加えて、成長促進のために使用しているとは知らなかった。我が国の畜産漁業で使用している抗菌薬の量は人に使用している量の何と3倍にもなるという。 

  日本で発見されたコリスチンは緑膿菌感染に対する抗菌薬としてヒトに使用されていたが、新しい抗菌薬の開発や腎障害もあり、我が国では使用されなくなっていた。ところが多剤耐性緑膿菌に対し、欧米で有効とされていて、我が国も多剤耐性グラム陰性桿菌に対する最終救済薬として一昨年使用が承認された。

  抗菌薬コリスチンを畜産での使用は禁止し、ヒトに対する多剤耐性菌の最後の砦、最終救済抗菌薬として承認し、耐性菌対策は一歩前進した。が、早速コリスチン耐性菌発見の報告が・・・。

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2017/8/11 No.839
  手指衛生

 
急性期医療で予定を狂わせる有害事象の多くは感染が関与しているので、感染制御の知識と実践に優れた医師の認定・更新を行うインフェクション・コントロール・ドクター(ICD)制度がある。
ICD制度協議会による講習会が参加学会開催中に行われているが、麻酔、救急、集中治療学会などではいつも満員御礼状態。

 感染予防で最も重要なことはWHOから出されている「手指衛生」の理解と実践という。手指衛生ガイドラインによると、感染の多くは予防可能であるが、多くの医療スタッフは、知識はあってもそれを実際の予防の実践に結びつけていない。時間が無い、面倒などの理由で手洗いをしないことが、院内感染の大きな要因になっている。

 ゆきすぎる清潔志向に警鐘を鳴らす「清潔はビョウキだ」の著者藤田紘一郎氏は、トイレに行った後に手を洗わないという。手には雑菌が多くついているが、尿や性器は無菌のことが多い。ということは性器感染予防に小便の前にきちんと手を洗って、小便の後は手を洗わなくて良いことになる。


子供達、患者、看護師、医師に、手は小便の後ではなく、小便前にしっかり洗うように教育・指導すべきかどうか。   920

2017/8/4 No.838
  長野山―馬糞ヶ岳縦走


  先日の福山文化大学は、日本におけるロボット開発の第一人者、古田貴之氏が「ロボット技術と未来社会」の演題で講演された。ロボットで未来社会を明るく変えるとのことで、様々な革新的なアイデアを話された。東京オリンピックでは、お台場をロボット技術を駆使した未来社会を描く場所にするという。

  講演を聞きながら、コンクリートで囲まれた高層マンションに住み、ロボットにより超安全で超便利な生活を送る未来社会で、人間の五感はどうなるのであろうかと心配になった。

 翌日、周南市の境で中国山脈の西の端にあたる深い山々の中にある長野山から馬糞ヶ岳への縦走に誘われ、朝早く起きて自然の中で五感を刺激してきた。平家ヶ岳とともに平家伝説で名高い馬糞ヶ岳は秘密尾岳と呼ばれていたが、平家残党の軍馬の糞で山の形が変わり名前が変わったという。南限のブナ原生林やササや鳥の鳴き声など、深山幽谷の趣きがある。

  奥深い山の縦走路で、暑さのため同行者が熱中症で動けなくなるアクシデントがあったが、助け合いながら何とか下山。自然の試練を克服した後、石船温泉で美味しい天然アユの塩焼きを食べ熱中症と五感を癒してきた。                920



2017/7/28 No.837
  ネガティブ・ケイパビリティ


 昨年の日本麻酔科学会で、帚木蓬生さんが特別講演された内容を詳しく論じた、“ネガティブ・ケイパビリティ:答えの出ない事態に耐える力“、と題する本を出版された。

 東大文学部卒業、九州大学医学部卒業、フランス留学、白血病罹患、精神科で開業し、午前中は患者の診療を行い、午後からは「閉鎖病棟」、「ギャンブル地獄からの生還」など年1冊の小説を書き続けている作家という経歴に加え、昨年の学会講演後会場の外でたまたま出会い、素晴らしい講演で感動したことを話したところ、持っていた著書「悲素」に木村邦夫先生へ帚木蓬生とサインをして下さり、ころりとファンになってしまった。

 日々の身の上相談 精神医療、終末期医療など、多くの解決できない問題に対して医師に何ができるのか。医師に必要なことは、早急な見せかけの問題解決ではなくて、「共感」の土台となるネガティブ・ケイパビリティを持つことと言われる。

 私は難治、末期の入院患者に対応する時は手を握るようにしているし、時には般若心経を語ったりもしているが・・・。920

 帚木蓬生:ネガティブ・ケイパビリティ。答えの出ない事態に耐える力。朝日新聞出版。

920の独り言(782):Negative Capabilityの力。

2017/7/23 No.836 
 金華山


 第51回日本ペインクリニック学会が「痛み治療におけるサイエンスと技の伝達」をテーマに岐阜長良川国際会議場で開催された。
国際会議場から長良川を経て目の前に急峻な金華山があり、金華山頂上には織田信長が天下統一の拠点とした岐阜城が見える。今年は信長入城450周年で、さまざまな記念事業が開催されていた。

 朝早く起きて鵜飼で有名な長良川沿いを歩き、百曲り登山口から金華山に登ってきた。登山道は整備されているとはいえ、ジグザグと蛇行し岩盤がむき出しの場所もあり、蒸し暑さとともに汗びっしょりになって、ばててしまった。戦国時代に信長や秀吉などの武将たちが日々天守まで登り降りしていたとは信じられないきつさであった。

 独立峰である金華山の頂上からは380度の展望で木曽川、長良川沿いの濃尾平野が名古屋まで一望できた。城下町をすべて見下ろすことが出来るし、見せる山頂の天守閣としても、天下人を目指した織田信長が拠点としたのが良く分かった。

 金華山登山による脚の痛みはペインクリニックではなくて、織田信長も入ったと思われる長良川温泉の鉄分を多く含んだ赤銅色の露天風呂で治してきた。             920



2017/7/14 No.835
  賢い医療の選択

 
我が国が先頭を走っている長寿化、生活習慣病の増加、医療の高度化、医療費高騰は先進国のみならず、開発途上国でも進んでいて、世界の手本となる持続可能な医療制度が我が国に求められている。その為には、米国の学会から発表され世界的な広がりを見せているChoosing Wisely:医療の賢い選択により、過剰検査、濃厚治療など無駄な医療を少なくすることが重要となっている。

万が一のための無駄な検査として、腰痛に対するレントゲン検査、脳ドックのMRI検査、軽度な頭部外傷に対するCT検査、術前のルーチン検査、高齢者のPSA検査による前立腺がん早期発見などなど。無駄な治療として風邪、咽頭炎、副鼻腔炎、気管支炎に対する抗生物質、高齢者の細菌尿症に対する抗菌薬投与は耐性菌を生じ、益より害のほうが多いという。高齢者に対する抗精神薬、多剤の生活習慣病薬投与なども副作用が問題で無駄な治療になるという。

 患者の健康志向の高まりと伴に医療の高度化で、どこまでが必要でどこからが無駄なのか、解答が得られない場合が多い。癌検診不要、抗がん剤不要、高齢者内服不要など週刊誌を賑わす極端な意見にならないように、患者さんと相談しながら、「賢い医療の選択」をしたいものだ。

 920の独り言(695)Choosing Wisely
 920の独り言(780)薬剤耐性菌


2017/7/8 No.834
  ホタルの乱舞

 
ホタルの季節になると、野阪昭如氏の小説をアニメ化した映画「火垂の墓」で防空壕の中でホタルを飛ばすシーンを思い出す。又その昔私が幼い頃、両親に連れられ「ホタル狩り」に行き、乱舞しているホタルを網でたくさん捕まえ、虫かごに入れて持って帰り、蚊帳の中で飛ばした古き懐かしき時代を思い出す。

 歳を取ると季節感が鈍くなるので、毎年梅雨の季節になると、出来るだけホタルを見に行くことにしている。最近ではホタルを育むビオトープがすすめられ、福山の服部川、近隣の藤井川、原田町でも見ることができるようになった。御調町の無農薬ゲンゴロウ米の畑でホタルを見ることも出来た。

 今年は、安芸高田にある温井ダム下流の滝山川のホタルがすごいというので見に行ってきた。前日に雨が降ったこともあり、当日の夜8時ころ周りが暗くなった滝山峡では、迫っている森の中に無数の発光が強い源氏ホタルの光や、峡谷の川の方にも多くの乱舞している源氏ホタルの光を見ることが出来、暗闇に浮かび上がるホタルの幻想的な光に幼い頃を思い出し感激した。

 ホタル観賞の後は温井スプリングの露天風呂で疲れを癒してきた。      

     
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2017/6/30 No.833
 死に場所

 
先日、大腸がんの肺肝転移の男性患者が入院してきて、家に帰りたいと言うので、看れないという妻を説得して外泊してもらった。その夜に急変し呼吸が止まったとのことで家に行くと、子供達とその伴侶や小さな孫たちが狭い部屋で泣いていた。皆に素晴らしい看取りをしたと、「魂の話」をして褒めてあげた。

 終末期の在り方について男女の違いが指摘されている。 男性は病気での入院以外は、妻が生きている間に介護されて自宅で死ぬと無意識に思っているので、終末期の死に場所は考えない傾向が強い。一方、女性は夫が亡くなった後に独居となり、寝た切り期間を経て死ぬ事を想定するので、終末期について男性より真剣に考える。女性は子供や嫁に介護されて看取られるという状態を想定し、子供達に迷惑をかけたくないので、本当は自宅で死にたいが実際は難しいと考え、病院や施設を希望するという。

 超高齢化社会となった我が国で、高齢者による抗加齢と平穏死という対立思想がともにブームとなっている。抗加齢によりいつまでも歳を取らずに、自宅でぴんぴんころりと平穏に逝きたいと思いたいが、そうは問屋がおろしてくれない。

 男は先に逝けるので良いが、長寿化する高齢「独居ばばあ」の死に場所がこれから我が国の大きな問題となる。どうする?

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2017/6.23 No.632
  脱体育会系

 
その昔、私の中学校の軟式テニス部は名門で伝統的に強かったが、その練習は厳しく、1年生は奴隷で毎日球拾い、2年生が平民、3年生は天皇と、典型的な体育会系の組織であった。その様な環境で育ったので、私はスポーツチームが強くなるには、体育会系による縦の関係が大切と思ってきた。

 ところが、前人未到の8連覇を達成した帝京大学ラクビー部監督、岩出雅之氏の講演を聞いて驚いた。

 体育会系で育った監督自らが脱体育会系に変わり、運動部特有の上下関係を無くした。他人からでは人は変えられず、自ら成長する人、その集まりが強い組織を作る。その為には脱体育会系が必要と。上級生は率先して練習後の片づけを行い、3年生は1年生の話を聞きながら皆で自らの練習方法を考えるという。監督は学生に教えるのではなく自分達で考えさせる。練習を押し付けるのではなく自分で考え行動するようにさせる。誠実な人として成長するための自覚を促す。誠実は束になれる力で、束になったエネルギーは大きな力を発揮し、ここ一番で勝利に導く、などなど。

 監督が寮で掃除をしていると、1年生は知らん顔をし、2年生は気まずさそうな顔をして立ち去り、3年生は代わってやりますと言い、4年生はすでに掃除をしているようになると・・・。

 岩出雅之:常にさらなる進化を目指して:組織つくりとリーダーシップ。 第20回日本臨床救急医学会総会特別講演。



2017/6.16 No.631
  保健医療2035(ニーマルサンゴー)

  先進国で最も公平で安価で高度な保健医療がフリーアクセスで行われてきた我が国で、未だかつて経験したことのない少子高齢化、医療ニーズの増大、医療の高度化、医療費増大による危機的財政問題に対応するには、現在行われている単なる負担増と給付削減では、素晴らしい国民皆保険の現制度の維持は困難と思う。

  世界中が直面する高齢化、生活習慣病増加、医療の高度化、医療費増大による財政問題で、世界が注目している我が国の素晴らしい保健医療制度を持続可能にするには、どうしたら良いであろうか。

  20年後の近未来2035年を見据えた保健医療政策のビジョンが、次世代を担う40歳前後の若い有識者によって提言された。その座長を務めた医師の渋谷健司東大教授の講演を聞くことができた。

 費用対効果を見直し、より良い医療をより安く。量の拡大から質の改善へ。行政による規制から当事者による規律へ。キュア中心からケア中心へ。タバコフリー社会など、医療の効率化の為に、総合専門医の配置によるかかりつけ医制度を確立し、世界で広がっているChoosing Wisely:賢い医療の選択による無駄な医療を省くことの重要性などを提言された。上手くいくと良いが。

               920

 渋谷健司:日本医療の未来:制度からシステムへ。
 第20回日本臨床救急医学会総会特別講演。



2017/6/2 No.830
  救急災害医療

 
先週は米子で日本救急医学会中国四国地方会が、今週は日本臨床救急医学会が、「明日を支える救急医療」をテーマに東京ビッグサイトで開催され参加してきた。

 東京への新幹線からの景色は、先日乗ったドイツ新幹線と異なり、狭い平野に住宅がひしめいていて、火山列島の我が島国は山国という事を実感する。東京に行く時は必ず富士山側の指定席を取ることにしているので、今回は美しい富士山を見ることが出来た。

 お台場の巨大な高層ビル群は、いつもの事ながらバベルの塔を思わせて恐怖感を覚える。首都直下型大地震が発生すると、どうなるのであろうか、100年後200年後にこれらコンクリ―トビル群はどうなっているのだろうか。

 東南海地震が近づいているので、尾道市医師会でも災害対策マニュアル作成委員会が開催され対応を検討しているが、人知を超えた自然大災害に対し我々は為す術がない。

 不自然な巨大都市東京のライトアップされたベイブリッジや高層ビル群の美しい夜景を見ながら、巨大地震がこないよう願いながら、3万円の美味しい米沢牛のステーキを食べてきた。

 実り多い学会であった。             920


2017/5/20 No829
  郷愁の旅

 
ベルリンからドイツ国際急行ICEに7時間乗ってドイツを縦断し、スイスのバーゼルを訪れた。ドイツの新幹線はトンネルが全く無い。見渡す限り農地、牧草地、菜の花畑が続き、所々緑に囲まれた街と、時にフランクフルトの様な大きな都市を通る。日本様にトンネルや山々を見ることはなく、ドイツと日本の国土の違いを実感する。

 38年ぶりのバーゼルはライン川もアルトシュタットの街並みも全く変わっていなかった。住んでいたアパートも、毎朝モーニングを食べた小さな喫茶店も大学病院も変わらず、昔を思い出しながら喫茶店でコーヒーを、病院の職員食堂で昼食を食べてきた。38年前の地図を持って、忘れてしまったドイツ語が行きかう郊外からアルトシュタットに縦横無韻に走るトラムに乗ったが、トラムの番号、停車地名が全く変わっていなかったのには驚いた。

 今回のもう訪れる事はないであろうバーゼル訪問は、有名な名所旧跡を巡る観光旅行ではなく、遠くの知らない街を歩く旅でもなく、癒しの旅でも放浪の旅でも、無論仕事でもない。40年も前の辛くても輝いていた青春の思い出を巡る郷愁の旅とでもいうのでろうか。

冥土の土産に良い“思い出の思い出”を作ることができた。

                         920

 バーゼル大学:920の独り言(228)


2017/5/12 No.828
  ベルリンの壁

  
ドイツの首都ベルリンのミュラー市長が、トランプ米国大統領がメキシコ国境に壁を建設することに対して、我々は有刺鉄線やコンクリートで遮断された苦しみを良く知っている。「孤立と排除という誤った道」を歩まないよう警告したそうだ。

 伊藤博文、森鴎外が留学したベルリンの歴史は20世紀の歴史と言われる。ナチスドイツによる第二次世界大戦敗戦後、私が生まれた1948年に東西ドイツに分断され、ベルリンも東西に分断、孤立化。社会主義の東から豊かになった自由主義の西への住民流出防止のために1961年ベルリンの壁が突然建設され、フルチュホフ対ケネディの米ソ冷戦が悪化。ベルリンをめぐる一触即発の攻防、戦争危機最前線となる。その後ゴルバチョフによるペレストロイカに伴い1989年、突然ベルリンの壁崩壊。東ドイツの崩壊後、東西ドイツが再統一され首都がベルリンに移転され現在に至っている。

 娘が居るので、歴史に翻弄されたベルリンを訪れ、1945年4月30日に自殺したヒトラーの地下室を70年後の同日に見学した。東西ベルリンの境界となったドイツ再統一のシンボルであるブランデンブルグ門や、ベルリンの壁とトンネル跡、ドレスデンのザクセン・スイス国立公園などを案内してもらい歴史に思いを馳せてきた。   

          920


2017/4/21 No.827
  人口知能(Artificial Intelligence)

  ビッグデーターを記憶したAI囲碁プログラムが有名囲碁棋士を負かし、最も複雑度の高いゲームと思われていた囲碁界に衝撃が走り、これからゲームの世界でヒトはAIに勝てなくなるという。

  政治や経済や軍事にとどまらず様々な領域でAIが進化し大きな役割を果たす様になっている。医療の世界でも画像診断・治療指針など盛んにAIが導入され、そのうち医師は必要なくなるのではといわれる。が、

  ヒトは正解のある問題に対する記憶、予測、判断などの能力でAIにかなわないので、医師が間違いを減らすための診断・治療指針などにAIを利用する価値は大きい。しかし、複雑系の医療には正解のない問題が多く、行った医療が良かったのか悪かったのか分からないことだらけ。我々はその様な環境の中で経験を積みながら良いと思われる医療を行うべく日々努力している。医療には経験を積んだ医師が必要で、正解のない問題から学ぶことが出来ないAIは医師にとって代わることはできないであろう。

 囲碁の大竹英雄名誉棋聖は、AI囲碁は「強いけれど、品がないと言われたという。医師はAIを上手に利用し、AIには不可能なネガティブ・ケイパビリティを磨き、品のある医療をしたいものだ。
                       920


2017/4/14 No.826
  雅楽のこころ


雅楽師の東儀秀樹氏による「雅楽のこころ、音楽のこころ」と題するすばらしい講演を聞いた。

雅楽は日本の伝統文化であるにもかかわらず、実際の雅楽を見たり聞いたりする機会が少なく知らない人が多く、篳篥(ひちりき)、竜笛(りゅうてき)、笙(しょう)の三管を実際に奏で、雅楽のこころを分りやすく解説された。

雅楽は大陸から伝わってきた音楽を日本古来の古楽と融合して、神仏習合したごとく日本化して、千四百年の間伝承されている日本最古の古典音楽。皇室の保護の下で神、仏への捧げものとして、加えて皇室の音楽として継承されてきた。仏教の面授のごとく口伝え、耳の記憶、身体で伝え続けられていて、紙に書かれていないが正確に伝承された芸術文化で、世界最古のオーケストラと言われている。

 以前にもコンサートで聞いたことがあるが、講演の後に笙、篳篥で日本の唱歌を奏でられ、日本人である私の心にしみこんできた。

 これからのグローバル世界では、語学力よりも文化力が求められる。子供に英会話を教えるくらいなら、素晴らしい日本の芸術文化である美しい日本語の唱歌とか、雅楽の心を学ぶ方が国際社会で、日本人として活躍できる人材になる、との話に全く同感した。

    篳篥:920の独り言(548)


2017/4/7 No.825
  男は黙ってサッポロビール


一次産業や製造業などから金融をはじめとするサービス業が経済の中心となり、企業が求める人材の最も重要視される素養は責任感ではなくて、コミュニケーション能力だそうだ。

「沈黙は金」といわれるように、日本男子は寡黙で真面目に責任感を持って地道に仕事をする人が立派な人と思っていた。三船敏郎による「男は黙ってサッポロビール」というテレビCMを思い出す。当時サッポロビールの面接試験の時、何も答えられなかっ学生が最後に一言“男は黙ってサッポロビール”と話し、合格して出世したという逸話を聞いたことがある。

 日本男子は女性に比べて本質的にコミュニケーション能力は劣っていて、農業、漁業、製造業などでは口数が少なくても男は黙ってサッポロビールでよかった。が、産業構造が変わり、コミュニケーション能力を求めすぎる最近の風潮が、若者を引きこもりに追いやっているという。

グローバル社会となり、コミュニケーション能力を高めるために小学生に英会話教育を行うという。日本語さえろくに話せない男の子を含めた子供達全員に英会話を必須化するという文科省の官僚による馬鹿げた教育方針にはあきれてしまう。    920


2014/3/31 No.824
  プレミアム・フライデー

 
私達団塊世代は、資源のない戦後の貧しい我が国を、アメリカに追いつき追い越せと、経済大国を目指し「24時間働けますか」、「オーモウレツ」などと、ウサギ小屋に住み蜂の様に働きに働いて、物が溢れる豊かな世界第2位の経済大国にしてきた。

 あれから50年。日本の労働時間は欧米各国と比べて長いので、長時間労働による過労死、自殺を予防するため、働きすぎに初の法規制として(ノブレス・オブリージュの医師は除く?)残業超過に罰則など長時間労働の改善策が提言された。

月末の金曜日の午後3時には仕事を早く切り上げ退社し、週末の時間を、買い物や食事や娯楽などに振り向けて、個人消費を増やして経済成長をはかる「プレ金」が先月から始まった。

「プレ金」により我が国の多くの労働者の働き方が改革し、消費が拡大し経済成長の助けになると本当に思っているのであろうか。アベノミクスの失速を防ぎたい霞が関の経済産業省の東大出官僚の発想による理念のない馬鹿な政策にはあきれてしまう。

 あのムヒカさんが言っていた「経済発展のための奴隷になってはいけない。多量消費のためだけに長時間働き、人生の大切な時間を無駄にするな」と。          920


2017/3/24 No.823
  サイコパス

  
とんでもない詐欺を平然と遂行する、ウソがばれても、むしろ自分が被害者であるかのようにふるまう。詐欺事件を犯したにもかかわらず、全く反省の姿を見せず、自分の正当性を主張する手記などを世間に発表する。外見は魅力的でプレゼンテーションは上手で面白い。など、「スタップ細胞はあります」でマスコミを賑わした小保方晴子氏はサイコパスと思うが、今、ワイドショーを賑わし

ている森友学園の籠池氏も、どうでもいいがサイコパスであろう。

 サイコパスは、犯罪詐欺師、冷淡で残虐な殺人犯と思っていたが、頭の回転が良く上手に話をする。共感せずに平気で他人を傷つける。罪の意識が乏しく良心に欠ける。人の気持ちを食い物にする。自分は被害者と他人の同情をひこうとする。情動が乏しい、自分を過大評価、自信過剰、衝動的行動など、大胆な決断をしなければならない大企業の社長、弁護士、驚くことに外科医にも多いそうだ。

 平気でうそを言い決断しなければならない政治家はサイコパスでなければ大成できないと思う。織田信長、毛沢東などはサイコパスと言われている。トランプ米大統領もサイコパスで、金正恩率いる北朝鮮は国そのものがサイコパス国家と言えるであろう。 920

 中野信子:サイコパス、文春新書。



2017/3/17 No.822
  地方創生

 
 第7期福山文化大学の今年初めての講師は、安倍総理の次を狙う石破茂氏で、「地方創生」と題して立派な講演をされた。

 今後我が国に降りかかる重大問題は、20年以内に80%の確率で必発する南海トラフによる首都直下型地震と東南海地震による大災害問題。と、少子高齢化を伴う人口減少問題。若者が子育て環境の悪い東京圏に集中し続けた結果、日本は人口減少社会に突入した。地方では高齢者すら減り始め、大都市では高齢者が激増する。高齢化に隠れて人口減少は霞んでいるが、20年後には子供を出産する20-30歳代の若い女性が全国で約半数に減少する。(20年後、尾道の人口は14万5千人が10万人を切り、出産する若年女性は現在の1万4千人より43%減少し8千人弱になる。)

  これから必要なことは、各地方の産・官・学・金・労・言、特に若者の意見を取り入れ、それぞれの地域の特性を生かした地方創生の必要性を訴えられた。

 人口減少、経済縮小時代となった今、戦後の人口増加、経済成長を前提にした所得倍増とか日本列島改造とかの国家戦略ではダメで、これからは上手な撤退戦略を考えるべきと思う。アベノミクスを変えた撤退戦のリーダーに石破氏はなれるであろうか。 920

  増田寛也:地方消滅。中公新書。





2017/3/10 No.821
  死にたくなければ女医を選べ


  米ハーバード大学チームの日本人研究者によると、米国で65歳以上の内科入院患者130万人分のデータを解析したところ、入院から30日以内の死亡率や、退院から30日以内の再入院率が男性医師に比べて女性医師の方が有意に低かった。その差は何と米国のメディケイド患者だけでも死亡者数は年間3万2千人、全米での1年間の交通事故死亡者数に匹敵する数になるそうだ。

 女性医師は軽症患者ばかりを診ているためと思ったが、そうではなかった。女性医師は男性医師に比べて診療ガイドラインを順守する。患者と密接なコミュニケーションを行っている。などの違いが患者の病状の経過を良くしていると考察されている。

 女性は元来、読解力、コミュニケーション力など男性より優れているうえに、最近の男性の学力低下もあり、高等教育では女性が男性を圧倒している。米国では医科大学の卒業者は女性が半数以上となっているが、結婚や子育てで、実際に働いている女性医師は三分の一しかいないという

 我が国でも女性医師の数が増えているとはいえ、教授、院長などはほとんどが男性だが、時代は変わりつつある。私が病気になったら美しい女医さんに診てもらうことにしよう。    920


2017/3/3 No.820
  写実絵画


 福山美術館で「驚きの写実絵画―ホキ美術館名品展」が中国地方で初めて開催され、素晴らしいと勧められ見てきた。

 写実絵画は15世紀初頭にレオナルド・ダ・ビンチを頂点にした遠近法、陰影などの技法により描かれた。19世紀に写真が発明され、写実は写真が主流となり絵画は抽象画が全盛となったが、最近になり再び写実絵画が注目されているという。

  ホキ美術館は医療品を扱う株式会社ホキメディカル創業者の保木将夫氏が日本初の写実絵画専門の美術館として創設し、写実絵画の収集と若い写実画家の育成に貢献しているそうだ。

  絵画でありながら実物を見ているような、実物以上にリアリティを感じるような写実絵画の数々に驚いた。写実絵画は1枚の作品を完成するのに1年もの歳月を要することも珍しくなく、長い製作時間の中で、存在そのものが実在よりも鮮明になり、精巧な絵画に作者の思いが凝縮されてくるという。

  少女像や自然の精巧な写実絵画も素晴らしかったが、女性の美しさを徹底して描いた「横になるポーズ」は、週刊誌のヌード写真などでは得られない別格なエロスと美しさを感じることができた。

 私も写実絵画を描いてみようと思う。     920



2017/2/24 No.849
安楽死(2)

 脚本家の橋田壽賀子が安楽死を望んでいるとマスコミで発表し、尊厳死・安楽死が文藝春秋で取り上げられた。知識人である著名人60名のアンケートで安楽死を容認、希望する人が多いのに驚いた。

  高齢女性患者の多くは安楽死大賛成で、寝たきりになったら直ぐに死なせてくださいというので、次のように諭している。

  「私達の誕生、死などは遥か昔から決まっていて、決められた命を生き切ることが大切。飢餓、栄養失調、感染症などで多くの子供が死んでいる貧しい国の子供達の希望は大人になる事で、必死に生きようとしている。このように大切な命をもう十分生きたから、自分の命だから、苦しいから、迷惑をかけるから、早く死なせてほしい、などと言うのは傲慢な驕りだ。私達は自分の力で生まれ、自分の力で生きているのではない。「生かされている」ということを知らねばならない。こういう考えは欧米人には理解できないが、日本人は分かるはず。安楽死などと命を粗末にする様なことを言っているから、それを聞いたお天道様から天罰が加えられ、何年も寝たきりで苦しんで生きながらえさせられているんだ。」

  ということを話すと多くの患者が納得する。でも寝た切りになったら直ぐに逝かせてと願うので、分かったと答えている。

                       920 

 安楽死:920の独り言(739)
 逝けない社会:920の独り言(708)
 安楽死ツーリズム:920の独り言(534) 


2017/2/17 No.818
  第8回京都環境殿堂


 毎年参加している京都国際会議場での京都環境殿堂表彰式、国際シンポジウムも8回目となった。今回の環境殿堂入りは、日本風土の研究でフランスにおける日本文化研究の第一人者であるフランス国立高等研究院教授オギュスタン・ベルク氏。ペシャワールで難民や貧困層の人々の診療、アフガニスタンで水利事業、農村復興に携わっている医師の中村哲氏。世界で最も質素な大統領として有名な前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカ氏の3名であった。

 ホセ・ムヒカ氏に会えるのを楽しみにしていたが、残念ながら病気で欠席された。が、現在のグローバリズム、資本主義、市場経済による多量消費社会に対して警鐘を鳴らすビデオ講演は説得力があり感動した。

  殿堂入り者の講演も素晴らしかったが、ゴリラ研究の山際壽一京大総長を交えた「人と自然の関係を考える」国際シンポジウムは、経済成長を追求するアベノミクスの安倍首相やトランプ米大統領に是非聞かせたい様な、品のある知的で格調高い話し合いであった。
地球温暖化の増悪、生物多様性の破壊など地球規模での環境は絶望的な状態で、人間を含めたすべての生物の生命基盤を危うくしている。人間は自然の中で生かされているという「人と自然の共生」を考える品のある知的な時間を過ごすことができた。  920



2017/2/10 No.217
  スキー

 
先日病院職員と女鹿平スキー場に行き久しぶりにスキーと温泉を楽しんできた。昔と違い、若者はほとんどがボードで、私の様にストックを持ちスキーで滑っているのは珍しい存在であった。

私が初めてスキーをしたのは、昭和42年大学に入学して直ぐの春山で、栂池高原から白馬岳に登った時の山スキーであった。

当時栂池高原の鐘の鳴る丘は小さな民宿が数軒あるだけのスキー場であった。その後、バブル時代の象徴といわれた爆発的なスキーブームが到来し、栂池高原にも関西の小中高の学校の先生が脱サラしてロッジ、ペンション経営するのが流行り、数年もたたないうちに多くの宿泊施設ができていった。スキー修学旅行なども行われ、シーズン中には非常に多くのスキーヤーが集まり骨折、捻挫が激増したので、スキー場から診療依頼がきて、外科系の医師でチームを組み診療とスキー三昧を楽しんだことが懐かしく思い出される。

 あれから40年。バブル崩壊とともに若者のスキー離れ、スキーヤーの激減、スキー場の閉鎖、ボードによる復活など目まぐるしく変わってきた。当時大変世話になった可愛い二人娘がいた元中学校先生が開いたペンションは名前を忘れてしまったが、どうなっているであろうか。                920


2017/2/3 No.816
  男はつらいよ

かつてほとんどの国で、女性の方が男性よりも幸福度は高かったそうだが、最近では男女の差が縮まって、国によっては男性の方が女性よりも幸福度が高い社会も登場している。ところが、日本だけ女性と男性の幸福度の差が縮小せず、男性不幸社会だという。

 我が国で男性は仕事が自己存在の根拠で、ライフワークとなっているので、無職者、非正規雇用者、失業者、退職者の幸福度は低い。一方、女性は退職者が学生に次いで幸福度は高いそうだ。 

仕事中心の生活に追われ家庭生活を放棄し、生活の面で妻に依存してきた男性が定年になり一日中家に居ると、昼食の世話など夫の存在は妻のストレスとなり、夫源病になった妻から熟年離婚を言い出される。中高年の自殺、孤独死、高齢犯罪者はほとんどが男性で、寿命も男性が短くなっている。

 私は料理もできず、掃除洗濯もできず、貯金通帳のありかも分からず、買い物もできず、近所付き合いもできず、ゴミ捨てもできないので、一人になった時の為にと、まずは手始めにペットボトルの蓋は別にするなど、妻からごみ選別の仕方を厳しく指導されている。

 我が国のこの様な男性不幸社会では、男は死ぬまで働いて、妻より早く死ぬしかないであろう。         920

 とまどう男たち:伊藤英昭、山中浩司。大阪大学出版会


2017/1/27 No.815
  横綱は孤独であれ

  孤立とは個人と社会との断絶のことで、付き合いがなく困った時に助けてくれる人がいない状態のこと。最近、地縁がなく親戚家族もいない孤立した独居高齢患者を診る機会が多くなった。

 無縁社会における孤立死は多くが男性で、高齢男性の孤立についての研究は多いが、若者男子の「ぼっち、孤立」に関しての調査研究は少なく、今後大きな問題になるそうだ。

 男性は弱みを見せてはいけない、我慢しなければならないなどの男らしさが友人に相談できない孤立に陥り易い人間にしてしまう。一方、女性は悩みや心配事を聞いて助けるという女性らしさが友人などからサポートを受けやすく孤立しにくい。今後我が国は非正規雇用などで生涯未婚男性が多くなり、家族や会社に頼ることが出来ないうえに、友人にも相談できず、ただでさえ孤立傾向の強い日本男子は、孤立の危機に瀕するという。

 千秋楽に阿吽の呼吸で白鳳を破った稀勢の里が横綱に昇進した。「横綱は孤独であれ」との亡き師匠の言葉を胸に精進するという。自らを孤独な状態に身をおいてこそ、自己への精進が可能となり、他者への理解力も深まり、強くて立派な横綱になれるという。

 孤立の危機に瀕した弱弱しい男たちは、稀勢の里にならい精進し、孤独力をつけ強い日本男子になってもらいたいものだ。 920

とまどう男たち:伊藤公雄、山中浩司。大阪大学出版会。



2017/1/20 No.814
  海賊と呼ばれた男

  出光興産の創業者である出光佐三を描いた百田尚樹の「海賊と呼ばれた男」が映画化されたので見てきた。昨年、出光と昭和シェル石油の合併に対して、出光の創業家で佐三の長男である出光昭介氏が反対を表明し「創業家の乱」で合併計画が立ち往生していることが新聞で大きく報道されていたこともあり、面白かった。

 映画の中で強調されていたが、出光創業精神は国のために日本人の「和をもって貴しとなす」精神を貫き、金儲けの奴隷とならず、損得勘定による合併など出光の流儀ではないという。

一方、高額な薬が次から次に開発販売されるようになり、「医学の進歩が国を滅ぼす」との本が出版されたほどだが、我が国最大手である武田製薬は年俸10億円の外人社長が、スイス製薬メーカーを1兆1千億で買収後、米国のベンチャー企業も9千億円で買収、さらに今年はがん治療薬の企業を6千億円で買収した。グローバル企業として利益を上げ、株主に利益を還元するそうだ。
海外のメガファーマに対抗し、勝ち残るために外国企業の買収に暗躍する武田製薬の外国人社長を映画化すると「海賊と呼ばれた男」と違った意味で面白くなると思う。

 里見精一:医学の進歩が国を滅ぼす。新潮新書


2017/1/13 No.813
  とまどう男たち

 
今年も、テレビのワイドショーは東京都知事の小池劇場で賑わいそうだ。舛添前知事や「厚化粧の年増」などと言っていた石原慎太郎元知事、森喜朗東京オリンピック組織委員長、東京都議会のドンと言われていた内田茂氏などは、戸惑っているだろう。

 日本の男性がジェンダー問題に関心を払わないのは、日本男子は変化が怖いためだという。女性は変化に柔軟な対応をするが、男性は変化を前にすると身構えて防御的になる。日本男子の「男らしさ」とは「自分を変える」ことを許さないこと。日本の男は男性社会を変えず既得権益を守りたいと思っている。 

労働集約型の工業社会から情報・サービス社会に時代は変わり、男中心の産業は大きく変化した。男は仕事、女は家庭という関係も変わった。女性は元来読解力、コミュニケーション力など男性より優れているうえに、男性の学力低下もあり、高等教育では女性が男性を圧倒している。が、日本の男たちはなかなか古い「男らしさ」を変えることが出来ず、戸惑い状態に陥っている。

  チェンジで登場したオバマ米大統領がトランプに変わる。世界も大きく変わるだろう。私も変わらなければと思うが、日本男子の私は歳をとり変わることができず戸惑っている。    920

 とまどう男たち:伊藤公雄、山中浩司。大阪大学出版会。



2017/1/6 No.812
  古希


 古希を迎え、寄る年波を感じ、勝手ながら本年をもちまして年始のご挨拶を控えさしていただく、と書いた同級生からの年賀状が届き驚いた。同級生が古希ということは、私もひょっとして古希?

還暦は満年齢の60歳、数え年の61歳で祝うが、古希は数え年で70歳、満年齢での69歳で祝うという。古希、喜寿、米寿など長寿の祝いは、還暦と異なり数え年で行うのが通例だそうだ。

寿命が延びたので、還暦を迎えるのは当たり前となり、古希に達するのも稀ではなくなった。人が歳を取らなくなったのは、良く言えば、元気な高齢者が増えたということだが、悪く言えば、人は以前の様に歳を取れなくなり、かつての高齢者が備えていた風格、威厳を持ち、円熟した高齢者になれなくなったということであろう。

日本老年学会は、加齢に伴う衰えが10年ほど遅くなり、心身が若返っているとして、65歳以上とされていた高齢者の定義を75歳以上に引き上げるべきとする提言を発表した。65歳から75歳は「准高齢者」として就労やボランティア活動を薦めるという。

古希を迎えたからといって、生前退位し威厳を持った高齢者としての隠居生活をさせてもらえなくなってしまった。  

              920

黒井千次;老いのかたち、中央新書。


2016/12/30 No.811
  SMAP解散

 
今年は、団塊世代生まれで、福山誠之館高校の卒業50周年記念同窓会があった。戦後の混乱期に生れ、卒業後それぞれの分野で、豊かさを手に入れるべく50年間モーレツに働き、日本を経済大国に押し上げる原動力に貢献し、禿・白髪となった同窓生が集まった。

  私が生まれた昭和23年の出生数は日本史上最大の約280万人。今年の赤ちゃんの出生数は100万人を切った。死亡者数が120万人を超えて約30万人の人口が減少した。尾道市が2個消滅したことになる。これから少子化、高齢化、死亡増加による人口減少は、ますます顕著になってくる。

  一世を風靡し長い間人気を保っていたSMAPによるスマスマが「920回」で最終回を迎え、解散消滅するという。同様に、団塊世代が活躍した時代も終焉を迎えた。活躍した団塊世代が後期高齢者となって消滅するまで我が国は大変難しい時代を迎える。これから訪れる困難な時代には、どうにもならない難しい問題を受け入れ、考え、何とか持ちこたえていける力が重要になってくると思う。

  ということで、今年の年賀状には「下山の時を迎え、ネガティブ・ケイパビリティの力が必要」と書かせてもらった。   920                       

団塊世代:920の独り言(39)

Negative Capability:920の独り言(782)



2016/12/23 No.810
  予想外


私が選んだ今年の重大ニュースは、英国がユーロから離脱したこと、トランプがヒラリーを破り米国大統領に当選したこと、朴韓国大統領の弾劾、我が国では舛添東京都知事が失脚、小池新都知事が当選し様々な問題が噴出したこと。加えれば、カープが優勝たこと、ボブディランがノーベル文学賞を受賞したこと。

 これら重大ニュースに共通することは、すべて予想されたことを覆す出来事であったということ。政治的、経済的にも自由民主主義が定着し、いわゆる先進国と言われる国での予想外の出来事だったということ。世界で最も情報分析が発達した米国で、大統領挙と言う最も大切な分析予想が外れたのには驚いた。

グローバル資本主義により格差が広がっているとはいえ、開発途上国よりは格段に情報化され、平和で豊かな生活を得ている先進国で、国民、民衆、世論と言われる人々の分析予想がすべて外れたことが、今年の最も大きな出来事であったと思う。

予想出来ない不確実な時代となった。私達はどこに向かおうとしているのであろうか。来年はどんな予想外の出来事が起こることやら。私的には“人間万時塞翁が馬”と思いたいが・・・。

              920

人間万事塞翁が馬:920の独り言(489)        



2016/12/16 No.809
  レジリエンス・エンジニアリング

  重大事故の陰には30の軽微な事故、300のヒヤリハットが存在するという。病院ではヒヤリハットを集めて情報を共有することで、重大事故の防止を図っている。が、ヒヤリハットを全て除けば安全が達成できると考える安全対策には限界がある。

  新しい先取り型安全対策として、ヒューマンエラーを減少させ、事故を防ぐ「レジリエンス・エンジニアリング」が注目されている。

  高度で複雑な対応が必要とされている病院で働く医師や看護師は、業務の複雑系を理解して、日々変化し、時には事前に想定できない様々な事象に対し、限られたマンパワー、知識、情報、時間、設備で上手くいく様に判断し対応することが求められている。

  マニュアルではなく「弾力的な判断、的確な予測、柔軟な対応」を向上させるために上手くいった事象から学ぶ。深く見る前に広く見る。日々の業務を上手く行いながら、微妙な変化の気付き能力を高める。想定外の事が起きた時、被害を最小限にとどめ、安全に事態を収束させるという臨機応変に対応できる能力を養うことが重大事故防止につながるという。

 早速病院の安全対策委員会でレジリエンス・エンジニアリングを取り入れようと思うが、さてどうしよう。

     920 


2016/12/9 No.808
  脳蘇生


 私の大学時代の同級生が重篤なくも膜下出血で心肺停止となり、昔私が居た三島救急救命センターに搬入され、心肺蘇生後直ちに32度の脳低体温治療が行われた。復温後1週間の意識障害から覚醒し、幸い後遺症無く元気になっている。

  水素水ブームは去った様だが、水素ガスが活性酸素を除去することにより、心筋虚血、脳虚血障害を軽減することが動物実験で確かめられている。このたび慶応大学を代表とする研究グループが、心肺蘇生患者を対象に、1,3%水素ガス吸入を18時間行い、蘇生後脳症の軽減をはかる世界初の臨床検討を行うという。

  アメリカアカガエルは極寒の地で急激に血糖を高め体温を氷点下まで下げ、呼吸が止まり、心拍の拍動も停止する。これは明らかに冬眠状態ではなく、「死んでいる」状態だが、数週間後に春が来ると、何事もなかったかの様に息を吹き返す。米国ではクライオニクスといって、将来生き返ることを期待して人体凍結保存ということが実際に行われている。

  30歳の蘇生後脳症で人工呼吸の女性患者を長く診ているが、脳低温療法や水素ガス吸入療法で、脳蘇生率があがればいいが。   


2016/12/2 No805
  ドクターヘリ

  第44回日本救急医学会総会が「挑戦」をテーマに、品川で1895題もの演題数と特別講演、シンポジウム、パネルディスカッションなど、盛大に開催された。

  私が大学を卒業し医師となった昭和48年に第1回が開催された当時は、救命センターやERなどは無論、救急医学講座や教育などなく、大学病院や公的病院は救急を診ず、バイト先の病院で先輩から見様見真似で教えてもらいながら救急を学んでいた。

 今から40年近く前、私が居たスイスのバーゼル大学病院の屋上には既にドクターヘリが常駐していた。我が国では、やっと来年に東京を除いた道府県すべてにドクターヘリ配備が完成する。

 我が国にドクターヘリを導入したのは、オーム教に狙撃された当時警察庁長官であった国松考次氏であることを特別講演で知った。救急医により命拾いした後、駐スイス大使となり、スイスのドクターヘリシステムの素晴らしさを知り、帰国後我が国でのドクターヘリ導入を積極的に推進すべく政府に働きかけたそうだ。

 ドクターヘリにより救命率が向上することが報告されていたが、一方、高齢化社会となった我が国で、超高齢者に対する高度救急救命医療の是非や、その問題点についても盛んに議論され、高齢となった私は大いに勉強させてもらった。     920


2016/11/25 No806
  三瓶山

  三瓶山は島根県の中央部にあり、大山火山帯に属する中国地方で最も若い火山で、活火山に指定されている。室の内と呼ばれる直径5kmのカルデラを囲むように、主峰の男三瓶山(1126m)、女三瓶山、子三瓶山、孫三瓶山などの峰が連なっている。室の内に 広がるブナ、ナラなどの高木が茂る雄大な自然森林は国の天然記念物に指定されている。カルデラ内には室の池と言う火口湖もある。

 先日テニス仲間に誘われて、中高年4人で三瓶山を縦走してきた。尾道道ができて、三瓶山スキー場があった東野原登山口まで2時間足らずであった。冷たい強風と霧のなか、登山を決行する。外輪山とはいえ、それぞれの山が釣鐘型で傾斜が強く、急峻な岩場がある。雄大な室の内の自然森林を囲む様に、岩場、火口砂、笹、落ち葉などの登山道を上り下りすること5時間の三瓶山縦走登山であった。下山後は三瓶温泉国民宿舎さんべ荘の露天風呂で疲れを癒してきた。

5年前の霧島連山新燃岳の爆発、4年前の木曽御嶽山の爆発、3年前の箱根山水蒸気爆発、昨年の阿蘇山爆発、いずれも前の年に私は登山していた。私が火山に登ると何故か次の年に爆発しているので、来年にも三瓶山が爆発しなければ良いが。    920



2016/11/17 No.805
  お伊勢参り

  伊勢神宮は日本民族が命をゆだねる稲作を守る太陽神で、八百万の神々の中で最高位にある「天照大御神」が鎮座されていて、日本人の故郷とも言われている。

  遷宮が行われて、今年は伊勢サミットも開催されたという事で、前回の病院旅行から20数年ぶりに、太陽神(おてんとうさま)のおかげを感謝する“平成のおかげ参り”に行ってきた。

  秋の紅葉の土曜日ということで、内宮は大勢の人々でごったがえしていて、神聖なお参りができなかったので、前日の宴会の疲れにも関わらず、翌日の早朝、急遽希望者をつのって朝一番乗りで伊勢神宮正式参拝である外宮と内宮の順にお参りをしてきた。

  早朝うす暗い浄闇の中での外宮、内宮は深い森の中の神聖な冷気に包まれていて、砂利道を歩く音だけが聞こえる静寂なおごそかで神を感じる感動的な参拝となった。内宮参拝後は五鈴川にかかる有名な宇治橋からご来光を拝むことも出来た。

 お伊勢参りは、松坂牛の美味しいステーキ、伊勢海老、海女さんが体を休める「はちまんかまどで」での現役海女さんたちが炭火で焼いてくれる取れたてのサザエ、貝、あさりなども美味しく食べることが出来て、“おかげまいりはええじゃないか”。  

   
920


2016/11/11 No.804
  トランプ・ショック

 オピオイド鎮痛薬には光と影がある。優れた鎮痛作用により痛みを緩和し生活の質を改善するが、米国ではオピオイド鎮痛薬の消費量が必要量をはるかに超え、その不適切使用により深刻な社会問題が表面化している。今春、オバマ米大統領が「米国での麻薬中毒による危機的状況に対して、オピオイド鎮痛薬の乱用対策は政府の優先課題だ」と警告を発しているが・・・。

 米国では、慢性痛に対するオピオイド鎮痛薬処方の乱用と、その代用としてのヘロイン依存患者が激増し、薬物依存社会となっている。米国民の半数が麻薬常習者と知り合いで、ニューハンプシャー州では人口130万人のうち10万人が麻薬中毒患者と言われる。麻薬過量投与により死亡する人の数は、交通事故や銃による死亡者数を超え、毎日129人が死亡しているという。

 我が国は、医療用麻薬の使用量が米国に比べ遥かに少ない。それは緩和医療におけるガン性疼痛管理が劣っているからなので、もっと積極的に麻薬を処方すべきだとの意見を言う有名な先生がおられ、違和感を感じたことがある。

 凋落が始まった米国の薬物依存社会をトランプ新大統領は変革出来るであろうか。              920


2016/11/4 No.803
 時代は変わる

 
第36回日本臨床麻酔科学会が、高知で開催され参加してきた。加速するグローバル化と格差の拡大、冷戦構造の終焉とテロの台頭、人口増加と地球環境問題、医療技術の飛躍的進歩と倫理の混乱、我が国では超高齢化社会の到来と医療費の増大、麻酔科領域でも超高齢患者の周術期管理、集中治療、緩和医療など、時代は変わって、かつて経験したことのない大きな変革が求められていることを意識して、大会テーマはボブ・ディランの名盤のタイトルである、「The Times They Are A Changin’―時代は変わる」とされていた。ノーベル文学賞受賞を先取りした様な大会テーマを選んだ高知大学教授の横山正尚会長は鼻高々で自慢されていた。

 高知城は、関ヶ原の戦いの功績により徳川家康から土佐一国を受領した山内一豊により創建されて以来約400年余りの歴史を有する南海の名城。日本100名城に選定され、別名鷹城と呼ばれている。

 時代は変わり、何と麻酔科学会会員懇親会がライトアップされた高知城三の丸で開催された。高知出身のDuoいちむじん(土佐弁で一生懸命にという意味)によるチャリティコンサート、よさこい踊り、土佐の料理や地酒などが振舞われ、日進月歩の医学勉強後の楽しい時を過ごさせてもらった。

  今が昔になるように 時代はいま変わってゆくから

                        920



2016/10/28 No.802
 尾道看護学院創立100周年

 
尾道看護学院が創立100周年を迎え、記念式典が開催され参加させていただいた。

 100年前というと大正6年(1916年)。そんなに古くから看護学院が開設されていたのかと驚いたが、実は尾道医師会付属産婆養成所が始まりということであった。助産婦は江戸時代から産婆という名称で個人的に開業していて、1899年に「産婆規則」が発令されて全国的な資格制度となり、各地で産婆養成所が開設されたという。

 看護婦制度は医師や助産婦に比べその歴史は浅く、国家的に制度化されたのは1915年の「看護婦規則制定」からだそうだ。ちなみに医師は1875年に漢方医から西洋医への医師開業試験が行われ、1879年に医師試験制度、1906年に医師法が公布されている。

 1916年、我が国の人口は5400万人で、平均寿命は42歳だった。あれから100年、人口は1億2千万人に増え、平均寿命は90歳近くになろうとしている。

 今年生まれた子供が100歳になった時、尾道看護学院や我が国の人口、平均寿命、医療はどの様になっているであろうか。地球のことや世界のことは 夢のまた夢。     920


2016/10/21 No.801
  雲海


 江の川、西成川、馬洗川の川が流れ、四方を山に囲まれている三次盆地は霧が発生しやすく、三次市は霧の街と呼ばれている。

 三次市では通常9月末に「霧の海開き」を行い、10-12月頃が雲海の見ごろになる。雲海は寒いと雲につやがでてくるので、湿度が高く、良く晴れて風が弱く、早朝冷え込んだ日の日ノ出前後の30分くらいが最も美しい。

 美しい雲海は寒い早朝、高い山に登って運がよくないと見る事が出来ない景色。ということで先日の早朝、雲海を見に三次の高谷山に登ってきた。日頃の行いが良いので、前日の雨と快晴の朝の冷え込みで、運よく最も美しい雲海からの御来光を拝むことができた。

 早朝寒く薄暗い6時前、深く立ち込めた霧の海に山々が島の様に浮かんで見える。霧は色や形を変えて幻想的で神秘的な景色となる。ススキ野原と遠くに見える山々の景色と雲海が神秘的な世界を引き立ててくれる。日の出とともに霧の海は乳白色からオレンジ色に染まってゆき、あまりの美しさに思わず“オー”と、感動の声が出る。

 皆、写真機を構えて雲海と御来光を撮っているが、自然の感動的な美しさは自然の中に入り、五感で直に味わうに限る。  920


2016/10/14 No.800
  オートファジー


 今年のノーベル生理医学賞は「オートファジー」の研究で大隅良典博士が受賞された。

 4年前にノーベル生理医学賞を受賞された山中伸也教授のIPS細胞に関しては、グローバル競争、アベノミクスの経済成長戦略として、政府、製薬企業などから莫大な研究資金が投入され、難病治療、創薬開発など臨床に役に立つであろう研究が盛んに行われていて、その成果が期待されている。

  オートファジーに関しても、パーキンソン病、認知症、ガン治療など、臨床に役に立つような研究が加速されるのであろうか。 

  一昨年、ニュートリノでノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章博士は、ニュートリノ研究が私達にどの様な役に立つのかとの質問に対して、「人類の知の地平線を広げるため」と答えられた。

  大隅良典博士がノーベル賞受賞後の記者会見で、オートファジーの研究がどのように世の中の役に立つのかとの質問に対して、「役に立つということばかりの研究をしていては、社会がダメになる」と、うんちくある名言に感銘を受けた。  

    920



2016/10/7 No.799
  芸術の秋の夜

  尾道浄土寺での開創1400年祭で、世界的に知られる大和太鼓奏者である林瑛鉄氏がライトアップされた国宝の寺の庭園を舞台に、観世音菩薩「和と鼓動」と題して真言宗の僧侶たちによる声明と心を打ち震わす大和太鼓の響演を行った。

 背中はうそをつくことが出来ないので、客席に背中を向けて、 両手を肩から上に高く上げて、正面から大太鼓を打つ奏法を編み出す。太鼓で築き上げる精神性と芸術性の空間で、限界まで大太鼓を打ち鳴らす感情の揺らぎと音魂が伝わってきて感動した。宗教に関係なく世界の人が感動の涙を流し、スラム街のすさんだ子供たちが、無心に太鼓を打ち鳴らすことにより、悪から立ち直るという。

次の日には、三原の極楽寺で琵琶演奏を聞く機会があった。江戸時代中期に建立され、内陣を結界で仕切られている本堂が残存しているのは珍しい浄土宗の阿弥陀如来像の前で、ライトに照らしだされた琵琶奏者と語り部による荘厳で幻想的な平家物語の歴史絵巻を聞かせてもらった。

祗園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり。 べベンベンベン紗羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。べベンベンベン べべンベンベン。

                      
 920


2016/9/30 No.798
  世界疼痛学会

第16回世界疼痛学会が横浜で開催された。3年おきに開催される痛みに関する世界最大の学会で、今回がアジアで初めての開催となり、世界中から約5千人が参加していた。

 15の基調講演。3人の研究者が講演する話題のセミナーが70題。ポスター発表が1793題など。頭痛、腹痛、腰痛、関節痛、筋骨格痛、術後疼痛、ガン性疼痛、神経因性疼痛、急性痛、慢性痛、男の痛み、女の痛み、子供、老人の痛み。各種治療法など、基礎的研究から臨床研究まで最近の痛み研究の最先端が話し合われた。

 私は1984年にシアトルで開催された第4回に参加したことがある。当時は脊髄レベルにおける痛みの調節機序が研究のトピックスで、TENS,脊髄刺激鎮痛の基礎と臨床の発表が主だったと記憶している。

あれから30年。痛みの研究は脊髄レベルから脳に至り、急性痛が慢性痛へ移行する機序が遺伝子、ストレス、うつ、運動、腸内細菌叢などとの関係から明らかにされつつある。

 世界中で痛みに苦しむ患者は多い。月曜から金曜まで、参加費が千ドルと高額で日本人の参加は少なかったが、早朝から会場はどこもいっぱいで、痛み研究の熱気を感じさせてもらった。 920



2016/9/23 No.797
  敬老の日

 
日本人の寿命は長い間世界一であったが、女性は香港に抜かれ、男性の寿命世界一はスイスになった。

 スイスの長寿理由は、高収入、チーズ、幸福度が挙げられている。スイスは高齢者の幸福を重視した社会保障をすすめ、社会参加などの高齢者向け政策を充実させ、高齢者が暮らしやすい国ランキングでダントツの世界一位となっている。一方、我が国は無形文化財となった和食により長寿であったが、急激な経済成長による車社会の街造り、核家族化による介護問題などで延び続ける長寿を歓迎せず、長生きはしたくないなどと高齢化社会に対する不安の方が強くなり、高齢者が暮らしにくい国になっている。

 私の誕生日である9月20日にNHKBSでスイスのバーゼル街歩き特集を放送していた。私が30年以上前にいた時と変わらないライン川沿いのアルトシュタットの街並みと、市内電車を利用する人々の暮らしは、高齢者が住みやすい街であったと、今になって気づかされた。

 懐かしいバーゼルの街をテレビで見ながら68歳の誕生日を迎え、老人になったら高齢者が暮らし易いスイスに行こうと思ったが、私はいったい何歳から老人になるのであろうか?     920


2016/9/16 No.796
 アイス・バケット・チャレンジ

 
ALS患者さん4人の人工呼吸管理を行っている。一人はまだ筆談が可能な元医師。一人は筆談が出来ていたが徐々に上肢の脱力が進行して、現在はパソコンの伝の心により何とか意思疎通ができている。一人は指の力も無くなり、眼輪筋によって伝の心でやっと意思疎通をはかっている。一人は意思疎通が全く出来なくなってしまった。徐々に病気が進行して意思疎通ができなくなる拷問の様な残酷な疾患で、心のサポートに苦慮している。

  難治性で残酷な疾患ALS患者支援の寄付を募るために、2年前バケツに入った氷水を頭からかぶるアイス・バケット・チャレンジというチャリティ運動が流行った。ビルゲイツをはじめ我が国では孫正義、山中伸弥氏など有名人も出演した遊び心の運動は急拡大し、挑戦者がネットに投降した動画は100億回以上見られたそうだ。その後運動はすたれてしまったが、この運動で集まった寄付金で研究が行われていて、ALSの新たな原因遺伝子の一つ「NEKI」が発見され、治療に役立つのではと言われている。

 最近はポケモンGOと称するスマホ遊びが大流行している様だが、ポケモンGOも一人で遊ぶのではなく何か支援などにつながるような工夫をすれば、遊び心が大きな力になると思うのに。  920

ALS:920の独り言(397)


2016/9/9 No.795
 高齢認知症患者に対する胃瘻

 
欧米では無意味な延命治療をせずに死亡するいわゆる尊厳死は、「自然死」とされ、胃瘻で生きながらえる高齢認知症患者はいない。我が国もいずれそうなると思うが、今は高齢認知症患者に誤嚥性肺炎予防と称して胃瘻造設が行われているので、厚労省は診療報酬引き下げという姑息的手段で胃瘻の乱造を防ぐという。

 誤嚥する高齢認知症患者の家族に胃瘻の是非を問うと、自分の場合はしてほしくないが、親の生死に関する判断をゆだねられると、出来るだけのことをして下さいということになる。

 嚥下機能が落ちて食事が出来なくなった重度認知症患者に対して、「あなたは胃瘻を造って栄養補給をしてほしいですか?」と問うと、判断能力がうんと低下した高齢者でも、健常者と同じく8割の人がNOと答えるそうだ。

  生命の根源的反応に由来する「情動」は認知症になっても最後まで残るので、痴呆が進行した段階でも、理解したうえで胃瘻を拒否することができる。認知症であっても患者本人の意思を汲み取ることで、家族の後々の悔いの負担が軽減できるので、私は判断能力がないと思われる認知症患者でも胃瘻造設に関しては、本人の意思を聞いて決めることにしている。       920

 大井玄:ボケたカントに「理性」はあるか。新潮新書。


2016/9/2 No.794
  ワーファリン

  オポジーボなど超高価な薬が次から次にと登場していて、薬剤費がけた違いに高騰し医療保険が破綻しかかっている。厚生省は急遽、高額薬品の減額、QALYを用いた費用対効果、適応の制限などの対策を検討しているが、我々臨床医はどうしたら良いであろうか。

  心房細動など抗凝固療法を必要とする高齢患者が激増している。新規経口抗凝固薬がNOACとかDOACと鳴り物入りで登場し、製薬企業の宣伝と循環器専門医の講演が花盛りで、DOACの利点、欠点などが、ワーファリンと比較して解説されているが、コストを考慮した効果の優劣に触れることは少ない。

  古くから使い慣れて安価なワーファリン1mg10円、DOACはいずれも500円位と約50倍高価。青汁、納豆を我慢してもらいPTINR測定をしてワーファリンを使用するだけで、毎年年間1500億円以上もの薬剤費が節約できる。

 医療費が高騰している中、我々臨床医師もコストを含めた薬効を総合的に考慮した投薬を行う必要があろう。私は心房細動の入院患者にはDOACをワーファリンに変薬することにしている。 
920

920の独り言(773):免疫チェックポイント阻害薬 
920の独り言(757):高価な薬の費用対効果




2016/8/26 No.793
  生前退位


 日本国の象徴である天皇陛下がご高齢になり、生前退位の御意向をにじませる玉音放送が流され大きな話題となった。

 ところで、我々医師は生前退位をどうしたら良いであろうか。ノブレス・オブリージュが求められる医師は、社会貢献、医療貢献など奉仕の意味で、年齢には関係なく老害にならない様に心がけながら、体力・知力が続く限り出来る仕事を続けるべきであろうか。それとも、できるだけ早期に生前退位し、楽隠居、趣味三昧の生活
をおくる方が賢明であろうか。

 インドバラモン教法典を参考にした「四住期」によると、私達は良く学ぶ「学生期」を経て、しっかり仕事をして家族を養い社会に貢献する「家住期」を過ごす。その後は生前退位し、家族の為ではなく、自らの生きがいに生きる「林住期」を経て、自分の死について考える「遊行期」で終わるのが理想の生き方とされている。

 超高齢化時代を迎えた我が国では、医師のみならず多くの庶民が後継問題や経済問題、健康問題などにより生前退位に関し悩みを抱えている。私はできるだけ早期に生前退位し、悠々自適の生活を望んでいたが、知力・体力の衰えにもかかわらず激務をこなしていて、天皇陛下のお悩み同様、早く生前退位できないものかと悩んでいる。

                   920


グッド・ルーザー
 2016/8/19 No.792


 高校野球、プロ野球、オリンピックと連日熱い戦いが繰り広げられていて、目が離せない。

 プロ野球は勝たねばならないが、高校野球は負けることによって学ぶことが最も大切な教育とされ、私は勝ったチームより負けたチームの悔し涙をみるのを楽しみにしている。

 スポーツの祭典オリンピックで重要なことは勝利することではなくて参加することに意義があり、良き勝者であり良き敗者であらねばならないとされていた。しかし近年では、プロも加わり商業主義、国家主義、勝利至上主義などで、ステート・アマとかドーピングとかの問題が発生している。

 トップレベルのアスリートたちの壮絶で感動的な戦いの後、金銀銅メダリスト達のそれぞれのうれしいあるいは悔し涙の会見が興味深い。国を代表しているので、3位と4位でメダルありとなしでは天と地ほどの違いがある中、錦織圭が銅メダルを獲得したのは素晴らしかった。が、錦織に敗れて4位となりメダルを逃したナダルの錦織圭を称えたいさぎよいコメントには感服した。

  私はテニスの試合をするときは、グッド・ルーザーになることを心掛けたいと思う。   920

  負けるが勝ち:920の独り言(336)




2016/8/5 No.790
  DNAR:Do Not Attempt Resuscitation

 
1960年に現在の心肺蘇生法の有効性が認められてから突然の心肺停止にCPRを実施するのが救急蘇生現場では一般的になった。私が医師になりたての頃、大学病院でVIP患者の心肺停止に際しては、麻酔科医が呼ばれCPRをセレモニー的に行なっていた。

 信頼医療から契約医療となってきた最近では、入院に際して本人からDNR是非の書類を残すようになり、癌末期、高齢難病患者、慢性誤嚥性肺炎患者の転入院に際しては、急変時にはDNRとの家族からの同意を得ていると紹介状の最後に記されていることが多くなった。

 DNRは蘇生の可能性があるにもかかわらず、蘇生治療をするなというニュアンスがあるので、ガン末期とか老衰とか蘇生の可能性がない症例に対して、蘇生を試みることを差し控える用語として、DNRにattemptを加えた「DNAR」指示という言葉が用いられる様になったが、一般の認知度は低い。

年間心肺停止救急搬送者は約13万人で70歳以上が7割という。心肺停止高齢救急搬送患者に対し救急蘇生をすべきかどうか、看取りか救命処置か悩ましい。DNAR希望の高齢患者には119番電話は延命治療開始のスイッチなので、家で倒れたら救急車を呼ぶなと言っている。               920



2016/7/29 No.789
  生命倫理

 
先日の重度障害者多数殺害は、さまざまな問題を含んでいるが、ナチスによる障害者安楽死「T4作戦」を思い起こす事件であった。同じ喉頭がんでも、声を失い歌が歌えなくなると手術を拒否して亡くなったロック歌手忌野清志郎と、声を捨て生きることを選択したつんくのごとく、人によってその生命倫理観は異なっている。

自殺を試み救命するも、再度の自殺を試みた後に死亡した症例を経験した事があるが、「自殺企図による蘇生後脳症患者の治療」をどうする?

 筋委縮性側索硬化症で人工呼吸管理の患者を4人診ているが、「認知症を伴うALSの人工呼吸器装着の意思決定」をどうする?エホバ信者の患者を診ているが、致命的出血時の輸血をどうする?意識障害の高齢患者が亡くなったとき、蘇生が行われなかった事に対して家族から苦情を言われたことがあるが、「遷延性意識障害高齢患者の急変時の対応」をどうする?

  高齢認知症患者の胃瘻造設を希望しない家族が増えつつあるが、「遷延性意識障害高齢患者の経管栄養の中止」をどうする?などなど、高齢患者とその家族の思いを尊重しながら解決策を模索する尊厳死から安楽死まで臨床生命倫理は難しい。   920




2016/7/22 No.788
 院内処方


  関西医科大学医療センターが新築移転するに際して、院外処方箋の発行を全面的に中止し、外来患者の調剤を原則院内で行うという。患者の薬剤費用負担を軽減し1か所で薬を受け取るという利便性を向上させ、病院の評価を高めることが目的という。国の方針に従って院外処方を実施してきたが、調剤薬局の投薬によって患者サービスが低下していたので、方針を変えたそうだ。

  以前、眼科での健診後、疲れ目の目薬でも出しましょうと処方箋を書いてもらい、調剤薬局で電話番号、既往歴など聞かれ、長い間待たされ薬価200円の目薬を何千円か払いもらったことがある。

  色々な事情があるとはいえ、厚労省が進めている医薬分業による調剤薬局制度は、患者にとって薬剤負担が高くなり、不便で、面倒で、時には薬の説明で混乱をもたらし何一つ良いことはない。調剤薬局の不便さに対する苦情が多く、厚労省は薬局の構造に関して、今年の4月から公道を介するとか、フェンスをつけるとかの規制を緩めたが、施設内に薬局を設置することは引き続き禁止し、医薬分業を推進するという。

 私の病院では以前より院内処方を続けていて、患者の薬剤費用負担を軽減し、利便性を保っているので、患者からの病院評価がもっと高まって良いと思うのだが・・・。    920



2016/7/15 No.787
  国民投票

  参議院選挙が終わり、再びアベノミクスとか1億総活躍社会とか、働き蜂日本人は幸せな生活に向かうのであろうか。

  ナポレオンは国民投票で皇帝になり、ヒトラーは民族投票で独裁者の地位を固めた如く、国民投票はポピュリズムに利用されやすいと言われる。議会民主主義を築いてきた英国が、EU離脱という重大問題に関して国民投票という直接民主主義を実施したことについてその是非が話題となっている。

 私が留学したスイスは、外国人の安楽死ツーリズムの可決やEU加盟の否決など、国家的問題をはじめ様々な問題を国民投票で採決することで知られている。先月はベーシックインカム:すべての国民に所得に関係なく政府が、生活が出来る一定のお金を毎月支給する「最低限所得補償」の是非で国民投票が行われた。

  グローバルな資本主義社会では、消費を増やすために生活を犠牲にして働くことによる問題が噴出している。すべての国民が人の為社会の為の仕事が出来るような国にする為にと国民投票が行われた。さすがに否決されたが、ホセ・ムヒカが指摘した異常な消費社会で、私たちは本当に幸せな生活が送られているのであろうかと、生き方、働き方への問いかけになったという。      920



2016/7/1 No786 
 統合か多様性か

 経済的、社会的発展を促進するために欧州各国を統合したヨーロッパ共同体からイギリスが国民投票により離脱することが決まり、イギリス国内は無論世界中が混乱している。

 30年ほど前留学していたスイスは、政府がEUへの参加を推進していたにもかかわらず、国民投票により大差で否決されEUに加盟していない。スイスはそれぞれの地域でドイツ語、フランス語、イタリア語と異なっていて非効率的であるが統合する機運はない。私が居たバーゼルはドイツ語圏だが、バーゼル方言が頑なに守られていて、不便ではあるが地域の多様な文化が大切に守られている。

 これから人口減少時代を迎える我が国の地方都市では高度医療、救急医療など無駄を省き効率的な医療提供する為には、統合、集約化が必須と考えられ、岡山大学病院、市民病院、国立病院、済生会病院、労災病院、日赤病院を統合する岡山メディカルセンターが発足する。広島市も共同放射線治療施設設立をきっかけに、大学病院、市民病院、県立病院、原爆病院が得意分野を集約化、経営を効率化する広島メディカルクラスター構想が進んでいる。

 世界中でグローバル化、統合が進む中、ヨーロパ共同体と同じ様な岡山、広島の病院共同体がうまくいくと良いが。  920



2016/6/24 No.785
 sekoi


  ニューヨークタイムズは、舛添東京都知事が政治資金流用などの疑惑で辞職したことについて、たった数ドルのマンガ本などを政治資金で購入した「sekoi」という日本語を紹介して報じている。

 舛添氏と私は団塊世代の同じ67歳。戦後の貧しい時代に生まれ、ねずみ年で、もったいないを教えられながら競争社会でせこせこと育ったので、「せこい」のは仕方がないであろう。

 事物はすべて空であるから、執着すべきものはない「本来無一物」という慧能禅師の禅言がある。団塊世代の私も高齢者となったので不要なものを絶ち、身の回りをすっきりさせ、物への執着から離れるために「断捨離」を行っている。

 まずは医学雑誌を捨てる。日本医師会雑誌は一番捨てがいがある。日本医事新報は毎週送られてくるし、毎月送られてくる医学会誌が数冊、PAINなど立派な痛みの国際雑誌も毎月送られてきて、目を通す間もなく本棚は無論机の上も医学雑誌で溢れてくる。医学雑誌すべて捨てるのを手始めに順次断捨離を行い、身の回りをすっきりさせ、ホセ・ムニカの真似をしようと思う。

 日本の高齢者の資産が1千兆円以上もあるという。戦後セコく育った日本の高齢者には、「本来無一物」は難しい。

                          920

 920の独り言(620):せこい 


 920の独り言(620):2013年2月1日
  せこい
 3月末に定年退職を迎える教職員で、1月に早期駆け込み退職する先生がいて問題となった。 地方公務員の退職金引き下げ法が施行される3月の定年退職より、1月に早期退職すると、退職金の減額をれるのがその理由という。多くの先生は定年まで職務を全うされるが、学級担任にもかかわらず、早期退職する先生がいるという。子供達から、「私達を見捨てた”せこい”先生」などと、一生後ろ指を指されなければいいが。

 民間より退職金が多いとはいえ、3月末まで働いたほうが、金銭的に損をするという行政の不手際は別にして、35年間先生として働いた誇りとの葛藤をどうするか。

 ”せこい”とは、細かくてケチ、ずるい、浅ましい、卑しいこと。日本国民の地震の際における道徳的な行いは、世界中から称賛されている。一方、老人医療費が無料になると、病院に行かないと損をするとか、介護保険料を払っているので、介護を受けなければ損をするとか、日本人は”せこい”ところがある。

 私は団塊世代で、戦後の貧しい時を鼠歳としてあくせく生きてきたので仕方がないとして、教師、医師、政治家など、先生と呼ばれる人は、ノブレス・オブリージュは無理としても、”せこい”ことはしない様に願いたい。             920



 
2016/6/17 No.784
  コンパクトシティ


  車で来院する高齢患者さんに、危ないので車の運転はしないように話しているが、車が無いと病院に来れない、買い出しにいけないなど不便で生活ができなくなるので車は手放せないという。

  高度経済成長による車社会を担ってきた団塊世代が高齢を迎え、超高齢社会となった我が国は、車が無いと生活に差し支えるという車社会を見直さなければならない時を迎えている。

  「病気の9割は歩くだけで治る」がベストセラーになっている。車社会になり私達は歩かなくなった。肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病、セデンタリ―症候群、寝た切りの原因となるサルコぺニア肥満など歩かないことが原因となっている。

  人類が二足歩行する様になり、私達はお遍路、サンチャゴ巡礼、五体投地など歩くことによりセロトニン神経を活性化し心を元気にしてきた。認知症も歩き方により軽度認知症の診断が可能になり歩行リハビリにて認知症予防ができることも明らかになってきた。

 スイスやドイツでは、街中は公共の電車などで、環境にも健康にも良く、歩いて楽しい街つくりが進められている。我が国も、歩かないことによる心身の病気を無くし、医療介護保険費を節約すべく、毎日歩く生活が楽にできるような街つくりへの発想転換が必要であろう。                    920

  長尾和弘:病気の9割は歩くだけで治る。山と渓谷社

 有田秀雄:歩けば脳が活性化する。WAC BUNKO.

 920の独り言(765):セデンタリー・デス症候群




2016/6/10 No.783 
  アドラーの教え 

  最近、嫁姑問題、過去のトラウマによる引きこもり、パニック、うつなど心の不調を訴える患者の相談を多く受ける様になった。

 アドラーは過去のトラウマを否定し「人の悩みはすべて対人関係の悩み」という。不安だから外に出られないのではなく、外に出たくないから不安という感情を作り出す。他者から嫌われる事を恐れ、自分の不幸を武器にして相手を支配しようとしているという。

 学校の先生は子供に対し褒めることや、叱ることをしてはいけないそうだ。子供は良い事をするのではなく、褒められるための行動、注目を浴びるための行動をする様になり、最終的には自分の無能力、

不幸を誇示するための復讐的な行動をとる様になる。良くできたと褒めるのではなく、ありがとうと感謝の気持ちを伝えると、良い事をして幸せになる「勇気づけ」を植え付けることができるという。

 人は過去のトラウマに縛られて、不幸になっているのではなく、「いま、ここ」の自分が人生を不幸にしている。過去の「原因」ではなく、今の「目的」を考えると、過去や世界は変えられないが、今の自分は変わり幸せになることが出来るという。アドラーの教えは道元禅師の「他は是 我にあらず 而今に生きる」に通じているので、患者には禅寺での座禅を勧めているが・・・。

                        920

 岸見一郎・古賀史健:「嫌われる勇気」「幸せになる勇気」。 自己啓発の源流「アドラー」の教え ダイヤモンド社。

 920の独り言(300):禅的生活


2016/6/3 No.782
  Negative capability


 知り合いの人が自殺を試み、今後どうしたら良いか相談を受けた。うつ、パニック、引きこもりなど心の不調を訴える患者、ドクターショッピングする難治性慢性疼痛患者、末期の癌患者など、難治性の患者に対し私達医師はどう対応したら良いであろうか。ネガティブ・ケイパビリティは若くして結核で亡くなった英国の詩人ジョン・キーツが使った言葉で、不確実や未解決なものを受容する能力、不安定であいまいな状態、どうにもならない状況に何とかもちこたえていける能力のこと。

 医療現場は無論、世の中には直ぐには解決できない問題が多い。 答えを早くだす問題解決能力:ポジティブ・ケイパビリティも大切だが、性急に問題を解決してしまわない能力があるかどうかも重要になってくる。最近の医学教育は科学的根拠に基づき効率よく解決することばかりを教え、直ぐに答えを出さず考え続けるネガティブ・ケイパビリティを学ぶ機会が少ない。ガイドライン、マニュアルなど効率よい治療は得意だが、解決できない難治性の問題に対応する能力が欠けているという。

解決できない難治の患者に対しては、その状況をそのままとらえ、あせらず、あわてず、あきらめず、医師が処方できる最良の薬は医師の人格とネガティブ・ケイパビリティであろう。

                  920

帚木蓬生:Negative capabilityの力。第63回日本麻酔科学会特別講演



2016/5/22 No.781
 病院避難


  熊本地震では最初に震度7の地震で驚いたが、それは前震で翌日の早朝に地震で目が覚めて東南海地震が起こったのかと思ったら、熊本で再び震度7の地震であった。本震の後に発生する余震の話は聞いていたが、本震の前に大きな前震があるのを始めて知った。

  阪神大震災ではクラッシュシンドローム、東北大震災では津波、熊本地震では前震、余震の持続など想定外の出来事が発生してきた。近未来必発する南海トラフ巨大地震は30年以内に80%の確率で必ず起こる。想定外のことが起こらなければ良いが。

  一昨日より中国四国救急医学会が宇部で開催され、東南海地震対策が話し合われた。四国高知は陸の孤島となるので、高知県の医師2千人全員がDMATとして総力戦を行う取り組が紹介された。新たな問題として被災病院の入院患者避難の現状が報告された。

  熊本地震では病院JMATを編成して救助活動に行く予定であった。南海トラフ巨大地震でも高知に救助活動に出動する準備をしているが、自院が倒壊、ライフライン途絶して入院患者全員の病院避難など想定外であった。

 巨大南海トラフ地震が確実にくるという覚悟は必要だが、最大クラスの想定で、あきらめないことが大切と指摘された。想定外で日本が沈没しなければ良いが。        920



2016/5/13 No.780
  薬剤耐性菌


オバマ大統領が広島を訪れることで盛り上がり、今月開催される主要国首脳会議伊勢志摩サミットでは世界経済、政治外交テロ問題などに加えて、何と“薬剤耐性菌対策”が話合われるそうだ。

 抗菌薬の不適切な使用(先進国では過剰投与、開発途上国では過少投与、畜産に対し発育促進目的にて多量の動物用抗菌薬投与など)が行われていて、薬剤耐性菌が世界的に増加し問題となっている。このまま抗菌薬の乱用が続くと、耐性菌に起因する死亡者が世界中で激増する恐れがあるという

米国では内科感染症学会が、成人の急性気道感染症への抗菌薬の処方について勧告を発表。外来での抗菌薬の半数が不要、あるいは不適切。一般的な風邪症状に抗菌薬を投与すべきではないと明記。合併症を伴わない気管支炎に対して、肺炎が疑われない限り抗菌薬の投与を行うべきでないとしている。細菌感染による副鼻腔炎も多くは抗菌薬なしで軽快するという。

我が国では、外来での経口抗菌薬の使用量を半分に減らし、静注抗菌薬を20%減少させ、抗菌薬の総使用量を2020年度に現在の3分の2に減らす数値目標を盛り込んだ薬剤耐性対策アクションプランが閣議決定された。

上手くいくと良いが。            920


2016/5/7 No.779
 スピーチ


 錦織圭が世界で活躍できているのは彼の素質、精神力の強さに加えて、チャンコーチの指導にもとずく猛練習によるものであった。さらに、世界のトッププレイヤーになるためには、皆の前で自分の思いを表現できる力を持っていなければならないそうだ。錦織圭も自分はスピーチの練習が一番苦手で、その猛特訓が一番苦しかったといっている。

 何故日本人はこんなにもプレゼンテーションやスピーチが下手なのだろうか。英語の授業を何年受けても話せないのか。普段の会話は面白いが、結婚披露宴、送別会、自己紹介など大勢の前でのあいさつとなると、とたんに精彩を欠くのはどうしてであろうか。

 日本人は歴史的に「不言実行」「沈黙は金」などと「「話すこと」は重要視してこなかった。教育も「書き方」、「読み方」を重要視し、スピーチ、ディベートの教育をしてこなかったのが原因といわれる。
 
 スピーチのプロであるアナウンサー押尾正明氏の講演を聞いた。スピーチには「70秒の法則」があるそうだ。視聴者の集中は70秒しか持続しないので、一言お願いしますと言われたら70秒上手に話すのが良いとのことだが、それが難しい。     920

押尾正明:おしゃべりの底力。講談社



2016/4/30 No.778
  水素水


  水素水が体に良いと宣伝されているが、本当かどうかと聞かれ、水素は酸素と反応して水になるので、毒ではないが益にもならないだろうと、いい加減に答えていた。

 ところが、水素は抗炎症、抗アレルギー、抗アポトーシス作用を示し、従来の医薬品とは異なる概念で多くの病態の疾患に対して予防、治療に応用できるので注目されているという。
水素は最も小さい分子で細胞毒性はない。生体内では不活性ガスで活性を持たないと思われていたが、細胞内で活性酸素消去、酸化ストレスに対する細胞防御機能を有することが明らかにされている。

急性の酸化ストレスに対しては水素ガス吸入。慢性疾患に対してはアルミニウム製容器での水素水の飲水が試みられている。生理食塩水に溶解して静脈内投与も行うことが出来る。臨床応用として、虚血再灌流障害に対する防御効果が認められているので、急性期脳梗塞や急性期心筋梗塞患者への水素吸入治療。慢性の酸化ストレスによる変性に対する防御効果もあり、パーキンソン病、COPD、肝炎などに対する水素水の臨床研究も行われている。

 我が家では水素が肌にも良いと言われているので、高価な水素を入れた水素風呂に入浴し、肌がスベスベになったような気がする。    

920


2016/4/22 No.777
  婚姻関係終了届


 長男の家に嫁ぎ、姑の介護に困っている嫁、夫が亡くなり姑と二人きりとなり悩んでいる人など、昭和の懐かしい“絆家族”の中で、介護地獄を訴える患者さんを多く見てきた。

 長い間我慢して連れ添った夫が亡くなり、死後離婚する人が増えているそうだ。夫が死んだ時点で婚姻関係は解消されるので、離婚はないが、縁を切りたい場合は「婚姻関係終了届」を出せば、簡単に姑との関係を絶てるという。

 最近の調査によると、夫と同じ墓に入りたくないという既婚女性が6割もいるとのことに驚いた。「姑と一緒の墓に入りたくない」「実家の墓に入りたい」「死んでまで夫と一緒にいたくない」「自然葬にしてほしい」「過去の自分とけじめをつける」などなど。

 介護保険ができてから、親は迷惑になるから子供の世話にならず、子供も親の面倒を見ようとしない。無論、嫁が舅・姑の世話をすることは全くなくなった。介護保険により介護地獄がなくなると同時に家族の絆もなくなった。昭和の「同居絆家族」が平成の「核家族」から「独居家族」に移行し、これから我が国の「家族」はどうなるのであろうか。                 920



2016/4/15 No.776
  ホセ・ムヒカの言葉

 
あのホセ・ムヒカ氏が、経済大国となった働き者の国日本で、若者は高齢者より幸せかどうかを問いかけるために初来日された。

 私達は今の様な消費社会で良いのだろうか。幸せをもたらすための経済発展が人々を働く奴隷にしている。私達は豊かさを勘違いしている。消費拡大が社会を豊かにするという考えは行き詰まってい
る。このまま行き過ぎた消費拡大を続けると、世界はどうなるであろうか。貧しいとは物が少ないということではなくて、いくら物があっても、もっともっとと欲しがることだ。

 昔の日本人は「足るを知る」を美徳とした。江戸時代で政治を司る武士は清貧を尊び、金儲けを目的とする商業は士農工商ということで蔑まれた。茶道、禅、わびさびなど「本来無一物」の心は日本人の魂であった。「余計なものが周りにない方が時を大切に過ごせる」という魂を日本人は忘れてしまったのか。

 貧しい家に生まれ、貧しい人のためにゲリラ戦士として戦い続け10年を超える独房での拷問を乗り越えて、大統領に選ばれ、質素な生活を豊かに過ごすホセ・ムヒカ氏の物質主義に覆われた現代文明に警鐘を鳴らす言葉は、ゲリラ戦士、哲学家、政治家、荒行を経て悟りを得た禅僧の如くで、胸に迫ってくる。

 アベノミクスとやらの政治家に聞かせたいものだ.

                        920


920の独り言(762):ホセ・ムヒカ

2016/4/8 No.775
  ブラッド・パッチ

 
脳脊髄液減少症に対する「ブラッド・パッチ」治療が先進治療として今年から保険適応されることになった。

 今から40年ほど前、臨床麻酔科学会のシンポジウムで「ブラッド・パッチ」に関する発表をしたことを思い出す。

 ペインクリニック外来では、様々な疼痛疾患に対して硬膜外ブロック治療を盛んに行っていた。が、外来で誤って硬膜を穿刺してしまうと、脳脊髄液圧減少による起立性頭痛が必発して問題となっていた。そこで、誤って硬膜を穿刺した際に、直ちに患者から静脈血を約10cc採血し、硬膜外腔に注入して「ブラッド・パッチ」を行うと、起立性頭痛が予防できるという内容の発表を行った。

 当時は我が国も車社会となり交通事故の追突により、頸椎捻挫、いわゆる「むち打ち症」が急増し、その病態、治療方法の研究が盛んに行われていた。治療としての頸部硬膜外ブロックの合併症として発症したトータルスパイナールブロックがむち打ち症に効果があるという経験から、その病態生理解明のために犬を用いて全脊椎麻酔実験を行い、脳圧、呼吸・循環動態などを調べ学位論文にしたことも懐かしく思い出した。

 あれから40年、ブラッド・パッチが再び話題になろうとは。

                     920


2016/4/1
  ストックホルム症候群

 
1973年、スエーデンの首都ストックホルムの銀行で発生した銀行強盗人質立てこもり事件で、人質が犯人に協力して警察に敵対する行為をとったり、解放後も人質が犯人をかばい、警察に非協力的な証言を行う出来事があった。その出来事から誘惑事件や軟禁事件の被害者が犯人と長時間一緒に過ごすことで、人質が犯人に共感したり、同情や好意などを抱き、通常では理解できない協力的な行動をとることを「ストックホルム症候群」という。

 人間は事件に巻き込まれて命の危険を感じるような人質になった場合、犯人に敵意や憎しみを持つよりも信頼、協力、愛情を持って対応するほうが助かり易いという、極限状態に追い込まれた人質が環境に順応して自らの命を守るためにとる無意識の行動心理反応と考えられている。

 親から虐待を受けている子供が、虐待した親をかばうような言動をとることがあるが、ストックホルム症候群と同じ様に、自分が生き残る為の無意識の防御反応心理行動と考えられ「家庭内ストックホルム症候群」と呼ばれている。

 千葉大学生に長期間軟禁された女子中学生が逃げられなかったのは「ストックホルム症候群」に陥っていたからであろう。 

                      920  


2016/3/25 No.773
  免疫チェックポイント阻害薬


 切除不能な非小細胞肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬が保険適応となった。がんによって眠らされていたT細胞を活性化させ抗腫瘍効果を発揮する。今後他のがんにも適応が広がるという。
 
 著効例は20%位だが有効例に対する治療効果は高い。効果予測ができないので、対象患者を絞り込めず皆に投与してみるしかない。さらに、効果を途中で判断しにくく、いつまでも投与せざるを得ない問題がある。が、最大の問題点は一人あたり1年で3500万円もの保険医療費がかかること。3人に1人効くとして、有効例1例に年間1億円を超す薬代が毎年必要ということになる。

 これから団塊世代が高齢化を迎え、がん患者が激増する。副作用が少なくすぐれた効果が期待でき、高額医療制度により本人負担は少ないとなれば、皆投与を受けたがる。医師は治したいので積極的に使用する。製薬会社は利益を上げる為投与を勧める。などにより、
誰も高価な薬の使用を制限する術を持たない。医学の進歩という名のもと、高価医療機器、高価薬剤などコストを語らずに来た代償で我が国の国民皆保険医療財政は間違いなく破綻する。

 より高価になるであろうiPS細胞が臨床に応用される頃には、我が国の医療はどうなるのであろうか。      920

 920の独り言(757):高価な薬の費用対効果


2016/3/18 No772
  しんがりの思想


  戦後、奇跡の復興を成し遂げ経済大国となった日本は、これから先進国のなかでいち早く「人口減少社会」を迎え右肩下がりになる。社会がまともになるには右肩下がりも必要なことと言われているので、多すぎる人口が減少して、我が国はまともになるのであろう。

 右肩上がりの経済成長期には田中角栄の様な強いリーダーシップにより道を切り開き、次に何を手に入れるかを求める人が望まれる。一方、右肩下がりの縮小社会では最後尾で皆の安否を確認しながら、最初に何をあきらめ我慢すべきかを考えることが重要で、後ろから支えていけるフォローワ-シップが求められる。

 グループ登山ではサブリーダーが、二番手を歩く一番弱い人を気づかいながら先頭を歩き、リーダーは全員で頂上を極めて無事下山すべく、後方から隊列の全体を見て対応を判断することが出来る「しんがり」を歩くのが鉄則になっている。

 右肩下がりで下山の時を迎えている我が国は、我慢の時代を上手に乗り切る「しんがり」のリーダーが望まれるのに、アベノミクスなどといって、限りない無理な経済成長をすべくリーダーが先頭で突走って遭難し、東芝やシャープの様にならなければ良いが。      920    

鷲田清一:しんがりの思想。角川新書。

  石原慎太郎;天才、幻冬舎。





2016/3/11 No.771
 老耄


 これから我が国は団塊世代の高齢化とともに認知症が激増する。政府は認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定してサポーターとか支援チームとか認知症対策を進めている様だが。生活習慣病予防、知的活動しながらの有酸素運動などによる認知症の予防が薦められている。軽度認知障害段階での早期診断、治療薬開発も進められているが、薬物で認知症が治るとはとても思えない。

 認知症の最大の危険因子は年齢。長寿社会となった我が国では、高齢者の二人に一人がガンになり認知症となる。ガン患者の8割が痛みを訴え、4割が麻薬を用いての疼痛管理を必要とするが、認知症ガン患者はほとんど鎮痛治療を必要としない。多くのガン患者が身体的、精神的、社会的、霊的苦痛を訴えるが、認知症ガン患者は苦痛、死への恐怖などを訴えない事が多い。認知症とガンがコンビになったときに精神的、肉体的苦痛が減るというのは興味深い。

 高齢者のガン、認知症は病気ではなく、老いと衰えの現れである「老耄」との意見がある。高齢者のボケやガンは長寿社会において痛みや苦しみがなく、安心して老いて亡くなるために神様が用意してくれた恵みなので、長生きする人にとっての対策で必要なのは周辺症状がなくて“可愛く呆ける”ことであろう。 920


2016/3/4 No.770
  稲荷山


  先日京都に行く機会があり午前中時間があったので、伏見稲荷の一の社から三の社を回る「お山巡り」の参拝で稲荷山に登ってきた。

  全国で3万社以上ある稲荷神社の総本山が伏見稲荷大社。稲荷大明神が鎮座される稲荷山は、山自体が神の宿る場所とされ信仰の対象になっている。千本鳥居で有名な美しい一万基以上の朱塗りの鳥居が現世から神へのトンネルのように並び、独特的な雰囲気を醸し出している。には鳥居に灯りがつき、神秘的な参拝体験ができるという。 

  森羅万象すべてに神が宿り、神様と自然とヒトが共生する我が国の自然崇拝の神聖な雰囲気を感じることが出来るので、外国人が選ぶ我が国の観光地で第一位を獲得している。

  京都駅から近く、参拝料がいらず、早朝、夜にも参拝でき、神の鎮座する山めぐりが出来る事などで、外国人に限らず我が国の観光客にも人気があり、本殿あたりはすごい人出であった。神や霊魂は見ることはできないが、感じることは出来る。が、あまりに多くの観光客で、神霊に出会えなかったので、今度は夜半にお山巡りして神霊を感じてみようと思う。   920



2016/2/26 No.769
  屋根

 倉本聡が描き、富良野塾生が演じる日本の家族史の芝居「屋根」を見る機会があった。

  開拓農民として富良野に入植した夫婦とその子供たちを支え続けた「屋根」が見た貧困、戦争、敗戦、終戦、高度成長からバブル崩壊後を描く。貧しいながらも助け合いの生活、悲惨な戦争体験、自殺、戦死。節約から多量生産多量消費の生活となり、物質的には恵まれながらも心は満たされず翻弄する家族を通して、今の日本人が忘れてしまった大切なことは何かを問いかける。

 その昔、団塊世代の私は男ばかりの4人兄弟。戦後の貧しい時代に育ち、小学生の時に修学旅行に行くお金がなく、勤め先の父にお金を借りに行ったことを思いだす。夏は蚊帳、冬は火鉢。屋根から
見た星空。屋根に布団を干しての日向ぼっこ。テレビや冷蔵庫などなく、教科書や服は兄のお古であった。庭でニワトリの世話、五右衛門風呂の風呂焚きなどは子どもの仕事。ちゃぶ台での粗末な夕食など、貧しいながらも楽しく充実したガキ大将時代を思いだした。

 あれから60年、はたしてこの豊かさはいつまで続くのであろうか。平和はいつまで続くのか。そして本当の幸せとは。涙と笑いを織り交ぜ心揺さぶる芝居であった。        920



2016/2/19 No.767
  デヴィッド・タカヨシ・スズキ

 
地球環境に貢献した人を表彰する今年の京都地球環境の殿堂者は、デヴィッド・スズキ氏とその娘セヴァン・スズキさんの親子であった。

  デヴィッド氏は日系三世で生物学者、ブリティシュコロンビア大学名誉教授、環境活動家として国民投票で現存する最も偉大なカナダ人に選ばれていて、カナダでは最も有名な人として知られている。娘のセヴァン・カリスさんは、1992年ブラジルで開催された地球環境サミットに子供環境運動の代表として、12歳で「世界を5分間沈黙させた少女」として知られる伝説のスピーチを行ったことで有名。

 人間の活動が地球の気候や生態系に大きな影響を及ぼすようになり、環境と経済のバランスのとれた社会に向けての課題に親子で取り組んでおられる。私達は目先の政治や市場経済ばかりを議論し、緊急課題となっている地球環境問題を先送りしている。自然が政治や市場経済にコントロールされ、破壊されていることを指摘された。

 日系三世として日本人の遺伝子を受け継いでいるデヴィッド氏は、山・森・木・水・岩にも神が宿り、自然を敬う心を持つ日本人こそが、これからの地球環境問題に果たす役割は大きいと訴えられた。が、我が国はアベノミクスとかで、もっと多量生産、多量消費の経済成長ばかりを目指し、神罰が下らなければいいが。  920


2016/2/12 No.767

今私達が学ぶべきこと

 
皇紀2676年(平成28年)2月11日の建国記念の日に建国を祝う会が県民文化センターふくやまで開催された。

 アジア支援機構の池間哲郎氏による「今、私達が学ぶべきことー日本は何故アジアの人々に愛されるのか」の講演があった。

 カンボジア、スリランカ、ミャンマー、ラオスなどの貧しい子供達の想像を絶する悲惨な生活を写真で紹介された。あなたの夢は何ですか?の問いに、私の夢は大人になるまで生きることです。と泥水の中で家事を手伝い懸命に生きる子供達から一生懸命生きることを学び、井戸を掘り、学校を建てるなどのボランティア活動を通して、今の日本人が学ぶべきこと、「感謝の心」「生き方」を問われた。

  自分の国に誇りを持てますか?学校の先生を尊敬しますか?両親を尊敬しますか?と尋ねると、欧米はむろん貧しい東南アジアのどの国でも8割から9割の生徒が尊敬するという。が、我が国だけ先生を尊敬する生徒が何と3割に満たないという。

 我が国は、世界に類を見ない2676年もの神話と歴史を持つ高貴で誇り高き国民であるのに、日本人が誇りを失い、自信を失い、感謝を忘れ、祖国を愛することが出来ない国民になろうとしている。

 どの国でも建国記念日に各家で国旗を掲げるのは当たり前だが、昨日、国旗を掲げていたのは高須地区で1軒のみであった。

                         920


2016/2/5 No.766
  マイナス金利

 
我が国の最優良企業である東芝が数年にわたり莫大な金額の不正経理を行い、利益をあげていたとは驚いた。ドイツの超優良企業であるフォルクスワーゲンが不正ソフトで排気ガス規制を潜り抜け、販売世界一を狙っていたことにも驚かされた。どちらも世界に冠たる真面目で優秀で良い製品を作る優良企業と思われていたのに、ズルをしてまで世界一の金儲け企業になろうとしていたとは。

 出来の悪い学生がカンニングして落第を免れようとするのは分らないでもないが、カンニングをしてまで一番の点数をとろうとするのと同じ様に、優良企業としての価値観が狂ったのであろう。

 お金は預けると利息が付くのが当たり前と思っていたが、預けると利息が取られ、お金が時間とともに減ってゆく。お金を借りる方が借りるだけ得をする“マイナス金利”という経済政策がある事を始めて知った。我が国は“異次元の金融緩和”と“マイナス金利”という政策を行い、世の中にあぶく銭をじゃぶじゃぶとばらまき、人々がどんどん浪費することを推し進める経済成長を目指すという。

 貧しい時代に育ち、「もったいない」を教えられ「足るを知る」を学んだ団塊世代の私は、「節約は善で消費は悪」から「節約は悪で、浪費による経済成長は善」という狂った価値観が分からない。  


  920
2016/1/29 No.765
 セデンタリー・デス症候群

 長時間椅子に座りじっとして歩かない生活習慣は、喫煙並みに心身に悪い影響を与えることが明らかになった。

  たばこ1本で寿命を11分短くするが、1時間テレビを座って見ていると寿命を22分短くするという。1日6時間以上座っている人は病気になるリスクが40%も高くなる。座る時間が長くなるごとに糖尿病、肥満などのメタボに加えて、心血管障害、結腸癌などの発症が増加する。さらに、うつ病、認知症にもなり易くなる。

 グーグルでは役員会は立って行うし、時には歩きながら会議をするという。有名インターネット企業では立ってパソコンを操作する“スタンディング・デスク”が流行っているそうだ。

 歩くことが勧められ、歩行と認知の関係が欧米で注目されている。歩き方を調べることで軽度認知障害が診断できることが明らかにされた。さらに軽度認知障害の人に早足で歩くリハビリをすることにより認知症予防が可能になることも明らかにされた。私の病院では軽度認知障害の人や外来の高齢患者に早足意識歩行リハビリを行い寝た切り予防、認知機能改善を試みている。

 私は元来“いらち”で、いつも早足で歩いているのでボケないが、診察中はずっと座っているので、これから立って診察しようと思う。

               920


2016/1/22 No.764
  求めない

  詩集「求めない」で知られる加島祥造氏が老衰で亡くなった。

求めない すると 比べなくなる
求めない すると いまある自分をそのまま見はじめる
求めない すると もっと大切なものが見えてくる
求めない すると 本当に必要なものが見えてくる
求めない すると 心が静かになる
求めない すると 改めて人間は求めるものだと知る

  私達団塊世代の成人の数は240万人であったが、今年は120万人が成人式を迎えた。新成人が生まれた年は阪神大震災、サリン事件が発生して沈滞ムードに覆われ、その後の失われた20年に育った新成人は「さとり世代」と呼ばれるそうだ。インターネットで知識は豊富だが、良くも悪くも欲が無い。物欲が無く無駄な消費
をしない。高望みせず無駄な努力や衝突を避ける。無駄なチャレンジをしない。無駄な“ファースト・ペンギン”を目指そうとしない。性欲が無く恋愛に興味を持たず、平穏で人並みに幸せな生活を望む。などなど。

  最近の若者は・・・などと言わず、もう一度詩集「求めない」を読み返してみよう。   920     



2016/1/15 No.763
  お雑煮    

 
 年末は年賀状を書き、餅つき、門松・しめ縄を飾り、年越しそばを食べながら家族一緒に紅白歌合戦を見る。年が明けると、ご来光を拝み、お節料理とお雑煮を食べ初詣に出かける。親戚一族が集まり、子供や孫にお年玉を与える。私が子供の頃からの正月の過ごし方であり、昭和家族の平均的な正月の過ごし方であった。

  時代は変わり、外来の患者にお正月の過ごし方を聞いたところ、多くの人がお雑煮やお節料理を食べないと言うので驚いた。昨年の紅白歌合戦視聴率は39%と最低だったそうだ。紅白歌合戦は私が生まれて間もない1951年に始まり、東京オリンピックの1963年には視聴率81%と最高を記録し、一家団欒で見るテレビ番組として国民的行事となった。1985年頃よりスキー、旅行、海で過ごす人が増え、視聴率は60%を割り、最近では年末年始にも働く人が多くなり、視聴率は下がり続けているという。

  私達団塊世代が過ごした戦後70年間で、昭和家族の最も大きな変化は家族の変質といわれる。日本的伝統の家族形態であった長兄相続三世代同居家族形態が核家族へと移行したこと。親と同居しない、結婚しない、離婚などの単身世代が増えたこと。

  これから高齢独居という“究極の核家族時代”となり、喉に詰めるので、お正月のお雑煮文化は消えてしまうのであろうか。920


2016/1/9 No.762
  ホセ・ムヒカ

  新年早々、北朝鮮が水爆実験を行い、イランとサウジが対立し、シリアの混乱、ISテロ、中国の覇権など政治の混乱が続く。我が国はアベノミクスとか新三本の矢とか異次元の金融緩和とか、経済最優先の政策を推し進めて、物があふれる少子高齢化の島国で“働き蜂”日本人はどこに向かうのであろうか。

 給料の大半を貧しい国民に寄付し、質素な生活で世界一貧しい大統領といわれるウルグアイ前大統領であるホセ・ムヒカ氏は、国連持続可能開発会議で行った演説で一躍世界一有名な大統領になった。「自分は貧しいと思っていない、本当に貧しい人は贅沢な暮らしをする為だけに働く人だ。」「貧乏な人とは少ししか物を持っていない人ではなく、いくら物があっても満足しない人だ。」などなど。

  全米45万人の調査をもとに「日々の幸福感」「人生の満足感」と年収との関係を分析した結果、幸福感と満足感は収入が増えるのに比例して大きくなってゆくが、年収7万ドルあたりで幸福感は頭打ちになりそれ以上は高まらなかったという。

  ホセ・ムヒカ氏は言う。
「物やお金ばかりを考える人は政治の世界から出て行ってもらう必要がある。政治とはすべての人の幸福を求める闘いなのです」と。

 世界一貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉。双葉社。


2015/12/26 No.761
  ちょい悪

 
今年の最大の出来事はシリアの内戦と混乱に加えてイスラム集団が世界各地でテロを勃発させたこと。米欧露が空爆を仕掛けてテロ集団の撲滅を目指しているが、イスラム集団の壊滅は不可能であるばかりか、混乱は増大するばかり。極悪テロ集団を“ちょい悪”にして共存することはできないものであろうか。

  腸内フローラの研究が進んで、数年前は100兆といわれていた腸内細菌が、最近の遺伝子解析の研究により3万種、1000兆もの細菌がいること、身体と心にさまざまな影響を及ぼしていることが明らかにされている。腸内フローラには悪玉菌、善玉菌、日和見菌と言われる菌叢が共存していて、悪玉菌と言われる大腸菌なども時に極悪となるが、“ちょい悪”として共存している。

 私達は腸内細菌と共生し、腸内細菌は悪玉菌、善玉菌、日和見菌として共生しているように、皮膚の常在菌、胃内のピロリ菌なども完全除菌せず、やくざ、ジャンク、ガキ大将、いじめ、そしてイスラムテロ集団も徹底的に無くそうとするのではなく、“ちょい悪”として共存していくことを考えるべきであろう。

 私はその昔、ガキ大将としていじめをしてきたので、ピロリ菌ともココアでおとなしくさせ共存しようと除菌せずにいる。 

                        920


920の独り言〈256〉;クズ

2015/12/11 No.760
 腸がん予防

  大腸ポリープ切除患者7000人を対象に、4年間アスピリンを服用する群としない群で大腸がん発症に差があるかどうか、我が国で大規模な大腸癌化学予防臨床試験が行われる。

 欧米では肥満、高脂血症などのメタボ患者に対し少量アスピリン投与が動脈硬化疾患予防と同時に大腸がん予防にもつながることが明らかにされている。

 我が国ではその昔、大腸がんはほとんど見られなかった。食生活の欧米化によりメタボと同様に急増し、今年の新規患者は約14万人。女性では癌死の第一位となった。戦前の日本人は臭くない多量のうんこをしていたが、最近の若者やメタボ患者は便通が悪く、臭いうんこを少ししかしないので大腸がんをはじめ腸疾患が激増し、腸内フローラが疲弊して心身が障害されている。

 ココアは便通改善、便臭改善、便量増加のみならず、カカオポリフェノールによる動脈硬化予防や腸内フローラ活性化作用があり、日本人の大腸がん予防効果はアスピリンより大きいと思う。私を含め病院職員、入院や外来患者に純ココアを美味しく飲む習慣を勧めているので、大腸がん発症は少ないと思う。森永製菓と協力してココアによる大腸がん発症予防調査をしようと思っている。

  920 


2115/12/4 No.759
  うんこ

 
90歳の元気で明るい小柄なばあさんが私と雑談をするために月に一度受診してくる。旅行好きの抜群の記憶力で色々話をされるが、毎朝バナナ何本分かのすごい量の快便があるという。

 私達のうんこの平均は約200g。肉食の欧米人のうんこはライオンの様に臭くて少ない。昔の日本人はウシの様に臭くない多量のうんこをしていたが、最近の若者のうんこ量は激減しているという。

  うんこは60%が水分。食べかすは5%位で、残りの35%は腸内細菌。腸内細菌は500種類、100兆個と言われていたが、最近の研究では3万種、1000兆個もいることが分ってきた。うんこの量が多いのは腸内細菌の増殖力が高いことを示している。

  腸は人体最大の免疫機関で免疫の70%が腸で作られている。腸内フローラは癌、肥満、糖尿病、動脈硬化、アレルギー、自己免疫疾患などの身体的疾患のみならず認知症、うつ、いらいら、むかつく、腹が立つ、幸せ感など心の状態をも支配している。

 私は毎朝座禅で腹式呼吸をしているので快便であるが、病院でココアプロジェクトを始めるにあたり、毎朝飲んでいたコーヒーを純ココアにかえてみたところ、食事内容は変わっていないのに、臭くないうんこがものすごい量出るのには驚いた。 920

 920の独り言(624):腸脳相関

 藤田紘一郎:腸内細菌を味方につける30の方法、ワニブックス。



2015/11/27 No.758
  北海道

  先日、病院旅行で北海道に行ってきた。
一昨日からの寒波到来で北海道は猛吹雪だそうだが、数日前の旅行は幸いに快晴に恵まれて、氷雪の門で美味しいカニを食べ、定山渓温泉の露天風呂で疲れを癒してきた。また藻岩山に登り、以前登ったことがある噴煙を上げている樽前山、恵庭岳や遠くに大雪山系、十勝岳連峰を望んできた。

  40年前の大学4回生の時、山岳部の夏合宿で今は無き青函連絡船で北海道に渡り登山道、水場、テント場など整備されてない大雪山系旭岳、トムラウシ山から十勝岳連邦まで熊に襲われない様に鈴を鳴らしながら数日かけて縦走。その後、友人と根室、網走、宗谷岬、利尻島など北海道周遊旅行した若かりし頃を思い出す。数年前の札幌での救急医学会後、支笏湖畔の丸駒温泉に泊まり暴風の樽前山、恵庭岳に登ったことも懐かしく思い出した。

 思い起こすと北海道には2回の病院旅行を含めて、ニセコスキーなど冬季に3回、学会で2回など合わせて8回訪れていた。 

  あれから40年。歳を取りこれが最後と思いながら帰りの飛行機から北海道の山々をながめてきた。       920


2015/11/20 No.757
  高価な薬の費用対効果


 
C型肝炎治療薬が一錠8万円と高価なのが話題となった。今後も高価な薬が数多く登場するので、生活の質と生存期間を組み合わせて算出する「QALY」という単位を利用して高価な薬の費用対効果分析が行われるという。

  先日保険適応された再生医療製剤ハートシートは重症心不全治療に用いるが、何と一枚1476万円。抗がん剤は血液がんによく効き、分子標的薬イマチニブは毎月36万円と高いが、慢性骨髄白血病の予後が一変した。胃がん大腸がんなどにも新しい分子標的薬が保険適応された。年数百万円から1千万円かかる抗がん剤が湯水のごとく投与されるようになった。これから団塊世代のがん症例数が激増し、高価な抗がん剤で延命期間が延びると、さらに医療費が莫大となってくる。

 先日、血友病の片麻痺患者が紹介入院してきた。血友病治療薬の高価なのに驚いた。オルプロリスク4000単位が83万円。週1
回投与で月に約400万円で年に約5千万円、亡くなるまで毎週投与を続ける。

 限られた予算内で、宇宙滞在開発費用、知の地平線拡大費用、iPS細胞開発費用、抗がん剤費用をどうする。



2015/11/13 No.756
  何故山に登る そこにエベレストがあるから

 
1953年にヒラリーがエベレストに初登頂して以来、冒険家や国家プロジェクト登山からガイドが引率する営業公募隊による登山が主流となり、最近では毎年500名以上が登頂を目指し5月には大混雑するという。今までに約200人が遭難死していて、日本人は約200人が登頂し、男性6人女性2人が遭難死している。

  日本山岳協会エベレスト登山隊として、冒険家植村直己氏と伴に日本人初のエベレスト登頂を果たした登山家の松浦輝夫氏が81歳で亡くなったとの新聞記事が先日の日曜日に載っているのを見て、丁度、映画“エベレスト”が上映されているのを知り観てきた。

  1996年、ニュージーランドのアドベンチャー会社が一人6万5千ドルでエベレスト営業公募隊を募集。探検家のロブ・ホールがガイド3名と、世界の顧客9名(遭難死した日本人の難波康子も参加していた)を引き連れ登頂後、悪条件が重なりエベレスト登山史上最悪の遭難者8名をだした実話を基に作られた3Dで迫力ある山岳遭難映画。

2004年エベレスト登頂後遭難された太田祥子先生の偲ぶ会で登山ガイドが話した遭難状況を見ているような映画であった。

 920の独り言(180):チョモランマ


2015/11/6 No.755
  尿臭

 
体長1ミリの線虫(シーエレガンス)が尿の臭いで癌患者とそうでない人の識別が出来ることが発見された。患者の尿の1滴で診断可能で、早期のがん患者の発見も可能だそうだ。癌患者の尿による判定正解率は95%の高さという。人間の嗅覚の100万倍以上と言われる犬の嗅覚による癌患者の尿の臭い判定も研究が進んでいて、二つのがんで尿からにおい物質が抽出されたそうだ。

 一方、高齢寝たきり患者の介護で一番大変なのは下の世話。その中でも、尿臭、便臭、口臭、体臭、加齢臭などが嫌われている。歳を取り尿失禁、おしめなどの尿臭に悩んでいる人は多い。尿臭は尿素がアンモニアに変化して生ずるもので、消臭剤、消臭オシメなどさまざまな消臭グッズが販売されている。大人用紙おむつは年間1500億円も消費され、高齢化のため毎年急増しているという。

 ココアが便秘、便臭、尿臭改善効果があると言われているので、介護看護職員、外来高齢患者、デイケア患者、寝た切り入院患者にココアを投与してその効果を調査することにした。

 私は毎朝ココアを飲んでいて自分の便が臭くないからココアが効いたのかと思っていたら、他人の便も臭くなく、歳を取り嗅覚が衰えたためであった。             920



2015/10/30 No.754
  スポーツ庁
 
  今年の10月1日、スポーツを通じて生涯にわたり心身共に健康で文化的な生活を営む社会を目指すスポーツ庁が設置された。

  スポーツは青少年にとって心身両面にわたる健全な発達に貢献し人間形成に多大な影響を与えている。ところが最近の子供達は外遊びやスポーツをしないので、子供の体力・運動能力の低下、心の異常などが深刻な問題となっている。

 文部科学省による平成26年度体力・運動能力調査によると、「体力向上のためのスポーツのすすめ全国キャンペーン」により子供の走、跳、投能力低下にやっと歯止めがかかりそうという。一方、65歳から79歳の高齢者の体力・運動能力は過去最高レベルに達し、男女ともに記録更新が続いているという。

  先日帝釈峡スコラ高原での平均年齢が65歳を超えた高齢者ばかりのメンバーによるテニス合宿に参加させてもらった。秋晴れの日曜日で、第21回帝釈峡スコラ高原クロスカントリー大会が開催されていて、ここでも中高年のランナーが目立っていた。

  歳をとりストレス発散、楽しみなどと言いながら、合宿とか夏の暑い日も冬の寒い日も年甲斐もなくテニスで勝負をしている私は、間違いなくスポーツで命を縮めていると思う。  920




2015/10/23 No.753
  カカオの医療への応用

第43回日本救急医学会総会が東京で開催された。

  「ココアの医療への応用」という救急医学会らしからぬランチョンセミナーがあった。埼玉医大高度救命センターでは、チョコレートを食べた重症外傷患者の傷が早く治癒した症例を経験し、カカオの臨床、動物実験を行いその効果を発表している。

 ココア、チョコレートの原材料であるカカオはギリシャ語で「神の食べ物」を意味し、王侯貴族のみが飲むことを許された貴重な飲みものであった。ポリフェノール、テオブロミン、リグニン、ビタミン、亜鉛、銅、鉄、マグネシウムなどのミネラルを多く含むカカオはさまざまな医療効果を発揮する。

  1:便通、便臭改善効果。2:創傷治癒促進効果。3:敗血症ショック改善効果。抗菌効果。4:インフルエンザ予防、ピロリ菌抑制作用。5:美肌効果。6:虫歯菌抑制。7:冷え症、貧血予防。8:リラックス作用。9:認知症予防。10動脈硬化予防などなど。

 アーモンドと同様に健康食品ワイドショー的なのが気に入らないが、亜鉛を含むココアの褥瘡改善作用、リグニンによる排便調節、便臭改善作用などは高齢寝たきり慢性患者に魅力的な作用なので、私は毎朝ココアを飲むことにして褥瘡患者、オシメ患者、経管栄養患者に森永製菓の協力を得て、全員にココアを投与することにした。

    920


2015/10/16 No.752
  おれおれ詐欺

  日本の高齢者が抱える個人金融資産は946兆円もあるという。このお金を何とかせしめようと、さまざまな詐欺が発生している。おれおれ詐欺、振り込め詐欺、成りすまし詐欺などがマスコミで取り上げられているが、高齢者の健康志向を逆手に取っての詐欺まがいのテレビコマーシャルもそうであろう。

  健康食品、サプリメントなど、その効果はないのに、シジミ習慣、世田谷自然食品、水素水、青汁などなど。有名芸能人を登場させて、こんなに元気になるとか、歩けるとか、今すぐにとか、ひと家族3箱までとか。高齢者は直ぐに騙されてつい買ってしまう。

 肺炎は日本人の死因第3位、しかも亡くなる方の約95%は65歳以上ですと。肺炎に罹り死んでしまうと、元気な高齢者の恐怖を煽る肺炎球菌ワクチン宣伝が毎日何回も流されている。肺炎の死因が増えているのは、認知症、脳梗塞後寝た切り、胃瘻患者などの誤嚥性肺炎が死亡診断書に書かれているためなのに。

  製薬会社MSDは金をかけた肺炎球菌ワクチンコマーシャル戦略が功を奏し、元気な高齢者にワクチンがよく売れて、株価が上昇しているそうだ。私も効きもしない高価なアスタキサンチンを毎日服用している様に、小銭を持った高齢者は簡単に騙される。    920




2015/10/9 No.751
  知の地平線を広げる

 
ニュートリノに質量があるとの研究でノーベル物理学賞に選ばれた梶田隆章氏が、ニュートリノの研究は私たちにどの様に役に立つのかと聞かれて、「この研究はすぐに役立つものではないが、人類の知の地平線を広げるようなもの」と答えられた。

 エバーメクチンの発見でノーベル生理医学賞に選ばれた大村智氏は、「微生物から勉強させてもらった。私の仕事は微生物の力を借りただけ。だから微生物への敬意を忘れない」と話された。

  ノーベル賞をもらう人が発する言葉はやはり違う。何と含蓄ある言葉であろうか。平気でうそを言い、顔貌が悪くなる政治家と違って、研究者としての人徳ある顔貌も表情も良い。大村智氏は山梨大
学、梶田隆章氏は埼玉大学とローカルな大学の出身というのも良い。

  大村智氏は川奈ゴルフ場から採取した土から微生物を発見したとのことだが、私も40年ほど前に川奈ゴルフ場でゴルフをしたことがある。大村智氏と同時期にゴルフをしていたのかもしれない。私
は靴についた土を洗い流し、土を持ち帰ることはしなかったが・。

  梶田隆章氏がさらに言う。「科学は人類が協力して知の地平線を拡大する作業。一人ひとりの研究者ができることは大きくないが、自分が拡大してゆくプロセスが醍醐味」と。    920



2015/10/2 No.750
  健康になるためには
 
 
今週は、働く人の健康確保・増進を図り、快適に働くことができる職場作りに取り組む全国労働衛生週間。昭和25年に第1回が実施されて今年は第66回目。今年のスローガンは、「職場発!心と体の健康チェック はじまる 広がる健康職場」となっている。健康とは身体的、精神的、社会的、霊的に良い状態と、WHOで定義されたのが昭和23年。私が生まれた年。

 あれから67年。

  身体的には環境衛生、健康診断、医学の発達などにより当時の平均寿命男性58歳、女性60歳が、現在では男性は80歳を超え、女性は90歳に近づき世界一の長寿国となった。さらなる身体的健康志向の高まりで、テレビでは健康番組が目白押し。健康食品、サプリなどがオレオレ詐欺もどきの宣伝で飛ぶように売れている。

その間、年間自殺者3万人、過労死、うつ病など心の異常を訴える労働者が激増した為、今年より労働者に対するストレスチェックが法律で義務づけられ、心の健康増進を図ろうとしているが・・・。

 働く人々の心が健康になるためには、社会的、霊的な健康が必須となる。私は毎朝座禅をしているが、我が国では特に霊的な健康は難しい。    


2015/9/25 No.749
  誕生日の向き合い方

 
今年の誕生日は初めての挑戦が体験できて楽しい日となった。
67回目の9月20日の誕生日に、ブルーウオーターヨットレースに参加させてもらった。数名のクルーによるクルーザーのレースで、広島観音沖と宮島沖に設置されたブイを反時計回りに回りタイムを競う本格的クルーザーヨットレース。快晴の天気で風の心配をしたが、海上ではヨットレースに相応しい風が吹いて、風を読みタッキ
ングを繰り返しながら、時には45度に傾いた状態で疾走するなどスリリングなレースで、2位に入賞した。

  女性は誕生日の翌週に死亡し、男性は誕生日の1週間前に死亡する人が多いという。女性は誕生日を祝い事として楽しみにするのに対して、男性は自分の人生を振り返る機会としてとらえ、何と実りのない人生であったかと、失望するため。といわれている。

  黒井千次氏によると、幼い子供の時の誕生日は無事の成長を喜び、将来に向けての夢や望みに支えられた祝いの日とする。これに対し、老いてからの誕生日は、過去を振り返り自らの生の輪郭を再確認しつつ、これまでの上に更に1年を重ねようとする覚悟の日とする。

  高齢者となり、過去を振り返るばかりで、もう新たなことは無理と思っていたが、次の誕生日には何か新しい初めてのことに挑戦しようと、覚悟した。            920


2015/9/18 No.748
 国立大学改革


 先日、森田潔岡山大学長、越智光夫広島大学長の二人の学長の講演を聞く機会があった。ともに医学部出身で、森田学長は「麻酔の風」、越智学長は「膝の外科治療の30年の歩み」と題しての講演であった。

 国立大学が大きく変わろうとしている。国立大学がグローバル化、少子化、人口減少、新興国台頭による競争激化に勝ち残るため、安倍政権は日本再興戦略、教育振興基本戦略を閣議決定し、国立大学改革プランを作成した。国立大学を法人化して学長のリーダーシップの結果によって交付金の配分を決める。卓越型、特色型、地域型に3分類する。成長戦略の一環として、特に理系、医系の強化を掲げ、成長戦略に寄与しない人文社会学系学部は縮小廃止するという。

 我が国の人口は少子化で、40年後には現在の約半数に減少する。とすると、大学の数も先生、学生の数も病院数もベッド数も医師数も現在の半分で良いことになる。 中四国10国立大学のうち、何と8大学が医学部出身の医師が学長となっている。人口減社会で国立大学の教育、医療を稼ぐ手段として改革するか、知の殿堂を守るかどうか学長の手腕が問われる。

                     920



2015/9/11 No.747
 教授はつらいよ


 20年来診療の手助けをしていただいている岡田裕之先生の岡山大学第一内科教授就任祝賀会が開催された。100年を超える伝統ある教室の第12代教授就任なので、同門会の先生方を初めとして400人を超える教室関係医師が参加し、盛大な祝賀会であった。 かつて大学医学部、特に旧帝国大学医学部の第一内科という病院の中心となる教授は「白い巨塔」「絶対的権力者」「派閥争いの勝者」というイメージであった。

 「白い巨塔」から50年。そんな教授像は過去のものとなった。日経メディカルに「教授はつらいよ」特集号がある。「絶対的権力者も今は昔。白い巨塔とは大違い。失墜する教授の権威。医局員の処遇の心配り。膨らむ教育、診療、研究の負担。大学、病院、学内外の管理業務に疲弊。責任ばかり負わされて激務に見合わない給料。などなど。」それでも教授になるのは「周囲に勧められて」が最も多いという。

 研究論文数は多いが手術ができない外科教授、病気は診るが病人を診ることができない教授ではなく、バランスが取れ人望ある人格者ゆえ、岡田裕之先生が周りに勧められて教授になられた。つらいだろうが、御活躍をお祈りする。       920



2015/9/4 No.746
  ブラックスワン


 北京で行われた世界陸上大会がボルトの3冠で無事終了した。大会終了後、中国発の株価暴落で世界株安となりマスコミを賑わしている。以前より、中国は問題点が多く、北京オリンピック後、上海万博後に内部崩壊し経済破綻するとの専門家の意見が多かったが、すべて当らなかった。

 政治でコントロールできなくなった世界経済に関する予測は専門家でも素人でも同じ確率だそうだ。専門家と呼ばれるコメンテータの情報は半分がガセネタで、予想が当たることは少なく、素人の直感の方が正しいことが多い。

 ブラックスワンとは、従来、白鳥は白色と信じられていたのが、オーストラリアで黒い白鳥が発見されたことにより、鳥類学者の常識が大きく崩れることになった出来事から名付けられた。従来からの常識的な専門知識や確率からは予測できない出来事が発生し、人々に大きな影響を与えることを総称したものとなっている。

 サブプライムローン破綻、ニューヨーク貿易センタービル破壊、東電原発爆発などは予測できない出来事であった。中国のバブルがはじけて経済混乱し世界大恐慌となる、中国が軍事力を増強しアメリカと戦争することなどは予測できない出来事であろうか。

 全米オープンテニスでは、錦織圭が昨年準優勝し今年は優勝を期待していたが、予想外に初戦敗退してしまった。 920




2014/8/28 No.745
  地域医療連携


  昨日、第4回尾道総合病院地域医療連携のつどいが開催された。393床で医師数80名。新人医師と新しく開設された地域救命救急センターの現状などが紹介された。

  先月は福山市民病院の医療連携の会が開催された。福山市民病院は昨年100床増床し506床となり医師数は142人。研修医をふくめてフレッシュな新人医師40人が紹介された。新たにダビンチロボット手術装置の導入。高価な放射線治療装置の導入による高度先進医療の提供。また、総合診療専門医の配置によるきめ細かな医療提供などが紹介された。

  今後わが国は患者申出療養制度、特区医療制度など国民皆保険制度に自由診療制度が導入され、がん医療、高度先進医療など高度で良質な医療を安全に提供し、一番嫌いな言葉“患者さま”に選ばれる病院を目指すことが求められている。

 各地でそれぞれ医療連携が模索されているが、人口減少地方都市での高度医療、救急医療対策は難しい。尾道市の人口も現在15万人が30年後には10万人を切り、45年後には7万人まで半減し、高齢独居ばあさんばかりになるという。どうする? 

                     920

 2015/8/21 No744
  日本のいちばん長い日


  昭和天皇が御前会議で戦争終結の決断「聖断」を下した皇居内にある御文書室の地下防空壕が、終戦後70年たってはじめて宮内庁により公開され見ることが出来た。

  玉音放送も今まで聞かれていたのはコピーであったが、今年原版のレコードの音声が公開された。「耐エガタキヲ耐エ 忍ビガタキヲ忍ビ 以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス」で有名な終戦の詔勅(しょうちょく)は私には分りにくい難解な気迫ある名文であるが、御前会議での天皇の発言をもとに、起草された経緯から修正されるまでの秘話なども知ることができた。

  戦後70年終戦の日に半藤一利が書いた「日本のいちばん長い日」の再映画化を見た。50年ほど前には白黒だったが、同名の映画を見た記憶がある。終戦が昭和天皇によって決断され、終戦に至る過程がいかに困難で犠牲を払うものであったかを描いている。

 人間は知能が発達して現在の豊かで便利な文明をこしらえることができた。しかし、他の生物が決してしない人間同士の大量殺害、戦争を繰り返しているのが人間。人間とはそういう二面性をもつ生物であろう。戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのはいかに難しいかを、私達人間は今だ学ぶことができないでいる。  

    920



2015/8/14 No.743
  上を向いて歩こう

  坂本九はテニスが好きで、30年前の1985年3月にグリーンストンヒルズテニスクラブがオープンした際には駆けつけてきて始球式を行い、彼は今も特別会員になっている。

その年の8月13日、お盆入りの前で満席の東京発大阪行きの日航機123便ジャンボジェット機が御巣鷹の尾根に墜落した。520名が死亡、4名の生存者。航空史上最悪の大参事となった。人気絶頂期であった坂本九が墜落機に乗っていた。8歳と11歳の二人の娘を残して。享年43歳。

 墜落後、事故原因の究明、墜落現場特定の遅れ、救助活動の遅れ、安全神話の崩壊など様々な問題が噴出し、山崎豊子が日航機事故をモデルとして、航空会社の社会倫理と権力闘争をからめて描いた「沈まぬ太陽」が映画化され話題となった。

没後30年、九ちゃんを追悼し偲ぶ会がグリーンストーンヒルズテニスクラブであり参加させてもらった。オープン当時の九ちゃんのテニスプレー姿などの映像が流され、「上を向いて歩こう」、「見上げてごらん夜の星」、「明日があるさ」、「幸せなら手を叩こう」などが演奏された。

 上を向いて歩こう 涙がこぼれないように 泣きながら・・。

                     920


2015/8/7 No.742
  チャレンジ


  最近の若者は内向き志向で、挑戦することを好まず、困難な問題や未経験のことなどに取り組むことを避ける傾向にあり、チャレンジ精神が欠けているといわれている。

 指導者は言う:チャレンジには裏付けが必要で、困難に立ち向かう勇気と苦労をいとわない努力が必要。チャレンジし失敗する権利を私達は持っている、しかし失敗には反省という義務がついてくる、と。

 先駆者が難しい未経験なことにチャレンジしてきたからこそ、今の医学の進歩がある。が最近、神戸国際フロンティアメディカルセンターでの生体肝移植、群馬大学での腹腔鏡下手術などでは、マスコミをにぎわす問題が出現した。また、東芝を組織ぐるみで不正に走らせた魔の言葉が「チャレンジ」であった。歴代社長がチャレンジと称して、過剰な業績改善命令を各事業所に要求していたという。

  プロテニスでは主審、線審の判断が間違うことがあり、選手は「チャレンジ」と称するビデオ判定でアウトかセーフの判定の確認を求め、判定困難な判断が解決できるようなった。

 セルフジャッジをする私たちは、歳をとると何故だか自分に有利な判定をしてしまう。私はチャレンンジ精神旺盛なのでしばしば口でチャレンジを要求している。         920


2015/7/31 No.741
  会長


第49回日本ペインクリニック学会がグランフロント大阪で開催された。大阪駅付近の開発は驚くばかりで、高層ビルが林立し、の面影は全くなく迷子になりそうであった。

「ペインクリニシャンの矜恃」をメインテーマに、慢性疼痛に対するオピオイドをはじめとする各種薬物療法、痛みの制御修飾系に関する基礎研究の展開、痛みのチーム医療、緩和医療や在宅医療へのペインクリニック、エコー下神経ブロック、痛みの情動的側面の解明などが話し合われていた。

その昔、我が国で痛みの治療を専門とする医療が麻酔科医を中心に行われるようになり、ペインクリニック研究会として発足し、新しい痛みの治療などを発表していた頃を思い出した。

あれから30年。

何と、私が若い頃指導していた森本君が学会の会長になるとは。「木村先生、おひさしぶりです。歳を取られましたねー、先生のペインクリニックの本で勉強させてもらいました」と会場でたまたま出会い話しかけられた。「おう森本君、いや森本先生、30年ぶりかねー、立派になったなー。男前でファッション雑誌のモデルなどをして、私にいじめられた君が会長になるとは。ようがんばったなー。これからもがんばって活躍してや、ほんまに。」 

   920


2015/7/14 No.740
  ストレスチェック

  昨日、医師会館でストレスチェックの研修会が行われた。ストレスによるメンタルケアを必要とする労働者が増えてきたので、厚労省は今年の12月より、50人以上の事業所の労働者すべてにストレスチェック検診を法律で義務づけるという。

 過重労働によりメンタルケアが必要となった労働者に、休日は何をしているのかを聞くと、ほとんどの人が疲れているので家でゴロゴロしているという。会社での過重労働よりも、休日に家でゴロゴロするほうがコーチゾールの上昇が大きく、ストレスが発散されるどころか、ストレスが貯まることが明らかにされている。

 健康とはフィジカルに、メンタルに、ソーシャルにそしてスピリチュアルに良い状態をいう。健康を守るため検診による身体的ケア、ストレスチェックによる心のケアも必要ではあるが、社会的にも良い状態かどうかチェックすることが重要であろう。経済至上主義、核家族化、スマホ関係化、派遣社員化、孤食化、独身化、草食・絶食化など、サル化社会、オキシトシン不足社会などと言われる最近の我が国では、健康を維持するのは難しい。スピリチュアルに良い状態の健康などさらに難しい。

                       920


2015/7/10 No.739
  安楽死

 
人生の終わりを決めるのは、自分?家族?医師?神?無意味な延命治療をしない尊厳死は、欧米では自然死とされていて、高齢認知症患者で胃瘻により生かされている患者はいない。それどころか、大麻、売春、安楽死が法律で認められている人口千六百万人のオランダでは毎年4千人以上が医師の自殺ほう助による安楽死で死亡していて、最近、安楽死専門クリニックが開業したという。

オランダの安楽死は、本人の権利ではなく、「任意による熟慮された持続的な本人の要請による生命の終結」と定義されている。自殺は自分の身体に大きなダメージを与え、何より周りに迷惑をかける。残された家族は罪悪感と喪失感に襲われトラウマになる。

一方、安楽死による自死は身体にダメージを与えない。家族に囲まれた計画的な死だから孤独でない。苦痛なく眠る如く死亡するので、残された家族は安堵感、幸福感がもたらされるという。

 ということで、欧米では安楽死が認められつつあるようだが、私達がこの世に生を受けたのは自分の意思ではなく、奇跡的な縁によって生まれ生かされているので、逝くときも自分の意志ではなく、人知を超えた自然の力によってあの世に行くべきであろう。   

920

シャボットあかね:安楽死を選ぶオランダ「良き死」の探検家たち。

日本評論社。


2015/7/3 No.738
 ギリシャ


 デモクラシ―発祥の国ギリシャが財政破綻を前にして、緊縮財政受け入れかEU離脱か、EUとチキンレースをしている。その影響で株価が少し下がったとか、中国がマネーゲームに乗り出すとか我が国のマスコミをにぎわしている。オリンピック発祥の国ギリシャには、今から30数年前に旅行し、パルテノン宮殿そばのホテルに泊まり、ギリシャ神話の遺跡を探索し、美しいエーゲ海クルーズを楽しんだことなどを思い出した。

 イソップ物語に面白い話があるそうだ。

疲れた旅人が井戸のそばで寝入ってしまう。今にも井戸に落ちそうになった時、ギリシャ神話に出てくる運命の女神が現れ、旅人を起こして言った。「こらお前、もし井戸に落ちていたら自分の不注意を棚に上げ、私をとがめるだろう」と。多くの人は自分のせいで不運な目にあいながら、他者を非難する、という教訓になっている。

 我が国は物が溢れる豊かな国だが、ギリシャ同様に借金まみれ。年金、介護・医療費削減など緊縮財政が強行され、私たちが不運な辛い目にあうのは、親のせい、学校のせい、病院のせい、政治のせい、国のせい、少子高齢化のせい、時代のせい、神のせい? 


2015/6/26 No.737
  オバマケア


 「ルポ貧困大国アメリカ」で株式会社化したアメリカの病理を暴いた堤未果氏が入念な取材に基づきオバマケア後の米国医療の実態とその背景を詳しくレポートした「沈みゆく大国アメリカ:逃げ切れ日本の医療」が面白い。広島で講演されたので聞きにいってきた。

 我が国では医療・介護は社会保障の考えであるが、アメリカでは医療も介護も投資して利益を上げる「商品」。オバマケアは投資家にとって巨額の利益をもたらす「新商品」となった。製薬企業、保険会社、投資会社が結託した巨大な医産複合体は、優秀な人材を政府中枢に送り込み、一般国民にはよく分らないように、自社に利益がもたらされる複雑で膨大な量の医療保険制度改革法案を作成した。規制のない自由競争により、より良い医療がより安くすべての国民に提供できるとの触れ込みであったが、薬は製薬会社の思いのまま高額となり、保険料も高騰、患者は治療が制限されて、医療複合体に組み込まれた医師は過重労働、医療過誤保険などで、自殺率先進国第一位。医療費はダントツ世界一で医産複合体や投資家の利益は巨額となった。などなど。

 彼らが次々に布石を打って虎視眈々と狙っているのは薬、医療機器、保険、日本の医療・介護費100兆円。われわれ日本の医師は彼らのマネーゲームから逃げることができるであろうか。 920

貧困大国:920の独り言(386)

堤未果:沈みゆく大国アメリカ、逃げ切れ!日本の医療。集英社新書


2015/6/19 No.736
  健康食品


 健康志向の高まりで、健康の保持・増進に役立つといわれる健康食品、サプリメントは、日本人の6割が利用していて、米国では3兆円以上の市場になっているという。

  米医学誌が、ミネラルやビタミンなどのサプリメントは健康効果がないばかりか害になることがあるのでサプリメントに金を浪費するのは止めようとの論文を掲載した。しかし、健康食品、サプリメントは、その効果の科学的根拠よりも、広告の巧さにより売り上げが著しく上がり、大きな市場となっている。 

  学会ランチョンセミナーで、アスタキサンチンを研究している先生の講演があり、アスタキサンチンの抗酸化作用は、老化、病気の元凶である活性酸素を抑制する。お肌の老化であるシミを予防し、美肌になるエビデンスが得られたとの話をされたので、さっそく高価なアスタキサンチン化粧水とサプリメントを購入した。毎日使用しているが、残念ながらすでにできてしまったシミは良くならないそうだ。

 身体的、精神的、社会的、霊的に良い状態というWHOが定義した“健康”に必要なことは、健康食品やサプリメントではなくて、「美味しく」、「楽しく」、「感謝して」食事をすることであろう。

920


2015/6/12 No.735
  砂糖税

 
先日、糖尿病学会で重鎮の河盛隆造順天堂大教授、加来浩平川大教授による特別講演が行われた。尾道のような小さな医師会に重鎮二人が来られるとは、アクトスで賠償金を払わされた製薬企業武田が力を入れたのであろう。

 河盛教授の講演は何度か聞いたことがあるが、流暢でよどみなく糖の流れを最近の研究成果を交えて解説され、プロの講演であった。基本的には、テニスの錦織圭の様に出来るだけ初期から先制攻撃をして食後過血糖を抑えて糖毒性を予防することの大切さを話された。Ⅱ型糖尿病患者が高齢になると、クスリづけになるので早期介入、未病の段階からの対策が重要ということ。

 新しい研究成果に基づき、次から次に高価な新薬が開発され市場に出てきているが、最も基本で大切な食事・運動の改善なくして、どんな新薬もその効果を発揮しえないということであろう。

 これからの少子高齢化時代に、喫煙、過食、運動不足、肥満など生活習慣病としての高齢障害者を誰が見るのであろうか。子供の時よりその親を含めての食育、体育の重要性が理解されないので、砂糖税、ポテトチップス税などに加えて、肥満税、Ⅱ型糖尿病税が課せられるべきであろう。         920



2015/6/5 No.734
  想像する力:チンパンジーが教えてくれた人間の心

 
ヒト科にはヒト、オラウータン、ゴリラ、チンパンジーがいる。ヒトに一番近いチンパンジーを観察研究することにより、人間とは何かが明らかになってくる。チンパンジーの直観像記憶は人間の記憶力よりすぐれている。チンパンジーは見習う学習、褒めない教えない教育で育つが、ヒトは褒める、微笑みながら教える教育で育つ。ヒトは乳児の頃より他人の顔の表情と操作している物を見比べ、それらの情報を総合してその意味を理解するが、チンパンジーは操作している物にのみ視線を向けて他者の顔を見ない。ヒトは親の顔を見て心を推し量る能力を獲得した。

 顔の一部を消した似顔絵を描かせると、チンパンジーは顔の輪郭をなぞるだけだが、ヒトの幼児は想像して目や鼻や口を書き加える。

 チンパンジーは脊髄が損傷して寝た切りになっても、絶望せずに毎日元気に明るく生活する。チンパンジーは「今、ここ」の世界を生きている。まるで道元禅師のごとく?

 人間とチンパンジーの違いは「想像する力」。未来を想像しないチンパンジーは絶望しない。人間は想像する力を獲得した故に心が進化し絶望する。私たちが絶望もするが、希望を持つこともできるのは「想像する力」を得たから。などなど映像を用いた京大山岳部OBの松沢哲郎先生の講演が非常に面白かった。

920 
松沢哲郎京都大学霊長類研究所教授:62回日本麻酔科学会特別講演。



2015/5/29 No.733
  本当にあった医学論文

 
小保方晴子氏によるSTAP細胞にせ論文の騒ぎは収まったが、世界中で膨大な数の医学研究が行われ論文として発表されている。

 尿道にフォークをいれた、ネギを用いた導尿など驚きの症例報告、面白いテーマを真面目に研究したありえない医学論文を集めて紹介した「本当にあった医学論文」が面白い。好評であったのか、さっそくその(2)も出版された。

 直腸マッサージでしゃっくりを止める研究。鼻毛が長いと喘息になりにくい研究。自分の足が臭いと思っている人の足は臭く、思っていない人の足は臭くない研究。検尿の際に患者がどのような容器を選ぶかについての研究。

 ジッパーに挟まれたペニスの緊急処置について。性交中の興奮した男女の性器のMRI像の研究。人間と古代の彫刻における陰嚢の非対象性の研究。後背位での性行為中に空気塞栓で死亡した症例。精子でアナフラキシーをきたした女性の症例。ミノサイクリン、オキシトシンで浮気を予防することができるかの研究。ストレスの多い男性はふくよかな女性を好む研究。膝の上でノートパソコンを操作していると精子の運動が低下する研究。などなど。

                       920

倉原優:本当にあった医学論文。中外医学社



2015/5/22 No.732
  認知症恐怖症候群

 
現在の認知症患者は約460万人で、私たち団塊世代が後期高齢者となる2025年には認知症患者は700万人となり、小学校生徒数680万人より多くなるという。

 ボケたらいけないと、認知症予防と称して色々なことが試みられているが、アルツハイマー認知症の最大の危険因子は年齢。85歳以上の歳なら50%、90歳を超えると60%以上が認知症になる。二人に一人以上が認知症になるということ。これを病気と呼んで良いのであろうか。高齢者の認知症は老化現象の一つなので、長寿を求めるならば、物忘れは神からの授け物として受け入れるべきであろう。

 先日、アルツハイマー認知症カンファレンス講演会があり、「適切な見守りがあって初めて薬物の効果が発揮される」という話があった。糖尿病など生活習慣を改善せずに、次から次に新薬が投薬されても血糖コントロールができない患者が多いのと同じ様に、認知症の薬も適切な見守りがない患者に投薬しても全く効かないということに納得した。講演の最後に樋口了一の歌を聴かせてもらった。   

               920

樋口了一:手紙~親愛なる子供たちへ~

年老いた私が、ある日、今までの私と違っていたとしても、どうかそのまま私のことを理解してほしい。
私が食べ物をこぼしても、靴ひもを結び忘れても、あなたに色んなことを教えたように見守ってほしい。
同じ話を何度も何度も繰り返しても遮らずに頷いてほしい。
悲しい事ではないんだ、消え去ってゆく旅立ちの前の準備をしている私の心に励ましのまなざしを向けてほしい。
あなたが弱い足で立ち上がろうと私に助けを求めたようによろめく私にどうかあなたの手を握らせて欲しい。
私を理解して支えてくれる心だけを持ってほしい、きっとそれだけで私には、勇気が湧いてくるのです。

あなたの人生の始まりに私がつきそったように、私の人生の終わりに、すこしだけ付き添ってほしい。



2015/5/15 No.731
 老性自覚

 歳を取ったという自覚のことを「老性自覚」と言うそうだ。歳を取ったという感覚は高齢者だけのものではなく、若者でも自分より若い人と比較して、歳を取ったと感じることもある。

 私が生まれた頃の平均寿命が60歳時代の老性自覚と、現在の高齢社会での老性自覚では状況が異なるが、視力の低下、疲れ易い、疲れの回復が遅い、物忘れなどが老性自覚の契機となっていて、最近では70歳代で歳を取ったと感じる人が最も多いという。

 老いを自覚する年齢は人それぞれだが、身体は確実に老いてゆく。人間の細胞は数週間で全て入れ替わっていて、心も身体も日々変化している。歳を取るにつれて、若い時に取れていた身体的、精神的なバランスが崩れ自覚症状がでてくる。それが私達が「歳を取った」という感覚の正体だという。

 私は白髪でも老いは感じていなかったが、仕事をしていて疲れ易くなり、筋力が低下しテニスで取れていた球が取れなくなり、動悸息切れがし、患者の名前、薬の名前が出てこなくなり、歳を取ったと思うようになった。

 老いを自覚する歳になったので、小欲知足で林住期を心穏やかに過ごし、上手に枯れていきたいと思うのだが・・・。 920

 渋谷昌三:老いを愉しむ:老境の心理学。角川新書。



2015/5/8 No.730
 健康寿命


 私が生まれた1948年の日本人の平均寿命は、男性50歳、女性54歳であった。当時、健康寿命などという言葉はなかった。昨年の平均寿命は、男性は80歳を超え、女性は90歳に近づいている。一方、健康寿命は男性75歳、女性80歳なので男性は数年、女性は10年間、一人での生活が難しく手助けが必要となっている。

 政府は健康医療戦略推進法で、介護費用を抑制するために健康寿命を2020年までに1年延ばすという目標を閣議決定した。「健康寿命を延ばす」という言葉は聞こえが良いが、高齢者社会で健康寿命だけを延ばすことは至難の業で、ますます超高齢者社会になるということ。長寿になればなるほど、人の世話が必要となる期間が長くなるのは当たり前のこと。医療・介護の社会保障費はますます増えることになる。

 超高齢化社会を生きなければならない私達にとって、ピンピンころりなど宝くじに当たるより難しい。長生きをしたい人は、晩年に心身が衰えることは必然的で不可避の宿命であり、誰かに助けてもらわなければ生命を全うできないという現実をしっかり受け止める“心構え”と“お金”の準備をしておかなければならないだろう。

                      920


2015/5/1 No.729
  絶食化男子


 地球上に生息する動物の中で、多くの動物は発情期にだけに交尾するが、人間だけがのべつ幕なく、活発な性行動を営んでいる。ところが、我が国ではセックスに無関心あるいは嫌悪して、草食化どころか「性の絶食化」傾向の若い男女が激増しているという。

  人間の脳は進化して、本能的性行動を司る辺縁系と新皮質である前頭葉の性欲によって、いつでも発情することが出来て快楽が得られるのに、最近の若者の脳はどう狂ってしまったのであろうか。 性情報の氾濫、性に関する誤った青少年健全育成などの要因が考えられている。が、目と目を見合わせて、触れ合って信頼関係が築かれるという本来人間が有している人間関係が、携帯・スマホによって希薄となり、抱擁、セックスにより、絆、愛情がさらに深まるオキシトシンの分泌不全が絶食化の原因であろう。

 ゴリラは一夫多妻のハーレムで羨ましいが、メスの発情期が短いため交尾の回数は少なく、体重あたりの睾丸は小さい。一方、乱交のチンパンジーは自分の遺伝子を多く残そうとやたら交尾するので、体重あたりの睾丸は大きい。人間の睾丸はその中間あたり。我が国の若者の睾丸がペニスと共に委縮してしまわなければいいが。

                       920


920の独り言(678):ユマニチュ―ド

ユマニチュード


 認知症高齢者の暴言・徘徊など、周辺症状の対応には悩まされる。高齢者でアリセプトを服用している患者を診た場合には、投与を中止することで周辺症状が軽快することは多い。認知症の研究が進み新薬が次々と開発されているが、薬で解決できるとは思えない。

 フランス生まれの認知症患者とのコミュニケーション改善方法を体系化した”ユマニチュード”が注目されている。「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」を基本に、病人ではなくて人間として接することで信頼関係が生まれ、周辺症状が劇的に改善するというので、病院で取り入れている。

 人と人が直接触れ合うということを”正法眼蔵”に「眼(まなこ)を開(かい)して、眼に眼授(がんじゅ)し眼受す。面(おもて)をあらわして面に面授(めんじゅ)し面受す」と記されている。

 情報化時代でIT情報は膨大になったが、情報が真実か嘘かの判断が難しい。心の触れ合いがないなど、人間的触れ合いが欠けてくる。スマホや携帯の一日使用時間が、中学生は2時間、高校生男子は4時間、高校生女子は6時間、6時間を超えるものが4割もいるという。

 中高校生にも熟年夫婦にもユマニチュードが必要であろう。
                          920



2015/4/24 No.728
 信頼関係とオキシトシン

 一般的に動物が相手の目を直視することは、威嚇のサインであるが、ゴリラは見つめ合うことにより相手の気持ちをくみ取り、信頼関係を築くという本来人間が備えている能力を持っている。

 犬と飼い主がじっと見つめ合うとオキシトシンが分泌されて、飼い主と犬の絆が深まるという面白い実験研究結果が発表された。オキシトシンは分娩時に子宮収縮を促すホルモンであるが、見つめ合い、抱擁、性行動などによっても分泌され、「抱擁、愛情、恋愛、幸福、絆、信頼ホルモン」などと呼ばれ注目されている。自閉症の患者に経鼻投与すると、相手の目を見て話せるようになるという。

 最近の我が国は、核家族化、孤食、ぼっち、スマホなどにより、直接相手の目を見て話すことが少なくなり、信頼関係の薄いサル化する社会が問題視されている。オキシトシン分泌不全社会であろうか。医師と患者の関係も、電子カルテでデーター、画像ばかりを見て患者の目を見て話さない、手あてという触れ合いをしないことが指摘されている。

 20年来病院の診療手助けをしていただいていた岡田裕之先生が岡山大学第一内科教授に就任された。人間関係を大切にされる先生で、患者から信頼される立派な医師を多く育てられることを期待したい。                  920



2015/4/17 No.727
  帝王切開

 
先日、WHOが世界中で医学的に必要がないにも関わらず帝王切開による分娩に頼る妊婦が多いことに警鐘を鳴らした。

 ブラジルでは帝王切開による出産が全分娩の6割にもなっている。自然分娩の痛みを回避するため、経膣分娩が出産後の性生活に悪影響を及ぼすと信じられているため、公的病院での分娩が乱暴で粗雑なため、私的病院の営利目的、帝王切開は手術ではなく出産方法の一つと思われているため、などが帝王切開による出産の多い原因となっているそうだ。

 最近では中国、韓国でも帝王切開が急増していて何と50%に迫ろうとしているという。40年ほど前に中国を訪れた際に、針麻酔で開胸手術が行わていれたことに驚いたが、上海での産科専門病院での針麻酔による帝王切開がものすごい数手際よく行われていたのを思い出した。

 米国では分娩時の痛みを回避するため90%が無痛分娩を受けている。また、セレブ出産として計画的、美容的、生みの苦しみを回避するために帝王切開が選ばれるそうだ。

 分娩時の痛みが強ければ強いほど、出産の喜び、子供に対する愛情が強くなるということで、自然分娩が推奨されてきた我が国でも、この20年間に帝王切開による出産が2倍に増えているという。

 その昔、夫が出産に立ち会うなど考えられなかったが・・・。            920


2015/4/10 No.726
 ムークス

 
今年も各大学で新入生を歓迎する盛大な入学式が行われた様だ。
近畿大学では、喉頭癌で声を失った歌手でOBのつんくが大形モニターを使ってお祝いメッセージを伝えたという。
専修大学ではOBの“男気”で日本中を虜にしたカープの黒田選手がビデオメッセージでサプライズ出演し、新入生を感動させたそうだ。
信州大学では学長が、スマホ依存は知性、個性、独創性にとって毒以外の何ものでもない。友と語り、本を読み、自分で考えよう。スマホやめるか大学やめるかと、迫ったそうだ。

 一流大学の有名教授による講義をネットで配信するムークスMOOCs(Massive Open Online Course)が広がっているという。ネットに接続すれば入学試験もなく、いつでも好きな科目を無料で学び単位をとることさえできる。
スタンフォード大学が始めてから世界の有名大学が参加するようになり、今や受講生は世界で1千万人を超えるという。東大の教育学部英語コースでは、合格者の7割もの学生が入学を辞退して、海外の有名大学に流れたことが話題となった。最近東大もムークスに参加したが、世界中の有名大学が優秀な人材の獲得にしのぎを削っていて、人気授業を公開して優秀な学生を世界からひきつけるツールらしい。

 私もムークスを覗いてみたが、頓挫してしまった。   920



2015/4/5 No.725
 臨死体験


 人は死ぬ瞬間に何を見て、心や精神や魂はどうなるのであろうか。国際臨死体験学会によると、心停止の状態から蘇生された人の4-18%の人が臨死を体験し、多くの人が同じような体験をするという。心が身体を抜け出し天井から自分を見る体外離脱。トンネルの中を通リ、輝く光に出会う神秘体験。三途の川やお花畑、あの世とこの世の境をみる。死んだ肉親に出会うお迎え現象。人生のすべてを瞬時に再体現して、幸福感や恍惚感に満ち溢れる、などなど。

 臨死体験は最近の脳科学の発達により、帯状回、海馬、偏桃体などの大脳辺縁系に残されたfalse memoryを含めたすべての記憶が死ぬ間際に再び蘇ることによって生み出される現象と考えられている。また、セロトニン、エンドルフィンなどの分泌が、神秘体験と同時に死にゆく私達を皆平等に幸福感に導いてくれるという。 一方、肉体から離れて死後の世界を見る“魂”、死後も霊魂として永遠に生き続ける”魂“に関しては現代の脳科学では説明出来ない。

 臨死体験後は、ありのままの自分を認め、幸福感に満ち溢れ、魂や死後の世界を確信し、死の恐怖が無くなるという。一度だけでいいから臨死を体験したいものだ。           920

 立花隆:臨死体験(上)(下):文春文庫。



2015/3/27 No.724
  魂は存在するか


 東大救急集中治療部の矢作直樹教授が出版された「人は死なない」がベストセラーとなり、“霊魂”に対する興味が高まった。

 1948年WHO憲章に書かれた健康の定義は、身体的、精神的、社会的に良い状態であった。50年後の1998年、健康の定義改正の激論の結果“魂が良い状態”が加えられた。

 魂が良い状態とはどのような状態であろうか。魂は身体とは別に、人間の生命の源とされる存在で、永遠不滅、超自然的な存在を意味し、霊魂が現生で肉体をまとっているときは“魂”と呼び、肉体を離れると“霊”と呼ばれる。

 霊魂は存在するのであろうか。現在の科学では証明できないので、霊魂の存在は信じ難いが、感覚的、体験的に信じる人は多い。

 東北大震災では、心のケアでは対応できなく、「私は何故生きているのか。死んだらどうなるのか。あの世はあるのか。」など“魂のケア”を必要とする被災者が多かったという。これからの高齢化社会では、医学、心理学、宗教学の枠を取り払った「魂学」が必要と思う。

 私は身体と心と魂をも含めた人間すべてを診る医療を試みているので、身体だけを診てほしい患者には嫌われている。 920

 920の独り言(556):人は死なない。

 矢作直樹:魂と肉体のゆくえ。きずな出版



2015/3/20 No.723
  キングコング

 
ゴリラには他のサルにはない人間を超越した威厳があり、人間が本来あるべき姿をゴリラに見ることが出来る。サルが相手の顔を見る行為は威嚇だが、ゴリラは目を見つめ合ってコミュニケーションを図る。ゴリラ社会では強い者同士の喧嘩には、弱い立場の者が仲介に入り、両者のメンツを立て、弱い者の気持ちをくみ取り、争いを止める。勝つことは相手を退け、屈服、支配することになり、勝者はどんどん孤独になるので、ゴリラは勝つことをしないで、負けない構えをとる。ゴリラは勝つことと負けないことの違いを知っている。ニホンザルのトップは力で群れを支配する「ボス型」だが、ゴリラのトップは周囲に求められて就く「リーダー型」。などなど。

 ゴリラ研究の第一人者である山極壽一氏は、望んでいなかったが、周囲に動かされて京都大学第26代総長に就任されたそうだ。

 京都大学附置研究所主催の(第10回)21世紀の日本を考える「京都からの提言」が広島国際会議場で開催され聴講してきた。山極壽一総長は、ゴリラから学んだ「泰然自若」を座右の銘にしているそうで、グローバル競争によりサル化している人間社会に、対し、ゴリラ視点からの改革を期待したい。     920

 山極壽一:父という余分なもの。新書館

 920の独り言(720):サル化する人間社会。


2015/3/13 No.722
  福山テニス協会30周年


 テニスはフランスで生まれイギリスで育ち、ジェントルマンのするスポーツとして発展してきた。相手の美技にはグッドショットと讃える不文律はテニスにおけるスポーツマンシップの伝統となっている。

 福山では、私の母校である誠之館高校にテニス部があり、私が生まれた昭和23年に私の親父がいた三菱電機と日本化薬を中心に福山ローンテニスクラブが発足。それを引き継ぐかたちで、昭和60年に福山テニス協会が設立され、市長杯や議長杯のシングル、ダブルルスの試合が行われるようになり、先日30周年記念式典が開催された。

 福山は伝統的に軟式庭球が盛んで、私も中学校時代は軟式庭球に熱中した。硬式テニスは中学校体育連盟に加入が認められていないので、ほとんどの中学校に硬式テニス部はない。福山テニス協会はジュニアの育成に力を入れて、現在活躍中の錦織圭選手は福山テニス協会傘下の松永ローンテニスクラブ主催のジュニア大会に5年連続して参加していて、小学校1年生の時は1回戦敗退しているが、備後運動公園で開催された4年目の平成12年には優勝して、世界に羽ばたくきっかけになっている。

 テニスは私のような高齢者でも生涯スポーツとして競技を楽しめジェントルマンになれるのが良い。        920
 920の独り言(332):メセナ


2015/3/6 No.721
  春節

 
春節とは旧暦の正月。中華圏では最も重要な祝祭日になっていて、
我が国には中国からの観光客が大挙して訪れ、魔法瓶、セラミック包丁、洗浄便器、電気炊飯器、化粧品などを爆買いし、景気が悪い百貨店が潤っていることが話題となっている。

 横浜中華街は世界でも最大級の中華街。横浜中華街が一年で最も盛り上がる春節の2月28日に、第44回日本慢性疼痛学会が横浜中華街の入り口にあるローズホテル横浜で開催されたので、40年前針麻酔見学に中国に行き、本場の専門店で食べた北京ダックを思い出し、美味しい中華料理が食べたくなり学会に参加してきた。

 中国の伝統文化を伝える中華街の春節は、今や横浜を代表する観光行事となっている。「祝舞遊行」という祝賀パレードが行われていた。大きな爆竹が鳴る中、京劇に出てくる様な荘厳な衣装をまとった皇帝衣装隊や華麗な舞姫の踊り、太鼓とシンバルに合わせた獅子舞や竜の舞が繰り広げられていた。

 横浜中華街は一大観光地になり、人出は多いが世代交代でベテランの名コックが少なくなり、本場の伝統的な美味しい中華料理を出す老舗の店が少なくなり、美味しい北京ダックにありつくことが出来なくてつまらない学会になってしまった。      920



2015/2/20 No.720
 サル化する人間社会


 サルとゴリラでは、その食生活、性生活、社会生活など大きく異なっているという。

 ゴリラは群れの中に序列を作らず、食事は分け合って一緒に食べ、もめ事があっても見つめ合って仲直りし、上下関係のない、勝ち負けのない生活を送っている。一方、サルはボスサルを頂点の序列社会で、食事は分け合わず一人で食べ、強いサルは常に強く、弱いサルはいつまでも弱く、優劣を行動原理にして、いったん群れを出ると群れに一切愛着を持たない。

 人間は血縁、愛情、見返りのない奉仕をするゴリラ的「家族社会」と個人の利益を効率的に追及し、優劣を重視するサル的「共同社会」の二つの社会を上手に両立して生活している。

 最近の我が国は核家族化、一人ぼっち、食事を共にしない孤食、インターネット関係など、人間の人間たる所以である「家族社会」は存在感を薄め、家族崩壊の兆しがあるという。

 家族が希薄となり、個人主義を推し進め、効率的に利益を得る為に他者を負かし、格差、序列社会を形成しようとしている我が国は“サルの惑星“になろうとしているのであろうか。       

ちなみに、人間の睾丸はチンパンジーより小さくゴリラより大きい 

                       920

山極寿一:サル化する人間社会。集英社
920の独り言(163):たまの話


2015/2/13 No.719
 日本を守る

 皇紀2675年2月11日建国記念の日、紀元節を祝う会が福山で開催され、第29代航空幕僚長の田母神俊雄氏が、「日本を守る:集団的自衛権から憲法改正」と題して記念講演された。

 日本人の日本人による日本人のための政治を実現し日本を取り戻す。我が国の自主憲法を制定する。自衛隊を国防軍にして、自分の国は自分で守る体制を整備する。我が国の主体的な外交を推進し国際的に影響力のある政治を行う。中国の軍備費が急増しているが、潜水艦など中身はお粗末なので、まだしばらくは大丈夫などなど、防衛から、政治、経済、憲法改正まで、ユーモアを加えながらの「田母神節」であった。


 建国を祝う会は、建国をしのび、国を愛する心を養う会なので、若い人々が、日本国に誇りを持って、日本に生まれて良かったと思えるような工夫をすべきと思うが、参加者は私のような高齢男性ばかりで、何故か新聞テレなどは建国を祝う報道をしない。

 建国の日には憲法論争が盛んになるが、敗戦後70年を経て、現代に見合う自主憲法改正は必要と思う。     920

 920の独り言(519):紀元節

 920の独り言(622):皇紀2673年



2015/2/7 No.718
 幽霊はどこにいる

 日本人は幽霊、怪談が好きな民族だそうだ。

第61回備後神経疾患懇談会が福山で開催され、高知医大神経内科の古谷博和教授が「幽霊はどこにいる?脳と幽霊の不思議な関係」と題して講演された。

 パーキンソン病の患者は幽霊を見ることが多いということに気付き、今までの幽霊に関する記述、小泉八雲の小説「怪談」などに出てくる幽霊を神経内科医の立場から研究されている。

 ナルコレプシーの入眠時幻覚、パーキンソン病の突発性レム睡眠、レム睡眠行動異常、レビー小体認知症の視覚幻覚など、睡眠障害時に見る幻覚が幽霊になっている場合が多いそうだ。ナルコレプシー患者が突然眠たくなり、入眠時にノンレム睡眠を経ずに直ぐレム睡眠となるため、現実感を伴った夢を見て、寝入りばなに幽霊を見たと訴える。意識はあるが身体が動かない「金縛り」状態の時に見る悪夢が幽霊となる。レビー小体認知症患者は具体的で詳細な視覚幻覚を見るので、幽霊を見たと訴えることが多いという。

 神経内科の視点から怪談を解説されたのは興味深かったが、幽霊は霊魂と共に科学で解明できないところに面白さがあるので、脳科学的に解釈されると、怪談や幽霊に対する怖さが無くなってしまう。

                       920



2015/1/30 No.717
  一流への道


  全豪オープンで、錦織圭はワウリンカに敗れたが、最近の活躍は目覚ましい。彼の活躍は持って生まれた遺伝子のDNAによる才能によるものであろうか。新しいチャンコーチによる限界を超える激しい基本練習の繰り返しと、“心的表像”によって新たな錦織圭が生まれたという。

イチロー、羽生結弦、石川佳澄など世界の一流になる人は、才能の有無にかかわらず、幼い時よりよき指導者の熟慮された常に能力の限界を伸ばす訓練により一流の技能が得られている。天性と思える技能も熟慮された練習の積み重ねから得られるという。

身長や身体のサイズは遺伝子的な影響が大きいが、それ以外の点では一流になるのに生まれつき決まっていることを示す証拠はないそうだ。幼少期より限界を後押しするよき指導者による反復と継続の訓練によりそれまで使われていなかった遺伝子がオンするという。火事場のバカ力もそうだが、遺伝子は色々な環境因子によってダイナミックに変化して、無限の能力向上が発揮される可能性があることが明らかにされつつある。

 親の遺伝子が悪いからという輩がいるが、誰でもが一流になれることが出来る遺伝子を持って生まれてくるのだ。が・・・        920



2015/1/23 No.716
 1億総出家国家


 今年は120万人が成人式を迎えた。40数年前、私達団塊世代が成人式を迎えた時の成人人口は240万人であった。日本の人口は、約9千万人。当時の男性の平均寿命は65歳であった。人々は坂の上の雲を目指して、学び、子供を育て、仕事にて社会を支え、希望を胸に登坂の人生を送っていた。高度経済成長とともに、坂を登った後、幸か不幸か、直ぐに死が待ちうけていた。

 あれから46年。
地球上の哺乳応物で生殖期を過ぎて生きるのは人間だけ。日本女性の寿命は何と90歳に近づいた。疾病構造も栄養障害、感染症などの時代から脳卒中、心筋梗塞、癌など成人病、生活習慣病の早期退行性変化を経て、認知症、パーキンソン、嚥下障害、寝たきりなど老化による晩期退行性変化を経なければ死ぬことができない時代となった。ピンピンころりなど夢物語で、医療も治す医療から支え看取る医療に考え方を転換しなければならない超高齢化社会が訪れようとしている。

 人類が今だ経験したことがない生殖後期の人口が3分の2以上を占める社会となると、多くの高齢者は役割なき役割の中で、「人生とは」「自らの使命とは」、「生きるとは」など人生観、死生観を考えなければならない「1億総出家国家」になってくるという。今年成人式を迎えた若者が、豊かな老後を迎えられることを祈りたい。

                        920


2015/1/9 No.715
  神の存在


 今年も山に入り竹、松、梅を切り出して、正月に迎える歳神が宿る立派な門松を作り、病院前に飾った。元旦には福山八幡宮に初詣してお祈りしたので、今年はいい年になるに違いない。

 ところで“神様”は存在するのであろうか。科学万能の現在では、科学的に定義や証明ができない人知を超えた“神”を信じるのは難しい。100年前の科学者の4割は“神”を信じていた。驚異的な科学の進歩をした現在でも、科学者の4割以上が“神”を信じるという。病院の職員に聞いたところ、多くの看護婦さんが“神”は存在すると思うと答えたのには驚いた。

 利己的遺伝子のドーキンスは、生物は遺伝子によって利用される乗り物に過ぎない。“神”は人間が妄想の中で作りだしたもので、“神”の存在などありえないといっている。ならば、その遺伝子は誰が創ったのであろうか。宇宙を創ったサムシング・グレイトなるものが“神”なのであろうか。

 一神教の人々は“神”を信じて、“神は偉大なり”とテロに走ったりする。日本人である私は、大自然の中に人知を超えた大いなるものを感じることがある。“神”は信じるものではなくて、感じるものであろうか。        920

 矢作直樹・村上和雄:神と見えない世界。祥伝社。


2014/12/26 No.714
 RIKEN


 理化学研究所は我が国の自然科学総合研究所で、国際的にも高い研究業績と知名度で、国外ではRIKENの名称で知られている。

 理研の今年の研究成果をインターネットでみると、何と200にも及ぶ新しい実験成功、発見、開発、解明が発表されていて、その成果は世界初のものも多く、その研究業績には驚かされる。

 その中でも、米科学誌サイエンスによるブレイクスルー・オブザ・イヤー「今年の10大成果」に、理研の利根川博士らによる嫌な出来事の記憶を光で楽しい出来事の記憶にスイッチさせることに成功した実験が選ばれている。また、英科学誌ネイチャーによる科学分野で注目を集めた「今年の10人」には、īPSから作った網膜細胞の移植手術を世界で初めて実施した理研プロジェクトリーダーの高橋政代氏が選ばれている。

 一方、今年最大の科学の失敗「ブレイクダウン・オブ・ザ・イヤー」というのもあるようだが、エボラ出血熱への対応失敗に加えてこれにもSTAP細胞問題の理研が選ばれてしまった。

 理研に激震をもたらした理研ユニットリーダー割烹着姿のリケジョ小保方晴子氏によるSTAP細胞ねつ造事件は、色々多くの問題を含んでいて、私が選ぶ今年の重大ニュースのダントツ第一位。 920


2014/12/19 No.713
  露天風呂番付

 
寒くなり温泉が恋しい季節となった。
東の露天風呂番付の横綱は、尾瀬の至仏山登山の後に入った宝川温泉。宝川の渓流わきに広大な露天風呂が散在し、関東では知る人ぞ知る混浴露天風呂で、若い女性が多く入浴していた。西の露天風呂番付の横綱は、湯原温泉砂湯。湯原ダムの直ぐ下流で川のわきの足元から湧く温泉を岩で囲み、24時間入れる無料の混浴露天風呂。周りから良く見えるので、若い女性が入り難く少ないのが難点。

 新燃岳噴火の前年に霧島連邦縦走時に入った新湯温泉は、秘湯番付の西の大関。水虫によく効き、乳白色の硫黄を多く含むので、長湯は危険な混浴露天風呂。安達太良山登山の後に入った、新野地温泉は、木の歩道を渡り、吹き上げる噴気を見ながら入る乳白色の露天風呂で横綱級であった。恵庭岳登山後に入った支笏湖畔にある丸駒温泉は、足元湯出温泉で、支笏湖の湖水の高さと同じように上下する秘湯露天風呂。由布岳登山後に入った季節や時間帯により色が変わるコバルトブルーの露天風呂の湯布院温泉は、温泉地番付の関脇であった。

 日本列島の火山が活動期に入った様だが、100%源泉かけ流し秘湯露天風呂は、火山列島に住む日本人にとって心身の癒しの故郷。

                          920


2014/12/12 No.712
  ビハーラ


 親鸞聖人の命日に行われる「報恩講」のお勤めは、浄土真宗の僧侶、門徒にとって最も需要な法要らしい。恥ずかしながら、私の家も浄土真宗だが、報恩講のことなど知らなかった。

 尾道の福善寺で行われた報恩講で、ビハーラ活動で活躍されている鹿児島浄土真宗総本山善福寺住職の長倉伯博(のりひろ)氏が法話されるというので聴聞させていただいた。 

  「医療の目的は、生は偶然、死は必然なので、人を死なせないように治すことではなくて、病気を治す手段を通して、人生を深く味わうことの手助けをすること。仏教の目的は、生老病死の四苦八苦をどう乗り越えて行くかということ。四苦八苦は何人も逃れられないこと。心の奥に溜まりきっている悩みや苦しみを吐き出させる。死んでゆく命だが、生きていて良かったと思える様にすること。」などなど。

 20年にわたって、鹿児島緩和ネットワークで、終末期の緩和医療を僧侶の立場で実践し、教育、普及に全国区で活躍されているだけに、満面の笑みで体験談にユーモアを交えながらの”“命を見つめる”法話は素晴らしかった。             920



2014/12/5 No.711  
  幸齢プロジェクトテニス

 
世界ではサッカーに次いで競技人口が多いといわれるテニス。我が国もバブル期には、リゾートや職場などに多くのテニスコートが作られたが、ブームが去りテニスコートは半減したそうだ。

 ところが、錦織圭の活躍により低迷していたテニスブームが再燃した。ユニクロのテニスウエア、錦織バージョンのラケットは品薄状態。ジュニアスクールには希望者が殺到しているという。特に“中高年のテニス愛好家の復活”が男女とも目立つそうだ。

 「幸齢プロジェクト」とは、高齢者が生きがいや目標を持って生活することで、健康づくりに繋げる尾道市が進めている施策。幸齢プロジェクトの一環として、ダブルスペアの年齢が合わせて120歳以上ペアと140歳以上ペアによる高齢者テニス大会が、備後運動公園で始めて開催された。

 140歳以上ペアが数チームと少なかったので、120歳以上ペアと混ぜて試合が行われた。ところがどっこい何と140歳以上ペアが勝利していた。私は120歳以上ペアとして参加したが140歳以上ペアにコテンパにやられてしまった。

 「勝ったらあかん 負けなはれ 若いもんには 花もたせるのが円満にいくコツ」でしょう。          

920


 ひろちさや:こんな長寿に誰がした。青春出版社。

2014/11/21 No.709
 由布岳

 
病院旅行で湯布温泉に行き、早朝起床して由布岳に登ってきた。由布岳は標高1587mの活火山。独特的な円錐形をした単独峰で、豊後富士とも呼ばれている。山頂からは九重山、阿蘇山、湯布盆地など絶景が味われる。コバルトブルーの広い露天風呂も良かった。

 我が国には約100の活火山があり、地球上の活火山の7%が集中する火山大国。火山の登山も面白いが、登山後の特色ある温泉が楽しめるのがさらに良い。今まで登った活火山を思い出すと、北海道では樽前山、恵庭岳、十勝岳、大雪山、東北では、安達太良山、磐梯山、吾妻山、蔵王山、関東では、日光白根山、富士山、白山、立山、九州では由布岳、雲仙普賢岳、霧島新燃岳、阿蘇山など。多くの火山登山と登山後の温泉で心身を癒させてもらった。

 火山列島の日本は、新燃岳や御嶽山の爆発など火山活動期に入ったそうだ。神戸大学の研究によると、最悪1億人が生活困難となる様な巨大カルデラ噴火が日本列島に起きるという。日本列島火山活動期突入、巨大カルデラ噴火、東南海巨大地震が迫っているというのに、アベノミクス解散などしている場合ではなかろう。   

      920


2014/11/14 No.708
逝けない社会

 
アメリカで医師の処方薬を飲んで自殺することをインターネットで明らかにしていた脳腫瘍患者が安楽死してニュースとなり、安楽死の薬を下さいという患者が増えた。

 スイスは医師による自殺ほう助である安楽死が古くから認められていて、外国から年間200人位が自殺ツアーとしてスイスを訪れ安楽死している。安楽死先進国であるオランダでは、年間4千人位が安楽死を選択し、年々増加しているという。

 命の大切さを無条件で肯定する近代ヒューマニズムにより、命を支える研究、医療には莫大な資金が提供され、医療も製薬も病院も一大産業となり、私達は自然に逝くことが難しくなってしまった。それ故、積極治療を控えて自然に逝く尊厳死を希望する患者が増え、多くの国でリビングウイルによる尊厳死は自然死と考えられている。一方、医師の自殺ほう助である安楽死については多くの国で疑問視されている。が、欧米では人生の最後は自分で決める権利があるとの考えにより、安楽死容認の方向にあるという。

 私達が自分の力で生き、自分の命は自分のものと思うのは、人間の驕り。私達がこの世に生を得たのは奇跡的な縁の力。私達は人知を超えた力により生かされていることを知らなければならない。                      920

 920の独り言(142)(143):FINAL EXIT Ⅰ、Ⅱ

         (534):安楽死ツーリズム


2014/11/7 No.707
 救いたい


 先日、第34回日本臨床麻酔科学会が品川で開催された。日本臨床麻酔科学会では、学会開催中にアジアの開発途上国の麻酔を支援するためのチャリティを行っている。今回はチャリティ映画「救いたい」の上映が行われた。

「救いたい」は、仙台医療センターの麻酔科医である川村降枝先生の著書「心配御無用 手術室には守護神がいる」の原作を映画化したもの。主人公の麻酔科医に鈴木京香、その夫の内科医に三浦友和、津川雅彦など豪華キャストが出演している。主題歌は小田正和の「その日が来るまで」。

 東日本大震災から3年後の仙台医療センター手術室で麻酔が導入され手術が始まろうとした時に地震が発生する場面から映画は始まる。東日本大震災の被災地を舞台に、あの日を乗り越えて家族を失い心に深い傷を抱えながらも、今を懸命に生きようとする人々のヒューマンドラマを麻酔科医の目線から描いた感動作となっている。多くの麻酔科医がチャリティ映画に集まり涙していた。チャリティの寄付金はミャンマー麻酔学会の支援にあてられるという。前売り券の一部は地域医療支援に寄付されるそうだ。

 11月22日(いい夫婦の日)に全国ロードショー。      920



2014/10/31 No706
 九死に一生

 ドクターヘリを積極的に推し進めている久留米大学病院の坂本照夫救急部教授会長による第42回日本救急医学会が博多で開催された。

 高齢化社会を迎え、救急救命後の長期予後を見据えた治療戦略、これから発生する南海トラフ巨大地震に対する災害医療の対策など、多くの特別講演、シンポジウム、教育講演が行われ、1700題もの演題が発表されていた。

 世界で活躍した元F1レーサー片山右京氏の「F1ドライバーと救急医療」と題する特別講演が面白かった。F1レースが始まって以来26名のレーサーが事故で亡くなっているという。多くのクラッシュ現場の写真を提示しながら、初期にはシートベルトさえなかったが、マシーンの改良と共にドライバーの安全対策も改善し、アイルトン・セナの事故死以降特にドライバーの安全が強化され、20年来車が大破しても死者はでていないそうだ。

 極限のレースに命を懸けて死と隣り合わせで戦っているレーサーに事故は避けられない。片山右京氏も1995年ポルトガルでのレース開始後に大クラッシュし、ドクターヘリで搬送され、気が付いたら病院のICUで、九死に一生を得たという。今ではF1レースにドクターヘリ待機は必須だそうだ。             920

 920の独り言(75):クラッシュ


2014/10/24 No.705
 吊るし柿

 
日本には春夏秋冬の四季だけでなく、二十四の節気という季節、七十二もの候という季節がある。

 秋の終わりに露が冷たく感じられる〝寒露“を経て、朝晩めっきり寒くなり、霜が初めて降りる今頃は“霜降”(そうこう)と呼ばれる。

 晩秋の“寒露”の旬の果物は「柿」。“霜降”の頃に吊るし柿にする。庭の隅に植えた柿の木が大きくなり、毎年数十個成るので吊るし柿を作っている。今年も霜降の季節となり、庭の柿を枝を付けた状態で摘み取り、皮を剥いて縄に結び、カビが生えないように沸騰した湯に数秒間浸けた後、日当たり風通しの良い軒下に吊るした。

 吊るし柿は、通常渋柿を干すことにより、タンニンによる渋抜きがされて渋が無くなり甘みが強くなる。一方、甘柿は渋抜きをせずに食べれるが、糖度は渋柿の方が高いため、甘柿を干し柿にしても渋柿のように甘くならない。

  季節の移ろいを感じながら、甘柿を摘み取り皮を剥き、自分で作った吊るし柿は甘柿による干し柿だが美味しい。干し柿は整腸作用、疲労回復、風邪予防、二日酔いなどに効く。   920

  臼井明大:日本の七十二候を楽しむ。東邦出版



2014/10/17 No.704
  女子力

 
女性がまともな教育を受けられず、奴隷のように扱われている事に対して、女子の教育の必要性を訴え続けているパキスタンの17歳少女マララさんがノーベル平和賞を受賞した。

 先日観劇した宝塚歌劇は、宝塚音楽学校を卒業したタカラジェンヌと呼ばれる未婚の女性だけで構成されている劇団で、今年100周年を迎えた。生徒は5つの組に所属し、官僚組織のごとく実力次第では路線に乗って、トップスターを目指して活躍する。

 アベノミクスの成長戦略で、教育レベルの高い我が国の女性の就業率を高め、指導的地位に就く女性を30%以上にするという目標を定めた「女性の活躍推進法案」なるものが閣議決定された。

 父親が積極的に家事をする家庭で育った娘は、家の外で働くことに強い意欲をもち、父親が家事をしない家庭で育った娘は専業主婦志向が強く、働くにしても、看護婦や教師など伝統的に女子が多く就いている職業を好むという研究成果が発表された。

 男である父親の皿洗いや掃除、洗濯などが娘の将来や、我が国の将来を大きく左右することになるー。

 920の独り言(613):女性が日本を救うことができるか。 


2014/10/10 No.703
 青色

 
一昨日の皆既月食では白く輝いていた満月が隠れると赤く見えたが、ブルームーンといって月が青く見えることがあるそうだ。

 人類初めて宇宙を飛んだガガーリンが”地球は青かった”と言ったそうだが、秋晴れの空は何故青く見えて、夕焼けの空は何故赤いのであろうか。青い海原は何故青いのであろうか。

 地球上にはさまざまな色をしたバラがあるが、青いバラが存在しないのは何故であろうか。青い鳥物語りとか青い山脈のように青色には「希望」という意味と、ブルーな気持ちの様に「希望のない抑鬱」の意味という相反する意味に使われるのは何故であろうか。

 緑は目に良いと言われるが、ブルーライトが目に悪いのは何故であろうか。青色は何故心を落ち着かせるのであろうか。青色LEDが歯を白くしたり、耐性黄色ぶどう球菌に効くのは何故であろうか。

 赤色、緑色、青色のLEDを混ぜると、何故白色光になるのであろうか。赤緑青の絵の具を混ぜると黒色になるのに。

 赤色、緑色に比べて何故か難しいと言われていた青色LEDを素晴らしい頭脳と努力で開発した、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏がノーベル物理学賞を受賞された。
           920
 920の独り言(21):青いバラ。(36):ブルーポピー。
 (232):コードブルー。(611):ブルーライト。



2014/10/3 No.702
  御嶽山噴火

 
木曽の御嶽山が突然噴火し、多くの犠牲がでたのには驚いた。
私は45年前の学生時代に冬の御嶽山に登ったことがある。5年前には一人で御嶽山に登り、7合目の女人堂で暴風雨にあって下山したが、当時御嶽山が噴火するなど思いもしなかった。3年前には雲仙新燃岳が噴火したが、私はその前の年に火口壁を縦走していた。その時も、まさか新燃岳が噴火するなどとは思いもしなかった。

 以前、火山には活火山、休火山、死火山の分類がされていた。が、死火山と思われていた御嶽山が30年前噴火したので、活火山、死火山、休火山などの分類はなくなった。

 紅葉の秋晴れの日、土曜日の昼時という最も多くの登山者が居る時を狙ったかのように、我が国最大の山岳宗教「御嶽教」の根本道場である御嶽山が噴火したのには何か”ワケ”があると思う。

 私達人間は自然や宇宙のことをほとんど知らない。私達の運命は人智を超えた自然の摂理によって決められ生かされているという。

 御嶽山が噴火した日、私は病院旅行で、100周年を迎えた宝塚歌劇で、森の妖精が人間の自然開発を阻止するというファンタジック・ミュージカルを観賞させてもらっていた。        920
 920の独り言(440):六根清浄。
 


2014/9/26 No.701
 稼ぐ力

 
アベノミクスの骨太方針の新たな成長戦略は、「稼ぐ力」という。少子高齢化、グローバル化の時代を迎え、発展途上国と競争するには日本は「稼ぐ力」を高める必要がある。稼ぐ力を高める為に、労働改革、農業改革、医療改革、教育改革など踏み込んだ改革を行い、我が国の社会制度を稼ぐ力のある制度に改革するという。

 医療改革では、医療ツーリズム、混合診療、再生医療、医療機器など、医療を経済成長のエンジンとして医療を成長産業化する。医療を商売として金儲けする医療制度に変える。病院は快適な環境、高価な先進医療機器、優秀な医師、優しい看護婦で医療サービスを高め、多くの金持ち「患者様」を集めて稼ぐ力を持つことが求められる。

 社会的共通資本である農業、医療、教育にまで「稼ぐ力」を求め、もっと効率的に金儲けが出来るシステムにし、限りない経済成長を目指す株式会社国家にする。消費を美徳として、効率的に稼ぎ、利益を最大限追求する人が偉い人となるような国家を目指すという。

 「24時間働けますか!とか、大きい事は良い事だ!」などと経済成長を牽引してきた団塊世代の私としては、エコノミックアニマルを卒業して、足るを知る、円熟した国を目指してもらいたいと思う。
                              920
 内田樹:街場の共同体論。潮出版社。
 920の独り言(558):成長の限界。