スーパーダブルシールドを使った 電磁ダブルフイルタの製作


JA1NVF 吉沼勝美

[どんなフイルタ]
現在、バランや高周波フィルタはフェライトやコイルを使ったものが主流になっていますが、これと絶縁型ダブルシールドのキャパシターを利用して、T型電磁ダブルシールドを試作してみました。不要波に対してフェライトの磁気フィルタは直列減衰、それに対してキャパシタフィルタは並列減衰です、電磁フィルタは両方を組み合わせたフィルタです。また大地と不要妨害波の関係を解析し、不要輻射の逆の経路で侵入してくる環境妨害ノイズの理論解析と対策をレポートします。

[電波と環境ノイズの混入]
電波(電磁波)は別名"放射電磁界"と呼ばれ放射電界と放射磁界の両者からなっていると言われています。それぞれの電界と磁界は距離に反比例して減衰します。自由空間(等方性媒質)では、つねに電界と磁界は大きさが等しく、そのいずれにも直角な方向に電磁波として伝播します。われわれが電磁波として通信に利用できるのは、この放射電磁界です。余談ですがアンテナから発する電磁界にはさらに距離の3乗に反比例して減衰する"静電界"(この静電界にともなう静磁界は発生しないもので、静電界でのエネルギーの流れは存在しない)と、距離の2乗に反比例して減衰するいわゆるビオサバールの法則にしたがう電界と磁界の"誘導電磁界"があります。この誘導電磁界はアンテナからの距離が波長に比べて小さいとき、だいたい、λ/2以下は放射電磁界よりも強勢です。アンテナからはこの3種類の電磁界が発せられています。電波(放射電磁界)をアンテナだけから発射し受信するためには、送受信機からアンテナまでの同軸ケーブルからの漏れ電波の放射を極力おさえることが重要です。またこの漏れ電波の逆ルートを通過して進入する逆パスの受信ノイズが思わぬ受信品質悪化の原因となっており、このパスを絶つことは環境ノイズ排除対策につなげると期待できます。つまり受信性能向上の基本的な技術です。 ところで非同調給電線(同軸ケーブル)は1929年にアメリカで開発されました。その理論上では使用波長に対して特別な関係なしに、給電線に定在波を生じさないようにしたケーブルです。 しかし、ミスマッチによる定在波の発生と地面からの反射によって同軸上には理想と異なった電流が流れ、不要輻射の原因となっている事には気付いていない場合があります。この不要輻射の逆経路では、外来不要電波やノイズの受信妨害を引き起こし、意外な受信ノイズを発生させます。現在の生活環境の変化によって増大した、環境ノイズ(電源スイッチングノイズやモターブラシノイズ)は、逆パスを伝わって受信機に混入し、以外なノイズを発生させます。現在ではこの環境ノイズをいかに排除するかが受信性能向上の自己防衛手段となっており、ここでは同軸外皮からの進入パスをフェライトコアーとスーパーダブルシールド同軸ケーブルを使って効果の高い電磁フイルタの製作をレポートします。

[ノイズの進入経路と基本対策]
アンテナは外来ノイズが進入する一番大きな進入口ですが、アンテナをなくしては目的信号が受信できません。理論的にモノバンダーのアンテナは目的周波数にのみインピーダンスマッチングしているのですから、周波数選択性を持っているため、その周波数帯域内ノイズの進入は避けられませんが、マルチバンドのアンテナの様に多目的周波数で同調するアンテナよりは混入ノイズが少なくなります。アンテナそのもの以外から発する不要輻射はかなり有り、その逆パスによって受信妨害を受けているケースも有ることが判明されています。一度アンテナから混入し、受信機に入ってしまった不要ノイズは受信機内で対策をとるしか方法がありません。一般的な送信側でのインターフェア(不要輻射)やTVI対策で効果のある方法は、送信機から出る同軸ケーブルを含めたワイヤー全てに、トロイダルコアーによる高周波遮断フイルタをはさむことですし、その効果が有ることは実証されています、その効果を経験されている方も多いでしょう。 しかし何故、送信機から出る同軸を含めた線すべてにトロイダルコアーを巻くと効果が有るのでしょうか(図1)、ましてやアース線まで、、それは送信機から出る線はすべて不要輻射のアンテナになってしまうからです。それでは何故アースが必要か、増してやトロイダルコアーで高周波遮断してまで ? との疑問が出ます。 それでは逆説的にアースを取らないと、どうなるかを考えてみます。送信機は高周波漏れ防止のトロイダルコアーで高周波が遮断されているため、高周波的にフロ−ティング状態となっておりわずかな高周波漏れ電流のパワーによっても電位がふらついて安定しません、高周波漏れ防止トロイダルコアーを付けてない場合などは送信機に接続されている全ての線材が等価的にアースやアンテナに値します。これはハイパワーの場合、非常に危険な状態でもあるわけです。アースを取ると格段的に安定します、また不要輻射自身も安定し、対策が楽ですし効果が出ます。直流的には、はっきりしたアースとなりますのでAC漏れなどの感電も皆無です。アースはなるべく太い線できちっと取り、送受信機のすぐどばで、フェライトコアー(50μH以上)で高周波遮断してください。効果が有るのか、無いのかファラデーシールドなる同軸が疑心難儀のうちに環境ノイズ対策の救世主の様に宣伝されていますが、まずは今迄説明した、内容を確実に実行してからでないと、この種の同軸ケーブルは全く効果がありません。へ理屈をだらだらとのべたのは電磁フイルタを実験する前に、図1の不要輻射対策を確実に行ってからでないと効果が出ないからです。ただし、同軸ケーブルのフェライト対策は、この電磁フィルタに含まれています。

[電磁フイルタの製作]
同軸ケーブルは、送信機からアンテナまでの間を内芯とシールドとを発泡のどの樹脂の絶縁体ではさみ、インダクタンス成分とキャパシター成分とをバランスよく打ち消し合って一定インピ−ダンス(通常50Ω)に周波数に関係無く保もったものが同軸ケーブルです。
通常の不要輻射対策なしでの使用上でも、同軸ケーブル内部はアンテナのSWRが50Ωに合っていれば芯線とシールドの電流は、相互にバランス良く電流が流れ、SWRはVmax/Vminまたは Imax/Iminで1になり同軸内は安定していますが(図2)、
外壁のシールドと大地だけを見ると明らかに、一方的にシールドに電流が流れ大地とは電位差が生じています(図3)。 これは明らかに大地をグランド、同軸ケーブルをアンテナとしたGPです。不要輻射が発生している場合は明らかに同軸ケーブルが大地と影響し合いGPの様なアンテナになてしまうわけです。今回製作するのはそれを切り離すフイルタです。
図4の様に、電線に沿って高周波電流を流すと磁界(rotH=ε∂E/∂t)と電界(rotE=−μ∂H/∂t)が交互に発生します、ここにフェライトコアーを被せると磁界はフェライトの中を通り抜けてしまい、外部にへの発生が抑えられてしまいます、これが磁界フイルタです、ここではコアーを12個使っています、インダクタンスは約45μHになります、一個あたり約3.5μHです。
参考に:図5はコアーの数とインダクタンスデータです、図6はフェライトコアー一個に巻いた時の巻数とインダクタンスデータです、アース線などはコアー一個に3回巻にすると56μHになります、基本的に一回巻きごとに、4倍のインダクタンスが増えます。
この同軸ケーブルのフェライトは全く通常のコモンモードフイルタと同じです。50μH近くを目標にすると、12個近くのコアーが必要となりましす。それではスーパーダブルシールド8DSFB.PRO/SWの先端50cmを剥いて8DSRB/PROを出しコアーを12個はさんで下さい、45μHの高周波遮断能力を単純に直列インピ−ダンスで見ると、28MHzで7.9KΩ、3.5MHzで990Ωとなり、3.5MHzと28MHzの周波数差で約8倍の効果の差が出ますが(インダクタンスは、45μH一定ですから周波数的にはフラットには効きません)、一応これでも効果はかなり有りますが、14MHz以下を主力にされる方はさらにコアーを増やと良いでしょう。フェライトを通過して磁界が弱められると、電界も同じく弱まりますが、さらにここではスーパーダブルシールド8DSFB.PRO/SWの外シールドを15m使って電界シールド(キャパシタシールド)を行い、大地にアースします。等価回路は図7です、不要輻射をフェライトで直列減衰させた後、さらにダブルシ−ルドキャパシタ並列減衰させます。結果的にこれは貫通コンデンサーの動作に匹敵します。キャパシタの容量は8DSFB,PRO/SW が1m当たり約1280PFですので、12m使用して、キャパシター容量は15360pFになります。15360PFの並列インピ−ダンスは28MHzで0.37Ω、3.5MHzで3Ωとなります。電界フイルタ、磁界フイルタ両方で完璧に近い効果です。
図7は今回作ったT型電磁フイルタの等価回路と説明図です。コネクタはシールド線半田付け不要タイプのトーヨーのMP8DSNを使用しています(高質発砲は熱に弱いのでこのタイプのコネクタがお勧めです、取り付け方法はスパーク電波工業のホームページで説明されています)。ダブルシールドの外シールドは、ほぼ中心を10cmほど外(ソト)外皮のみカッターで剥き、アース用の導線で数回巻き、半田付けは行いません、安全の為ビニールテープをしっかり巻いて下さい。今回は丸いごみ箱の入れ物を利用してスーパーシールド同軸を巻き込みましたが(写真1)、アンテナまでの引き込み線に利用しても効果は同じですが、皮をむいた部分が野外に出る場合は、ビニールテープの上に自己融着テープを巻き、さらにビニールテープを厳重に巻いて完全に水侵入を防いでください。結果的に半田付け個所はコネクタの芯線の2個所のみです。またケーブル中心の皮むきを嫌がる方は送信機側の端からアース線を取ってください。アースは30cm程度のアース棒5本打っていますが送受信機のアースとは別に取りました。今回の磁界フイルタ部分は12個のコアーに合わせた同軸長50cmのところを使いましたが、興味の有る方は色々研究して見てください。使用効果ですが、一応効果は有るようでハイパワーにおいても1mとなりにあるテレビのインターフェアー(TVI)がさらに減って、ほとんど見えません、近所のTVIも皆無です。空電ノイズ以外、ノイズらしいノイズは未だ聞いていません、受信S/N感度も心持ち上がった気がします、ノイズが聞こえない分気持ち良く受信できています。

[最後に一言]
インターフェアーの対策には色々有りますが、不要輻射は大地との仮想アンテナの対策が重要です、すでに色々な対策をされている方は、このフィルタの効果に付いては微々たるものかも知れませんが、その積み量ねが大差をもたらします、是非一つの対策方法として検討ください。

FB DX


使用部品
1)スーパーダブルシールド 8DSFB,PRO/SW 15m (スパーク電波工業)

2)TDK製 磁気フェライトコアー 12個(スパーク電波工業)


3)MPコネクタ MP−8SN 2個 (スパーク電波工業)


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