| 7月29日、私は今日こそRealizeを買うぞと思い家をでた。 西新宿にある勤務先の事務所に自転車に乗りでかけ、帰りに南口の HMVかどこかでCDを買うつもりでいたのだ。 私の住む街にはCDショップが1軒もない。 子供の頃は数軒のお店があったのだけれど、下手に新宿に近いせい でこの辺りはバブル期に地上げにあったのと、新宿に続々と大型レコ ード店が進出してきたのとで、CDショップはとうとう1軒もなくなってし まったのだった。 事務所により、用事が済んだのが18:30頃。 7月の終りの空はまだ明るく、青かった。 私は自転車の鍵をさし、さっき来た道を戻ろうとしていた。 すると、事務所から3軒程先に、小さな街のCDショップがあることに 気づいた。 何もHMVでなくってもいいか。そう思い、中へ入ると、青いシャツを着 た空海の土肥さん似のお兄さんがいた。 眼鏡をかけていない私には、その時そのお兄さんの姿と店内にズラリ と並んだCDしか目に入らなかった。 わたしが「角松の新曲欲しいんですけど、ありますか?」と尋ねると 『アルバムですか?』と土肥さん似のお兄さんが聞いた。 「いえ、一番新しいシングルです。」そう言うと、私とお兄さんが立って いた向かいに眼鏡をかけた白髪のおじさんが立っていて、角松の新 曲を取り出してくれた。 おじさんというよりは、初老の男性と言った方がいいかも知れない。 おそらく、その店の店主で、土肥さんに似た短髪の男性は息子さん だろう。 私は「あのー、吉沢梨絵とデュエットしてるのも欲しいんですけど。」と 今度はその白髪の眼鏡のおじさんに尋ねた。 「VOCALANDのなんですけど・・・。ないですかねぇ?」 もう発売して随分とたつCDなので、街のCD屋さんには在庫がない かも知れないと思い躊躇していると、おじさんは少し探してから、 その手を休めずに言った。 『ああ、去年のでしょ?あれは今はないなぁ。でも、VOCALAND って良くしってたねぇ。』 「はい、角松のファンなんです。」 『歌はやめて、プロデュースに専念するみたいな話だったけど、また、 コンサートやるみたいだねぇ。(本人も)やりたかったんじゃないの?』 この白髪のおじさんは、なかなか情報通である。 おじさんはもう、CDを探してはいなかった。 私はつい嬉しくなって、話し掛けてしまった。 「はい、この間、復活のコンサートがあって、私、見てきたんですよ。 ファンの人の声が多くて、また歌う気になったみたいですよ。」 『そう。まだもったいないもんねぇ。』 「ええ、辞める前よりも、ファンの人が増えたみたいで、今度のツアー のチケットもすぐ売り切れちゃうし、大変だったんですよ。」 『今度の新曲のジャケットもいいよねぇ。』 私は受け取ったアルバムジャケットを良く見もせずに答えた。 「そうですね。」 『すぐ、アルバムも出るんじゃないの?』 「どうですかねぇ?新曲書いてないんじゃないかしら?2年くらい待た ないとダメじゃないですかねぇ?」 『いや、(曲を)ためてますよ。みんなそうですよ。』 おじさんには、アーティストの気持ちがわかるようだ。 おじさんには音楽評論家なんて肩書きはないけれど、おじさんの言葉 はそんな誰よりもずっと私の心にきた。 「じゃあ、今日は角松のCDだけもらっていきます。」 そう言うと、土肥さん似の男の人はCDを青いビニール袋に入れて、テ ープで止めてくれた。私はそのCDと引き換えに¥1,020を手渡し白 髪のおじさんに向かって「会社が近いので、また寄ります。」と言って、 軽く会釈をし、店の入り口に向かった。 おじさんは、『どうぞ、また、いらして下さい。』と丁寧な言葉で私を送り 出してくれた。 帰りの道を自転車に乗りながら私は思った。 以前は私の街にもあんなレコード屋さんがあったよなぁ・・・・。 でも、となり街みたいなこんな所に、ああやって話し掛けてくれる おじさんがいて良かった。 そう思ったら嬉しかった。 おじさんにはずっと元気でいて欲しい・・・・。 また、あのお店へ行こう。 CDを買いに・・・・・・・。 P.S.現時点で、Realizeはまだ聞いていない。 CDジャケットを見ると、おじさんの言うように素敵だった。 さあ、これからゆっくりと鑑賞しよう・・・。 |