「暑苦しいのよ熱いのよ イン・ワンボックスカー」

―――あかじそファミリー海に行く―――


<2日目・チャペルでBBQ>




 あかじそ・弟、あおじそ宅に着いた。
遠くから見て、

「まさかあの家じゃないよね」

と、思っていたチャペル風の家の前に、車は停まった。

 お腹の大きなあおじそ妻が、見事なガーデニングの間から顔を出し、
あおじそは、毛がふさふさの大型犬を、全身を使ってなでながら、
わははは、と、笑っていた。

 <裕福>

という言葉が浮かんだ。

 ・・・・・・と、次の瞬間、

「どぅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!!」

と、3、4人の原始人―――もとい、我が息子たちが、
若い芝生の上に、蜘蛛の子散らしたように飛び出した。
 
 <貧乏人>

我が子も私も、両親も、なんだか、その新築チャペルの前では、
完全に<敗者>であった。
 もう、いきなり、私は敗北感で一杯になり、
あおじそ妻への挨拶の笑顔も、よろよろだった。
 
 あいつ―――弟が、体を壊してまで手に入れたものは、これだったのだ。

 去年の正月、仕事が命の弟と、金より心だ、という私とで、
あわや取っ組み合いの喧嘩だった事も、記憶に新しい。

 あいつは、働いて働いて、働きまくって、この城を手に入れた。
その妻は、安定と安心を手に入れ、穏やかな表情で、胎内の子を育んでいる。
 そして、あいつは、心豊かに、自分の望む暮らしをしている。

 少なくとも、今の私の心よりも、豊かな心で暮らしているのだ。

(やっぱり、私が間違っていたのかな・・・・・・) 
(絵に描いたような「自己実現」の成功者だ)

 普段、バカッ話で盛り上げ役の私も、すっかりしおれてしまい、
静かに自分のこれまでの、苦労し通しの人生を省みていた。
 理屈ばっかりこねて、心の豊かさばかりを追ってきたけれど、
結局、いつもいつも金がなく、物質的な貧乏どころか、
心まで、すっかり貧しくなってしまった気がする。
 
 不平・不満ばかりで、夫にも親にも心を許さず、いつもキリキリとテンパッテいる。
甲斐性なしだけど、私を大切にしてくれる夫もいるし、
乱暴な言葉と強引なやり方で、私を応援してくれる親もいる。
 私がどんなに頼りなくても、お母さんお母さん、と、
寄ってくる4人の子供達もいる。

 私は、一体、何が欲しくて、毎日ふてくされているのだろう。

 「おいっ! バーベキューやるぞ!」

 じじじそと、あおじそが、2人で向かい合って肉やエピを焼いた。
あおじそがDIYで作ったという、大きなウッドデッキの上で、
白いテーブルを置いて、みんなで食べた。
 子供達は、広い広い庭で、犬と転がりあって遊び、心底楽しそうに笑った。

 全員が、満面の笑みで飲み食いする中、ひとり、人知
れず落ち込んでいる私がいた。

 私は、これまでの考えを改めなければならないかもしれない。
我慢我慢で、楽しいことを明日延ばしにするのは、もうやめなければ、
いつまでたっても、暮らしは楽しくならないのだ。
 
「いい家だね(いい人生送ってるな)」
 私は、弟に言った。
弟も、私に言った。
「男の子4人、よく育ててるよ、まったく。(そっちもなかなかだよ)」

 BBQは、暗くなるまで続き、庭での花火も盛り上がった。
両親は、満足そうに、子供達と弟が遊ぶのを見やり、
その光景をつまみに呑んでいた。

 2日目の夜は、穏やかに、過ぎていった。
こんなに穏やかなんて、何だか怪しいくらいだ。
 このまま何事もなく終わるなんてことがあるのか?
あっていいのか?

 私は、アカンボを寝かしつけに2階に上がったが、
じじじそは、酔っ払って、吹抜けのリビングのソファーで、
自ら持参の寝袋に包まって眠ってしまった。
 今日は、かなり御機嫌で、がぶがぶ呑んでいた。

・・・・・・ってことは・・・・・・

 案の定、その晩は、一晩中、チャペル全体に、
嵐のような往復イビキ<特大版>が響き渡った。
 2人の門出を祝福するかのような、荘厳なカネノネ(鼻ノネ)が、

ンガ〜〜〜〜〜〜〜ン
ンゴ〜〜〜〜〜〜〜ン
ンガ〜〜〜〜〜〜〜ン
ンゴ〜〜〜〜〜〜〜ン

 と、夜通し、鳴り響き、鳴り響き、鳴り響きまくったのである。
 
 おお、アーメン!!!

そして、旅行は、終盤へと突入する!

             (つづく)


♪3日目・「さ、けえるぞ」