「しどいわっ・父編」


小学校高学年の頃だった。
珍しく、母が熱を出し、いつもの夕飯の時間を過ぎても、
食事が始まる気配は無かった。
父は、空腹でいらつき、母が自分をほったらかしでトコについているのも
面白くないらしく、完全に不機嫌丸出しだった。
父は、ひどい気分屋で、人生の80%は不機嫌で、20%はへらへらしているのだが、
この日は、最悪だった。

私は、お気に入りの陶器の貯金箱を割って、自分のこづかいから、
インスタント・ラーメンを買って来た。
鍋に、2〜3人前のラーメンを作り、テーブルに鍋ごと運んだ。
鍋の上で丼に分けるつもりだった。
私は、テーブルの前で、メラメラといらつく父を前に、びくびくしながら、
鍋に菜箸を突っ込んだ。
すると・・・・・・。
「何やってんだ!」
と、父が冷たい目で私を睨んだ。
「ラーメンを分けてるんだけど」
「お前も食うんだ?!」
「え? 何で?」
「俺のだよなあ?」
「みんなの、だけど・・・・・・」
「なにいっ?!」
「みんなで、分けて食べようと思って・・・・・・」
「・・・・・・・」

父は、鍋の中に、手に持っていたタバコを、ジュッと、突っ込んだ。

「ええっ?! 何すんのよ!!」
「面白くねえ!」
「何で!!」

私が、震えながら叫ぶと、父は、余計に逆上し、鍋を持って台所へ行き、
流しに全部ぶちまけてしまった。

私は、泣き叫んで、母の枕許へ走った。

「ママ!ママ! 私の作ったラーメン、捨てられた!
貯めてたお金で買ったのに! 」

母は、擦れた声で、私に言った。

「うるさい。具合悪いのにっ! あっち行け!
それくらいの事で泣くなっ!!」

子供心に、「ふしんかん」という言葉を意識した。
認めたくはなかったが、認めざるをえなかった。

( 【プラマイゼロ】 につづく )