エピソード  「 めおと解消 」の巻


   おちゃらけて、笑い話にして、つらい状況を消化していこうとした。
でも、もう、自分だけの努力では、どうにもならないという事を、はっきりと自覚しなければならない。

   妻は、結婚前、夫といれば暖かい気持ちになれた。
ところが、今は違う。
夫といると、寒々とした気持ちになって、孤独の底に沈んでいきそうになる。

   別に、優しくしてもらおう、とか、早く帰ってきて、とか、子供の世話を手伝って、なんて事は思わない。
ただ、夫が、自分自身にしか興味のない人間だ、という事が、結婚10年にして露呈してきたのだ。

   悪い人ではない。
むしろ、いい人だ。

   しかし、妻や子供たちには、興味がないのだ。
ギターと、プロレスと、マンガ本があれば、生きて行くのに不自由を感じない。

そして、 眠い時、疲れている時、体調が悪い時、イライラして、狂暴なケダモノと化してしまう。
子供が喧嘩などしていて、自分の神経に障ると、
子供を、ボールを投げる様に、思い切り、壁に投げつける。
  子供の頭を蹴る。
3歳の子供に、のこぎりを付きつける。

たんこぶはもちろん、子供は、鼓膜を破ったり、指の骨を砕かれたりしてきた。

その度に、妻は、絶叫して怒った。
夫は、土下座して、何度も何度もあやまった。
  そして、次の日にまた、やるのだ。

   夫は、自分では気付いていないようだが、今、世を騒がせている虐待親が、まさに彼なのだ。
今の所、ラッキーな事に、大事に至っていないだけで、打ち所が悪ければ、もう、
即、お縄、という事をしているのだ。

   穏やかないい人。
でも、怒ると人殺し。

   そんなのは、絶対に嫌なのだ。

   妻は、子供への暴力の他にも、どうしても我慢できない事があった。
夫が、口をきかない事だ。

話しかけても返事もしない。あいづちも打たない。
妻の悩み事や、大切な連絡も、聞き流す。

  興味ないのだ。
だから、面倒くさいのだ。
面倒くさいのに、寄って来るから、黙りこんだり、キレたりする。
   子供の頭を蹴り、ぶん投げ、奇声をあげるのだ。

  妻は、父親に殴られて育った。
そして、自分が生きていていいのか、疑いながらここまで生きてきた。
自分が殴られるならまだいい。
でも、将来、父親になるだろう息子達に、「父親の暴力」を刷りこむのは、絶対にやめてほしいのだ。

  自分の子供が、自分が受けたような暴力を、その子供に奮うなんて・・・・・・。
妻は、自分の代で、どうしても、この、悲惨な暴力の鎖を断ち切りたいのだ。

   そして、人と暮らしているならば、ちゃんと、人の心とつきあって暮らしたいのだ。

ところが、夫は、どうしてもわからないらしい。
どうしても眠れず、一人で夜中にトイレで口を押さえて泣いてみても、
無理して明るく振る舞ってみても、妻の心は、いつも晴れなかった。

   ある日、いつもやさしい長男が、弟の頭を壁に何度も打ちつけていた。
「何するのっ!!」
と、叱ると、プイ、と2階へ上がってしまった。
  夫そっくりだった。

  その事を夫に告げると、ちょっと困った風な顔をして見せて、
とっとと会社へ行ってしまった。
  そして、次の瞬間、もう、その事を忘れてしまっているのだ。


   ある、小春日和のうららかな午後、妻は、ベビーカーにアカンボを乗せて、4歳の子の手を引き、
市役所へと向かった。
   市役所に到着し、頬笑みながら窓口に進んだ。
受付のおじさんが、にこにこしながら、妻と2人の子供に近寄って来た。

「はい、今日は何かな?」

  妻は、笑顔を返しながら言った。

「離婚届けの用紙、ください」

おじさんの緩んだ頬が、みるみる硬直し、あどけない子供たちを見た。
妻は、ゆっくりとおじさんにうなづいて、もう一度言った。

「離婚届け1通、お願いします」


                                      (つづく)

  さあさあ、何やらいつもと違うムードだぞ・・・。
面白くも可笑しくもない、やば〜い空気が漂っている!
今度はマジだぞ、今度こそマジだぞ、妻。
いいのか、このままでいいのか、夫。

   どうなるっ!どうするっ!
いや〜な胸騒ぎを残しつつ、つづく。
いつまでつづくか、保証はできないが、とりあえずはつづくようだっ!


                                            (つづく)



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