「 醤油味の町 」 | |
新しい仕事の研修のため、本部のある千葉県野田市に行ってきた。 初めて訪れたその町は、すごいインパクトのある町だった。 野田、と言えば、醤油の名産地。 これはかなり有名な話だ。 東武野田線・野田市駅のホームに降り立つと、ぷわ〜ん、と漂う醤油の香り。 キッコーマンの工場が駅の正面に「どーだー!」とばかり立ちはだかり、 イートインできるコンビニがポツンとひとつあるだけで、あとはもう、「ザ・醤油」な世界だった。 少し早く着いてしまったので、私はコンビニで爽健美茶を飲みながら時間を潰していると、 田舎の不良女子高生たちが、もう授業も始まっている時間にも関わらず、 ちょーたりい、ちょーきもい、などと言いながらだべっていた。 どの子も今風の顔の小さなアイドル調なのに、話すことばはヘビーな千葉弁で、 以前千葉に少し住んでいた私は、一種の郷愁を以って聞き耳を立てていた。 「チョーびびったっけー、おめーもだべー↑」 「だっぴゃ〜、チョーだっぴや〜!」 「ほんでよー、おめっちも、んーなんだっぺー↑」 「モロ、んーなんだべや、そらそーだっべよう!」 元・千葉の女子高生だった、現・埼玉のおばちゃんの私は、 眼を閉じて何度もうなづきながら、彼女たちの幸せを祈っていた。 そろそろ約束の時間が近づいてきたので、コンビニを出て、 仕事場の地図をタクシー運転手に見せて尋ねると、 「こらタクシだと5分位だけんども歩いてもわけないっぺや」 と、これまた親切で濃厚な千葉弁で教えてくれた。 私は、地図を見ながらゆっくりと歩いた。 キッコーマンの巨大プラントが「のだ〜〜〜!」と、駅と街とを分断しているのを、 ぐるり回って通りに出ると、工場の従業員出入口があり、 自転車で出社してきたパートのおばちゃんに、警備のおじいさんが 「こないだはオシンコありがとなー」 と声を掛けていた。 私は、またも、うんうん、と眼を閉じてうなづき、 もうすっかり野田が好きになっている自分に気が付いた。 歩いても歩いても、醤油がらみの食品工場や巨大倉庫がずらずら並び、 「ホントにこれが駅前か!」 と、あらためてビックリさせられた。 いくら歩いても「和食の匂い」がいつまでも続き、 空腹でもなかったのだが、とっとと仕事なんて終わらせて、 「帰りに焼き魚定食でも食うっぺや」という気分になっていた。 ところで仕事の方だが・・・・・・ 何の印象もなく、とっとと終え・・・・・・ 帰りは、やっぱり、「あれ」しかなかった。 もうひとつの野田の特産品・「MAXコーヒー」! これしかないだろう!
【参照】 「暑苦しいのよ熱いのよ イン・ワンボックスカー」 ―――あかじそファミリー海に行く――― <1日目・早く海へ!> もう何年も前に店をたたんだであろう金物屋の店先にさびれた自販機があり、 そこに燦然と輝く黄色と茶色の憎いヤツ・MAX! 私は、震える指で財布から120円を取り出し、迷わずヤツのスイッチを押す。 強く強く何度も押す。 長く売れてなかったのだろう。 キンキンに冷えたMAXの缶は、夏の暑い陽射しにヤラレそうな私の手のひらをキンと冷やし、 「待ってたぜ」 と、低音でささやいているようだった。 私は、ひと気のない店先で、はやる気持ちを抑えきれず、 缶を開け、背を丸め、唇をタコにしてMAXに口づけた。 あぁ、 MAX! Oh イエ〜! 私とMAXは、一年ぶりに激しく唇を重ね、ディープに愛を確かめ合っていた。 通りすがりのおじさんが、ひとりで缶コーヒーを飲みながら 「オ〜ウ、イエ〜ス・・・・・・」 などと吐息を洩らす私に不審な視線を投げかけてきたが、かまうものか。 野田よ、愛する野田・・・・・・ 醤油とMAXコーヒーの町、野田! 一度行くべし! 醤油とMAXが、そこにあるから!! 醤油とMAXしか、そこにはないから!! (野田市在住の方、ごめんなさい) |
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(しその草いきれ) 2002.07.13 作 あかじそ | |