「 おばかさん 後日談 」

 先日、「おばかさん」という話をホームページに書いたことを
笑いながら両親に報告すると、
そのことで、またくだらないもめごとが発生してしまった。

 その日、実家に行くと、なぜか雰囲気がおかしかった。
 玄関先で
「じい、いる?」
と一番下の息子が聞くと、母は、
「知らないわよ、あんな馬鹿」
と、吐き捨てるように言った。

 「コーヒーでも飲んで行きなさいよ」
と言われて居間に行くと、父はいきなり、
「お前、ホームページに書いた早生まれの話、あれ、すぐに消せよな!」
と、目ん玉ひん剥いて言った。

 「何で〜」
 私は極力平静を装って聞くと、
「あんなこと世界中に向けて発表しやがるから、
ババアが俺をいじめるんだよな!」
と、父はイライラしながら言う。

 「世界中ったって、そんな大勢読んでないし、
じいの知り合いはきっと読んでないからダイジョブだよ」
と私が笑うと、
「とにかく消せよな!」
と怒鳴る。
 「今頃消したって、もうみんな読んで笑っちゃった後だから
手遅れだよ」
 私も余計なことを言ってしまった。

 「くそっ!」

父は、ふてくされてコタツにもぐりこんた。

 そこへコーヒーを運んできた母が入ってきて、
「あんまり馬鹿だから、
私イライラして血圧200近くまで上がっちゃったわよ」
とギョッとするくらい低い声で言った。

 すると父は飛び起きて、
「だってよぉ!」
と叫ぶ。
 「だってよぉ、『早生まれ』って言ったら、
普通、人より早く生まれたヤツだと思うじゃねえか」
 「まあ、私もそう思うけど・・・・・・」
 私はコーヒーをすすりながら答えた。 
 「で、『遅生まれ』って言ったら人より遅く生まれたヤツだと思うだろ」 
 「思う思う」
 こうなったら、もう、話をあわせるしかない。

 「何で早く生まれたヤツが『遅生まれ』で、
遅く生まれたヤツが『早生まれ』なんだ、
ってことを俺は言いたいんだよ!」
 「うんうん、わかるわかる。逆だよね」
 私がおさなごを諭すようにうなづいていると、
その場の空気を切り裂くような鋭さで、

「んなもなぁ、昔っから決まってんだよっ!!」
と、母が怒鳴った。

 「まあまあまあまあ、
でもこれはみんな多少疑問に思ってることだと思うよ」
私が大人の意見を述べると、

「そんなの前から決まってることをさぁ、
今さらああだこうだ言ったって意味ないんだよっ!くだらないっ!」
 母も相当怒っている。
 
「まあね。確かにそうだけどね。
いくらここで私たちが熱く語り合ったって、
この茶の間から新しい文化が生まれるとは思えないしね」
 一応、母の気持ちも酌んでおく。

 「でもよ、早く生まれたのによ・・・・・・」
まだ言うか父。
「しつこいっ!!」
母がちゃぶ台を叩く。
 あんたは怒りすぎ。

 「あのさあ、もうイイトシなんだから、
そんな議題で大喧嘩するのやめなって」
 私はチラッと四歳の息子を見ると、
いつもと違うじじばばの態度におびえ、
タンスの陰に隠れてじっとしている。
 「子供も変に思うよ」
 私は両親の祖父母愛に訴えてみたが、
今のじじばばには自己愛しかなかった。

 「こんな話をさぁ、一週間もずーーーっとし続けてんのよっ!!!」
母、声がでかい。
 
 それにしても一週間か。
 この話題だけで、24時間×7日か。
 そらキレルわ。

 「とにかく俺は「早生まれ」って言い方は直した方がいいと思うんだよな」
 まだ言う。
 まだ言う父。

 こりゃ、母の体に障るわ。
 ここで何とかしなくちゃならないぞ。

 私は、父に体をまっすぐ向け、ゆっくりと話した。

「直した方がいいね!
絶対、直した方がいいよね、じい。
 じいは、本当にいいことに気がついちゃった。
 今度、私の大学の時の先生に言っとくから。
 変な日本語直すように、先生に手配しとくから。
だから、もう、ばあばに言わなくていいからね。
 わかった? わかったね? もうこの話はおしまいよ!」

父は、もじもじしながら黙ってコタツにもぐりこんだ。
 よし、馬鹿封じ成功。

 母は、私に向かってクチパクで
(ねえっ、馬鹿でしょうっ?!)
と言った。
 音もなく私と母が
(ほんと馬鹿だねぇっ!!)
と言い合っていると、
コタツ布団の隙間からこちらを窺っていた父が
「何だ、みんなで馬鹿にしやがって!」
と飛び起きてきた。

 と、母がすかさず叫ぶ。

「馬鹿だから馬鹿って言ってんだよっ!
あたしゃ、馬鹿が大っ嫌いなんだよっ!
この世で馬鹿が一番ダイッキライなんだっ!
馬鹿は死ね! 馬鹿は死ね! 馬鹿は死ね!
馬鹿はこの世からいなくなれっ!
この世で一番馬鹿のお前は死んじまえってんだよっ!!!!! 」

「なんだてめー、この野郎、人のこと馬鹿馬鹿って!」
「馬鹿だからよ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」
「馬鹿にしやがって」
「馬鹿にしてんじゃないわよ! 自ら馬鹿なのよ! ああ、馬鹿馬鹿!!」


・・・・・・・私ももう、書いていてイヤになってきた。
 字面が「馬」と「鹿」ばかりで読みにくいったらありゃしない。

 この後、私はコーヒーを一気飲みして、早々に引き上げてきた。

「もう、くだらない喧嘩やめなよ。 相手にしないことだよ」
 帰り際、また血圧が上がってしまったと思われる母にそう言って来たが、
朝から晩まで一年中馬鹿を相手にしていたら、
誰だってああなってしまうよなあ、と、心底母に同情してしまった。

 「おばかさん」の後日談は・・・・・・・
 驚くことにまだまだ続きがあるのだった。

(しつこいっ!!!)

  
   (あほや) 2004.3.2. あかじそ作