「 脱! 頭大混乱 」 |
以前、話の駄菓子屋「続 また腫瘍発見!」で書いたように、 半年に一回、左副腎にできた良性腫瘍の定期検査を受けている。 今回も、 「尿検査」と「30分間の安静後の採血」と「腹部CT検査」を、 朝イチで受けるのだ。 CT検査が午前9時30分の予約なので、 その前に採尿と採血を済ます必要があり、 逆算して、8時開門と同時に病院に入り、 8時半の受付を一番に済ませなければならない。 そのためには、朝7時には、家を出て、 朝の早い老人たちに混じり、 門の前に並ばなければならないのだった。 じっとしているのが苦手なので、 趣味の数独パズルを持参し、 雨の降る中、パズルを解きながら待った。 今朝は、検査のために朝食を抜いているが、 私は、「絶対に朝食を食べる派」なので、 ちょっとふらふらしている。 そのせいか、頭が全然働かず、パズルもよく解けなかった。 やがて受付が始まり、小走りで検査室に行ったが、 後から来たジジババが、コマネズミのようにしゅるしゅると私の前を掛け抜け、 順番をいくつか飛ばされた。 朝一番で並んで、小走りしたのに、このざまだ。 恐るべし、老人ども! だてに戦争を生き抜いていない! 病人なのに、動きが早い! 早すぎる! 採尿をし、 「尿、小窓に出ました!」と、看護師さんにアピールし、 なんとかやっと奥のベッドに通された。 30分の安静後に採血するため、 横になり、タオルケットを掛けられて、 薄いカーテンを閉められた。 「そのまま30分、寝ててくださいね〜」 と声を掛けられたが、 いつもながら全然、安静にできない。 カーテン一枚挟んで、 横で何人も何人も採血されている。 常に大きな声が聞こえてきて、 その話の内容にぐいぐい引き込まれてしまうのだ。 「田中佐平次さ〜〜〜ん。あれ? どうしたの? 事故?」 「う〜〜〜、転んでさあ、あ〜〜〜足切ってよお、12針縫ってなあ」 「あらまあ・・・・・・たいへんだったねえ。あ、これかな?」 「いつもカアサンがやってるから、オレ全然わかんねんだけども」 「ああ、そうなんだそうなんだ、わかったあ。左腕でいい?」 「ああ、はいはい。・・・・・・挿せるかい」 「ううん・・・・・・なんとか行けそう。・・・・・・はい、入った」 「カアサンにいつも何でも全部やってもらってんだけども」 「あ、そっかそっか。じゃあ、これは、カアサンに渡しとこうか?」 「カアサン、今、整形外科行ってるんだあ」 「あ、そうなんだ。わかったわかった。じゃあ、私が持ってくからいいよ〜」 「大怪我したから、あの、なんとかっていう治療、1年できねんだってよお」 「そうそう。1年空けるのよね」 「歩けなくってよ」 「あ、でも、リハビリ行ってるんでしょう?」 「うん・・・・・・」 「佐平次さん、今、何か薬飲んでる?」 「あん?」 「く〜〜す〜〜り〜〜」 「あ、薬か。飲んでる」 「何飲んでる?」 「バイアグラ」 「ん?」 「バイアグラ飲んでるべさ」 「おじいちゃん? なんだって? ごめん、よく聞こえなかった」 「バイアグラ。バ〜〜イ〜〜ア〜〜グ〜〜ラ〜〜〜〜〜!!」 「え? それ、なんか違うんじゃない? バイ○▲□★じゃなくって?」 「ちがう! バイアグラ! バ〜〜イ〜〜ア〜〜グ〜〜ラ〜〜〜〜〜!!」 「あ、あ、あ、そうなんだぁ・・・・・・。じゃあ・・・・・・先生に後で聞いてみようね」 「あい〜〜〜」 マジか・・・・・・ 死にかけのジイさんがバイアグラ・・・・・・ カアサン・・・・・・がんばれ〜! 「はい、じゃあ、思いっきり息を吸ってから、大きく息を吐いて〜〜〜!」 「フ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 「はい、オッケーです〜」 「はあ〜〜」 「大丈夫ですか?」 「はい・・・・・・大病してるから、深呼吸キツイですね・・・・・・」 「まあ、やっぱり少しねえ」 「あと3年は生きないといけないんでね」 「まあまあ、3年と言わず、もっと頑張ってもらわないと」 「とりあえず3年は、絶対生きて働かないと、子供がいるんでね」 「そうだよねえ。子供のためには、頑張らなくちゃねえ」 「子供がいなかったら、いつ死んでもいいんだけどね」 「いやいやいや」 「アルコールの綿で腕拭いてかぶれないですか?」 「はい、大丈夫です」 「ちょっとチクッとしますね・・・・・・はい、大丈夫ですか?」 「はい」 「・・・・・・お子さん、まだ小さいの?」 「中学生」 「ああ、そうなんだあ」 「高校くらいは、出してやんないとさあ」 「まあ、そうよねえ」 「俺も死ぬ気で生きないといけないと思って」 「えらい、パパ。お子さん応援してると思うよ」 「いやあ、オレ早死にするから申し訳ないや」 「う〜〜ん。でも、できるだけ元気出して明るく生きないとね」 「そうだよなあ・・・・・・」 寝られないよ・・・・・・ とてもじゃないけど、安静保てないよ。 雑談が重すぎて・・・・・・ 「ねえねえ! MRIってここ?」 「ちがいますよ〜。ここを出て、左の売店見える? そうそう、そこの〜〜〜」 「ああ、はいはい・・・・・・」 「RRRRRRRRRRRRRRRR」 「はい、検査科です」 「・・・・・・・・・・・」 「いえ、泌尿器科に行ってます。はいはい。はい、お願いしま〜す」 「RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR」 「はい、検査科です」 「・・・・・・・・・・・・」 「あ、はい、了解です。はい。はい。は〜〜〜〜〜〜い」 「RRRRRRRRRRRRRRRRRRR」 「RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR」 「RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR」 ・・・・・・って! 寝られるか〜〜〜い! ただでさえ「常に緊張させるホルモン」がダダ漏れする病気なのに、 こんな状況でリラックスできるもんか〜〜〜い!! 「あかじそさ〜〜ん、30分経ちました〜。安静後採血採りますね〜」 「はい〜〜〜(-_-)」 また「緊張し過ぎホルモンが出過ぎ」の結果出るわい! (了) |
(話の駄菓子屋)2014.9.2.あかじそ作 |