暗闇の向こうに...


苦痛は一瞬だったと思う。

痛みを感じなくなるにつれて目の前が次第に真っ暗になっていく。
何が起きたのかも分からないまま、私は意識を失っていった...。


・・・気が付くと目の前にはティファがいる。
何故だかティファは涙をポロポロこぼしながらそれを拭おうともしないで私を見てる。
(ティファ、どうして泣いているの?)
「エアリス、どうして・・・」
ティファは手で顔を覆うと向こうに走っていってしまった。私にはその言葉の意味が分からなかった。
続いてクラウドが私の前に立つ。
クラウドも涙こそ流していないけど、今まで見た事のない悲しげな顔で私を見ている。
(どうしたの?クラウドまでそんな顔をして・・・)
「すまない・・・エアリス・・・すまない・・・」
クラウドはうなだれて何度もそう呟いている。

(クラウド、どうしてそんな顔するの?私はここにいる・・・)

その時、私は自分の心が凍りついていくのを感じた。
声が出ない。クラウドに手を伸ばそうとしても手が動かない。
自分では話しているつもりなのに、動いているつもりなのに・・・声が届かない、触れる事が出来ない...。

   (私...)

意識だけはあるのに私には全ての感覚が失われている。
心は痛みを感じるのに、身体には何の感触も無い。自分の腕の重ささえ感じる事が出来ない...。

   (私、死んだの?)

私、死んだんだ・・・少なくとも肉体は自分から失われてしまったんだ...。

でも、不思議と悲しくはなかった。寂しさだけはあったけれど。
きっともうすぐ星に還るんだと思った。
きっともうみんなに会えないのだろう。そう思うと寂しいけど、セトラにとっては幸福な事なんだと思いたかった。

やがてクラウドが私を抱えて立ち上がる。彼のぬくもりを感じられないのはやっぱり悲しい。
クラウドはゆっくりと歩き出し、泉のほとりまで私を連れて来る。
ティファ、ユフィ、バレット、シド、ケットシー、ヴィンセント・・・みんな悲しそうに見ている。

ありがとう。みんなと一緒にいられて幸せだったよ。
私は先に星に還るけど、きっといつかまた会えるよね...。

クラウドは泉に入り、悲し気な表情で私をじっと見つめていた。
(クラウド、あなたのせいじゃないよ。だから笑って)
私は静かに水面に浮かべられ、やがて静かに沈んでゆく。
クラウドの顔が波紋で崩れ、やがて形さえも分からなくなった。もう、2度と見られないと思うとやっぱり悲しい。
ゆっくり、けれど確実に私は深い闇に飲み込まれていく。
(さようなら、みんな・・・)
光は小さな輪になり、点になり、そして完全に見えなくなってしまった...。


私は暗闇の中にいた。もう、自分の意識があるのかどうかも分からなくなっていた。
きっと私は星に還っていくのだろう。
私は私でなくなり、意識も心も想い出さえも拡散し、星の胎内に戻っていくのだろう。
『セトラの民、・・・星に還る』
これが幸せなの?・・・ううん、きっと幸せなの。だって新たな生への始まりなんだから。

でも、想い出が無くなるのはやっぱり悲しい。
お母さん、エルミナお母さん、ザックス、ティファ、クラウド、そして仲間達・・・
私の意識も深い闇に溶け込んでいくようだった。
意識も思念も想い出も拡散し、星の一部となって溶け込んでいくんだと思った。

やがて私は深い深い眠りについた...


      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「・・・ス、エ・・・ス」
(何?)
「エア・・・ス」
(私の名前?)
「エアリス」
(誰かが私を呼んでいるの?)
その声は私の中に直接語りかけてくるようだった。

私は目覚めた。

(ここは・・・何処?)
何も見えない。私はまだ深い闇の中にいる。
「エアリス」
(誰なの?)
「俺の声を忘れたのかい?」
その優しい声・・・決して忘れることに出来ない懐かしい声。ずっと聞きたかった声。
(その声は・・・ザックスなの!?)
「ああ、そうだよ」
(でも、何処にいるの?私にはあなたの姿が見えない)
「ゆっくり、声のする方に手を伸ばしてごらん。そうすればきっと見えるはずだよ」
(うん)
私は声のする方にゆっくりと手を伸ばしていった。

その瞬間、伸ばした指先から眩い光が溢れだし、まるで風船を内部から割ったかのように空間が一気に広がっていった。

(これは・・・ライフストリーム?)
空間は淡いグリーンの液体の中のようで、私は即座にライフストリームの中なんだと思った。
ライフストリームの中はとても暖かく、母親の胎内のように私を優しく包み込んでいた。
(ザックス、何処にいるの?)
周りを必死で見回してみても彼の姿は見えない。
「落ち着いて見てごらん。僕は君の目の前にいるよ」
言われた通り心を落ち着けゆっくりと前を見る。
次第に目の前に人影がおぼろげに浮かんでくる。人影はやがてはっきりと形を成してゆき、そしてザックスの姿になっていった。
「ザックス・・・ザックスなのね!」
「ああ、そうだよ。エアリス」
私は起き上がり、彼の胸に飛び込んだ。私の身体には確かな彼の肉体の感触があった。
それはずっと探していた感触。懐かしい感触。
「本当にザックスなのね・・・会いたかった・・・ずっと・・・」
「俺もずっと待っていたんだ・・・君に会えるのを」
「会いたかった...」
私はずっと彼の胸の中で泣いていた。腕は彼を掴んで離さなかった。彼がいなくなるのが怖かったから。
彼は私を抱きしめながら優しく髪を撫でていてくれた。

ひとしきり泣いて私はようやく顔を上げた。

「ザックス、ここは・・・」
「うん、ライフストリームの中だよ」
「私達死んだのね・・・でも、どうして意識があるの?。死んでしまったら星に還り、意識も想い出も全て消えてしまうと思っていたのに」
「死んだというのはちょっと違うのかもしれない。肉体だけが失われたと考えて方がいいんだろう。
 俺も最初は不思議だった。死んだはずなのに星に還ることもなく、こうしている事が。
 それはきっと俺の中の想いが強かったせいだと思うんだ。『もう一度君に会いたい』という想いが」
「ザックス・・・」
「ずっと待っていた。見守っていた。君が死ぬのを待ってたわけじゃない。ただ、君に会いたかったんだ・・・」
「・・・ずっと待っていてくれたのね。私、そんなあなたに気付かずにいたんて・・・」
「仕方ないさ。見守る事は出来ても、全く違う世界にいたんだから」
「でも、今、私は感じるよ。あなたのぬくもりを...」
私は彼の胸に強く顔を押しつける。感じる、確かなぬくもり。
「俺も感じるよ。肉体は失われても君のぬくもりは感じる事が出来る」
彼は更に強く私を抱きしめた。少し痛かった。でも、それがとても嬉しかった。

私達はその場に座った。私はザックスにいろんな事を訊いた。
「ザックス、あなたはあの任務で・・・」
「ああ。俺は5年前のあの任務で死んでいたんだ。それからずっと君を見ていたよ」
「そうだったの・・・私、ずっとあなたを探してた...」
「すまない。約束していたのに、守れなくて...」
ザックスは話してくれた。最後の任務の事、ニブルヘイムの出来事、そして最後の事を。
「エアリス、クラウドを責めないでくれ。俺はあいつのせいで死んだんじゃない。あいつは俺の親友なんだ。当然の事をしただけだ。
 もし、俺達が逆の立場だったら、きっとあいつが死に俺が生き残っていたはずなんだ。
 あいつはそのせいで苦しんできたんだ。あいつは自分のせいで俺が死んだと思っていた。
 だから自分の中に俺を作り出してしまったんだ。そうしなけば耐えられないくらいにあいつは良心の呵責に苦しんでいたんだ」
「ザックス、私クラウドを恨んだりしないよ。クラウドも何かに苦しんでいた。それはきっとあなたへの罪の意識だったのね。
 それより、私こそクラウドにもあなたにも謝らなくてはいけないの。だって、私、クラウドの中にあなたを見てた。
 そしてクラウドを好きになったの...」
「クラウドは良い奴さ。好きになるのも無理はないよ。俺はチョッピリ寂しかったけどね」
そう言ってザックスは笑った。私、その笑顔を見て思った。私がずっと求めてたのはあなたの笑顔なんだって。
クラウドも好き。でも、私達には時間が足りなかった。私が好きだったクラウドはまだ意識の中にザックスがいたクラウド。
本当のクラウドを知る前に私は死んでしまった。あの頃、本当のクラウドを知っていたのはティファだけだった。
もっと時間があったなら本当のクラウドも好きになっていたと思う。でも...。
今、ザックスとこうして再会してやっと分かった。
私はクラウドの中にザックスを感じたけど、ザックスにはクラウドを感じない...。

「メテオ・・・メテオはどうなったの?」
「全ては終わったよ。メテオは消滅した、ミッドガルの崩壊と共に。星の危機は去ったんだよ」
「良かった・・・私、それだけが心配だった」
「エアリスの唱えたホーリーは間に合わなかったが、星の力でメテオは消滅したんだ。星は君の願いを、クラウド達の想いを受け止めたんだ」
「星が・・・」
星はやっぱり私達の事を見ていてくれたんだ。もしかしたら邪悪な存在でしかないかもしれない私達の想いを。
「セフィロス・・・セフィロスはどうなったの?」
「エアリス、一緒に来てごらん」
そう言ってザックスは立ち上がり、ライフストリームの中を泳いでいく。私もそれについていった。


「エアリス、見てごらん」
彼の指差した先には小さな球状の空間が浮かんでいた。そしてその中には一人の裸体の男がじっとうずくまってた。
「あれは・・・セフィロス!」
強靱な肉体、長い銀髪・・・それは間違いなくセフィロスだった。
でも、今、目の前にいる彼の眼にはかつての冷徹さは無く、まるで独りぼっちで怯える子供のような眼差しだった。

   『かあ・・・さん・・・どこにいるの・・・』

「セフィロス・・・ザックス、彼は死んだの?」
「ああ、確かにあいつは死んだ。星は自分を危機に陥れたセフィロスでも星に還る事を許していたんだが、
 あいつは死んでもなおまだ星に還ってはいない。丁度エアリスに出会うまでの俺のように」
「セフィロスにも残された想いがある・・・」
「死んであいつの邪悪な心は消え去った。今、あいつに残された想いは決して得られることの無かった母親の愛情なんだ」
「お母さんの・・・」
「セフィロスの母親、ルクレツィアはまだ生きている。息子、セフィロスへの罪と愛情に苛まれながら」
「ルクレツィア・・・え?まさかヴィンセントの・・・」
「ヴィンセントが愛し続け、そしてずっと罪の意識を与えた女性、ルクレツィア、彼女がセフィロスの本当の母だったんだ。
 そして驚かないで欲しいが、セフィロスの父親はあの宝条なんだ」
「宝条が、セフィロスの父・・・宝条はどうなったの?」
「奴も死んだよ。セフィロスとも再会する事無く、星に還っていった。
 でも、それで良かったと思うよ。セフィロスも自分を単なる研究材料としてしか見ていなかった父親には会いたくなかっただろう」
「セフィロス・・・あなたがあんな風になってしまったのはそういう理由だったのね・・・」
私はセフィロスに殺されたけど、もう彼を責める気にはなれなかった。今、目の前にいるセフィロス、それが彼の本当の姿なんだろう。
誰もが持っている筈の母親のぬくもり、愛・・・セフィロスはそれを求めた果てに狂気に走ってしまったのだろう。
私にはお母さんの、本当のお母さんそしてエルミナお母さん、二人の愛とぬくもりを想い出すことが出来る。
でも、セフィロスにはそんな想い出さえもないのだから。


私達はセフィロスの下を離れ、元居た場所に戻った。ここが何処なのかは分からなかったけれど。
私達は再び座った。しばらくはただ黙って座っていた。
離れていた時間をどうやって埋めたらいいのか分からなくて、話すキッカケを失っていた。
ザックスの横顔をそっと見る。彼はあの日の...公園で手を振って別れたあの時のままだった。
私は・・・ザックスにはどう映っているのだろう。私はあれから何年も経ってしまってる。
自分では変わっていないと思うけど、きっと確実に年数の分だけ少しずつ変わっているんだろう。

「ザックス?」
「何だい?」
「ザックスには私がどう見えてるの?あの頃から変わってる?」
「どうしたんだ?」
「だって、ザックス、あの日のままなんだもん。私の眼にはすこしも変わらないザックスが見えるの」
「エアリス・・・俺だってそうだよ。君はあの日から少しも変わっていないよ」
「本当?」
「ああ、本当だよ。ここで君を見守っていた時は大人の女性になっていく君を見ていた。でも、今俺の目の前にいる君はあの日のままだ。
 思うんだけど、俺達はもう肉体を失ってしまっている。残っているのは精神だけなのかもしれない。
 だから・・・きっと俺達が互いに見ているのは想いの中にいるエアリス、そして俺なのかもしれない。
 でも、これは虚像なんかじゃない。俺達は互いの存在を確かに感じているはずだ」
「ザックス・・・私もそう思う。今、私の目の前にいるのはザックス、例え違う姿をしていたって分かる」
「でも、クラウド達といた頃の君は綺麗だったな。クラウドが羨ましいよ」
「もう、ザックスったら」
私達は互いに笑った。笑いながら私は二人でデートしていた頃を想い出した。
楽しかったあの頃・・・そう思うと自然に涙が溢れてきた。昔が懐かしくて泣いたんじゃない。ザックスとまた会えたのが嬉しかったから。
「エアリス・・・」
ザックスは私の涙に驚いたみたいだった。
私はううん、と首を振り、涙を拭ってザックスに微笑みかける。
「何だか嬉しくって・・・だってこうして二人でいられるなんて夢みたいだもの・・・」
ザックスは手で私の肩を引き寄せ、そして唇を近づけてきた。私は眼を閉じ、彼の唇を待った。
そっと唇が重なった。
私の涙は頬を伝わり、重なり合った唇をそっと包んでいく。気が付くと、ザックスの眼からも涙が溢れていた。
ありがとう・・・待っていてくれて・・・私も待っていた。きっとこういう日が来ることを...。


「ねえ、ザックス、想いが強ければ会えるって本当なの?」
「ああ。現にこうして俺は君に会う事が出来たんだ。どうしてなのかは分からないが、俺は君の事を強く想うことで君の側に行く事が出来た。
 君には分からなかったと思うけど、俺はいつも君の側にいたんだよ。想いの強さが空間を越えて俺を君の側に運んでくれたんだ」
「想いの強さ・・・私、どうしても会いたい人がいるの」
「誰?」
「うん・・・本当のお父さんとお母さん」
ザックスに本当に会いたかった。そして会うことが出来た。
きっとこうして会えたのは彼の想いだけじゃなく、私の想いもあったから、互いの想いが引き合って空間を越えて側にいる事が出来たんだと思う。
もしも互いに強く想っているなら・・・もしかしたら会えるかもしれないと思った。本当のお父さんとお母さんに。
きっと待っていてくれる、見守っていてくれたと思うから。
「会えるかしら・・・」
「会えるはずだよ、きっと」
ザックスは微笑んで言った。
「でも、どうしたら会えるのかしら....」
「ここでは時間も距離も無いんだ。エアリス、眼を閉じて想ってごらん。
 『お父さんとお母さんに会いたいって』・・・そうすれば君を運んでくれる筈だよ」
「ザックス」
「どうしたんだ?さあ、眼を閉じてごらん」
「あなたも・・・一緒に来て」
「え?」
「あなたも一緒に来て欲しいの。お父さんとお母さんを安心させてあげたいの。
 『私、死んじゃったけど、今、幸せよ。だってやっと愛する人に再会できたんだもの』って。だから一緒に来て欲しいの」
お父さんとお母さんにザックスを会わせてあげたかった。きっと喜んでくれると思う。
花嫁姿を見せてあげる事は出来なかったけど、私達の幸せそうな姿を見て安心してくれると思うから。
「エアリス・・・」
「ね、いいでしょ?」
「でも、俺は君の両親に会った事が無い。一緒に行ってあげたいが・・・」
「私があなたを運んであげる。ザックス、あなたは私の事を強く想って『エアリスと片時も離れたくない』って」
「それならさっきから想っていたよ」
「ザックス・・・きっと一緒に行けるね。会いたい・・・お父さんとお母さん・・・ザックスと一緒に・・・」
私は眼を閉じて強く願い、想った。
するとゆっくりと私達は別の場所に運ばれて行くのを感じた。
まるで水の流れに身を任せているように、私はある場所に向かって流されていく。
私の手にはザックスの手がしっかり握られているのを感じた。私達は想いのある場所に向かっている・・・。


      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


流れが止まった。私達はその場所に流れ着いたんだ。


私はまだ眼を開けられずにいた。会えるんだと思ってもやっぱり不安になる。本当に会えるのかしら・・・そう思うとやっぱり怖い。
「エアリス、眼を開けてごらん」
私はその声にハッと眼を開いた。目の前にはザックスがいた。彼は優しく微笑むと、ゆっくり向こうを指差した。
私はその示す方を見た。そこには・・・二人の人影が見えた・・・。
「お父さんとお母さんなの?」
「エアリス・・・エアリスなのね」
その声はお母さんの声だった。間違えようも無い、懐かしくて優しいお母さんの声だった。
「お母さん!」
私は走った。お母さんだ、お母さんに会えたんだ...。
私はお母さんの胸に飛び込み、そして泣いた。誰にも見せなかった涙。誰にも悟られないように隠していた涙。でも、もう我慢しなくていいんだ。
「お母さん・・・寂しかった・・・」
私は恥ずかしさも忘れてお母さんの胸でしばらく泣き続けた。何も考えられなかった。ただ思いっきり泣きたかった。
「エアリス・・・ごめんなさい」
お母さんはその間ずっと私を抱きしめ、そして優しく頭を撫でてくれていた。
ひとしきり泣いて、ようやく私はお母さんの顔を見上げた。お母さんは昔と変わらぬ笑顔で私に微笑みかけてくれた。
「エアリス・・・なのかい?」
お母さんの隣にいる人・・・お父さん・・・私が生まれてすぐに亡くなったから顔は覚えていない。でも、分かる。この人がお父さんだって。
「お父さん!」
私はお父さんの胸に飛び込んだ。叶わぬと思いながらずっと会いたいと想っていたお父さん。会う事が出来た...。
「エアリス・・・会いたかったよ。こんなに大きくなって...」
初めてお父さんに抱かれた。似てる・・・ザックスに抱かれた感じと。もしかしたら私、ザックスにお父さんを見ていたのかもしれない。
お父さんはとっても優しい眼をしていた。きっとずっと見守ってくれていたんだ。
「エアリス・・・あなたが頑張ったおかげて星は救われたわ。でも、本当はあなたには古代種としてではなく、普通の女性として生きて欲しかった。
 ごめんなさい・・・私が生きていればすべき事だったのに・・・」
私は首を振った。
「お母さん、私後悔してないよ。私、愛する人達のために出来る事をしたんだもの」
「エアリス・・・」
私が死んでしまったのは、両親にとって悲しい事。でも、私は後悔していない。自分に出来る事をしただけ。
きっとクラウドだってティファだって、それが出来るならしていたと思う。みんな自分の出来ることはしていたんだもの。
ただ私にしか出来ない事をしただけだもの。
私、今とっても幸せ。愛する人に会え、そしてお父さんとお母さんに抱かれたのだがら。

そんな私の姿をザックスは微笑みながら眩しそうに見ていた。
私、忘れていた。彼の両親はまだ向こうの世界にいるんだって。
ごめんなさい。そして有り難う。
あなたのお陰で私の全ての願いは叶ったの。あなたに会え、そして両親にも会えた...。

「エアリス、あの方は...」
お母さんはようやくザックスの存在に気付いたようだった。
「ザックス・・・私が憧れ、愛している人・・・こうしてお父さんとお母さんに会えたのも彼のお陰なの」
両親の視線に少し照れ臭そうにザックスは軽く会釈をした。
「そうだったの・・・有り難うございます。娘を、エアリスをよろしくお願いします」
お父さんとお母さんは深々と頭を下げた。
「は、はい」
ザックスは幾分か緊張気味に答えた。
妙な感覚だった。だって私達は既に死んでしまった筈なのに、そうは感じさせないのだから。
私達に未来があるのかどうか、それは分からない。でも、今はそれでも未来を夢見てしまう。
まるでこの世界で新たな生が始まったかのように。

でも、やっぱりこの世界は第2の生ではなかった。

「イファルナ・・・そろそろ...」
「ええ、あなた・・・」
お父さんとお母さんは私を交互に抱きしめた。まるでこの感触を忘れまいとしているかのように。
「エアリス、短い時間かもしれないけど、彼と幸せになってね」
お父さんとお母さんはそう言うと、私からゆっくり後ずさっていく。
「どうしたの?お父さん、お母さん」
私にはその意味が分からなかった。
お母さんは静かに、そして少し悲し気に言った。
「エアリス・・・私達はもう行かなくてはいけないの。全ての想いが満たされた今、私達は還らなくてはならないの、星に」
「そんな・・・お母さん!」
「エアリス、私達は本来は星に還っていた筈だった。だが、星が私達の想いを汲んでくれたから私達はこうしていられたのだよ。
 私達だって本当はお前とずっと一緒にいたい・・・でも、それは出来ないんだ。
 それでもお母さんに会え、そしてこうしてお前をこの手で抱きしめられてお父さんは何も心残りは無いよ」
「お父さん・・・」
「エアリス、私が再び生を受けても、私はお父さんと再び巡り会って結婚したい。そしてあなたという娘を産みたい。
 きっと願いは叶うと思うの。今度会うときはみんな生きて会えると信じてる」
「私もそうだよ。次に生まれ変わる時こそイファルナ、エアリス、みんな幸せに暮らせると信じているよ」
「お父さん、お母さん...」
私は涙をポロポロ流しながら、二人を見ていた。追いかけたかった、いつまでも一緒にいたかった。でも、それだけは叶わぬ事・・・。
お父さんとお母さんは涙を必死に堪えながら、それでも微笑みを絶やさなかった。
きっとこの別れが悲しい別離ではなく、再び出会うための束の間の別れと信じているから。
だから私も涙を拭ってニッコリ笑った。笑って二人を見送ろうと思った。
今、星は私達のために奇跡ともいえる時を与えてくれた。それがきっと星が与えてくれた優しさなんだろう...。

お父さんとお母さんの姿が次第に霞んでいく。微笑みながら、手を振りながら。
私も同じように微笑みながら手を一杯に振った。
だって私もいずれ星に還り、再び会えるのだから。そして再び生を受けて一緒に暮らすことが出来ると信じられるから。

お父さんとお母さんはライフストリームの光の中に溶け込み、そして見えなくなった...。

「エアリス・・・」
ザックスはそっと私の肩を抱いてくれた。
「・・・大丈夫、だっていつかまた会えるんだもの。私が完全に星に還った時、そして再び生を受けた時に。
 生と死ほど二人とは離れていないと思えるの。見えないけど、二人は私の側にいてくれてると感じるの」
「そうか・・・そうだよな」
「それに、もう一つ理由があるもの」
「もう一つの理由?」
ザックスは怪訝そうな顔をした。
「だって、今の私にはザックスがいるから」
「エアリス・・・」
「だから・・・だから・・・大丈夫だよ・・・」
「エアリス・・・いいんだ、もう無理をしなくても」
ザックスの優しい言葉は私の精一杯の強がりを脆くも崩していく。激しい感情がうねりのように私の中から溢れ出てくる。
もう、駄目だった。
「ザックス、抱きしめて。強く...」
ザックスは抱きしめてくれた。自然に涙がこぼれ落ちてきて、押さえる事が出来なかった。
ザックスはそんな私の気持ちを分かってくれていた。黙って強く強く抱きしめてくれた...。


      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ザックス?」
「何だい?」
私達は再び元居た場所に戻った。黙って肩を寄せ合って座っていた。
「私達も星に還るのよね」
「ああ」
「でも、それはいつなのかしら・・・私はこうしてザックスにも会えたし、お父さんとお母さんにも会えた。
 『残された想い』がこの場所に留まらせているのなら、もうすぐ星に還るのね...」
「本当は俺もそう考えていたんだ。君の両親は君に再会出来た事で星に還っていった。俺もまたずっと君を待っていた。
 その想いが満たされた今、同じように星に還る時が近いんじゃないかってね。ただ、今はそんな感じがしないんだ」
「お父さんとお母さんは星に還る事を知ってたみたいだった。まるで星との約束だったみたいに」
「それは違うと思うよ。俺は星と約束した覚えなんて無い。もし約束してたならきっと星が教えてくれる筈だ。
 『あなたの想いは満たされました。星に還りなさい』と」
「そうだよね・・・きっとお父さんとお母さんは私と再会出来た事で本当に全ての想いが満たされたのよね。だから星に還る事を感じたんだわ」
「でも、俺達にはまだ『残された想い』がある...」
「きっとそうなんだわ!でも、他に残された想いって...」
「そうだな、あるとすればやっぱり...」

「あの二人よね」
「あの二人だな」

私達は互いの顔を見てふふっと笑った。そうなんだよね。気になるものね、あの二人の事が。
ザックスはティファの事知らないよね。あ、きっとクラウドがあなたに話していたのね、ティファの事。
もしかしてザックスもティファが気に入ったのかも。そうよね、ティファとっても綺麗だもの。
私だってそう。私、クラウドが好きだったし、ティファは私の唯一の親友だもの。

「会いたいな・・・みんなに。それ以上にクラウドとティファに」
「会えるさ。さっきも言ったろ?ここでは時間も距離も無いんだ。『想い』があれば俺達は何処にでも行けるんだ」
「ザックス、会いに行こう!二人に」
「ああ、行こう」

ザックス、誤解しないでね。
あの頃、確かに私はクラウドが好きになっていたけど、今はこうしてあなたと再会出来て分かった。
やっぱり私はあなたをずっと探していたんだって。
ううん、たとえあなたと再会出来なかったとしても、二人には幸せになって欲しいと思った筈。
でも、あんな形で私が目の前で死んでしまって、もしかしたら二人に暗い影を落としてしまったのかもしれない。
それが一番心配なの。ティファはきっとそれを乗り越えられると思うけど、クラウドが心配。
もしかしたら、クラウドはまだ私の影を引きずっているかもしれない。クラウドの心は決して強くないから。
クラウドにとって一番大切なのはティファなのに・・・私は知っていたよ。クラウドにとってティファは母親のように大きな存在だって。
絶対ティファを離してはいけないのよ...。

「さあ、行こう」
ザックスは私の手を取った。彼の手に引かれ、ライフストリームの中を進んでいく。
「何処に行くの?」
「二人の故郷の村だ。二人は今そこに住んでいる」
ザックスは二人の事も見守っていたんだ。きっと今の私のような気持ちで。
やがてザックスはライフストリームの中から上昇し、私達はかつていた世界に飛び出した。
夜だった。懐かしい星の輝き、少しひんやりした空気の感覚、私は不思議な気持ちだった。だって私は死んだ筈なのだから。
私は今、夜の空に浮かんでいる。鳥というよりは風船のように。眼下には小さな村が見える。
「あれは・・・ニブルヘイムね」
「ああ。この時間なら二人はあそこにいる筈だな。エアリス、行こう」
「うん」
私達はゆっくりと小さな村に降りていった。
村は静かだった。多くの家は灯りを消し、眠りについているようだった。でも、ただ一軒だけ明るい店がある。ザックスはそこに向かっていた。
(セブンスヘブン・・・)
店の看板にはそう書かれていた。私はすぐに思い出した。ミッドガルにいた頃、ティファが同じ名前の店を開いていた事を。

私達は店の中に入っていった。私は幾分か緊張しているみたいだった。こんな形で再会出来るとは思わなかったから。


「クラウド今日は遅いわね・・・もうすぐお店閉める時間なのに」
ティファはグラスを拭きながら店の入り口を見ていた。
店は閉店間際らしく、客も一人を残すだけになっていた。
「マスター、ごちそうさん。今日はこれで帰るよ。お代はここに置いていくね」
「ありがとう。また来てくださいね」
最後の客が店を出て、店はティファだけが残った。
「お仕事が忙しかったのね。どうしようかな・・・でも、もうチョットだけ待ってみようかな」
ティファは閉店準備をしながら、それでもクラウドが来たらいつでも食事と酒が出せるようにしていた。

その時、キィ、と店のドアを開ける音がした。
「あ、クラウド!」
「どうやら間に合ったみたいだな。ティファ、いいかい?」
「もちろんよ、待ってたんだから。さあさあ座って」
「すまないな」
クラウドはカウンターの一番端の席に座った。
「はい」
ティファは冷やしたおしぼりをクラウドに渡す。クラウドは手はもちろんのこと顔や首筋もそれで拭った。
「ふー、気持ち良いよ」
「今日は忙しかったの?」
「ああ、いろいろ予想外の事があってね」
「あんまりクラウドが来ないのでチョッピリ心配しちゃった。クラウドの事だから心配なんていらないのにね」
「俺も思ったよ。ティファ、心配してるだろうなってね」
「ごめんなさい・・・」
「ティファがいつもそう思ってくれてると思うから俺は頑張れるんだ。俺はそんなティファが・・・」
「え?」
「あ、いや、とにかく心配かけてゴメンな。ところで、いつものくれないか?」
「あ、ごめんなさい!今すぐ作るね」
ティファは手早く酒と氷をシェークし、小さめのグラスに注いだ。
「はい、いつもの」
そう言ってティファは紅いカクテルをクラウドの差し出した。クラウドは黙ってそれを手に取ると、一気に飲み干した。
「もう一杯飲む?」
「ああ、頼むよ。それと、残り物でも何でもいいから作ってくれないか?実を言うとお腹がペコペコなんだ」
「ふふ、そうだと思ってちゃんと料理作れるようにして置いたの。すぐ作るから、とりあえず飲みながら待っててね」
そう言ってティファは同じカクテルをグラスに再び注いだ。
「悪いな」
クラウドはカクテルを口にしながらティファの料理をする姿を眺めていた。その眼はとても優しく穏やかに見えた。


「クラウドとティファ、とっても幸せそう・・・良かった」
私はザックスを振り返って言った。
「ああ、俺もそう思ったよ。ただ・・・」
「ただ?どうしたの?」
「それでもまだクラウドはティファに告白していないんだ。彼女が待っている言葉をまだ言っていないんだ」
「言葉を・・・クラウドはまさか今でも私の死を・・・・」
「恐らくな。あいつはそういう奴だ。あいつは自分でも分かっているはずだ。自分に一番大切なのがティファだってね。
 でも、君への想いを確かめる事もなく君を死なせてしまったという罪がその言葉を口にすることをためらわせているんだろう」
「そんな・・・あれはあなたのせいじゃないのに」
私の目に映る二人は幸せそうに見えた。もう二人の心は一つになっていると思えるのに。
「あなたのせいじゃない・・・クラウド」
悲しかった。私はこうしてザックスに会えてとっても幸せなのに、そのために二人が結ばれないなんて。
二人に知って欲しい。今、私は幸せなのよって。
「私の声は二人に届かないの?」
「ああ。こんなに近くにいても、俺達と彼等の間の距離はとてつもなく遠いんだ。悲しいけど」
私は二人の間に立って。二人の名を呼んだ。聞こえないって分かっているけど、そうしなくてはいられなかった。

「クラウド、ティファ」

やっぱり二人には私の声は届かない。もう一度呼んでみる。やっぱり何の反応も無い。
それでも諦められない。私は力の限り二人の名を叫んだ。強く二人を想いながら。

「クラウド、ティファ、私はここにいるよ!」


クラウドとティファはハッと顔を上げた。
「今、エアリスの声がしたような気がする」
「クラウドも?私も今そんな気がしたわ」
二人は辺りを見回した。もちろん、私の姿が見える筈などないけれど。
「まさかな・・・気のせいだろう」
「でも、不思議ね、同時にエアリスの声を聞いたと思うなんて」

確かに今届いた。私の声が二人に届いたんだ。もしかしたら・・・私はザックスに言った。
「ザックス、あなたも一緒に呼んで。二人の名前を」
「分かった。もしかしたら奇跡が起こるかもしれない」
ザックスも私の隣に来た。私達は声を合わせて力の限り二人の名前を呼んだ。

「クラウド、ティファ、聞こえる!」
「クラウド、ティファ、聞いてくれ、俺達の声を!」

「また・・・」
クラウドとティファは再びハッと顔を上げた。
「私も聞こえたわ。今度はエアリスと男の人の声で」
「ザックスだ。あの声はザックスだ。今度は間違いない・・・いるのかい?エアリス、ザックス?」
「エアリス、私の声が聞こえる?」

ザックスと私は顔を見合わせて頷いた。
「届いたよ・・・私達の声が」
「ああ、奇跡が起こったんだ」

「クラウド、ティファ、私達はここにいるよ」
私は今度は普通の口調で話してみた。

「エアリス、確かに聞こえるよ。ザックスも側にいるんだね。姿は見えないけど、存在を感じる事は出来るよ」
「エアリス・・・会いたかったよ」
ティファは眼に涙を一杯にためていた。

「クラウド、ティファ、私達の事を強く想ってみて。私達も同じように強く想ってみるわ。
 見えるようになるかもしれない・・・奇跡かもしれないけど、見えるようになるような気がするの」

「ああ、やってみるよ」
「強く想うのね・・・」
クラウドとティファは眼を閉じて静かにけれど強く私達の事を想った。
私とザックスも同じように眼を閉じて二人を強く想った。
二人の想いが私の中に流れ込んでいくのが分かる。暖かくて優しいもので自分の中が一杯になっていく・・・。

そして静かに眼を開いた。

「クラウド、ティファ、私が見える?」
「クラウド、俺が見えるか?」
二人はゆっくりと恐る恐る眼を開いた。二人の顔がみるみる歓喜のそれに変わっていく。
「エアリス!見えるわ、あなたが!」
「俺もハッキリ見えるよ、ザックス、エアリス!」
「会いたかった・・・」
ティファは涙をポロポロこぼしながら言った。私もいつの間にか同じように涙をこぼしていた。
「見えるのね!・・・私も会いたかった」
「奇跡だ・・・これこそ正に奇跡だ」
私はティファに抱きついた。だが、私の身体はティファの身体を通り抜けてしまった。
「ふふ、さすがに触れ合うのは無理みたいね」
でも、そんな事は些細な事だった。私達はこうして同じ場所にいて、そして声を姿を感じる事が出来る。それだけで充分だった。

私達はセブンスヘブンで再会を懐かしみ、そして語り合った。
みんなの想いは一晩ではとても語り尽くせなかった。
「エアリス、お願いがあるの・・・」
「何?ティファ」
「ずっと・・・ずっといてくれるよね。私達の側に」
「ティファ・・・」
私は何て答えていいのか分からなかった。こういう状態を続けていられるのか、続けていてもいいのか、私達は星に還る運命なのだから。
でも、私は決心した。
「うん、いるよ。ずっと二人の側にいるよ・・・」
「本当?ありがとう、エアリス」
「ザックス、お前もいてくれるよな。俺、まだまだお前と話したいんだ」
「あ、ああ。・・・もちろんさ」
ザックスは明らかに困惑している様子だった。


それから、私はティファの家に、ザックスはクラウドの家に泊まることになった。
互いの家からは夜更けまで語り合う声が響いていた。

私はティファの横で眠っていた。が、そっと揺り起こされた。
「ザックス・・・どうしたの?」
「チョットいいかい」
私達は村の給水塔の上に座り、満天の星空を見ていた。
「星が綺麗だわ。・・・こんなロマンチックな夜に二人は約束したのね。ティファがずっとその想い出を大事にした気持ち分かるわ」
「エアリス」
「うん、ザックスの言いたい事は分かってる。私も分かっている。私達のしてる事が決して正しくないって。
 私達が二人の側にいる事はきっと星の摂理に反しているのよね。
 もしかしたら、星の怒りを買って今すぐにでも私達の存在自体が消去されてしまうかもしれない」
「それなら・・・」
「でもね、ザックス、私は見届けたいの。二人が結ばれるまでは、二人の側にいてあげたいの。
 二人が結ばれ、私が必要としなくなったら私は消去されても構わない。だってそれが私の使命だと思うから」
「エアリス、君はそこまで」
「本当はそれだけじゃないよ。あなたと過ごせなかった日々をここで暮らしたいの。だって、私達が生きて一緒にいられた時間てとっても少なかったもの」
「エアリス・・・俺だって本当はそうしたかったんだ。君ともう一度あの頃のように過ごしたいってね」
「ザックス、私の願いをきいてくれる?」
「ああ。たとえ星の怒りを買って消去されたとしたって、君と一緒なら構わない。もう君とは離れたくないんだ」
「私だってザックスと離れたくない・・・ありがとう、ザックス」
「星はこうして奇跡を起こしてくれたんだ。きっと暖かく見守ってくれるよ、俺達の事を。二人が結ばれた時、それが俺達が星に還る時だと思うよ」
「うん、私もそう信じてる」
私達は星空を見ていた。ミッドガルでは決して見る事の出来なかった美しい星空。こうして二人で見ているなんて不思議な気分だった。

「ねえ、ザックス、約束して」
「え?約束?」
「クラウドとティファみたいに、私もザックスに約束して欲しいな」
「どんな事?」
「いつまでも私と一緒にいて。星に還っても、再び生を受けても、いつまでも・・・」
「もちろんさ。いつまでも一緒にいよう」
「ザックス、抱きしめて。この夜の事を忘れないように」
ザックスは強く私を抱きしめ、そして優しく口づけしてくれた。
今度は涙を流さなかった。だって私達は幸せなのだから。
幸せが星の光と共に降り注ぐのを私は感じていた...。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


【あとがき】

愛生さんの同人誌をモチーフにエアリスとザックスが再びクラウドとティファに会う物語を書きました。
愛生さんの同人誌に天使のエアリスとザックスが登場してクラウドとティファの恋を取り持つという話があります。
僕はこれを読んでとっても素敵なストーリーだと思い、僕も小説で天使のエアリスとザックスを書きたいと思いました。
小説では二人は天使の姿はしていませんけど(^^;)
僕はきっとエアリスとザックスはライフストリームの中で再び巡り会えたと思っています。
そしてこの夜で叶わなかった愛を結実させて、クラウドとティファを優しく見守っていると。