あなたがいるから


・・・私は何を待っているの?私は何を望んでいるの?



今、ロックは下の部屋で恋人に会っている。私はこの部屋で彼を待っている。
他の仲間達は外に待たせてあるのに、私だけがこの部屋にいる。彼が私だけここにいてくれと言ったから。
そして彼は下の部屋に降りていった。

下の部屋のドアは開いている。だから二人の会話は私の耳に届いてくる。
彼がドアを閉め忘れたんじゃない。きっと私に聞いて欲しかったと思うの...。

ロックはあれからずっと探し続けていた。恋人を生き返らせる事が出来る宝を。
フェニックスの洞窟で彼は言った。

  『俺はレイチェルを守ってやれなかった・・・真実をなくしてしまったんだ・・・
   だから、それを取り戻すまで俺にとっては本当の事は何もない・・・』

私、分かっていた。あなたの時間が恋人を失ってしまった時から凍りついてしまった事を。
私、溶かしてあげたかった。あなたの苦しむ姿を見たくないから。あなたを愛してしまったから。
でも、それは誰にも溶かすことは出来ない。あなた自身にしか溶かすことの出来ない氷の鎖...。
今、あなたは恋人に何を話すの?私に何を聞かせたいの?...
私は黙って聞いているしかない。本当は逃げ出したかった。でも、それがあなたの願いなら私はこうして聞いている...。



「ロック・・・」
「レイチェル!!」
「ロック・・・会いたかった。お話したかった・・・!」
「レイチェル・・・」
「フェニックスが最後の力で少しだけ時間をくれたの・・・でも、すぐに行かなければならない・・・。
 だから・・・あなたに言い忘れたことを今・・・」
「・・・」
「ロック・・・。・・・私。幸せだったのよ・・・。
 死ぬ時、あなたのことを思い出してとても・・・とても、幸せな気持ちで眠りについたの。
 だから・・・あなたに言い忘れた言葉・・・ロック・・・ありがとう」
「レイチェル!!」
「もう行かなきゃならない・・・あなたがくれた、幸せ・・・ほんとうに、ありがとう・・・。
 この私の感謝の気持ちで、あなたの心を縛っている、その鎖を断ち切ってください・・・。
 あなたの心の中の、その人を愛してあげて」


レイチェル・・・あなたとは面識も無いけれど、こう呼ばせてもらってもいい?
あなたはそれを言うためにずっと待っていたというの?それを言うために死と生の間で彼を待っていたのいうの?
あなたは・・・ずっとロックを見守っていたのね。ずっと彼の心の氷の鎖を断ち切りたいと願っていたのね。
それが彼の心をあなたから解き放つ結果になると分かっていても。
・・・愛しているのね、彼を。だかこら自分を忘れさせようとしているのね。

でも、私・・・あなたには勝てない。あなたのようにロックを愛せる自信が無い...。


「・・・フェニックスよ・・・よみがえり、ロックの力に!」
「レイチェル!!」


静かになった。
レイチェルは帰っていったんだ。大いなる愛をロックに注いで。
私は涙を抑える事が出来なかった。レイチェル、あなたは最後までロックを...。
あなたと会いたかった。お話がしたかった・・・そんな想いが次々に私の中を駆け巡っていった。


(セリス・・・さん?)
私の中に言葉が響く。それはレイチェルの声...。
(レイチェル・・・なの?)
(最後にあなたに伝えたくて・・・ロックはあなたを愛しています。だから、ロックを支えてあげて)
(レイチェル・・・)
(・・・私の事は気にしないで。私は最後にこうしてロックにお話出来てもう思い残すことはないわ。だから...)
(でも、私・・・自信が無い。あなたのように彼を愛する事なんて出来そうも・・・ない)
私は自信が無かった。私には彼女のように彼を愛する事なんて出来そうも無かった。
(あなたはあなたの愛し方で彼を愛して。ロックもそれを望んでいるわ。私にはあなたのように彼を支える事なんて出来なかった。
 今の彼にはあなたが一番必要で大切な人。だから自信を持って!!)
(こんな私でいいの?・・・)
(セレス・・・あなたなら大丈夫。だって、ロックもあなたを愛しているんですもの...)
(レイチェル...私、彼を愛続ける。あなたのようにはなれないかもしれないけど、私なりの愛し方で)
(セリス・・・ありがとう。彼をお願い・・・そして、さようなら・・・最後にあなたにも会えて良かった・・・)
(レイチェル!)

レイチェルの声と、そしてその存在が完全に消え去っていくのを私は感じていた。
レイチェルは帰ってしまった。決して戻れない向こうに。私にその想いを託して...。


ロックが戻って来た。私は涙顔を打ち消すのに必死だった。彼にこんな顔、見せられない。
彼こそ今一番悲しんでいるに違いないのだから。
笑う事なんて出来ないけれど、せめて優しい顔で彼を迎えてあげたかった。


「ロック・・・」
彼が戻って来ても、私はどう声を掛けていいのか分からない。ただ、彼の名を呼ぶだけしか出来なかった。
「大丈夫。レイチェルが俺の心に光をくれた。もう・・・大丈夫だ」
ロックは優しく私に微笑んだ。私は彼の瞳の奥に光を感じた。それはレイチェルがきっとくれたもの。
「レイチェルは俺の気持ちを知っていた。『あなたの心の中の、その人を愛してあげて』そう言ってくれた。
 だから・・・俺はその人を愛する。俺の気持ちを知ってくれて、それでも俺を愛してくれるその人を」
「ロック・・・」
私の言葉にロックは優しく頷いた。少し照れ臭そうにして。
「でも、その前に俺達はこの引き裂かれた世界から平和を取り戻さなくてはならない」
「うん!」
私にはそれだけで充分だった。今は私達にはやらなければいけない事がある。彼がいれば私は戦っていける。
私は彼に教えられた。どんな崇高な目的よりも、愛する人の為に戦うという事が遙かに力を与えてくれるという事を。
「行こう!俺達には、やらなければならない事がある!!」
私は黙って頷いた。彼の想い、私の想い、それはきっと一つだと感じた。
私達がすべき事。そしてその先にはきっと希望があるんだと...。



私達は外に出た。仲間達は村の入り口で待っている。きっとみんな心配してるに違いない。
ロックが急に立ち止まる。
「どうしたの?」
私が振り返ると、ロックは恥ずかしそうに言った。
「あ・・・忘れていた!」
ロックは慌てて家に戻ると、すぐに息を切らせて戻って来た。
「フェニックスの洞窟でお宝を見つけたんだ。みんなこれからの戦いに役立つ物ばかりだ」
そう言って彼はお宝を私に見せてくれた。彼のその顔は何の淀みもなく、すがすがしささえ感じられた。
そう、いつものロック・・・私が初めてあなたに会った時のような、あの快活なロックが帰ってきたんだ。
「ふふ...」
「・・・?、何が可笑しいんだ?」
「やっと、いつものロックに戻ったね」
「そ、そうか?俺はいつもこうだと思ってたけどなあ」
そう言ってロックは照れ臭そうに笑った。でも、きっと彼も感じていた筈。ようやく自分の意志のままにいられる事を。


「さあ、行こう!ケフカを倒し、世界に光を取り戻す!!!」

私は大きく頷いた。今はそれが一番大切な事。全てはそこから始まるんだと思った。
世界に光を取り戻し、そしてその先にはきっと私達の未来があるんだと信じている。
きっとそれが私が待っているもの、私が望んでいるものなのだから...。



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あとがき

考えてみれば、これが初めてのFF7以外の小説です(^^;)
今現在、FF6をプレイ中で、ロックとセリスの行く末はまだ分からない状態ですが、この二人のカップリングに感動しています。
特にセリス!最初は気が強く、気高い強い女性に思えたのですが、その後の彼女の変化に惹かれてしまいました。
てっきりこのゲームのヒロインはティナかと思っていたのですが、今や僕の中では彼女こそヒロインです。
ティナとセリス・・・この関係はFF7のエアリスとティファのような感じですね。
FF7では一般的にはヒロインはエアリスですよね(僕も最初はそう思っていました)。
でも、ゲームを進めていくと、ヒロインはエアリスとティファの二人だと思う筈です。
FF6も同じようにヒロインはティナ(この名前はやっぱりティファの元になっているのでしょうか...?)ですけど、
ゲームを進めていくとセリスは間違いなくもう一人のヒロインだと感じますよね?

今のところFF6ではロックとレイチェルの最後の会話のシーンが一番強く印象に残っています。
これはその時のセリスの気持ちを僕なりに解釈して書いてみました。
上の部屋で待っているのがセリスだけというのが僕にはとても深い意味を感じたんです。
きっとそれはロックが『君に見届けて欲しいんだ』という意味で彼女をあそこに待たせたのだと思えるのです。
ロックにとってセリスが『あなたの心の中の、その人』なのだから。