ニブルヘイム村はいつもと違って騒々しさに包まれていた。
子供達が村の中を走り抜けていく。子供達はある場所に向かって走っていた。
やがて一軒の家の前で子供達の足が止まる。そしてその家に入っていった。
その家は村の長老の家だった。
「こんにちわ〜」
子供達の声に、家の奥から一人の老人が現れた。長老だ。
「おお、よう来たのう。どうしたんじゃ?」
「ねえ、おじいさん、またお話し聞かせてよ」
子供達は村の長老の元に昔話を聞きに集まってきたのだ。
「おお、そうか・・・いいじゃろう。其処に座りなさい」
「はい!」
子供達は居間のソファーに座った。
「それで今日は何の話をしようかのう・・・」
長老は微笑みながら子供達の前にゆっくりと腰を下ろした。
「ところで、お前さん達は今日がどんな日なのか知っとるかのう?」
「今日は『星の日』だよ!」
すかさず子供達は一斉に声を上げた。
「おお、ようく分かっとるのう」
長老はにこやかに頷いた。
「では、どうして今日が『星の日』と呼ばれておるのか、知っておるかな?」
「・・・」
さすがに子供達にはその由来までは知らないようだ。
「どうして今日が『星の日』と呼ばれるようになったのか・・・それは今日が9人の勇者と星が奇跡を起こした日だからじゃ。
そうじゃな、今日は9人の勇者の話をしてやろう」
「うん!聞かせて!」
子供達は瞳を輝かせた。
『星の日』・・・そう呼ばれるこの日はこの星を少しばかり騒々しくさせる。
この日はホーリーシティを中心に、各地で様々な記念行事が開かれる。
他にも記念日と呼ばれる日はいくつもあるが、この日だけは特別だ。
なぜならこの日だけはこの星に生きる全ての人にとって、いや生物にとって今生きている事に感謝すべきなのだから。
星の日・・・それはメテオが落ちた日。ミッドガルが崩壊した日。全てが救われた日。
その日、人々は星の奇跡を見た。
誰もが星の慈悲に感謝し、その気持ちを忘れないようにとこの奇跡は伝説として親から子へと語り継がれていった。
そしてそれだけではなかった。
各地でもう一つの物語が語られていった。人知れず星を救うために戦った名も知れぬ若者達。
微妙にニュアンスは違っていても、彼らが命を懸けて戦い、そして星にあの奇跡を起こさせたという事は一致していた。
そしてその為に命を落とした一人の娘の事も。
『9人の勇者』・・・伝説は其処から始まった...。
もともと『星の日』は星の恵み、慈悲に感謝する日だが、いつしか伝説の勇者をも称える日になっていた。
そして今日は丁度その日から50年目に当たる。
ニブルヘイム村でもこの日を記念して様々な催し物が準備されていた。
ニブルヘイムは今でも小さな村ではあったが、この日だけは他の街にも負けないくらい盛大に星の恵みを祝っていた。
何しろこの村は伝説の9勇者のリーダーが生まれた村だと信じられているのだから。
「さて、話をしようと思ったが、その前にお茶を飲んでからにせんか?・・・おい、婆さんや」
長老が声を掛けると、家の奥から老婆が出てきた
「はいはい。でも、子供達はお茶は飲みたくないんじゃないですか?」
「そうか?」
「子供はやっぱりお菓子に果汁ですよ。・・・本当にマイペースなんですから」
老婆は微笑みながら奥に戻り、やがてお茶と果汁、そしてお菓子を運んできた。
「はい。本当は、お酒がいいんでしょう?」
「本当はそうなんじゃがな・・・まさかここで飲む訳にはいかんからのう」
「うふふ...酒は後のお楽しみですね。クラウド」
「ティファ・・・意地が悪いな」
二人は小さく微笑んだ。
「ねえねえ、早くお話ししてよ〜」
「おお、そうじゃったな...」
クラウドはお茶を一口飲むと、ゆっくりと9人の勇者の伝説を話し始めた。
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「そう、それは今から50年以上も前の物語じゃ。
その頃は今と違って神羅という組織があっての。大きさといい、強さといい、一つの国と言っていい程じゃった。
その神羅が実質的にこの星の国々を支配していたんじゃ。
どうして神羅がそれ程の力を持ち得たか・・・それは神羅が強力な軍隊を持っていたからなんじゃ。
特にソルジャーと呼ばれる特別な能力を持った兵士は周りの国々に恐れられておった。
それでも一応の平和は保たれていたのじゃ。
不自然ではあったが、神羅に従属する事でかりそめの平和が続いたのじゃ。
そのソルジャーの中でもグストという男がおってのう。奴は最初にして最強のソルジャーじゃった。
数々の戦いで功績を上げ、いつしか英雄とまで言われた程に強い男じゃった。
じゃが、グストはとある事件によって自分の出生の秘密を知ってしまった。
グスト自身、親の顔も覚えていない事、自分の持つ特殊な能力に疑問を持っていたのじゃが、真実は余りに辛いものじゃった。
グストは・・・創られた人間だったんじゃ。
その当時偶然発見された宇宙からの異生物、それと人間の細胞を掛け合わせて創られた人間・・・それがグストだったのじゃ。
グストは狂ってしまった。グストは己の呪われた生に耐える事が出来なかった。
そして遂にグストは・・・自分こそが選ばれたる人間だと思っていった。
自分こそが支配者であるべきだと思い込んでしまったのじゃ。
グストは全てを己の思う世界に世界に作り変えようと考えた。
この世界を崩壊し、その後で自分の世界を創ろうと考えたのじゃ」
「ねえ、自分の世界を創るってどういう事?」
「グストは特別な力を持っておってな・・・だからこそ無類の強さを誇っておったのじゃが・・・。
グストは星と一つになり、自身が新たなる創造者となろうとしたのじゃ。
一度世界を崩壊させ、新たに自分で世界を作ろうと考えたのじゃ。
もっとも、そんな事が本当に出来るのかどうか分からんがのう。だが、少なくともグストは出来ると考えたようじゃ」
「何か難しいなあ・・・」
「お前さん達には難しかったかのう。まあ、簡単にいえば神になろうとしたんじゃ」
クラウドはお茶を一口飲んだ。
「そんな時じゃ、一人の若者がグストの野望を止めるべく立ち上がった。
名はクロードといってな、一説ではこの村出身だそうじゃ。
彼はかつてはグストと共に戦った事もあるソルジャーで、やはり強い男じゃった。
クロードはグストを尊敬していた。英雄として戦う彼を。だからクロードはグストの暴走を止めたかった。
クロードはグストに戦いを挑んだ。だが、グストの強さは特別じゃった。クロードだけでは到底叶うわけもなかった。
その後、グストは封印された魔法を求めて姿を消した。かつてこの地に存在した究極の破壊魔法・・・メテオを。
グストはメテオによってよって作り出された巨大な隕石をこの星に衝突させようと考えたのじゃ
隕石が星に衝突すればこの星に生きる全ての生物は死に絶え、星はその傷を癒すための膨大なエネルギーをそこに集中させる。
そしてグストはそのエネルギーと融合し、我が物とする事で自分がこの星そのものを支配出来ると考えたのじゃ。
後は自分が新たなる生物を創造する・・・それが彼のシナリオじゃった。
クロードは破れはしたものの、諦める事は無かった。
彼はグストを追い続けた。もはやグストを止めるのではなく、倒すために。
グストを追う旅の中でクロードは様々な仲間を得ていった。それぞれの想いは微妙に違っていても、星を護るという事では一致していた。
やがて彼の元には8人の仲間が集まっていった・・・9人の勇者じゃ。もっとも、彼らは自分が勇者などと思ってはいなかったがのう」
「それで、どうなったの?」
「彼らは力を得ていった。じゃが、それでもグストに勝てるかどうかは分からなかった。
そうこうしているうちに、とうとうグストは封印されていた究極魔法を手に入れてしまった。
グストはそれを−メテオを−唱えてしまったのじゃ。
・・・かくして天空には忌まわしき巨大な隕石が現れた。それは日一日とこの星に近づいて来た。
じゃが、古の究極の破壊魔法には、それを打ち破るもう一つの究極魔法があった。
それは『ホーリー』・・・メテオと対を為す究極魔法。メテオを破壊出来る唯一の魔法。
そしてそれを唱える事の出来る人間は一人しかいなかった。それは9人の勇者の中の一人、エリーゼという娘だった。
エリーゼは自分が特別な人間である事を知っていた。自分が古の人々の血を受け継いでいる者だと知っていた。
だから彼女は・・・古の人々の聖地で一人ホーリーを唱えた。
自分だけが出来る役目を果たす為に、仲間にもそれを打ち明けずに。
そして彼女は遂にホーリーを唱え終わった・・・じゃが、その時が彼女にとって最後の時になってしまったのじゃ。
グストはエリーゼが古の血を受け継ぐ者だと気付いておった。
彼女は駆けつけた仲間の前で、想いを寄せたクロードの眼の前でグストの使者によって殺されてしまった...。
悲劇じゃった。しかも彼女が命がけで唱えたホーリーはグストの強大な力によって発動を抑えられてしまった。
メテオを破壊する唯一の希望であるホーリーは発動しない。メテオは着実に星に近づいている。
絶望がこの星を包み込んでしまったのじゃ」
「でも、最後は救われたんでしょう?」
「ああ、そうじゃ。
クロード達はグストを倒し、ホーリーを解放する事が唯一残された可能性だと信じた。グストに最後の戦いを挑んだのじゃ。
戦いは激しいものじゃった。長い戦いになった。
じゃが、遂に・・・クロード達はグストを倒した。
グストが倒れた事でホーリーは発動され、メテオを破壊するために眩い光とともに空を渡っていったのじゃ」
「それでみんな救われたんだね?」
「いや、それがそうはいかなかったのじゃ。
ホーリーが発動された時は既にメテオは正にこの星に衝突しようとしていた。
ホーリーはメテオを包み込み、破壊しようとしたが、二つの強大なエネルギーの衝突にこの星が耐えきれなくなるのは明らかじゃった。
メテオが破壊されてもそれはこの星の崩壊も招いてしまう。
・・・ホーリーは遅すぎたんじゃ。
飛行船に乗ってそれを見守る8人の勇者達もこの星の最期を感じた。もう、彼らにはどうする事も出来なかった」
「でも、この星は救われたんでしょう?どうしてなの?」
「その時じゃった。山や野、川の至る所から淡い光の帯が立ち上ったのじゃ。
その光の帯は全てメテオとホーリーに向かっていった。光の帯はその数を増やし、遂には地表を埋め尽くすほどの量になっていった」
ライフストリームじゃ。
この星の内部にはライフストリームというものがあっての、言い伝えによればそれはこの星の命だそうじゃ。
この星に生きるものはライフストリームから生まれ、そして死してライフストリームに還っていくのじゃ。
そのライフストリームがメテオとホーリーを止めようとしたのじゃ。
ライフストリームは巨大な波となってメテオとホーリーを包み込んだ。
眩い閃光の中、メテオとホーリーはその力を失い、そして消えていったのじゃ」
「みんな助かったんだね!」
「ああ、そうじゃ。
それは正に奇跡じゃった。
この星に生きるものの願い、勇者達の戦い、そしてその為に命を落としたエリーゼの願いが星に奇跡を起こさせたのじゃ。
この星に平和は戻った。
そして人々はこの日を忘れぬよう『星の日』と呼び、平和の想いと星への感謝の気持ちを伝えてきたのじゃよ」
クラウドは子供達を見て微笑んだ。
「この話はこれで終わりじゃ。お前さん達も今の平和が続くように大きくなっても正しい心を持った人間になるのじゃぞ。
明日の勇者はお前達かもしれないのだからのう」
「うん!」
子供達はみな感動的な話しに瞳を輝かせている。クラウドは優しい笑顔で大きく頷いた。
この瞳の輝きを失わぬ限り、未来は君達によって平和なんだよと思いながら。
「この話はこれで終わりじゃが、この話には続きがあってのう・・・もう一つの隠れた伝説じゃ。
この話はまたこの次にでも話してやろう。さあ、もうすぐ祭りが始まるぞ、早く行きなさい」
「はい!またお話し聞かせてね」
「ああ、いいとも、いいとも」
子供達は外に出ると、一目散に祭りの会場に走っていった。クラウドはそれを眩しそうに見送っていた。
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「クラウド、ご苦労様」
そう言いながらティファが奥からゆっくり歩いてくる。
「はい、お茶」
クラウドの前にお茶を置き、ティファはクラウドの横に座った。
「ああ、すまないな」
クラウドはお茶を数口飲み、一息つく。
「ふう・・・子供はやっぱりいいな。あの夢と希望に溢れた瞳を見るのは何より嬉しいよ」
「きっと、私達が幼かった頃もああいう瞳をしてたんでしょうね」
「ああ、きっとな。・・・ティファはそうだったよ」
「クラウドは?」
「俺はひねくれてたからな。あんな純真な瞳はしてなかった筈だよ。だから余計彼らの瞳が眩しいのかもな」
「そんな事無いよ。クラウド、確かに他の子とは違ってたけど、あの夜のクラウドの瞳はあの子達以上に輝いていたよ」
「そうか?」
「うん」
「・・・お世辞でも嬉しいよ」
「あら、お世辞なんかじゃないわよ。今思うと、だからクラウドの事が好きになったと思うもの」
「ティファ・・・」
「クラウド・・・」
二人は刹那見つめ合った。
一緒になって何十年と経ち、互いに充分過ぎるくらい老けてしまったけれど、二人だけの時間はあの頃と同じだった。
「しかし、どうもこの話は何度話しても苦手だな・・・」
「そう?上手に語って聞かせてるように見えたけど」
「どうしても昔を想い出してしまってな。話しながらクロードと自分をダブらせてしまう。注意してないと俺達の昔話をしてしまいそうになる」
「それでもいいんじゃない?だってそっちが真実なんだもの」
「ティファ、それは駄目だよ。もう伝説はもう俺達の過去とは別に多くの人の心に光を与えている。
俺達でもそれを変えることはもう出来ないんだよ。この星の殆どの人達にとって今や伝説こそが真実なんだ」
「伝説こそが真実・・・でも真実じゃない。本当にそれでいいのかしら?」
「遠い昔に名も知れぬ者達が平和の為に戦った。星は彼らの想いに奇跡を起こした・・・それでいいんだよ。
伝説は真実を歪曲しているかもしれないが、それで人々が平和を大切なものと思ってくれるならそれでいいんだよ。
大切なのは真実じゃない。平和を大切にする心なんだ。伝説がそれを上手く伝えてくれるならそれでいいんじゃないかな」
「そうね・・・大切なのは真実じゃないものね」
ティファはお茶を一口飲んだ。
あの頃の、自分達が抱えていた想いや悩み、それは私達だけが知っている事。私達だけに大切な想い出。
伝えたいのは平和への想い、エアリスの想いなのだから。
「俺達の過ごしてきた時間は俺達だけが知っている。俺達は伝説のような勇者じゃなかったし、そんな崇高な理由で戦った訳じゃない。
ましてやメテオを呼んでしまったのは俺のせいなんだし、この星を守ったのはこの星自身なんだから」
「クラウド...」
「今は平和・・・あんな悲劇を繰り返さない方が大事なんだ。伝説がその教訓を伝えてくれるならば、それこそが真実であり続けて欲しいと思うよ」
ティファが見つめると、クラウドは微笑みながら頷いた。
「ティファ、上のバルコニーへ行こう。あそこなら祭りが良く見える」
そう言ってクラウドは立ち上った。
「・・・ふふっ...」
「何が可笑しいんだい?」
「クラウド、本当に変わらないね」
「そ、そうか?」
「うん、あの頃と少しも変わらない」
「そういうティファだって少しも変わっていないよ」
「本当?でも、皺は随分増えちゃったけどね」
「それは俺だって同じだよ。・・・とにかく行こう。もう祭りは始まっている」
「うん!」
クラウドとティファはのんびりと祭りの様子を眺めていた。
喧噪の中だが、二人の中には静かでゆったりとした時間が流れていた。
二人が望み、そして願っていた風景がここにはあった。
「あれからもう50年か...」
「うん...」
「それでもあの頃、そしてその後の戦い・・・昨日のように鮮明に思い出す事が出来る。
俺の中では少しも色褪せずに残っている。不思議なものだな」
「私は今でもあの給水塔を見る度にクラウドと二人で話したあの日を思い出すわ」
「俺もそうだよ。今でもあの給水塔だけは特別な場所だ」
二人は眼下に見える給水塔に視線を向けた。二人の中にあの頃の想い出が鮮やかに蘇る。
静かな夜。満天の星空。ティファの可憐な横顔。思い詰めたようなクラウドの瞳。・・・つい昨日の事のように感じられる。
そっとティファの顔を覗き見ると、ティファの顔は心なしか赤らんでいるようにも見えた。
クラウドの視線にティファは気が付いたようで、そちらを振り向くと少し恥ずかしそうに微笑んだ。
クラウドもそんなティファに微笑んだ。
「変わらないね、私達」
「ああ...」
そんな時、二人は仲間達の事を思う。それぞれの人生を歩み、そして星に還った者もいる。
今でも連絡は取り合ってはいるものの、会う事は年に一度くらいになっていた。
「そういえば、もう2年になるんだな...」
「そうね...」
「あいつが最初に逝くとは思わなかった。今でも信じられないよ」
「本当に私も信じられない...」
1年前、バレットは星に還っていった。
突然の事だった。急性の病魔に襲われ、クラウド達が駆けつける間もなく逝ってしまった。
「マリンとエリーナはかなり落ち込んでいたようだったけど」
「マリンはもう立ち直ったわ。それに彼女も自分の家族の事で忙しいみたいだし。マリンなら大丈夫よ」
「そうか、それで安心したよ。でも、エリーナは?彼女にはバレットが全てだったからな」
「私も心配していたわ。でも、もう今は立ち直ったみたいよ。
だって彼女言ってたもの『バレットはいつも私の側にいてくれる。眼には見えないけど、私をいつも見守ってくれてる。私には分かるの』って。
彼女、伝説の語り部として生きていくつもりよ」
「そうか...」
エリーナにとってバレットは全てだった。生涯で唯一人愛した男。それが突然の病魔によって失い、彼女の悲しみは計りしれない。
もちろんティファやユフィは折れにふれて彼女に会いに行っていたが、それは単なる気休めにしか過ぎなかった。
だからクラウドは心配だった。だが、今エリーナは一人で生きていく糧を見つけたようだ。
9人の伝説。そしてもう一つの伝説・・・殆どの人々は知らない。この伝説の後にあった物語を。
彼女はそれを語り伝えようとしている。亡き夫の勇姿を人々に伝えるために...。
「シドは今でも宇宙への夢を棄てられないみたいだね」
「シエラさんも言ってたわ『それがあの人の生き甲斐ですから』って」
「そうかもしれないな」
「でも、今は子供達に宇宙への想いを話して聞かせるのが日課みたいですけどね」
「でも、いつかはその中の誰かがきっと実現してくれるだろう。もっともその時はみんな星に還っているだろうけどね」
「そうだね・・・でも、もしかしたらシドはそれまで頑張って長生きするかもしれないよ」
「ふふっ、シドなら案外夢を叶えてしまうかもな」
「ヴィンセントはユフィと一緒にいるのか?」
「うん」
「あの二人、とうとう結婚しなかったんだな」
「でも、ユフィ、後悔していないみたいよ。今の形で充分幸せだって言ってたもの」
「それでもなあ...」
「ヴィンセントにとっても、ユフィにとってもそれで幸せなんだからいいじゃない。
結婚してなくっても、二人は離れることの出来ないのだし。これだって立派な夫婦じゃないかしら?」
「愛は形じゃなく心、か」
「二人はそうやって生きていくと決めたみたいよ」
「ナナキは相変わらずか?」
「随分逞しくなったよ。でも、やっぱりバレットの事はショックだったみたい」
「そうだろうな。あいつだけはこれから何百年と生きていくんだからな。
俺だって本当に不死の身体だったならきっと同じような辛さを感じていかなくてはいけなかったのだから・・・分かるよ」
「そうね...」
「でも、だからこそきっと俺達の分までこの星の平和を守ってくれると信じているよ。
それはあいつにしか出来ないことなんだから」
「うん」
「クリオは立派に大統領をやっているみたいだし、リーブさんも安心しているだろうな」
「一番心配していたものね」
「何でも今のケットシーはクリオらしいよ」
「そうなの?2代目ケットシーね」
「さすがに訛りは1代目ほどじゃないみたいだけどな」
二人は顔を見合わせて小さく笑った。
「でも、きっとこうして俺達を含めて仲間達が逝く事で伝説が本当の伝説になっていくんだな...」
クラウドはしみじみと呟いた。
「・・・悲しいけど、そうなんだよね...」
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いつしか祭りは最高潮の時を迎えていた。
今年は50周年の記念、そして伝説の勇者の村という事で記念の像が建立されることになっている。
今まさに村長が序幕を行おうとしていた。
「ビッグスの奴、柄にも無く緊張しているな」
「あの子、本当は気が小さいからねえ」
「でも、あいつなりに立派に村長を務めていると俺は思うよ。少なくとも俺よりは村長に向いている」
「ふふ、確かにそうね」
「そういえばウェッジとジェシーは帰ってこないのか?せっかくの記念日だというのに」
「あの子達もそれぞれ忙しいみたい。今年は来れないかもしれないって言ってたから」
「そうか...」
「ふふ、本当は孫の顔が見たいんでしょう?」
「いや・・・まあ、そうだな」
クラウドとティファは2男1女を儲けていた。そしてその子にかつての仲間達の名前を付けていた。
長男のビッグスはクラウドの後を継いでニブルヘイムの村長となっていた。
ジェシーはホーリーシティに嫁ぎ、ウェッジはアイシクルで家族と暮らしている。
「ねえ、あの勇者の顔、クラウドにちっとも似てないね」
「想像で創った人物だからな・・・それにしても...」
「バレットに少し似ているね?」
「体格といい、バレットに似ている。みんなのイメージするリーダーはやっぱりバレットのような感じなんだろう」
「他の村でも像を建立するみたいよ。見てみたいわね」
「そうだな。・・・この年では少々キツイが、そのうち見て回ろうか?昔の仲間にも久し振りに会いたいしな」
「うん、行きましょう」
「なあ、ティファ、今日は年に一度のお祭りだ。久し振りに『プレミアムハート』を作ってくれないか?」
「ええ!?でも、あれは今のあなたには強すぎるわ。大丈夫?」
「なあに、大丈夫だよ。ジェノバ細胞のお陰かもしれないが、俺は人一倍丈夫だ。
もっとも・・・それは若い頃だけだったけどね」
クラウドはニヤッと笑い、そして直ぐに真顔に戻った。
「でも、今はしみじみ思うよ。ティファとこうして同じく老いてゆける。それが何よりの幸せだってね」
「クラウド・・・」
「本当にそうなんだよ。俺は不安だった。俺だけは老いずにティファが老いていくのを見守らなくちゃいけなのかと。
俺には耐えられそうもなかった。ティファが死んだら自分も死のうと思っていたくらいだった。
今でも不死は永遠の夢とされているけど、俺にしてみればそれは嘘だ。
愛する人や友人達が老いそして死んでいくのを見送り、それでも生き続けるなんて決して幸せなんかじゃない。
人はみな老いて死んでゆく・・・それは悲しい事かもしれない。でも、それだからこそ今の幸せを大切に出来ると思うんだ」
「クラウド・・・」
きっと自分達にはそう遠からず星に還る時が訪れるのだろうと思った。
でも、少しも恐くはなかった。
自分は独りぼっちじゃない。愛する人を待つことが出来る。向こうには懐かしい人が待っていてくれる。
バレット、そして彼女・・・エアリスに会えるのだから...。
「おじいさん!」
下の方で声がする。祭りに行った筈の子供達が再び戻って来ていたのだ。
「おお、どうしたんじゃ?」
「うん・・・やっぱり早く聞きたい。『もう一つの伝説』、気になっちゃって」
「祭りはいいのかい?」
「話を聞いたら行くよ。でも、今はお話が聞きたい」
「そうか・・・いいじゃろう。中に入りなさい。ティファ、すまんがまた果汁と菓子を持ってきてくれんか?」
「はいはい。では、お酒は後ですね」
「・・・仕方無いな」
ティファはニッコリ微笑むと下に降りていった。
クラウドは居間に戻ると、ソファーにゆっくり腰掛けた。
子供達は新たな話しに目を輝かせている。クラウドはニッコリ微笑むと、静かに語り始めた。
「それでは話をするとしようかのう。これはあの伝説から2年後の話じゃ・・・」
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あとがき
年を重ね、老いた二人の姿はいつか書いてみたいと思っていました。
ただ、上手く書ける自身が無かったのもあってずっと心の中に暖めていました。
僕の中ではどうしても老夫婦になって老人言葉で話す二人がイメージとして浮かんで来ませんでしたし、
僕にはまだ老境を理解出来ないので書くとどうしてもうわずった表現になるような気がしたもので...。
この小説では二人の会話は若かりし頃と少しも変わらぬ口調で通しています。それでようやく書く事が出来ました。
変に思えるかもしれません。でも、僕にはこの方が素直に受け入れられました。
きっと二人はそうなんだと思えるし、僕自身、年老いてもこうなると思えるのです。
伝説は以前 Short Story に少し書いた事があるのですが、それをじっくり書いてみたいと思って織り込みました。
ちなみにもう一つの伝説は FF7 Forever の事です。
この小説で聞いた事も無い人物が登場しています(エリーナ)。この女性は・・・秘密です。
いづれ FF7 Forevr に登場する予定の女性です。今はこれだけしか言えません。すいません(^^;)