最後の、そして未来に通じる今


ハイウィンドから降りると、そこは辺り一面橙に染まっていた。
彼らを横切る風や上空を漂う雲までもが、限りないこの世界を鮮麗かつ一色単に映し出していた。
西の彼方に引き寄せられていく雲。
その合間にのぞく太陽は、深い安らぎを残しながら、あたかも名残惜しそうに水平線へと姿を隠そうとしていた。
一日のうちのごく僅かな心安らぐそのひとときに、何に恐怖を感じようか。


「みんな行っちゃったね・・」
「ああ、俺たちに帰る所も待っていてくれる人もいないからな。」
「そうだね・・」
「でも・・きっとみんな・・戻って来てくれるよね?」
「さあ・・どうかな?みんなそれぞれ、かけがえのない大切なものを抱えているし・・それに今度ばかりは相手が相手だ・・」
「うん・・それでも私・・平気だよ。たとえ誰も戻ってこなくても。
 クラウドと一緒なら・・クラウドが傍にいてくれるなら・・怖くても・・負けないよ、私・・」
「・・・。ティファ・・」

「私たち・・これまではずっと遠く、離ればなれだったんだね。たとえどんなに近くにいても・・。
 でもライフストリームのなかでたくさんの悲しい叫びにかこまれた時クラウドの声が聞こえたような気がしたんだ・・。
 クス・・クラウドは知らないって言うかもしれないけれど・・。
 でも、胸のずっと奥の方であなたの声が私の名を呼んでいる・・そんな気がしたんだ・・」
「ああ・・あのときの俺にもティファの叫ぶ声が聞こえたよ。ティファの声がライフストリームの意識の海から俺を呼びもどしてくれたんだ。
 約束したもんな。ティファに何かあったら必ず駆けつけるって。」

「ねえクラウド・・私達の声を星たちも聞いてくれると思う?頑張っている私達の姿を見ていてくれると思う?」
「さあな・・。でも・・だれが見ていようといまいととにかく、できることをやるだけさ。自分自身を信じて・・。
 ライフストリームのなかでティファにそう教えられたよ。」 
「うん・・そうだね・・」

「なあティファ・・。俺・・ティファに話したいことがたくさんあったんだ・・。でもこうして二人でいると本当は何を話したかったのか・・」
「クラウド・・想いを伝えられるのは言葉だけじゃないよ・・」
「ティファ・・・・」


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             〜 ささやかな夜の静寂に 〜


ふと眼が覚めた。

まだ世界は闇に包まれていて、日の出はかなり先のようだ。
空を見上げる。満天の星が、いつも変わらず星々が輝いている筈なのに、たった一つの狂星が星の光を飲み込んでしまっている。
メテオ・・・もう、すぐそこまで来ている。生きとし生けるもの全てを飲み込もうと大きく口を開けているようにさえ見える。
止めなければならない。どんな事があろうとも。

全ての運命が決するまでの束の間の時間。静かに、そして穏やかに過ぎていく時間。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない安らかな時間。
それを知る人はそんな残された時をどう見送っていくのだろう。
だが、それを知っているのは俺達だけだ。
この星に生きる殆どの人達は知らない。そう、今夜もいつもと変わらぬ夜。
俺達はそのために戦うんだ。いつもと変わらぬ明日を守るために。
愛する人と明日も一緒に生きるために。

今、俺の肩に軽くかかる確かな重み。ティファは俺の横で寝息を立てている。
身体を俺に預け、まるで赤子のように安心し切って無防備に眠っている。
彼女の体温が、心臓の鼓動が俺の皮膚を通して伝わってくる。
ティファの身体はとても華奢に感じられる。
腕も足も戦いには不似合いな位に細く見える。
戦いの日々で気が付かなかった・・・そうなんだ、ティファは本当は普通の女の子なんだと。

君の手の甲だけは長い戦いの中で傷だらけになってしまっている。
本当は戦いなんて君には必要無かった筈なのに。
君の手は料理や洗濯や編み物、そして愛する人を抱きしめるためにあるべきだったのに。
そんな君を苦しい戦いの日々に引き込んでしまったのは間違いなく俺なんだ。

俺は君を苦しめてばかりいた。
君だけが俺の秘密を知っていた。それを抱き続けたのはどんなに苦しかっただろう。
俺は自分の事ばかり考えていた。君の苦しみなんて想像もしていなかった。
みんなが...いや、俺自身でさえも自分の存在を疑っていた時も君だけは俺を信じ続けていてくれた。
俺が自分を取り戻せたのも君がいたから。君がいてくれなかったら俺は此処にはいなかっただろう。
それなのに俺は最後の戦いでも君を必要としている...。

俺は一人でも戦うつもりだった。俺には戦う・・・いや、戦わねばならない理由がある。
この戦いは勝たなくてはならない。どんな事があっても負ける事は許されない。
でも、俺は知っている。俺一人ではセフィロスには勝てないだろう事を。
でもティファ、君がいてくれる。

「・・・もうすぐ夜明けだな・・」
「う、うん・・・?」
「ごめん。起こしちゃったか・・もうすぐ夜が明けるよ。ティファ。」
「うん・・。あの・・お、おはよう・・クラウド。もう少しだけ・・このままでいさせて・・。二度とこないこの日のために・・せめて今だけは・・」
「ああ・・いいよ。これは俺たち二人に許された最後の時間かも知れないから・・・」

もしかしたら、今夜が君といられる最後の時間なのかもしれない
こうしてようやく君の事を考えられるようになったのに、自分に向き合うことが出来たというのに。
二人に残された時間はもうあと僅かなのかもしれない。
すまない、そしてありがとう、ティファ...。

「想いを伝えられるのは言葉だけじゃないよ」・・・君はそう言ったね。
ごめんよ、ティファ。俺はまだその言葉を口に出来ない。俺はまだ自分の心に確信が持てないでいる。
俺はティファ、君を愛しているんだろう、幼い日からずっと...。
言葉にすれば良かったのかもしれない。君がずっと待っていた言葉を。
でも・・・やっぱり今は言えない。今は自分の中でいろいろな想いが混じり合ってしまっている。
けれどこの戦いが終わったら・・・きっと言えると思うんだ。

「・・・・。」
「そろそろ時間だ。」
「でも、まだ・・・!?」
「いいんだよ、ティファ。昨日ティファも言ってたろ?少なくとも俺達は、ひとりぼっちで行かなきゃならないってわけじゃない。」
「うん・・・そうだね!」
「よし、それじゃ行こうか!」

俺はこれが最後の時なんて信じはしないよ。きっと君もそうだろう?
エアリスだって、あの時自分が犠牲になるなんて少しも思っていなかったと思うんだ。
だから俺も「命を懸けても」なんて事は考えていない。
この戦いは星を守る戦い、それは分かっている。
でも、それ以上にこれは俺達の未来のための戦いなんだと思いたいんだ。
いつまでも君と一緒にいるための...。

共に戦おう。そして勝とう。未来を切り開くために。
そしてティファ、君との未来のために...。


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                 〜 トンネルの闇の向こうに 〜


長い長いトンネル。セフィロスへとつながるそのトンネルを、その中に引かれたレールの上を、私達は進んで来たのかも知れない。
一本の道に、なんていろいろな運命が待ち受けていたんだろう。
絡み合った複雑なレールが今まっすぐになって、向かうべき所はすぐ目の前にある。
でもね、私そんなトンネルから今抜け出した気がするの。
もしかしたら、私達にとって許された最後の時間。こうして一緒にいられる今に・・・私は光を見たの。
あなたにとっては、明日が出口なのかも知れないけれど・・。


いつからか月明かりが2人を照らす。
闇が放つ暗黙と静寂が人々の心を支配する時、人々は恐怖に怯え、明日に待つ未来にも絶望を覚えるのだろう。
だが幾千もの星達が闇を遮り、星々の瞬く輝きが、時にすばらしい想い出を残してくれる。

私達5年前もこんな風に空を見ていたんだね。
あの日、あなたから話を聞いた時、私、話しかけたの。手を伸ばせば届きそうな星達に。
『あなたが無事でいてくれること。あなたにまた会えること。』
・・・星は聞いていてくれたんだね。

村が焼けて、全てを失ったかと思った。
でも、夜になると満天の星空が私を迎えてくれたの。
そんな夜空を見るとね、いつもあなたの事を思い出したのよ。
きっと迎えに来てくれるって。
どんなに悲しくても辛くても、給水塔の想い出が私を支えてくれた。
あなたとの再開を夢見て生きてきた。希望だった。
私が生きていく為の・・希望・・。


「・・・もうすぐ夜明けだな・・」
「う、うん・・・?」
「ごめん。起こしちゃったか・・もうすぐ夜が明けるよ。ティファ。」
「うん・・。あの・・お、おはよう・・クラウド。もう少しだけ・・このままでいさせて・・。二度とこないこの日のために・・せめて今だけは・・」
「ああ・・いいよ。これは俺たち二人に許された最後の時間かも知れないから・・・」

風の声の中にあなたの鼓動が聞こえる。
・・・・。今はもう何も考えることはない。何も悩むことはない。
全てが解き明かされたから。
あなたの心の奥底に眠っていた鏡の断片も、そこに映っていた現実も。
今はあなたの鼓動に身を委ね、希少なこの時を大切にしたい。
このまま夜が明けなければいいのに・・・。

時に闇はすばらしい想い出を残してくれる。
この夜もまた、何億光年の輝きに負けずとも言える輝きを心に残したのだった。


「・・・・。」
「そろそろ時間だ。」
「でも、まだ・・・!?」
「いいんだよ、ティファ。昨日ティファも言ってたろ?少なくとも俺達は、ひとりぼっちで行かなきゃならないってわけじゃない。」
「うん・・・そうだね!」
「よし、それじゃ行こうか!」


長い長いトンネル。何かを目的とした時、人は知らずのうちにトンネルに足を踏み入れているのかも知れない。
そのトンネルの向こうには目的がある。そして未来も。
私達はそれに向かって行かねばならない。
どんな未来が待ち受けていようとも。

星は私達を見ていてくれる・・見守っていてくれる・・。
私、怖くないよ。
あなたが傍にいてくれるなら。
あなたと一緒に運命を待ち受けられるから。
一緒に行こう・・・私達の未来に向かって。


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【あとがき 〜ささやかな夜の静寂に〜 TOMO】

ティファファンにとっては(それ以外のFF7ファンにとっても)とても大事なイベント「決戦前夜」のクラウドの心情を描いてみました。
特に今回は城乃さんとの共作ということで、ちょっとドキドキです(^^;)
クラウドのパートはTOMOが書きました。

「想いを伝えるのは言葉だけじゃないよ」・・・想いは既にティファにあるのに言葉に出来ないクラウド。
クラウドはティファへの想いを確かめつつも、戦いの事、エアリスの死とまだ心の整理が出来ていない状態なのかなって
僕はゲームをしながら感じました。
だから最終決戦は全てを決着し、ティファとの未来の為の戦いであると思っています。
ゲームではその辺がハッキリと表現されませんでしたが...。

でも、クラウドもティファも明日の最終決戦に向けて心は晴れやかだったと思うんです。
「星を守る」なんて大上段に構えなくて、「愛するものの未来の為に戦う」という意志で戦いに赴いたんだと思うんです。
それが人として最も素直で最も力強くさせてくれる想いだから...。

今回の小説は僕が既に書いてあったクラウドのパートがあって、
それに対して城乃さんにティファのくだりを書いていただけないかと無理を言って実現したものです。
おかげで素晴らしい小説が出来たと思っています。
城乃さん、無理なお願いをかなえていただいて有り難うございました!
この小説、僕にとっても大切な想い出になると思います。


【あとがき 〜トンネルの闇の向こうに〜 城乃】

共作です♪
ということで、私なんぞが参加させて頂いたこととても感謝しています♪
決戦前夜・・いつかは書きたいと思っていたのですが、いざ書いてみると、む、むずかしい〜。
ティファバージョン・・(^ ^;)

トンネルがよく出てきたと思いますが、これは「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」(川端康成著)という文章が私は大好きでして・・。
何故かこの小説を書く時に、この言葉が頭から離れなかったんですね。
それ故トンネルを未来に通じる道として使いました。

あと、クラウドとティファの会話は全部ゲームからごっそりそのまんま持ってきました。(笑)
最近ゲームをしていない方でも、このシーンを思い出しながら、TOMOさんの小説と私の小説を読んでもらいたかったからです。
こんなのあり?!と言われてしまいそうですが。(^^;)

当初は、クラウドとティファの名前を出さないつもりでいたのですが、ゲームの会話を入れることにしたので、この案は却下になりました。
会話はゲームやりながら、一言一言メモりました。(笑)
久しぶりにプレイして、改めて良いシーンだなぁとつくづく思いましたね♪

内容に関してですが、ティファはもうクラウドの過去について多くは語らないんじゃないかな〜と思って。過去は過去として受けとめて、これから始まるストーリーに真っ向から向き合うというか。
ある意味たくましさを持っている、そんな彼女でいて欲しい!

タイトルの「最後の、そして未来へ通じる今」はTOMOさんがつけてくれました。
私はこのタイトルとても好きなんです。なんといいますか、この今がとっても大切に思えるんですよね。私の小説もこのタイトルからひらめいた物たくさんありました。

TOMOさん、大変ご苦労様でした。
こういった企画たててくれたことにも、感謝感謝です〜(^^)

城乃でした。