オブジェのような異様な死体が発見された。みつめる土地の底から、奇妙きてれつの手がでる足がでるくびがでしゃばる...。この死体が萩原朔太郎の詩さながらに演出されていることに気づいた人物が二人いた。元刑事の須貝国男。彼は三十年前に群馬県K村で起きた事件を思い出していた。そして、警視庁で名探偵の異名をとる岡部警部。二人は出遭うことなく、それぞれの捜査を開始した―。傑作長編推理。 角川文庫(本のカバーから引用) |
2000年2月19日 しょう 岡部の家庭と人生観は、 「この完全無欠のような男の底にある、憂愁の翳りを、ちらと垣間見たような気がした。岡部には、家庭的なことで何か、人知れぬ悩みがあるのかもしれない。」(死者の木霊) 「岡部は一男一女の父親であるが、世間の常識からいうと決していい父親ではないと思っている。家庭サービスなどというものには縁遠い生活だし、性格的にもそういうことに向いていない。かつて、妻の佐智子が育児ノイローゼに罹った時でさえ、あえて家庭に縛られるようなことはせずに通した。妻の親たちが呆れて、すんでのこと離婚騒ぎになったが、岡部はそれならそれでいいという態度を続け、結局は丸く収まった。」(萩原朔太郎」の亡霊) 「三月二十五日は娘のひで子が四度目の誕生日を迎える。岡部は本部の電話で妻にケーキを買って帰るべきかどうか、お伺いを立てた。佐智子は大いに関心してみせた。」 「子供たち、喜ぶは。いいパパですこと」 「“バカ”と岡部は苦笑した。主任捜査官が“いいパパ”なんかであっていいわけがない。捜査本部に釘付けになって、ひっきりなしに入ってくる情報を分析しているか、あるいは現場に飛び出し、ホシに肉薄しているのがあるべき姿というものではないか。」(萩原朔太郎」の亡霊) 「警察学校をトップで卒業したとは言っても、ノン・キャリアでは、行きつくところは最高位でも警視どまり。そういう未来の見えていることが、いかにも味気なく思えたことだ。しかも、自分には謳歌するような青春がない。その岡部を忠実な警察官として職務に駆りたてたものは、正義感でも、むろん出世欲でもない。要するに捜査するというそのことが面白かったのだ。」 (萩原朔太郎」の亡霊) ここに描かれている岡部警部は一頃の猛烈サラリーマンのそれで、時代錯誤?のようなものを感じますね。 岡部警部は、センセの処女作「死者の木霊」で既に登場していますが、本格的デビューは、「後鳥羽伝説殺人事件」の2か月後に出版された「萩原朔太郎」の亡霊であるといえます。 トクマ・ノベルズ 1982. 4.30 ノベルス 4-19-152476-3 やはり、この時代の影響を色濃く受けた人物像なのでしょうか? でもね、岡部警部は光彦同様、天賦の才がきらりと光る名探偵です。(^^) |