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丹波篠山にいるはずの父が、なぜ七百キロも離れた多摩湖半で死んでいたのか?車椅子の美少女・橋本千晶は父の死を、その明晰な頭脳で推理しはじめる−−。[221588]六つの数字は何を意味するのか?ハリのないハチ」とは何か?千晶の執念は刑事を動かして、完璧のアリバイを誇る完全犯罪を追い詰める!

 

光文社文庫(本のカバーから引用)

 

多摩湖畔殺人事件
 「多摩湖畔殺人事件」といえば、橋本千晶が主人公だと信じて疑わなかったのですが、今回、再読してみると河内部長刑事の捜査に対する執念の方が印象に残りました。

 妻に先立たれ、7年前に一人娘の順子を失った河内部長刑事と、12歳くらいのときに母親を病気で亡くし、今また父を殺された千晶という孤独な二人の人物描写が見事ですね!

 河内部長刑事が50歳、橋本千晶が19,20歳くらいの設定です。

 忘れてならないのは、岡部警部のアシストです。しかも、岡部警部が河内の娘順子に恋心を抱いていたというエピソードも興味深いものがありました。

 千晶は、父が殺害されたことを聞いて、まもなく立ち直っています。

 これは、元々気丈な性格だったのでしょうか?それとも母親を早くに失うということで自然に身についたものでしょうか?

 いずれにしても、父の無念をはらそうとする千晶の推理と実行力は驚嘆に値します。

 僅かな手掛かり(寺、221588という数字を書いた紙片)から全国の電話帳を取り寄せて辛抱強く調べる千晶。

 それに基づいて、その寺を探し出すばかりか新たな手掛かりを見つける河内部長刑事。

 勿論、ここでも千晶の探し出したものがヒントになっているのですが...。

 この作品で印象に残ったのは、河内部長刑事の「要点はよく分かりますよ。けどね、こうやって、話だけを聞いていると、物の形だけは分かるんだが、色が見えてこない。味が分からない。それに、匂いだね。そういうものがちっとも感じ取れないんだよ」という言葉です。

 まさしく現場主義というのでしょうか?捜査は足でかせぐという昔ながらの刑事魂が伝わってくる言葉です。

 入院中のベットから点滴の針を抜いて、容疑者宅に単身乗り込む河内部長刑事の鬼気迫る行動。

 最後は岡部警部が乗り込んで危機一発というフィナーレがありました。

 事件解決の爽やかさが印象に残った作品です。

1998.10.14 しょう