鳥取雛送り殺人事件 感想リストへ 
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浅見光彦と名乗る男の、妙に手慣れた110番通報で始まった新宿歌舞伎町の殺人事件。警察は、この第一発見者から、現場に残る藁細工の捜査を強要され迷惑顔である。だが、被害者が雛人形作家であり、遺留品が鳥取山中の流し雛に使われた桟俵であると判明した直後、若い刑事が鳥取で足取りを絶ってしまう。運命の糸に導かれ、門跡尼寺の神秘的雛人形の世界に迷い込んだ浅見が見たものは…。

 

中公文庫(本のカバーから引用)

鳥取雛送り殺人事件
 この作品は、先生の著作68作目、浅見シリーズ45作目で1991年の初出です。

 出だしが変わっていますね。プロローグがなく、浅見光彦が殺人事件の第一発見者となり、110番通報するところから始まります。

 変わったところと言えば、もうひとつあります。警察と接触したときに身元調べがなく、したがって兄・陽一郎の威光もないまま、ごく当たり前に事件に関与するというところです。

 事件の手掛かりは、桟俵と凶器の石でした。

 捜査本部ではまったく問題にされなかった、そのことに興味を示したのが光彦と、警察側では古田、松山部長刑事でした。

 やがて、桟俵が雛送りの儀式に使われることを知った光彦は、被害者の娘、人形師でもある広崎多伎恵と知り合い、二人三脚の推理行がはじまります。

 情景描写、雛送りにまつわる話など興味は尽きませんが、松山部長刑事の失踪は、いやがおうでも事件に引き戻す役割を果たしていますね。

 結婚を間近に控えた刑事の死は、ショックでしたがストーリーに緊張感を与えていることは、否定できません。

 第三の殺人が起き、やがて光彦の推理により事件が収束していく、内田作品らしい実に読み応えのある作品でした。

1998.10.18  しょう