岩手県北上山地の遠野・五百羅漢で、旅行中の東京のOLが絞殺された。 遺品のフィルムから、同僚OLが容疑者としてうかび、彼女が絡んだ経理上の不正も発覚した。 1か月後、彼女の自殺死体が発見され、事件は落着したかにみえた。..... しかし、先輩二人の死に疑いを抱いた宮城留理子は、執念でフィルムのトリックを暴く。 そして、第3の死が......。旅情あふれる力作。 光文社文庫(本のカバーから引用) |
宮城留理子と土橋との出会い、ベッドシーン、婚約と進むうちに、その絡みがなんとなく不吉な予感を漂わせます。内田作品にはべッドシーンというのはほとんどありません。デビュー作の「死者の木霊」では冒頭にベッドシーンがあり、かたわれの男は、バラバラ死体となって松川タ゜ムに遺棄されたのでした。 しかし、この作品ではベッドシーンも違和感はないですね。 というのは殺人事件を推理するというストーリーのうちに、留理子と土橋の出会いから破局、人間模様が実に見事に織り込まれていているからです。 これが、プロットなしで書かれているというのが信じられないくらい完璧に仕上がっています。 遠野、五百羅漢...私がその風景を知っているのなら、もっと楽しめるのに...そう感じました。 浅見光彦の作品も楽しいのですが、内田先生自身、本当はこういった泥臭いまでの刑事の執念を描きたいのではないか?この作品を読みながらそういう思いでいました。 印象に残った言葉。 「吉田はひらめきのあるタイプではないが、いったんレールに乗ってしまえば、SLのように鈍重に、しゃにむに突っ走る。善悪はともかく、それが吉田の癖だし、それによって生じる『勇み足』は病気のようなものなのだ。」(光文社文庫P206) これぞ、まさしく信濃のコロンボこと竹村刑事と相通ずるものがありますね。 また、留理子と吉田刑事との推理行は、「倉敷殺人事件」における岡部警部と草西 英を彷彿とさせます。 これは数ある内田作品の中でもとりわけ優れた名作です。 1999.4.9 しょう |