若狭の名勝三方五湖のひとつ日向湖に沈む男の死体。一方、東京で絞殺された広告代理店勤務の細野久男。細野は死の直前、同人誌に若狭を舞台にした短編小説「死舞」を発表していた。そこに描かれた黒い服の男の謎の行動と暗い過去。…浅見光彦は、この小説をもとに、二つの殺人事件をむすぶ接点を求めて、単身若狭へ向かった。そこには四十年の時間の壁が…。
光文社文庫 (本のカバーから引用) |
この作品いには随所に内田先生が顔を出しています。そもそも光彦が事件に関わるときも先生の紹介となっていますね。 若狭を取材して淡水の鰻を食べるシーンでは、 「ひまつぶしに...地元のタウン誌をパラパラ開いていて、...ベストスリーの第3位に、なんと、あの内田康夫の「博多殺人事件」が載っているのだ。」 アハハハ、これは先生の実体験ですよね!(^o^)とすれば、同行の人もきっと実在のひとでしょうか? なんにせよ、おもしろいです。 でも...。私はこの辺の取材旅行の裏話なんかも、「浅見光彦のミステリー紀行」などを読み知っていますが、初めてこの本を読んだ人はどう感じるのかな?と思ってしまいました。 たぶん、奇異な印象をもつでしょうね。 それはともかくとして、相変わらず先生の構想は冴えてますね! 細野久男の死からはじまって、同人誌に掲載された「死舞」、それが盗作らしいこと。黒い服の男の謎、 舞鶴の引揚船のこと。原発などなど。 そして、犯人とその動機...まったく驚いてしまいます。犯人の最期も...。 陽一郎の言葉。 「苦楽も罪も分かち合うのが家族の宿命じゃないのかな。彼らを許すか、救済するかどうかは、社会や包容力や優しさの問題だね」(P226) 陽一郎が自分の心情を吐露する場面をはじめて見た気がします。しかし、これも先生の考えなんですよね。 1998.11.7 |