「米穀通帳はどうなったのかしら」名探偵・浅見光彦の母がふと口にした一言から、すべてが始まった。米穀卸商の坂本に問い合わせると、数日後、彼の水死体が東京湾に浮かんだ。一方、浅見家に配達された米の中から、は、黒い小さな穀象虫が発見された。 母の命令で米屋に調べにいった光彦が見たのは、超高級品として売られている米袋からはい出してくる、大量の虫の不気味な姿だった。京北食糧卸協同組合理事・坂本義人が水死体となって発見された。死の直前の坂本に電話をした人物が、なんと名探偵・浅見光彦の母・雪江!浅見は雪江の命を受け調査に乗り出す。 一方、長野県経済連で六億を超えるヤミ米横流し事件が発覚した。容疑者・阿部隆三は失踪中。その阿部が、死亡した坂本と連絡を取り合っていたことから“長野のコロンボ”竹村警部が捜査に。竹村とともに阿部隆三宅を訪ねた浅見は、阿部の娘・悦子に父親の汚名を雪ぐことを誓い、単身、新潟に向かうが…! 基幹農産物・コメを巡る光と闇!食糧問題を鋭く抉る、著者渾身の超大推理傑作。 カッパ・ノベルス(本のカバーから引用) |
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実にスケールの大きい作品でした。日本の米問題に真っ正面から取り組んでいて好感がのもてる作品に仕上がっていると思います。 惜しむらくは、ヤミ米、アメリカ産コシヒカリの密輸、その背後に潜む巨悪も弾劾してもらいたかったものです。 もっとも、謎解きは終わっているのですから、蛇足かなとも思いますが...。 ともあれ、事件の鍵を握る男が生死不明ということで、願わくは生きていてほしい。そして、事件の本質を明らかにしてほしいという著者と読者の願いに一条の希望の光を残してくれました。 この作品で強く感じたこと、それは内田作品が「性善説」を貫いているということを再認識できたということです。 竹村警部についての記述から 『「警部の性善説はちっとも変わらないのですねえ」殺しを扱う一課の刑事のくせに、竹村は人間の本性は善であると信じている。』 やっぱり、そうだったんですよ! 内田作品の3要素は、「人」、「旅」、そして「謎解き」です。まだあるんですよね!「歴史」と「文学」かな? とにかく読んでいてためになるような...。 知的好奇心をくすぐられるというか...。 そして、「性善説」に貫かれた人間を見る目の優しさ、暖かさを感じます。 この作品では、阿部隆三には生きていてほしかった...。そんな気持ちを抱いたまま読み終えました。 1998.11.5 |