CDs!CDs!CDs!   No.1 岩崎昌樹  

 

 フォーク系の近作CDから岩崎昌樹さんにベスト作を選んでいただきました。
 岩崎さんは60年代ムーヴメント期のフォークにひかれて以来、ずっとアメリカン・フォーク・シーンを追いかけてこられて方です。お住まい近くの関西方面で開かれるコンサートに出演されたり、来日アーチストのライヴ開催に尽力、またFM番組でフォークを紹介するDJや、音楽雑誌に原稿執筆をされています。丁寧にフォークを見続けてきたからこその眼が光るセレクションとコメントをお楽しみ下さい。



 

1.Meridian Green / In The Heart Of This Town (String Bender 001)
 
故ボブ・ギブソンはよくよくザ・バ−ズと縁(えにし)が深い人だったと思っている。シカゴの「Old Town」にボブを見たさに通いつめたロジャ−・マッギン、そのロジャ−率いるバ−ズのラスト・メンバ−の一人がジーン・パ−スンズだ。紹介するメリディアン・グリ−ンはそのボブ・ギブソンの娘、そして夫君はそのジ−ン・パ−スンズというのだからこの感慨も納得してくれるだろう。
 夫婦としてのデュオ・アルバム「Birds of A Feather」もあるが、今回はダンナは裏方にまわっての彼女のソロ・アルバム。マルチ・プレイヤ−としてつとに知られるジ−ンのギタ−、バンジョ−、ドラムス、ペダル・スティ−ル等の各楽器を駆使しての想像通りのフォ−ク・カントリ−なアコ−スティック・サウンド。
 彼女の歌声は決して上手くはないが、フォ−ク・シンガ−らしい清楚な飾り気のない歌声に好感が持てる。父親譲りなのかソングライティングの才もなかなかのもの。父親の代表曲の一つ「Abilene」を収録しているのも微笑ましいものがある。つくづく「娘」はいいものだ。これ娘を持つ我が身としての実感。

    2.David Hamburger / Indigo Rose (Chester 0027)
 ボストン界隈で活動する気鋭のブル−グラス・バンド、サラマンダ−・クロッシングがタイトル曲を歌っていた作者がこのデヴィッド・ハンバ−ガ−。
 現在ニュ−ヨ−クで活躍するスライド・ギタリスト&ソングライタ−である。恐らくその表出頻度は同じニュ−ヨ−クのラリ−・キャンベルに次ぐものだろう(ラリーは今回のディランのツアーにも同行していた)。しかもそのギグの殆どはかってのファ−スト・フォ−ク・シンガ−達とのものが多い様だが・・・・
 このアルバムは94年にリリ−スされた「King Of Brooklyn Delta」(Chester 0018 )に続く二枚目。スライド奏者としては近年サニ−・ランドレスがつとに有名だが(新作「Levee Town」も良い。)デビッドの場合はより「歌」に重きをおいたもので、さほど技巧に走らずプレイとしての派手さはない。が、そこが好もしい。

    3.V. A. / The Gram Parsons Notebook : The Kast Whippoowill ( shell point/echomusic 1223)
「オルタナ・カントリ−」全盛期の昨今、トリビュ−ト物では「神格化」されてしまったグラム・パ−スンズの何度目かになるアルバム。
 然し、今回のアルバムに参加した人々はカ−ル・ジャクソン、リッキ−・スキャッグス、ウッディズ等凡そロック・ファンが喜びそうな人選はなされていない。翻ってその事が実はポイントで恐らく、ファンにしてみれば70年代に経験したいわゆる「カントリ−・ロック」のサウンドに一番近い音を、現在ブル−グラス及びその周辺で活動している彼等がだしているというのも妙と言えば妙だ。
 「オルタナ・カントリ−」というものに今一つ首を傾げる人には是非お奨めなストレ−トな作品に仕上がっている。
 バック・オウエンズの「コ−スト・カントリ−」が後のカントリ−・ロックに与えた影響は頗る大きいが、改めてその事を認識させてくれる熱唱の連続だ。特にカ−ル・ジャクソンはブル−グラスに復帰して以来いい仕事を残してきているが、これも記憶されるべきアルバムになるだろう。

    4.Geoff Muldaur / Password ( Hightone 8128 )
 今年2月から3月にかけて来日公演を行ったジェフの最新作(今回の伴奏にはベース奏者として元スト−ン・ポニ−ズ〜フロ−ティング・ハウス・バンドを経てマッケイブスのスタッフとなったボビ−・キンメルが同行する)。
 今回は再び「ル−ツ」に立ち返った内容で恐らく彼の音楽に親しんできた大多数の熱心なファンには充分満足を与えるものだろう。
 彼の「ル−ツ」は紛れもなく「ブル−ス」であり、又それを基調に生み出された彼の音楽と解すべきであろう。ジム・クエスキン・ジャグ・バンド時代以来の盟友フリッツ・リッチモンド、リチャ−ド・グリ−ン、クレア&ジェニファ−・マルダ−の娘達、「ル−ツ音楽」の探訪者の一人ステファン・ブルトン、ジョン・セバスチャン、ボブ・シギンズ、ボブ・ニュ−ワ−スといった「臭い」を持った、しかもジェフを知るプレイヤ−が一同に集まる和やかな内容だが、充分「毒」も孕んでいるのが彼らしい。それも少しづつトロトロと出してゆくのが良い。

    5.Jamie Byrd & Steve Fisher / The Looking Glass (Roosterdog2124)
 過去「Stebe Fisher」「Nobody Home」と2個のカセット・アルバムをリリ−スしてきたスティ−ブの新作は凡そ名前も聞いた事もないジェミ−・バ−ドとの男女デュオのアルバムだ(それら2つのアルバムは現在「A Boy's Life In Texas」としてCD化されWaterbugから容易に入手出来る)。  今回もそれまでのスティ−ブのアルバムの延長線上にある「弾き語り」を主体としたマイナ−なフォ−クらしいシンプルな音作りで「二人だけの世界」を構築している。ジェミ−も彼と大差ないカラ−を持った人で各々の作品を交互に提供し、落ち着いた時間を聞き手に与えてくれる、言ってみればそれは「モノト−ン」の世界だろうか。  70年代のロック喫茶全盛期ならいざ知らず、現在の音楽状況を知るにつけ、こんな音楽を奏でる人がいる事に嬉しさが先に来る。しかも「極上」である。  いや、つくづく「この世界」は広い、かつ深い、それを思い知らされる。

    6.Bill & Bonnie Hearne / Watching Life Through A Wind Shield ( Back Porch 72438 )
 
テキサス出身でカ−ビル・フォ−ク・フェスの常連となって以来、着実にその人気を不動のものにしたビル&「ブラインド」ボニ−・ハ−ン夫婦の最新作はその選曲のセンスが問われるソングセレクタ−としての姿勢はデビュ−以来終始変わらない。昨今、話題の「アメリカ−ナ音楽」とかに彼等も組み込まれているらしく、新作も無事リリ−スされた。
 けれん味のない彼等の歌声、砂塵が交じっていそうなビルの男性的な安定したボ−カルは何より魅力的で、どうしても僕は往年のイアン&シルビアを思い出してしまう。
 今回も「L, A Freeway」「You Ain't Goin' Nowhere」「Drifter's Wind」「Two of a Kind」「Fool's for Each Other」等耳馴染みの作品のカヴァ−が目立つ所が若い「ウルサ型」のリスナ−の心を捉えているのだろうが、余りにも安易な選曲ではないか?
 聴く前から解ってるサウンド、「アメリカ−ナ」ってそんなもの?出尽くした上での「やっつけ仕事」?彼等にはそんな音創りはしてもらいたくない。


    7. Steve Goodman / Live Wire (Red Pajama 015 )
 彼のアルバム、リリ−スの話はもう無いだろうと思っていた故スティ−ブ・グッドマンの音源がひっそりとリリ−スされていた。しかも今回はバンド編だ。
 詳しい録音デ−タは残念ながら記載されていないが、曲目から察するに78年頃の録音と思われる。ピ−タ−・ベネッタ、リック・チャダコフ、ジム・エンガ−、それにジム・ロ−ズメルら後期アサイラムのアルバムによく名前が登場していた人物が同じく記載されている所からもその事は推し量られる。
 ギタ−・プレイヤ−としてはその腕前は「嘘は罪」で存分に発揮してくれている。友人でもあったジミ−・バフェットもカバ−した「Banana Republic」「This Hotel」、マイケル・スミスの名曲「The Dutchman」約束の「City Of New Orlearns」しみじみとした「My Old Man」。そのどれもが炊きあがった新米の粒の様に「立って」いる。
 今も彼がいたなら・・・スティ−ブのアルバムどれ聴いても思う述懐だが今回もそうだ。亡くなった人の歌声を今も聴く事が出来る僕等は幸せだと思う。

    8.John Stewart / Gold (英 Wrass 016 )
 2000年の昨年「還暦」を迎えたジョン・スチュワ−トのキングストン・トリオ解散後のソロ活動の足跡を2枚のCDに収録したアンソロジ−がこのアルバムである。
 「未発表曲」の収録は一つもないが、70年代にはソングライタ−やフォ−ク・シンガ−達にスポットを当てたミニ・コミ誌として一時代を築いた「オマハ・レインボウ」を生み出した同じイギリスからのリリ−スというのが妙な説得力を持つ編集ではある。
 「熱心なファン」からはこと選曲については文句の一つも当然あるはずだろうが、彼を知らない世代にしてみれば「好編集」と言えようか。
 最近のジョンは伴侶バフィ−・フォ−ドの「脳腫瘍」の再発、手術とプライベ−トで大変な事が続いたがステ−ジでは元気なパフォ−マンスを元トリオの盟友ニック・レイノルズと見せているようだし、ナンシ−・グリフィスの新作予定では3曲も彼の作品が取り上げられ、そのセッションに参加したなんて話も飛び込んでいる。
 「キングストン・トリオ」に在籍していた事が現在の彼にとっても重要な意味を持っていた事がこのアルバムでは改めてよく伝わる。それは当時のソロになる意気込みと言った物だろうか。

    9.Erik Darling / child,child ( Wind River 4013 )
 
「60年代」という時代は一言で言ってしまって「共同体の再構築」が テ−マだったのだろうか?それが「幻想」と解り「夢」から冷めた後にきたものは「強烈な個人主義」が蔓延していったと見るべきだろう。それが現在最も突出した形で表れているのが社会の最小単位である「家族」の崩壊 である。
 タリア−ズ、ル−フトップ・シンガ−スとフォ−ク・リバイバルの花形 スタ−だったエリック・ダ−リンのもう一つの顔は、こうした「家族」の カウンセリングである。60年代のある「理想主義」を別の形で具体化する姿はシ−ガ−とは違う意味でより実践的ではないだろうか?
 昨年春、来日してその歌声を披露したエリックは「昔」と変わらぬかん高いテナ−、ガット・ギタ−を爪弾き、例の軽いスウィング感溢れるピッキングも健在で、それはもう殆ど感動的なステ−ジだった。
 過去の名声にとらわれない等身大の現在の彼の姿を見せてくれたという点で、数ある来日ステ−ジの中でも印象深いもので、この アルバムは来日前にリリ−スされたとはいえ、充分その時のステ−ジを思い浮かべ「反芻」させてくれるものだ。誠実さに溢れた好印象 の一枚といえよう。

     




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