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 誠に遅れ馳せながら・・・本年もよろしくお願いします。昨秋の買い付けの際にはお会いする時間が無く残念でした。またの機会を楽しみにしております。


 この冬は初めて迎える冬とあって、暖炉用のログホルダーやら薪木やら、それに厚手のブランケット等、やや興奮気味に買い込み、すっかり黒板五郎的気分で冬ごもりの準備を万全に整えていたつもりだったのですが、期待はずれといってよいのか、年末からわりと暖かい日が続いていました。昨年の数年振りという大寒波の体験が摺込まれているせいで、必要以上に身構えてしまったかな。おかげで憬れのマイ暖炉の活躍の機会は、ほんの数えるほど。元"焚火教信者"のボクとしてはちと残念。


 じつは昔から僕にはヘンな癖というか趣向があって、悪天候の予報を聞くと、とにかく必要以上の食材やお酒、雑貨品、それにもちろんCDや雑誌などを買い込んで家で待機するというのが、もうやたらと好きなんですね。「今夜から大雪が予想されます」とか、「大型台風接近」なんて予報を聞くともうダメ。買い出しがしたくなって、どうしょうもなくなってしまう。実際にそうした被害に遭われた方にとってみたら、「このバカモノが」とお叱りを受けそうですが。すみません、なぜだかどうにも気分が昂ぶってしまうのです。部屋の窓から吹き荒れる台風や叩きつける雨の様子、あるいは夜更けに深々と降り続ける雪なんかを眺めるが大好きで。


 でも毎度alertの出るたびにそんなバカ買いに走ってしまうものですから不経済なこと、この上なし。先日も週末にかけて大雪との予報があったので、金曜日の午後から大量の洋・和食材と各種アルコール、CDはシェリル・クロウのベスト盤にパット・メセニーとジム・ホールの競演盤、ウィリー・ネルソンのデモ・セッション集、パッツィ・クライン・トリビュート。べつに冬気分を盛り上げようってわけじゃなかったのですがエルビス・コステロの新譜『North』。それにスモ-キー・ロビンソン、AC/DCのDVDなど購入。指がちぎれそうなくらいの買い物袋をぶら下げ早足で帰宅して、雪見気分のTGIFナイトに向けて万全の体制だったのですが、結局大した目的も無しにメール見たりネット見たりしてるうちに、ワインに酔っ払って早々に寝てしまいました。いつものことながら自分の間抜けさ加減にウンザリ。でもやめられないんですね、これが。ひとしきり降った雪が小降りになって、積もった地面の白さで窓の外の景色が明るく見える夜なんかに聴くジョニ・ミッチェルなんて、もう僕の人生の至福の一瞬です。


 であるからしてですね。秋から冬にかけてやがて来る厳しい季節に備えて家の中をできるだけcomfortableにしようと、部屋の内や外装を飾り立て、料理に腕を奮い、キャンドルを燈したり、そんな冬支度気分に盛り上がる隣人達の気持は、日本人の僕にもよくわかります。この季節の自然の移り変わり。紅葉から落葉、やがて大きなマツボックリが道々に落ちてきて、鹿たちが活発に往来したりし始めるのと絶妙にシンクロして冬時間になって、日没が早くなる。ワールドシリーズも終わってしまって。そうなるとみんな、ほんとに帰宅が早くなりますね。朝の出勤も早いのでしょうが、午後4時前くらいにはもう家路についている人も少なくないようだし、みんなこの季節はできるだけ長い時間を、家族や仲間と過ごそうとされているようでした。ハロウィンのJack-O-Lanternに始まりクリスマスのイルミネーションまで、ダウンタウンの街灯も郊外の家並も、その一年のお互いの労をねぎらいあうかのように一晩中静かな灯りを照らし続ける。ジョニ-・マティスが歌ったように 確かにそれは"the most wonderful time of the year" でした。


 11月以降は、4〜5人にメールを送れば、必ず誰かしら一人 Out Of Office。1週間ほど休暇中みたいな状態なので もう年内はロクに商談も進まないようなスローペースでした。みんな年末の忙しさは確かにあるんだけれども、それだけに忙殺されないで holiday seasonをリラックスして楽しんでる。その代わり新年、元旦明けには、もういつもどおりのペースで生活が始まって、いわゆるオトソ気分みたいなまったりしたムードは全然無く、むしろすっきりあっさりと一年のスタートが始まる。個人的に僕はこのメリハリの利いた潔い感じはとても気に入りました。ま、東京にいたらいたで二ッポンのお正月は最高!なんて言いながら成人の日くらいまでアルコール漬けなっているんでしょうけど、堅いことは言いっこなしということで。

 

 

 閑話休題。


 朝夕の空気がだいぶ肌寒くなって紅葉がいちばん綺麗に色づいていた10月の第3週。
 そんな実りの季節に 去年は4年に一度開かれる Tall Stacks というイベントがありました。正式名は『Tall Stacks Musc, Arts & Heritage Festival 2003』。ちょっとそそられるイベント名でしょう。メインのアトラクションは 各地自慢のSteamboat、ちょうどディズニー・シーにあるような蒸気船が南部、中西部の各ポートから一同に会してのお披露目会兼レースなのですが、その他にも飛行船や熱気球が飛んだり、数々の屋台が並んでシンシナティ名物の煮込み料理チリや、ヴィエナ・シュニッツェルなどのドイツ料理が振舞われたりなんかして ビールやワインを片手に川沿いの芝生でくつろげる、なかなか洒落た雰囲気のいいイベントでした。

 


 しかしニューオリンズのマルディ・グラのときもルイビルでのケンタッキー・ダービ−のときもつくづく感じたことですが、こういうお祭り騒ぎのときのアメリカ人というのは、本当にトコトン飲みますね。あんまり味わって飲んでるようには見えないのですが、その鯨飲振りには毎度圧倒されます。で、このイベントのもう一つの目玉が entertainment であります。その布陣がけっこう充実しとりまして。


 5日間ぶっ通しで毎晩5時頃から12頃まで。三ヶ所設けられた会場で入れ替わり立ち替わり演奏が行われていて、ほんとは5日間全部行きたかったのですが、さすがにそれは無理だったので、厳選して2日ほど早めに仕事を切り上げて出かけてきました。ちなみに入場料は5日間通しで12ドル。


 最初に観たのはデルバート・マックリントン。まさかこの人のライブを見れるとはネ・・幸運でした。ちょうど僕が洋楽に夢中になり始めてた81年、ラジオ関東の全米トップ40で湯川れい子が「この人がジョン・レノンのハーモニカの先生です」なんて紹介しつつ “Givin' It Up For Your Love” をかけていたのを憶えてます。マイ・ポップス・クロニクル。あんな曲がそのジョン・レノンの遺作やブロンディなんかとオン・エアされていたんですからね、あの当時は。今にして思うと僕のイナタイ音好みのルーツはこの人あたりかも。もちろん演奏も、それはもう地力に勝るとでも言うのか、血と肉から湧き出すカントリーとブルースの芳醇なハイブリッド感に観衆全体が興奮しておりました。未だ観たことの無いヴァン・モリソンのライブというのも きっとこんな濃蜜な空間なんだろうなと、ふと想像したのですが。でもV.モリソンが牛すじ肉の黒ビール煮、あるいは黒砂糖たっぷりゼラチンたっぷりのトロトロの豚の角煮だとしたら、D.マックリントンは挽き肉とレッド・ビーンズ、にんにく&玉葱がたっぷり入ったチリっていう感じ。ちょっとだけ胃袋の負担が軽いのです。もちろん懐にも優しく。だからまたつい口にしてしまうのかも。

 ご本人はそんなこと知ったことかと言わんばかりに、何度も何度も来週出るライブ盤、絶対買えよーっと商魂逞しくがなりたてておられました。まさしく旅芸人の鏡。すべての面においてお見事。

 

 


 しかしまあ老いも若きも、ノリノリでしたよ。彼ってサイコ-ッなんて叫びながら悦びによがっていた隣のおばちゃん、凄い迫力でした。綾小路きみまろが見てたら、ボロクソに言われるよ、ハハハなんて笑いながらも、なんだよみんな、こんな音楽好きなんだと思うと、何だか嬉しくなってしまいました。彼らに言わせりゃ、東洋人にこの味わい深さが分かるかよってなモンでしょうがね。でも分かるんだな、これが。フフフ。


 同じステージで続いて観たのはエミルー・ハリス。まず彼女の美貌に、日の沈んだステージに輝いているシルバーの髪に、目を奪われてしまいました。人種も年齢もバラエティに富んだ男性陣に囲まれて、颯爽と登場。中でもドレッド・ヘアの兄貴が奏でるポリリズムなパーカッションが印象的で、彼女を筆頭にえらくフォトジェニックなバンドでありました。ここ数年の彼女の新しい試みは、概ね好意的に受け入れられているみたいですし、実際に目にしたのも洗練された雰囲気のある演奏なのですが、正直なことを言うと個人的にはちょっと疑問。彼女のビジュアル面での変化が完璧過ぎるのと、なんでもノンサッチから例のパッケージでリリースすればもう評判上がって高く売れる、みたいな最近のトレンドに軽い抵抗を感じているのと。もともと愛着を感じていた人だけに、最近のちょっと作られ過ぎている感触がどうも好きになれずにいたもので。せっかくケンタッキー州を対岸川向こうに望んでいるんだから 『Blue Kentuckey Girl』 で演ってた
“Hictory Wind” なんか歌ってくれたら最高なんだけどなあ、と この上なく保守的な発想で、でもそれだけが理由じゃないちょっとした居座り心地の悪さで、少し早めにお暇しました。エミルー・ハリスが生で歌ってる姿をこの目で拝みましたからね、ある意味それで目的達成。なんてったってこの次はロス・ロボスがお目当てだったので、フライングして会場を移動しました。

 


 ちなみに本当はこの日、デビッド・リンドレ-&ウォリー・イングラムも登場予定だったのですが、なんと病気を理由に急遽キャンセルでした。ううん、残念。とにかくこの日のトリは、ロス・ロボス (別のステージではニッケル・クリーク!が演ってました)。結構早めに移動を始めたつもりだったのに同じ考えの人たちが大勢いたみたいで、なかなか目当ての会場に辿り着けず、着いたらもう既に会場はインドの乗合バスみたいに乗車率200%、通路にまで人が溢れ出ていて、早々に席を確保していた人達との間に殺気だった雰囲気が立ち込めておりました。さすがに危険と判断したのか主催者側から、通路の人たちが退かないなら始めませんよーとのPA。長い時間座って待っていた人たちからは歓声が上がって、さらに一発触発的緊張が高まったところで見慣れたポマード頭の大男イダルゴがステージに現れて、「みんなが行儀良く見てくれるなら構わない。もう始めるよ」、なんて言ったと途端にドッカーンと“Don't Worry Baby”のギターのイントロが始まり、その段階で座っていた人も立っていた人も関係無くなっちゃいましたけどね。ちなみに僕は誰かが座っているとばかり思っていた4列目中央の席が、ただ誰の物とも分からないウィンドブレーカーが置いてあっただけと分かり、あんたラッキーねなんて周囲の皆に冷やかされながらノウノウと座って開演を待っていたのでした。へへへ。


 91年だったか、クアトロで見たときにも “What's Going On” あたりでメロウな雰囲気でアンコールを盛り上げていて、剛健かつ甘美な懐の深さにえらく感心したことがありました。その後の90年代後半にリリースされてきた何枚かの新作も、メンバー各々のユニット名義の盤も未だに飽きることなく愛聴しております。とりわけ 『Colossal Head』。 そんなわけでこの夜の僕のハイライトは “Mas Y Mas”。突然飛び入り参加してきたスティーブ・アールと競演した “What'd I Say”も、それはまた興奮の一瞬ではありましたが、90年代ロボスの作品の中でももうスタンダードと言っていいのではないでしょうか、“Mas Y Mas”。 確か数年前にRhinoから出たボックスセットのタイトルも“Mas Y Mas”。ステージが終了したのがもう深夜12時を過ぎた頃だったと思いますが、その場に居合わせた観衆の殆どの人の脳ミソの中で “Mas Y Mas”のギターリフが鳴り続けていたはず。だってそこらかしこで酔っ払い達が、このフレーズをシャウトしつづけていたのですから。もう何は無くても“Mas Y Mas”。


 終演後、ステージ脇で気軽にお姉さんたちと会話を交わしていたデヴィット・イダルゴとシーザー・ロサス、興奮気味のビジネススーツに身を包んだ男性に「君達は地上最強のロックンロール・バンドだ」なんて突然場違いなエールを大声でかけられて、あからさまにムッとした様子で例のグラサン越しに睨み返し。
 その無言の迫力に押されて、その兄チャンはそれ以上何も言えずにズズズと後ずさってフェイドアウト。誰かがアハハ・・・って感じで笑い始めたら またその輪でも誰かが “Mas Y Mas” 。「この街のすべての Music Lovers に」なんて粋な前置きをしてアコーディオンとアコギでマリアッチ・スタイルを決め込んだり、お家芸のTEXMEX風味もふんだんに披露されたりで会場全体で愉しませていただきました。まるでニック・ロウの “I Knew The Bride” のPVみたいな雰囲気で踊りまくりでしたからね。みんな余韻を味わっていたかったのでしょう。そういえば 普段あまり街中で見かけることの少ないヒスパニック系の観客がとても多くて、スペイン語が飛び交う様子にちょっとビックリしました。当然と言えば当然なのでしょうが。

 


 その翌日はまた晴天。土曜日だったので昼間から余裕を持って出かけてみました。
 ただ最終ステージまでこれといった予定が無かったので、前日見る事のできなかった蒸気船のレースを眺めてみたり、屋台の料理をハシゴしたりしながら、The Hackberry Ramblers なるケイジャン風味濃厚な老人アコースティック・スウィング・バンドを見たり、遠くに聞こえる Bo Diddley のジャングル・ビートに後ろ髪引かれたりしながら会場を散策。そうそう、この夜は大きな花火も上がったりしていました。

 

 そんな中、ふと足を止めてリラックス、ゆったりと耳を傾けたのがナッシュビルのゴスペル・クァルテットFairfield Four。気分はまるで 『O Brother』 といった趣で重層なハーモニーの快感に浸っていました。

 

 


 この晩、おそらく誰もがいちばんの目当てにして来ていたのが メアリー・チェィピン・カーペンター、ダー・ウィリアムス、パティ・グリフィン、それにショーン・コルビンの競演ステージでしょう。もちろん僕もそう。爽やかな秋風が吹く満月の夜、神様が用意してくれたようなシチュエーションでした。4人が同時に登場すると、メアリーがちょっとした進行役を努めながら、彼女から順番に一人一曲づつそれぞれのギターの演奏とその他3人のコーラスが彩る形で進められていきました。


 中でも印象的だったのは ショーン・コルビンの歌った トム・ウェイツの “Heart of Saturday Night”に、ニ−ル・ヤングの“Tell Me Why”。僕はこの4人のなかで彼女がいちばんのFavoriteで、特に某盤に収録されていた彼女の “Have Yourself A Merry Little Christmas” は僕の最も好きなクリスマスソングでありまして。もう10年以上毎年聞いているのに、毎年胸をキュンとさせている次第です。そんな風に身近に感じていた彼女が、これまた僕の大好きな曲達を歌ってくれて感激。加えてメアリー・チェィピン・カーペンターは ジョニ-・キャッシュとジョン・ハートフォードにトリビュート。


 ところで そのジョン・ハートフォード。じつは彼はこのイベントにもとても所縁の深い人物であったようで残念ながら2001年に他界してしまいましたが、1988年のこのトール・スタックス・イベントの第一回から毎度ステージに立ち、更には “The Tall Stacks are coming back to town” なるオリジナルのテーマ曲を提供。今回メアリーに唄われた歌も、その可愛らしいナンバーでした。長年に渡るナッシュビルでのキャリア。スタジオミュージシャン、作曲家としてはもちろんラジオのDJ、テレビ番組の司会などでの活躍のほかに、年季の入った蒸気船マニアでもあったとか。自らリバーボートの操縦士資格も持ち、同時にリーバーボート博物館(そんなのホントにあるんかいな)の館長も務めていたとのこと(それに児童文学の著作もあるそうで)。 


 今年のトール・スタックスは彼のいない初めてのイベントになることとなり、オフィシャルガイドでも1ページ全面が彼の多才な功績を称える文章に充てられていました。現代のマーク・トウェイン。そんな風にその紹介文は始まっていました。この5日間に奏でられる音楽はすべて、Mr..ハートフォードに捧げる、とも記されておりました。
 個人的には少年がラッパを吹いているイラストが描かれたジャケットのレコードに、どうもウッドストック方面の人という強い印象を持っていたのですが、グレン・キャンベルにその作品が歌われたりもしていましたね。今度ゆっくり編集盤のCDでも探してみようと思っています。

 

 


 さて主役の4人のミセス達、全員ギタ−一本だけなのですが、人柄の滲み出るheart warmingな歌声と演奏で、one by oneのシンプルなステージ展開ながら、じつに味わいの深いライブでした。女性としての艶やかさも、ひとりひとりに個性的な魅力があって、華のあるステージでありました。でも、あえていえばメアリーがちょっと予想以上に大柄で、4人の中でシルエットが突出していましたが、愛嬌のある笑顔の可愛らしいさ に思わず和んでしまって。彼女とダー・ウィリアムスがどちらかというと陽のタイプ、和み系でショーンとパティが一人遊びが得意そうな、ちょっと影を感じるタイプ。榊原郁恵に岡江久美子、桃井かおりと秋吉久美子が並んでいる感じ? いや、ちょっと違うな。綿矢りさ系二人と金原ひとみ系二人、なんて言ったらもっとイメージ狂っちゃうかな。でもまあつまりは そんな塩梅のコントラストであります。詳しくは写真参照。

 

 


 今回、初めて見る機会に恵まれ、僕がすっかりファンになってしまったのがダー・ウィリアムス。どういう巡り合わせか彼女の順番が来て、その歌がいい感じに盛り上がってくると、蒸気船の汽笛がブオーッと鳴り響き、その度にタイムがかかって歌い直し。その度に苦笑いをしていたのですが、そんなことが2、3度続いたので、今度は歌を始める前に川沿いのお客に向かって「大丈夫?しばらく来ない?ちょっと見張っててくれる?」なんてジョークをはさみながらギターを爪弾き、その演奏が始まった途端、今度はどこからか赤い風船がフワーッと彼女の目の前に現れて、さすがに歌どころではなくなってしまい、一同大爆笑。当のご本人がいちばんウケていて、涙を流して大笑い。開口一番、「満月の夜に蒸気船の汽笛、赤い風船。昔のフランス映画のワン・シーンみたいじゃない?」 なんて気の利いた台詞。年齢やスタイルに関係無い、あの歌を歌える人だからこその魅力が溢れていました。いつかボストンまで この人のステージをもう一度観に出かけてみたい。

 

 


 楽しい時間は瞬く間に過ぎて、アンコールはなんとバックストリート・ボーイズの “I Want It That Way”。メアリーとショーンが素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。選曲の妙、意外性もあって大いに盛り上がりました。余談ながら数週間後、ジャクソン・ブラウンのコンサートを見に行った時、アンコールの段になって、「じゃあ僕もバックストリート・ボーイズ、演ろうかな。こないだのメアリーとショーン・コルビンのヤツ、見た?カッコよかったね。」なんて話していました。ってことはあの場に居たのかよ、ジャクソン・ブラウン。

 

 


 帰り道、宵の冷え込みで急に気温が下がってきたのでダウンタウンまで小走りで戻って、ちょっと息を切らしながら、とあるオフィス・ビルのエレベータに飛び乗りました。そのパーキングに向かうエレベータの中で、ちょうど彼女達と同じ世代くらいの女性の二人連れと一緒になり、「日本から見に来られたの?きっと満足されたでしょう」と自然に声をかけられ、僕は返事をするかわりにちょこっと笑って先のフロアで降りてしまいました。会話が億劫だったわけではないのですが、なんだかその方が僕の満足度が伝わるような気がしたので。


 ちなみに今回見ることが出来なかったのはリッキー・スキャッグス、ザ・ジェイホークス、ルシンダ・ウィリアムス、バディ・ミラ−、ケブ・モ、B.B.キング、ジョン・メイオール、メイビス・ステイプルズetc。興味の沸いた方は、どうぞ www.tallstacks.com をちょっと覗いてみてください。次の開催はまた4年後、2007年だそうです。その時まだ僕はこの街に暮らしているのかな、どうかな。もう一度見に訪れたい気持は山々なれど、それもちょっと複雑な気持です。 なーんて長々と書いていたら もう4月じゃないですか。来週にはもう レッズのオープニングゲームだし。日本の選抜もいよいよ佳境、球春ですね。ああ、球春ってなんて素晴らしい日本語なんでしょう。


 そういえば 全米で3月中旬から始まったNCAAのトーナメント、カレッジ・バスケットボール。ここは地元校の躍進もあって非常に盛り上がっているのですが、それまで星条旗を掲げて走っていた車も、みんな地元校の校旗に差し替えて応援に夢中です。その熱狂振りは、なにやら一昔前の日本の高校野球の盛り上がりに似ているような気が。仕事中もずっとTVをかけたままで、隙があればみんな仕事そっちのけでかぶりつくように観戦しています。まさに March Madness。


さて最後に私信をひとつお許しください。 


拝啓 スズキの助様


 いつも愉しみに読ませていただいております。
 私事ながら ここオハイオでの日常生活の中で 時折気になっていたりする幾つかの出来事や場面が、貴殿の文章を読むとじつにクリアに見えてくるのです。それまでバラバラに点在していたものが、スーッと一直線上に並ぶかのように全体像が見えてくる。
 先日、当方のごくありきたりな間違い電話が原因で、まったく見ず知らずの年配の女性から僕の携帯にリターンコールがかかってきました。エリアコードから察するにNY方面。「あなた先ほど、どちらからお電話されました?どちらにいらっしゃるのですか?」と、いささか強い口調で質問攻めにあい、戸惑いながらもこちらの居場所と番号を恐る恐る教えると「じつは息子がイラクに出兵しているので 現地からの電話かと思って」とのこと。最初は同じ米国内からの番号なんだから、そんなはずないって分かりそうなもんだろうにと思ったのですが、たぶん見知らぬ着信番号はすべて確かめているであろうこの女性の心中を思うと、こちらの気にも留めていなかった不注意な wrong number のせいで あらぬ心配をかけてしまったことを詫びずにはいられませんでした。瞬間的にハッとこの国がまだ戦時下にあるということにあらためて気がつき、思わず立ち止まってその場で頭を下げて謝ってしまいました。


 この出来事は時間が経つごとに自分の中で思い返す回数が増えてきていて、おそらく今の僕の周囲にも同じような境遇の人が少なからずいるであろうこと。もはや日常的に報じられている米軍兵の犠牲者のこと。これまでも目にしたり耳にしたりしていたことが、急に近くに感じられるようになりました。


 これからもスズキの助様の原稿、楽しみにしております。


嶋田 歩 拝




To 嶋田歩さん
 アメリカでお会いしましょうと約束して、そのお約束を果たしたのは、もう随分と前のことになってしまいました。新橋の駅前の居酒屋みたいな気分をということで、モーテルのテーブルにおつまみを並べて、ビールをつぎあって、ダラダラ&グダグダ。そういえば確かにこんな風景って、日本の独特かもしれませんね。バーベキューの肉を焼きながら、ビールをガブガブ飲んで、汗をバッチかいて、それがアメリカ式。そういう時のアメリカン・ミュージックって、これがまたよく似合うんだな。遙か東京までかすかに肉の焦げる煙が漂って来そうな、いつもながらそんなエッセイをありがとうございます。嶋田さん、楽しそうですよ。
 "(大江田信)

 
DAYTON OHIO 2003 |1 |2 |
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