[戻る]
[7932]川崎8頭
=八卦(関東)
=12/08/21(Tue)01:01




敬称略です。


1.小宮山せりな

 リバプール・サウンドのヒットメーカーの曲を、メドレーで。ポールと今は亡きジョンのナンバーが、バランスよく並びます。
 スタートは背を向けて座るバスガイドさん。肩が左右に揺れています。
 振り返ってつかつかと歩いて、細い通路を抜け、斜め90度のお辞儀を深々と。
 ふくよかな臀部、ミニスカートから突き出す健康的な脚線美は、この世のものとも思われず…
 マジカル・ミステリー・ツアーへと誘います。

 白地に赤や青の細かいプリントには、キティちゃんやその他かわいげな柄をあしらったもの。タンバリン片手に、にこやかな笑みを振りまいて、腰をくねらせノリノリでサイド・ステップ。

 ベッドでは、シミーズを下からたくしあげてぺろんと脱いで、ふとももに食い込むパンティの片紐をほどきます。ぼぅとした表情が、どこか遠くを見やるようにも、恥ずかしさにどぎまぎしているようにも見え、曖昧に。
 ずらした布の跡に指を這わせ、ふくらみを押しつぶすように掌が胸を包みます。

 終曲のバラードで、光が射し込んで希望に満ちた立ち上がりへ。
 足先まで揃えて斜め90度の丁寧なお辞儀をまた再び。
 ステージを確かめるように一歩一歩進む、後姿が冒頭のシーンにオーバーラップ、いとおしく感じます。



2.水月涼

 ストレートなアメリカン・ハードロックを連ねて2回の衣装替え、3着目はコルセットであられもない姿でベッドへ。ここだけアコースティックなバラードで、しんみりした肉声が心に沁みてきます。
 立ち上がりは爽快なロック・バラードで、80年代に人気を博したバンドがのびのびと歌います。

 1曲目のあでやかな衣装は、ローズがかったバイオレットのドレス。同色のフリルが幾重にも胴を取り巻いて、高貴なバラの花を思わせます。上手の椅子の周辺で脱ぎかけて、袖に引いて暗転。
 下手から掃除用の軽いモップ(ダスキンみたいな)を手に、短めのスカート、お手伝いさん姿で登場します。歯切れのいいリズムに乗ってコミカルに、にこやかなパーフォーマンスに徹します。
 ベッドは落ち着きのあるなかにも、ズバッとポーズを挟みます。狙いすましたタイミングで、ぐぐっと体をしならせます。



3.美咲遥

 黒のジャケットにパンツで、びしっとキメて、いよぉ男前。
 男性のダンサーの豹のように柔らかい筋肉の動きを追うように、軽くてシャープで俊敏なダンスを、カッコよくお目にかけます。
 スリムな体ですが、男物を肩で着こなして、膝や腰を前後左右にウェーブさせて、ゆったりしただぶつき感を強調します。
 ラフに動いてタメをきかせるのに、メリハリをきかせたリズムがうってつけでした。

 2曲目からはKポップでしょうか。ダイナミックなリズムにぴたりと寄り添います。
 胸のすくようなダンスを終えて颯爽と去ると、ノーブラに男物のYシャツを羽織っただけで、下手袖から登場します。
 すらりと伸びた脚、華奢に見える足首、明るいブロンド・ヘアが、Yシャツのワインレッドに映えました。

 柔らかい体をしならせてポーズ。片膝、片腕を床につけたまま、上げた手足は微妙な角度を保って、複雑にからみあった形を作ります。
 最後は本舞台奥で向こうむき、胸の前で腕を広げ、のけぞりながら振り返ります。虚飾を排して、すがすがしい印象を残します。



4.空まこと

 バスケットを手に赤ずきんちゃんみたいな恰好で、おどおどしているお嬢ちゃん。
 ところが、バスケットの中から取りいだしたるムチに夢中になり、いつしかエナメル製の下着にコルセット、ガーター、白タイツにブーツというボンデージスタイルへ。
 全篇にヒップホップをちりばめ、街の雑踏や車の騒音などのサンプリング録音も取り入れて、アメリカナイズされた洒落た作品です。

 おぉや、赤ずきんちゃんお出かけかぁい? 黒っぽいケープに、おつむには帽子、かわいいね!
 らん、ら らん、ら らら らら らら らら、らん、ら、らん、ら らら らら らら らら、らん…… 鼻歌まじりで口ずさんでいるうちに、One,Two,Three,Four…と、数え歌がオーバーラップします。
 ミシンの縫い目のように噛み合うふたつのリズムの、その隙間を小走りで駆け抜けるような、技巧的なステップを披露します。

 続く2曲目は、ゆるいテンポでズッチャ、ズッチャと、ルーズなステップにコメディ風の芝居を取り込みます。
 “ぅう〜ん、シェク、シェク、シェク、シェク……”というフレーズで、中身ごとバスケットをフリフリしちゃいます。
 ぁあぁ、痛かったかなぁ、ごめんごめん…って、開けたらトリが出ました、リスが出ました、あと蛇みたいな白黒まだらの極太のムチも!! げっ。

 トリとリスは、ふたを開けたままのバスケットから、盆をじっと見つめます。
 盆の小道具には、ムチが選ばれて、お嬢ちゃんのお供をします。
 ベッドの頂点でさかるように悶えて頂点に達するまで、音楽はひたすらラップの洗礼です。マザーファッカーとかなんとか、スラングまじりのおまじないが、ゆるゆる流れて猥雑なムードで埋め尽くします。

 終曲は、2本の糸が縒り合されるようでした。ソプラノがオノマトペのような不思議な響きの言葉をさえずり、ラッパーが押しのきいた嗄れ声でまくしたて、それが交互に入れ替わり、緊張感を煽ります。
 ヨーヨーでも振るかのように、ムチをおもちゃのように振り回します。左手で、次に右手で、同心円状に、あるいは八の字蛇行で。
 ムチを振るいながらも、不思議と心を癒します。



5.吉野サリー

 ダンディな白の上下に細身の体を包みます。帽子の下から覗く目が、ノッていこうぜと、茶目っ気たっぷりに語りかけます。
 活気あふれる曲に、ハキハキと話すようなキレのいいダンス。
 おそるべきパワーで、疲れを覚えずに踊りきります。

 2曲目はピンクのスウェットで、力強いリズムに応えて、威勢よく。俊敏な身のこなしで、体全体を使って弾みます。

 ベッド着は薄手の透ける生地。レモンイエローの照明を浴びると、爽やかな水色のベッド着が、発光しているように闇に鮮やかに浮かびあがります。胸元の花飾りが麗しく。

 盆に入ってからの盛り上げ方には、目を見張ります。切々としたやるせないバラードに、頭を打ち振りブロンドの髪をなびかせ、無我夢中で体をたたきつけるようにアクションをおこします。
 しかしフレーズの息遣いをうつしとるように丁寧になぞり、のびのびと腕を伸ばすところなど、豪快ななかにもナイーブさが見え隠れします。
 誰にでも拍手喝采させるような、アクロバティックで勇気の湧くステージです。



6.伊沢千夏

 ぼうっとした照明が、だんだんと明るさを増すなか、ピンクのチャイナドレスの立姿が浮かび上がります。
中国の宮廷音楽風にナイーブな旋律が奏でられ、優雅ななかにもメリハリのあるダンス。
 手にしたふたつの舞扇は、おいかけっこをするように入れ替わり立ち替わり。風雲急を告げるフレーズに合わせて足の先をきびきびと運びます。

 暗転、再び点灯すれば、早替えでタイの民族衣装。上は白い袖なしに、下は金色に輝く腰巻。首には銀のチェーン、左の二の腕には金の腕輪と、古色ゆかしい装身具。バスタオル大のピンクの薄布を両手でつまんで掲げ、旗のように翻したりあおいだり。
 曲は転じて倍速に。小気味よいリズムで立て板に水を流すよう。リズムを先取りするようにキレのある振りで、エスニックなポーズ挟んで踊り切ります。

 ベッドは穏やかな旋律が朗々と流れるなか、ピンクの薄布にくるまった状態から始め、チラ見せ、露出を増やす過程を、風情豊かに演じて癒します。
 細く絞った照明がゴールデン・シャワーを浴びせ、シンセサイザーが通奏低音のように響きます。胡弓が、マンドリンが…、優しげなフレーズを奏でてはすり抜けるように消えてゆきます。

 終曲は、ゆったりしたポーズを連ねます。引き締まった体をじりじりと引きつけて、息の長いポーズを紡ぎます。










【おまけ】

  映画「クレージーホース・パリ 夜の宝石たち」
ドキュメンタリー映画(2011年)134分
監督;フレデリック・ワイズマン



♪クレージーホース娘は  シャンパンの味わい
 シャンパンの味わいは  クレージーホース娘
    ……あなたの指の間を流れるのぉ〜〜〜♪

 きらびやかな電飾に加えて、プロジェクターの投影が、アニメのように踊り子の肌をキラキラ・マークで彩ります。
 天鵞絨張りのふかふかなソファに沈み、運ばれてくるシャンパンを口に含んで、悦楽と奢侈に耽る瞬間は…… あぁ、なんて至福の時でしょう!



 クレージーホースは1951年の創業以来、キャバレーの芸を昇華させて、迫力、繊細さ、そして美しさを増し、パリっ子自慢のオペラやバレエに肩を並べるほどになりました。
 もちろん長い歴史のなかでは停滞もマンネリ化もあったでしょうが、常にありのままの女性の美しさを探求してきました。
 2006年に総支配人アンドレがシルク・ド・ソレイユから移ってきて、2008年に振付師のフィリップ・ドゥクフレを呼びます。ドゥクフレはMTVやCMの振付で頭角を現し、92年アルベールヴィル冬季オリンピックの開会式の振付で有名になった、芸術家肌の振付師です。
 ドゥクフレの手になる新作「DESIRS」が2009年9月1日に初演にこぎつけるまでを、ワイズマン監督は10週間をかけ撮影し、その後1年をかけて編集してドキュメンタリー映画に仕立てます。企画会議から、振付の現場風景、舞台美術や照明や小道具にいたるまで、ひとつひとつの構成要素をいったん細かくばらして、並べて積み上げてシーケンスにして… 気の遠くなるような作業です。ところどころにステージ映像や、模範演技(スタジオで撮影した感じのクリアな映像)、そして練習風景など興味深いシーンを挟んで、観客の気をそらさないようにしています。
 社会派のドキュメンタリー作家フレデリック・ワイズマン。制作サイドの苦労と、組織体制の歪みや組織内部の軋轢、そして踊り子たちのしなやかな感性とプロ意識… 「DESIRS」という作品のできるまでを通して、追いかけているのでしょう。
 ドキュメンタリー作家のスタンスとして、観るものを洗脳するようなナレーションや、共感を押しつけるインタビュー等は使いません。画像は、細かい断片が次々と目の前を、車窓の眺めのように通り過ぎてゆく感じで、テレビ番組のドキュメンタリーに似ています。
 客席の光景、裏方さんたちの献身的な仕事ぶり、踊り子さんたちの欲求と不満、そして演出家の煩悶……ダイヤモンドの原石(ファクト)をカットするように丁寧に編集し……、クレージーホースの多面的な魅力を余すことなく伝えます。



 お目当てのステージ・シーンは、上演中のライブネスを活かすというよりも、振付の紹介を主眼にした映像が主です。そのうちいくつかのシーンは、スタジオ風の完璧な照明のもと、蠱惑的な表情をアップで捉え、人間技とは思えないような精緻な動きを克明にとらえます。
 その一端を紹介してみましょう。



1)冒頭、両掌を組み合わせた影絵を、だだっ広いスクリーンに映します。
  哄笑するサタンの横顔が薄気味悪く。

2)次のカットは録音スタジオで、「DESIRS」のオープニングのテープをテイク中。
  金髪女性がマイクに向かって身悶えしながらあえぎ声に集中する姿が官能的。

3)化粧前、鏡に向かって身支度に忙しい踊り子さん。

4)「セダクシオン(誘惑)」、ステージ・シーンのカット。黒いタイツひとつでソファの上、鼻にかかったシャ  ンソンの声にのせて、セクシーに身をよじったり腰を浮  かせたり。

5)鏡像のように背中合わせの半裸2体、ジャズっぽいムードで神秘的。(クリアなスタジオ撮影)

6)「ベビーバンズ」、アメリカ風にジャズでにぎにぎしく、7人を横一線にして陽気に。

7)セクシーなダンス・シーンを、ドゥクフレが自ら模範演技。
  なめらかというより、気味悪いくらい精緻な動きが、ロボット・ダンスを見るようでそこはかとなくユーモラス。でも本人は大真面目です。

8)SFタッチの幻想的な「エヴォリューション」。宇宙船内で重力から解放された女飛行士が、開放的な気分に浸  ってレズビアン。

9)肌に映したプロジェクターの色彩が、タトゥーのようにカラフルに彩って、2人が大きな吊り輪にしがみついて宙吊りに。

10)5人のダンサーのレッスン風景。横一線で、向かって左から右にウェーブが流れるようななだらかな動きを連動させます。

11)「アップサイドダウン」と題するスタジオ映像。実際にはどうやってステージにかけたのかわかりませんが、たいへん美しい映像です。鏡面の内から外へ、手や脚を突出すと、鏡像が遊園地のミラーハウスのように不思議な合成像を作り上げます。
  美脚や美尻が、風になびく草木のようになまめかしく揺れています。

12)スリムな半裸体を、腰から下、後姿でフィルムにおさめます。
  片脚のみを覆う黒いストッキング。内股をもじもじとこすり合わせます。
  跳ね上げた足、黒いエナメルのハイヒールの底が、真っ赤に塗られて、猫の舌がちろりと覗くさまを思わせます。

13)休憩時間、楽屋で踊り子さんたちがくつろぐ光景。
  ボリショイバレエのずっこけシーンを、プロ野球珍プレー集のように編集した番組を見て、あっけらかんと笑い転げます。
  同じステージ表現者として、ステージ中の失敗は悪夢のようなもの。プレッシャーによるストレスを、笑うことで発散します。

14)「ジャングル」のステージ・シーン。ステージ・モニターを楽屋で眺めながら、踊り子さんたちが、作品批評しています。テーマと音楽がぴったりじゃない! 
  ピューマに扮したレオタード姿の踊り子ふたりが、折の中で相手を食い尽くそうとする格闘シーンをダンスで表現しています。悪くはないけど、陰惨で好きになれないわ、ですって…

15)官能的なダンス・シーン、最後は情熱的に身悶えます。バイオリンがうらぶれた感じです。

16)タップ・ダンス専門家の男性2人が、「白鳥の湖」の旋律をユーモラスで、ときにコミカルに演じます。

17)ステージ映像に戻り、モータウン・サウンドでエロティックな演出で踊ります。

18)練習風景。5人がふたりと3人に分かれて、単調なリズムにのってダンス。
   先生が5人に、シンクロしないで不揃いに踊れと指導しています。難しそう。

19)衣装デザイナーフィフィと、振付師ドゥクフレのいがみ合い。
  予告も打ち合わせもなく、そう頻繁に演出や照明を変えていたら、理想の衣装コーディネートなんてできやしない(怒)… フィフィがすねたところを、皆でフォロー。

20)ステージ・シーンで、10名が横一線。スウィングにのってラインダンス風に動きます。

21)「DESIRS」のテーマ・ソングを、踊り子さんたちが録音する光景、のどか。

22)いよいよ「DESIRS」のステージ・シーン。最後の最後まで、舞台上の照明と、プロジェクターの強い光の融和について、芸術監督と振付師がもめていました。
  きらびやかでさわやかな照明効果と、ちょっとおっとりしてのどかなテーマ・ソングと振付がかみ合って、いい味を出していました。

23)バッキンガム宮殿の近衛兵の交代式。足を高くあげ、膝をまげずにおいっち、にぃ。
  コスチュームは厳粛でカッコいいはずですが、露出が多くて目のやり場に困ります。

24)フルートが駆け抜ける曲で、シルエット・ショー。影法師どうしがからみます。

25)(なぜか)ロシア語の詩の朗読シーン。

26)シルク・ドゥ・ソレイユを意識した、縄を体に巻きつけての宙吊りショー。
  耽美的な、マーラーの緩徐楽章風の響きに、演技者は陶酔するよう。

27)息づくように持ち上げたり沈めたり、尻や太ももをアップで撮ります。たくさんの尻が並んだ山並みが、自然界の理想的な曲線美を思わせます。

28)冒頭(1)に呼応するエンディング。
  器用に影絵が描き出すのは、恋人たちのキスシーン、かわいいネコ、そしてはばたき舞い上がるハト。 …さようなら。



 インタビュー・シーンで、能弁な芸術監督アリは、しきりとクレージーホースの類い稀なる完成度を吹聴しますが、同席するドゥクフレ達の冷ややかな、あるいはしらけた表情に邪魔されて、彼の言葉は心にすっと入り込みません。
 むしろ、支配人アンドレの、言葉選びながら語った内容のほうが、忘れがたいものでした。

(クレージーホースとは何か、と定義を訊ねられて返した、支配人アンドレの言葉)

  …惹きつけてやまない力の源泉は、『ほのめかし』。
  観客の欲求不満と想像力のパワーを借りること。
  それでこそ観客を夢の世界に駆りたてるのです…



  (映画は、東京での上映をすでに終え、全国各地でロードショー中)

                                   以上







[前へ]
[次へ]

[戻る]

- Light Board -